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【第23回】鑑賞のためのバレエ・テクニック大研究!ー跳躍技のまとめ

海野 敏

文/海野 敏(東洋大学教授)

第23回 跳躍技のまとめ

■アッサンブレ、シソンヌ、グリッサード、シャッセ

第9回から14回にわたって、跳躍技を紹介してきました。鑑賞者から見て、舞台で目立つジャンプを中心に取り上げてきましたが、最後に、いっそう基本的で、いつどこにでも登場するために目立たないジャンプを4つ紹介します。これらはいずれもバレエの稽古では、初心者から上級者までセンター・レッスン(バーなしでフロア全体を使って踊る練習)で繰り返し練習するステップです。

アッサンブレ」(assemblé)はフランス語の「集める」(assembler)が語源です。片脚を前、横、後ろのどちらかへ投げ出し、反対の脚で踏み切って、空中で両脚を閉じ、5番ポジションで着地します。名前の通り、跳躍して両脚を集めるステップです。

シソンヌ」(sissonne)は、前、横、後ろのどちらかへ両脚で踏み切って跳び、片脚で着地するステップです。“両脚で踏み切り、片脚で着地する”ので、“片脚で踏み切り、両脚で着地する”アッサンブレと対照的ですね。名前は、このステップを考案した16世紀フランスの貴族、シソンヌ伯爵に由来します(注1)。着地した後に、空中の脚を下ろして5番ポジションに収める場合を「シソンヌ・フェルメ」(~ fermée)、空中の脚を伸ばしたままにする場合を「シソンヌ・ウーヴェルト」(~ ouverte)と言います。「フェルメ/ウーヴェルト」は「閉じた/開いた」という意味のフランス語です。

グリッサード」(glissade)はフランス語の「滑る」(glisser)が語源です。片脚を前、横、後ろのどちらかへ投げ出した瞬間、反対の脚で踏み切って低く跳び、投げ出したほうへなめらかに体重を移動して着地します。名前の通り、床を滑るように移動するステップで、より大きな跳躍の助走として登場します。

シャッセ」(chassé)はフランス語の「狩る、追いかける」(chasser)が語源です。片脚を前、横、後ろのどちらかへすり出した脚で踏み切って低く跳び、空中で両脚を閉じた後、投げ出したほうへなめらかに体重を移動して着地します。名前の通り、片脚を他の片脚が追いかけるように見えるステップです。グリッサードと同様、より大きな跳躍の助走として登場します。

このような言葉による説明では、バレエを習ったことのない方はグリッサードとシャッセの違いが分かりにくいでしょう。しかし、ご覧になれば一目瞭然です。グリッサードは後ろに残した脚で踏み切りますが、シャッセは進行方向へ出した脚で踏み切ります。またグリッサードは空中で両脚が開いていますが、シャッセは空中で両脚が一旦閉じます。

さて、これらのステップは、実際の舞台では普通は目立ちません。しかし、時にとても印象に残る場合があります。例えば、『眠れる森の美女』第3幕のグラン・パ・ド・ドゥでは、「オーロラのヴァリエーション」の中盤に登場するシソンヌ・フェルメの繰り返しが印象的です。左右に優雅に飛び跳ねるプリンセスは、たいへん可憐です。

★動画でチェック!★
マリインスキー・バレエの『眠れる森の美女』より第3幕の「オーロラのヴァリエーション」でシソンヌ・フェルメが見られるのは41秒から。まるで雲の上を跳ねているかのような軽やかさが見どころです。着地は5番ポジションのプリエに素早くしまい込みます。

また、筆者はアメリカン・バレエ・シアターの『海賊』で、ウラジーミル・マラーホフが行ったアッサンブレが記憶に残っています。「ランケデムのヴァリエーション」の冒頭で、アッサンブレの着地(グラン・プリエ)の深さに驚きました。

★動画でチェック!★
海賊』より第1幕、ウラジーミル・マラーホフが演じる「ランケデムのヴァリエーション」で見事なアッサンブレの着地を見ることができます。まるでトランポリンの上で跳ねているかのような跳躍と、脚のバネの強さをいかしたグラン・プリエは、高度な技術と優れた身体性の賜物といえるでしょう。

 

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■跳躍技を整理する

では、最後にバレエの跳躍技を整理してみましょう。床に体のどこも着いていない瞬間があれば、ごく小さなジャンプでも跳躍技とみなします。バレエの跳躍は、脚で踏み切って脚で着地します(注2)。したがって、踏み切る脚と着地する脚に注目すれば、次の4つのパターンしかありません。

(a) 片脚で踏み切り、片脚で着地する。

(b) 片脚で踏み切り、両脚で着地する

(c) 両脚で踏み切り、片脚で着地する

(d) 両脚で踏み切り、両脚で着地する

このうち(a)は、踏み切ったのと別の片脚で着地するか、同じ脚で着地するかで、2パターンに分かれます。それでは、バレエの跳躍技を「踏み切る脚→着地する脚」のかたちで表現して、5つに分類してみましょう(注3)。本連載で過去に取り上げたものは、角ガッコに回次を示しました。

(1)「片→別の片
グリッサード
グラン・ジュテ[第91011回]
パ・ド・シャとグラン・パ・ド・シャ[第1213回]
ブリゼ・ヴォレ[第17回]
アンボアテ*[第19回]
バロテ*[第20回]

(2)「片脚→同じ片脚」
ソ・ド・バスク[第14回]
カブリオール[第18回]
バロネ[第21回]
アラベスク・ホップ(タン・ルベ・アン・ナラベスク)[第22回]

(3)「片脚→両脚」
アッサンブレ
ブリゼ[第17回]

(4)「両脚→片脚」
シソンヌ、シャッセ
アンボアテ*[第19回]
バロテ*[第20回]

(5)「両脚→両脚」
トゥール・アン・レール[第7回]
シャンジュマンとアントルシャ[第15回]
スーブルソーとパ・ド・ポワソン[第16回]

アンボアテとバロテに「*」印が付いているのは、踏み切りが片脚、両脚のどちらもあり得るからです。トゥール・アン・レールは、この連載では回転技として紹介しましたが、必ず跳躍を伴います。このように分類してみると、「片脚→両脚」の跳躍は名づけられたものが少なく、アッサンブレで総称される場合が多そうなことがわかります。

本連載のタイトルは「鑑賞者のためのバレエ・テクニック研究」です。鑑賞者としては、自分のお気に入りの跳躍技を見つけて、舞台上の踊りで発見して楽しんでみてはいかがでしょうか。筆者は最近アンボアテが気に入っており、振付にアンボアテが登場すると何となくうれしくなります(注4)


(注1)
『新版バレエ用語辞典』(川路明編、東京堂、1988)によれば、シソンヌが考案されたのは1565年とのことですから、私たちの知っているバレエではなく、宮廷舞踊のステップです。1581年には、史上初のバレエと称される『王妃のバレエ・コミック』(Ballet Comique de la Reine)が上演されますが、これも宮廷舞踊と呼べるものです。

(注2)当たり前と思われるでしょうが、そうでもありません。コンテンポラリーダンスであれば、床に横たわった状態から腕の力でジャンプするとか、両手やお尻から着地するとかがあり得ます。

(注3)ちなみに『新版バレエ用語辞典』(川路明編、東京堂、1988)には約1300個、Dictionary of Classical Ballet Terminology(R. Ryman, Royal Academy of Dancing, 1995)には約1200語のバレエ用語が掲載されており、それぞれ7、8割はステップの名前です。ここに並べたのはそのごく一部で、両辞典で大見出し・中見出しになっているような代表的なもののみです。

(注4)先日、新国立劇場バレエ団の無観客上演の配信でローラン・プティ振付の『コッペリア』を見ていて、アンボアテを効果的に使っていることに改めて気づいてうれしくなりました。

(発行日:2021年5月25日)

次回は…

6月は休載し、7月からは回転・跳躍以外の美技を紹介します。第24回は「パ・ド・ブーレ」で、発行予定日は2021年7月25日です。どうぞお楽しみに。

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うみのびん。東洋大学社会学部メディアコミュニケーション学科教授、情報学研究者、舞踊評論家。2018年度より東京大学客員教授。バレエ、コンテンポラリーダンスの舞台評・解説を『ダンスマガジン』、『クララ』などのマスコミ紙誌や公演パンフレットに執筆。研究としてコンテンポラリーダンスの三次元振付シミュレーションソフトを開発中。著書に『バレエとダンスの歴史:欧米劇場舞踊史』、『バレエ パーフェクト・ガイド』、『電子書籍と電子ジャーナル』(以上全て共著)など。

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