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【第12回】鑑賞のためのバレエ・テクニック大研究!ーパ・ド・シャとグラン・パ・ド・シャ(1)

海野 敏

文/海野 敏(東洋大学教授)

第12回 パ・ド・シャとグラン・パ・ド・シャ(1)

■3種類のパ・ド・シャ

この連載で毎回悩まされるのが、ステップの呼称です。同じ動きにいくつも名前があったり、同じ名前なのに動きが違っていたり、呼称が統一していないことが多いからです。この連載は「鑑賞のため」ですから、あまり細かい差異を深掘りせず、おおまかな説明をしています。

フランス語で「猫のステップ」という意味の「パ・ド・シャ」(pas de chat)は、古典作品のいたるところに登場しますが、これも呼称がややこしい。今回は次の3種類を紹介します。

(A)チェケッティ派のパ・ド・シャ(注1)
(B)ロシア派のパ・ド・シャ
(C)グラン・パ・ド・シャ

まず(A)~(C)は、「片足で踏み切って跳び上がり、空中で両脚または片脚の膝を曲げ、片足ずつ着地するステップ」であり、踏み切っていない足から先に着地するという点は共通しています。鑑賞においては、「猫のステップ」と呼ばれる通り柔らかく、軽やかで、弾むようなジャンプです。片足ずつ着地するので、「1(ジャンプ)、2、3」のリズムを感じます。

(A)~(C)は、鑑賞者から見れば、動きの大きさと空中での姿勢が違っています。動きの大きさは、もちろん(A)、(B)が小さく、「グラン」(grand)が付いている(C)が大きい。空中での姿勢は、(A)は、両脚の膝が曲がって両足のつま先が重なります(後からくる足のつま先が、前の足のつま先を後ろから乗り越えます)。猫というより、カエルやバッタがピョンと跳ねる感じに見えます。(B)は、空中で両脚を後方へ投げ出したポーズになります。魚が水面をパシャッと跳ねる感触と言ったらよいでしょうか(注2)

(C)は、空中で前方の脚を伸ばす大きなジャンプです。この「グラン・パ・ド・シャ」は、すでに第9回「グラン・ジュテ(1)」で紹介しました(注3)。そのときにはグラン・ジュテと比較し、「グラン・ジュテはふわっと浮き上がる感じなのに対して、グラン・パ・ド・シャはピンと跳ねる感じ」と表現しました。

★動画でチェック!
こちらは英国ロイヤル・バレエが2011年に制作したデモ映像。踊っているのは、高田茜とダヴィッド・チェンツェミエックです。冒頭に高田が助走をつけて右へ1回、左へ1回グラン・パ・ド・シャで大きくジャンプし、つぎにチェンツェミエックが右へ1回、左へ1回グラン・ジュテでジャンプしています。

■作品の中のパ・ド・シャ

パ・ド・シャもグラン・パ・ド・シャも、古典全幕バレエでは頻繁に登場します。今回はおもに(A)と(B)について、パ・ド・シャが印象的な振付をいくつか挙げてみます。

パ・ド・シャでバレエファンが最初に思いつくのは、『眠れる森の美女』第3幕、「長靴を履いた猫と白猫」の踊りではないでしょうか。猫の踊りですから、各種のパ・ド・シャがふんだんに登場します。例えば、長靴を履いた猫が白猫と追いかけっこをするとき、2人のダンサーそれぞれがパ・ド・シャをくり返します。

★動画でチェック!
こちらも英国ロイヤル・バレエの映像から。『眠れる森の美女』第3幕より「長靴を履いた猫と白猫」の踊りです。

『白鳥の湖』第2幕の「4羽の小さな白鳥」は、4人のダンサーが手をつないだまま踊る有名な踊りで、とても印象に残る傑作振付です。この踊りの後半では、4人のダンサーが手をつないだままパ・ド・シャをくり返します。「長靴を履いた猫と白猫」と「4羽の小さな白鳥」は、パ・ド・シャが、軽快さと同時に、ユーモラスな雰囲気、コミカルな感触を踊りに与えている例だと思います。

主人公の踊りでは、オーロラの登場シーンが印象的です。『眠れる森の美女』第1幕、宮殿の広間へ入ってきて最初の短い踊りで、16歳のオーロラ姫はパ・ド・シャを軽やかにくり返します。振付によって、(A)チェケッティ派のパ・ド・シャだけのことも、(A)と(B)ロシア派のパ・ド・シャが混ざることもあります。

『ライモンダ』第1幕1場、ライモンダが最初にソロで踊る「ピチカートのヴァリエーション」は、バレエコンクールでもお馴染みのチャーミングな踊りです。ヴァイオリンのピチカートに合わせて、パ・ド・シャを含むジャンプをくり返します。オーロラとライモンダのこれらの踊りでは、パ・ド・シャが、若々しさ、快活さ、可愛らしさを踊りに与えています。

『ドン・キホーテ』第2幕の「夢の場」では、夢の最後を飾るコーダの終盤で、全員がユニゾンで(B)ロシア派のパ・ド・シャをくり返す場面があります。

(注1)チェケッティ派とは、エンリコ・チェケッティ(1850~1928)に由来するバレエの流派で、「イタリア派」とも呼ばれます。

(注2)(B)を、『新版バレエ用語辞典』(東京堂出版, 1988)では「パ・ド・シャ(ロシア派)」、『バレエテクニックのすべて』(新書館, 2002)では「ロシア流派のパ・ド・シャ」という名前で説明しています。一方、『バレエ用語集』(新書館, 2009)では、(B)を「イタリアン・パ・ドシャ」という名前で説明しています。チェケッティ派(イタリア派)でない方が「イタリアン」と呼ばれているのは不思議ですが、イタリア出身ダンサーがロシアに持ち込んだからかもしれません。 

(注3)ここで紹介するグラン・パ・ド・シャとは異なる動きの「チェケッティ派のグラン・パ・ド・シャ」、「ロシア派のグラン・パ・ド・シャ」もありますが、割愛します。また、「ジュテ・パ・ド・シャ」、「グラン・ジュテ・デヴェロペ」という呼び方もあります。

(発行日:2020年04月25日)

次回は…

第13回「パ・ド・シャとグラン・パ・ド・シャ(2)」です。グラン・パ・ド・シャで印象的な古典作品の名場面と、パ・ド・シャの応用技を紹介します。発行予定日は、2020年5月25日です。

2020年6月は休載します。第14回は、7月に掲載予定です。

 

#おうち時間どうしてますか?
私は今年、本務校に加えて早稲田、立教、東大の4大学で教えておりますが、すべてオンライン授業となりました。自宅に引きこもり、その準備に追われています。事務的な会議もすべてオンラインになりました。小学生の息子と過ごす時間がかつてないほど増えて、毎日いっしょにゲーム(「あつ森」)やキャッチボールをしております。

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うみのびん。東洋大学社会学部メディアコミュニケーション学科教授、情報学研究者、舞踊評論家。2018年度より東京大学客員教授。バレエ、コンテンポラリーダンスの舞台評・解説を『ダンスマガジン』、『クララ』などのマスコミ紙誌や公演パンフレットに執筆。研究としてコンテンポラリーダンスの三次元振付シミュレーションソフトを開発中。著書に『バレエとダンスの歴史:欧米劇場舞踊史』、『バレエ パーフェクト・ガイド』、『電子書籍と電子ジャーナル』(以上全て共著)など。

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