
ウィーン国立バレエ専属ピアニストとして、バレエダンサーを音楽の力で支えている滝澤志野さん。
彼女は日々の稽古場で、どんな思いを込め、どんな音楽を奏でているのでしょうか。
“バレエピアニスト”というプロフェッショナルから見たヨーロッパのバレエやダンサーの“いま”について、志野さん自身の言葉で綴っていただく連載エッセイ。
日記の最後には、志野さんがバレエ団で弾いている曲の中から“今月の1曲”を選び、読者のみなさんのためだけに演奏した動画も掲載します。
更新は隔月(基本的に偶数月)です。美しいピアノの音色とともに、ぜひお楽しみください。
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2025年夏。私にとって、夏はバカンスシーズンでありながら、バレエへの情熱を再燃させる特別な時間。ウィーンでは10ヵ月間バレエ漬けの日々を過ごしているけれど、日本のバレエの夏にはまるでフェスティバルのような華やかさと非日常があり、心が躍ります。
新しいCDの録音をしました
今年も素敵な予定が盛りだくさん。帰国してすぐ、久しぶりにCD録音を行いました。前作「Dear Chopin」を録音したのが2022年なので、じつに3年ぶりです。

Sony Music Studioに帰ってきました
今回のテーマは「バレエのためにつくられた音楽だけを収めたレッスンCD」。
このCDを作ろうと思ったきっかけは、去年の永井玉藻さんとのインタビュー対談でした。永井さんから「音楽学の世界ではバレエ音楽はほとんど無視されている」と伺った時、私はショックを受け、その言葉がずっと心に引っかかっていました。私はバレエに携わるなかで出逢ってきたバレエ音楽の素晴らしさに胸を打たれ、「音楽家として」バレエに向き合ってきたつもりだったからです。宝石のようなバレエ音楽……その真の美しさをたくさんの方に伝えたい。そんな想いが今回のCDを作る発端となりました。
アダン、ミンクス、ドリーブ、ドリゴ、プーニ、グラズノフ……そして、バレエ音楽を芸術の頂点へと押し上げたチャイコフスキーやプロコフィエフ。時代と国境を越えて人々に愛され続ける作品群が一堂に会したら、どれだけ素敵だろうと。そんな想いを込めたこのCDに、プロデューサーの阿部さや子さんが、「Dear Ballet」というタイトルを贈ってくださいました。

©Ballet Channel
まずはバレエ音楽をできる限り幅広く網羅すべく、譜面を探し集めることから作業を始めました。
膨大な音楽を弾いていき、取捨選択しながらアレンジを考えます。踊りのために作曲されている楽曲なので、踊りやすさは折り紙付き。1枚のCDとしてバランス良く、かつ魅力的なものにできるよう、試行錯誤します。東京入りしてからは、24時間ピアノが弾ける常宿にて深夜まで作業は続きました。
そしてレコーディングの日。
バレエ音楽を録音している時、思いがけない感情に包まれました。ふだん、バレエの稽古や公演では、振付やテンポ、指揮者の棒など様々なことに意識を払いながら弾いているのですが、レコーディングでただ音楽と向き合って弾いていると、一つひとつの音符に愛おしさがあふれてきたのです。それはきっと、長年、世界中の人に愛され、憧れられ、大切に踊られてきた楽曲だから。そこにストーリーがあるから。こんなに幸せな気持ちで録音したのは、初めてだなと思いました。

Photo:Satoshi Bono
数週間後におこなったミキシングも大好きな作業。1枚目のCDからずっとお世話になっているレコーディングエンジニアの房野哲士さんと共に、ひとつひとつの音に耳を傾けて、音を作っていきます。複数録ったテイクの中からどれを採用するか、テンポや音色の微調整……こだわりだしたらキリがないけれど、房野さんのセンスに支えられながら、でき上がった音源は納得のいく最高の仕上がりとなりました。バレエ愛にあふれる特別な1枚、早くみなさまにお届けしたい!

さらに、プロモーションビデオも撮りました。今回は、東京バレエ団ソリストの中島映理子さんがデモンストレーションモデルとして踊ってくださることになりました。パリに留学され、パリ・オペラ座バレエで踊られていた頃に映理子さんを知り、以来密かに応援していたので、今回やっとお会いできたという感慨がありました。

撮影終了後、中島映理子さんと
はじめましての撮影チームと映理子さんとのものづくり。一人ひとりがプロフェッショナルなので、刺激的だけど安心感がある。クリエイティブの現場の醍醐味だなと思う。
これからさらに多くのプロフェッショナルの方たちの力をお借りして、CDは11月後半にリリース予定です。みなさま、ぜひ楽しみにお待ちくださいね!
「バレエ・アステラス2025」とウクライナ国立バレエ
録音を終えたら、次は舞台のお仕事。今年は初めて新国立劇場主催の「バレエ・アステラス」公演に携わりました。クラスレッスン、リハーサル、そして本公演のピアノ協奏曲までフルで参加してきました。学生時代に初めて新国立劇場バレエ団の『シンデレラ』公演を観て以来、新国立劇場に強烈に憧れ、ここで働きたいとの夢を抱きました。その夢は叶い、ウィーンに渡るまで7年間、新国立劇場バレエ団で働くことができました。ですが今回、初めてオーケストラピットに入って舞台稽古を弾き、本公演でも協奏曲を弾くことができるという、最高の経験をさせていただきました。私の永遠の憧れの劇場で……。

初めてご一緒したアレクセイ・バクランさんと。たくさんの演目を通して多くのことを教えていただきました。彼の素晴らしさに感動する日々でした。
英国ロイヤル・バレエの高田茜さんと平野亮一さんが踊ったリアム・スカーレット振付『アスフォデルの花畑』よりパ・ド・ドゥでは、プーランクの「2台のピアノのための協奏曲」を、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団さん、巨瀬励起さんと共に演奏しました。

私(写真左端)の隣から順に、アレクセイ・バクランさん、高田茜さん、平野亮一さん、巨瀬励起さん
そして、夏のしめくくりには、光藍社主催ウクライナ国立バレエ公演の公開クラスレッスン。プリンシパルのニキータ・スハルコフさんによるレッスンで伴奏を務めました。日本での公開レッスンで弾くのは私にとって新鮮な機会でしたし、はじめましてのダンサーのみなさんと言葉を交わさずとも心を通わせることができて、その時間を心から楽しみました。

ニキータ・スハルコフさんと Photo:光藍社
日本での夏のバレエの仕事は、一期一会の連続です。「はじめまして」と「またいつか」がいつも隣り合わせ。ひと夏の夢のように儚いけれど、だからこそ、そのひとつひとつの出逢いが心に深く刻まれます。この夏ご一緒したすべてのみなさんとのご縁を、これからも大切にしていきたいです。
今月の1曲
新CDに録音したもののなかから1曲、お披露目したいと思います。レッスン最後のレヴェランス用に録音したのは『くるみ割り人形』第1幕より松林のパ・ド・ドゥ。バレエへの憧れをギュッと凝縮したようなこの音楽。「Dear Ballet」にピッタリだなと思います。バレエチャンネル編集部の古川真理絵さんが撮影・編集してくださいました。ありがとうございます。
★次回更新は2025年10月20日(月)の予定です
Now on Sale

Brilliance of Ballet Music~バレエ音楽の輝き
滝澤志野による、珠玉の作品を1枚に収めたピアノソロアルバム。
<収録曲>
1.『眠れる森の美女』第3幕 グラン・パ・ド・ドゥよりアダージオ(チャイコフスキー)
2.『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』よりアダージオ(チャイコフスキー)
3.『ジュエルズ』ダイヤモンドよりアンダンテ/交響曲第3番第3楽章(チャイコフスキー)
4.『瀕死の白鳥』/「動物の謝肉祭」第13番「白鳥」(サン=サーンス)
5.『マノン』第3幕 沼地のパ・ド・ドゥ/宗教劇「聖母」より(マスネ)
6.『椿姫』第2幕/前奏曲第15番「雨だれ」変ニ長調(ショパン)
7.『椿姫』第3幕 黒のパ・ド・ドゥ/バラード第1番 ト短調(ショパン)
8.『ロミオとジュリエット』第1幕 バルコニーのパ・ド・ドゥ(プロコフィエフ)
9.『くるみ割り人形』第1幕 情景「松林の踊り」(チャイコフスキー)
10.『くるみ割り人形』第2幕 葦笛の踊り(チャイコフスキー)
11.『くるみ割り人形』第2幕 花のワルツ(チャイコフスキー)
12.『くるみ割り人形』第2幕 グラン・パ・ド・ドゥよりアダージオ(チャイコフスキー)
●演奏:滝澤志野
●発売元:株式会社 新書館
●販売価格:3,300円(税込)
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Dear Chopin(ディア・ショパン)〜Music for Ballet Class
滝澤志野さんの5枚目となる新譜レッスンCD!
志野さんがこよなく愛する「ピアノの詩人」ショパンのピアノ曲で全曲を綴った一枚。
誰もがよく知るショパンの名曲や、『レ・シルフィード』『椿姫』などバレエ作品に用いられている曲等々を、すべて志野さんの選曲により収録しています。
それぞれのエクササイズに適したテンポ感や曲の長さ、正しい動きを引き出すアレンジなど、レッスンでの使いやすさを徹底重視しながら、原曲の美しさを決して損なわない繊細な演奏。
滝澤志野さんのピアノで踊る格別な心地よさを、ぜひご体感ください。
♪ドキュメンタリー風のトレイラーや全収録曲リストなど、詳細はこちらのページでぜひご覧ください
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●CD、52曲、78分 ●価格:3,960円(税込)
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Dear Tchaikovsky(ディア・チャイコフスキー)〜Music for Ballet Class
バレエで最も重要な作曲家、チャイコフスキーの美しき名曲ばかりを集めてクラス用にアレンジ。
バレエ音楽はもちろん、オペラ、管弦楽、ピアノ小品etc….
心揺さぶられるメロディで踊る、幸福な時間(ひととき)を。
●ピアノ演奏:滝澤志野
●監修:永橋あゆみ(谷桃子バレエ団 プリンシパル)
●発売元:新書館
●価格:3,960円(税込)
★収録曲など詳細はこちらをご覧ください
- ドラマティック・ミュージック・フォー・バレエ・クラス1&2&3 滝澤志野 Dramatic Music for Ballet Class Shino Takizawa (CD)
- バレエショップを中心にベストセラーとなっている、滝澤志野さんのレッスンCD。Vol.1では「椿姫」「オネーギン」「ロミオとジュリエット」「マノン」「マイヤリング」など、ドラマティック・バレエ作品の曲を中心にアレンジ。Vol.2には「白鳥の湖」「眠れる森の美女」「オネーギン」「シルヴィア」「アザー・ダンス」などを収録。Vol.3ではおなじみのバレエ曲のほか「ミー&マイガール」や「シカゴ」といったミュージカルナンバーや「リベルタンゴ」など、ウィーンのダンサーたちのお気に入りの曲をセレクト。ピアノの生演奏でレッスンしているかのような臨場感あふれるサウンドにこだわった、初・中級からプロフェッショナル・レベルまで使用可能なレッスン曲集です。
- ●ピアノ演奏:滝澤志野
●Vol.2、Vol.3監修:永橋あゆみ(谷桃子バレエ団 プリンシパル)
●発売元:新書館
●価格:各3,960円(税込)


配信販売中!
現在発売されている滝澤志野さんのベストセラー・CDを配信版でもお買い求めいただけます。
下記の各リンクからどうぞ。
★作曲家シリーズ
♪Dear Tchaikovsky https://linkco.re/pEHd0G2A?lang=ja
★「Dramatic Music for Ballet Class」シリーズ