〈ダンス×演劇〉をコンセプトに、文学作品を独創的な視点で舞台化するダンスカンパニーCHAiroiPLIN(チャイロイプリン)が、2025年8~9月に、新作“おどるシェイクスピア”シリーズ第5弾『RARE~リア王~』を上演します。シェイクスピアの悲劇「リア王」を新たな視点で再構築した本作は、3都市ツアーと題し、8月14~17日の東京公演を皮切りに、島根、徳島を回ります。
振付・構成・演出は、これまでに数々の“おどる”シリーズを手掛け、令和6年度(第75回)芸術選奨舞踊部門文部科学大臣新人賞を受賞したスズキ拓朗(すずき・たくろう)。
リハーサル真っ最中の8月初旬、スズキさんにお話を聞きました。

スズキ拓朗 Takuro Suzuki
ダンサー・振付家・演出家。1985年生まれ、新潟県出身。桐朋学園芸術短期大学演劇専攻卒業。2007年にダンスカンパニー「CHAiroiPLIN」(チャイロイプリン)を立ち上げ、振付・演出・ダンサーを務める。キャストを演劇人とダンサーで構成し、〈ダンス×演劇〉というコンセプトのもと、既成概念にとらわれないパフォーマンス作品を発表している。2011年からは近藤良平主宰のダンスカンパニー「コンドルズ」にも所属。みいつけた!NHK Eテレ「ウキウキの木」振付・出演。令和元年度(第74回)文化庁芸術祭関東舞踊部門新人賞。令和6年度(第75回)芸術選奨舞踊部門文部科学大臣新人賞。©Ballet Channel
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#1 「RARE(レア)」は衣を纏った王様
- まずはCHAiroiPLINの人気シリーズ「おどるシェイクスピア」について教えてください。
- スズキ 「おどるシェイクスピア」シリーズは、シェイクスピア作品のテーマを一度解体して、僕たちの日常生活に馴染みのあるものや、普遍的なものに組み替えています。例えば「ロミオとジュリエット」なら“配達”や“走ること”、「ハムレット」だったら“十字路”や“信号機”をイメージして組み立てました。タイトルも原作とは違うものを考えます。「ロミオとジュリエット」はイタリア語で舞踏会を意味する『BALLO』。「ハムレット」のタイトルは『TIC-TAC』です。『TIC-TAC』の由来は「tic-tac-toe」で、日本で言うマルバツゲーム(三目並べ)のこと。○か×か、勝つか負けるか。それをハムレットのセリフ「To be or not to be……」と掛けました。
- 今回の原作は「KING LEAR(リア王)」ですが、タイトルを「RARE(レア)」にしたのはなぜですか?
- スズキ 「RARE」のテーマは“食卓”で、レストランを舞台にしています。タイトルは「『リア王』ってそもそもどんなお話だったっけ?」と思い返していて閃きました。
王としてたくさんの衣服をまとっていたリアは、裏切りや戦争によって少しずつその衣をはぎ取られていきます。そしてすべてを失いかけた時、初めて本当に大切なものが何だったか気付くのですが……ふと「そういえばフライとか天ぷらも“衣”を纏(まと)ってるよね?」と。その衣を剥がしたら、外側しか火が通っていない半生(なま)の中身が出てくるかもしれないなって。そこから肉の焼き加減を表す「レア」を思いつきました。

リハーサル風景より ©タナカミサキ(CHAiroiPLIN)
- 今回はCHAiroiPLINのメンバー以外にも、多くのゲストが出演します。俳優とダンサーの割合など、キャスティングのバランスもいいですね。
- スズキ 今回13人での舞台になりますが、ダンサーも俳優も面白すぎる人ばかりが集まりました。シェイクスピアシリーズをやる時には、演劇の舞台経験が豊富な俳優さんの力がより大きな支えになります。主役は佐藤誓さん。2年前からリアをやりたいと言ってくださっていて、今回、満を持してお願いしました。ダンサーではグロスター伯爵役で伊藤キムさん、リアの長女・ゴネリル役で中村蓉さんが客演してくれます。キムさんは怖そうに見えますが、すごくお茶目なんですよ。蓉ちゃんのことは20代から知っているけれど、純粋なところは全然変わっていない。子どものようにかわいらしい人です。

リハーサル風景より ©タナカミサキ(CHAiroiPLIN)
- 今回は3都市ツアー公演で、東京、島根、徳島を回ります。アンサンブルは地域ごとにオーディションを行ったそうですね。
- スズキ アンサンブルのみなさんには「リア王の100人のお付き」として出演してもらいます。老若男女が集まるレストランが舞台ですから、年齢も経験もさまざまな人を選びました。選考基準は人柄重視。今回が初舞台、という人も頑張って稽古しています。
#2 演劇からダンスへ、表現の可能性を探して
- CHAiroiPLINというカンパニー名の由来は、スズキさんがチャーリー・チャップリンを好きだからだと聞きました。初めてチャップリン作品に触れたのはいつですか?
- スズキ 小学生の頃です。父がテレビの下の引き出しに映画の8㎜ビデオをたくさん入れていて、ゲームを持っていなかった僕のいちばんの楽しみは、そこにあったバスター・キートンや、チャップリンの映画を観ることでした。
- いちばん好きだった作品は?
- スズキ チャップリンの『モダン・タイムス』です。子どもだったので、バックグラウンドに社会風刺が描かれているとはまったく気付かなくて、軽快なテンポとチャップリンの表情、一つひとつの動きの面白さに夢中になりました。
- その後、スズキさんは桐朋学園芸術短期大学に入学。専攻は演劇だったのですね。
- スズキ もともと僕は表現に興味があって、それを学ぶなら演劇がいいと思って進路を決めました。
入学したての頃は、大きな声を出して滑舌よくセリフを言うのが演劇だと思っていました。だけど学んでいくうちに、「演じるためには、まずはセリフよりも身体が大事なんじゃないかな?」と感じ始めて。演劇を知れば知るほど、言葉よりも身体のほうに興味が湧いていきました。
- 当時の学長は演劇の巨匠、蜷川幸雄さん。とても厳しい方で、とにかくたくさん本を読まされました。シェイクスピア作品は全部で37あるんですが、それを1週間くらいで全部読むように言われて。内容もよくわからないまま読み終えました(笑)。あの時に読む癖をつけたことは、脚本を書くようになって役立っていますし、当時読んだ本は僕の脳みその引き出しの中に残っていて、ときどき顔を出すこともあります。
- 在学中に、ダンスを踊った経験はありますか?
- スズキ 当時はミュージカル俳優になりたい生徒がたくさんいたからか、学園祭とか卒業生を送る会とかの行事があるたびに、とにかくみんな踊りたがるんです(笑)。周りがあたりまえのように踊れる人ばかりだったので、僕もみんなについて行こうと頑張りました。スポーツ少年だったので、運動神経はいいんですよ。いま考えてみると、ダンスとの出会いは、短大でのこの経験が大きかった気がしますね。もし学校で演劇しかやらなかったら、僕はいま踊っていないかもしれない。当時の同級生たちには感謝しています。
- スズキさんが本格的にダンスに取り組もうと決めたきっかけを教えてください。
- スズキ 卒業する頃、彩の国さいたま芸術劇場で芸術監督を務めていた蜷川さんが、若い俳優を対象にした「さいたまネクスト・シアター」という劇団を立ち上げたので、演劇を続けようと思っていた僕はその第1期生として入団しました。
少し経った頃、蜷川さんから「いま、ダンスがすごく流行っているし、お前は身体が効くから、ダンスに集中してもいいんじゃないか?」とアドバイスを頂いたんです。それをきっかけに、ダンスで表現する方法を頑張って探してみようかなという気持ちになりました。
劇団を辞め、コンテンポラリーダンスを学び始めてから、ダンスって演劇以上に表現を真っ直ぐに届けられるんだと知ることができました。
#3 ダンスには“あたりまえ”を解体する力がある
- CHAiroiPLINのコンセプトである〈ダンス×演劇〉の舞台をつくる時に大事にしていることは何ですか?
- スズキ タイトルやテーマを決めるのと一緒で、僕は舞台づくりでも決められたものを解体してみることから始めます。ダンスには、ものごとを解体する発想力が備わっている。僕はそう感じています。動いてみて分かることって、たくさんありますよね。あたりまえのことに、ちょっとだけ違う動きを加えると、面白い発見があったり、新しいアイディアが生まれたりするんです。
- 例えば、さっき頂いた若松さんの名刺。名刺っていうのは、僕がここに書かれている名前を見て、あなたが誰かを知るためのものです。だから普通だったらざっと目を通して、きちんとテーブルの端に置きますよね。でも例えば僕が、若松さんの名刺をこんなふうに半分に折り曲げて置いてみたら?「若松さん」が、なんだか椅子みたいに見えてくるでしょ?
言語や理屈では説明できないけれど、この名刺の解体も、ダンスや身体表現に近いと僕は思うんですよ。そういう感覚を大事にしたいです。

©Ballet Channel
- CHAiroiPLINの独特な世界観の秘密はどこにあると考えていますか?
- スズキ よく「スズキさんの頭の中ってどうなっているんですか?」と聞かれます(笑)。でも、すべてを僕の発想だけでつくっているわけではないんですよ。例えば、作曲を担当しているCHAiroiPLINメンバーの清水ゆりは、稽古場シーンを組み立てると、僕がイメージを伝えるよりも先に、場面にぴったりの曲を作って持ってきてくれることがあります。CHAiroiPLINの舞台の魅力のひとつは、おもちゃ箱をひっくり返したみたいなところだと思っていますが、それは僕だけでなくて、一人ひとりのメンバーが持っている個性や想像力がステージにぎゅっと詰まっているからじゃないでしょうか。

©Ballet Channel
- これからのCHAiroiPLINとスズキさんの夢や目標を聞かせてください。
- スズキ この前、夢がひとつ叶いました! 今年2月に初演した「おどる小説『橋づくし』」を11月にニューヨークで上演します。身体的表現を活かしたステージは海外公演に向いていると思うので、これからも挑戦していきたいです。
もうひとつの目標は、「おどるシェイクスピア」シリーズで、シェイクスピア全37作品をやること!
僕の野望としては、ひとつのカンパニーに留まらず、もっとたくさんの人と出会いたい。そしてより多くの人に観てもらえる作品を増やしていきたいですね。
- これから舞台化してみたい“おどる”シリーズはありますか?
- スズキ 「ウォーリーをさがせ!」かな。絵本のカラフルなあのページがそのまま舞台になったら、きっと面白いと思いませんか?

©Ballet Channel
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公演情報
CHAiroiPLIN おどるシェイクスピア『RARE~リア王~』
振付・構成・演出:スズキ拓朗
原作:W.シェイクスピア「リア王」より

《ツアー日程》
【東京公演】
■日時
8月14日(木)19:00
8月15日(金)19:00
8月16日(土)14:00/18:00
8月17日(日)13:00/17:00
(開場時間 開演の30分前)
■会場:六行会ホール
【島根公演】
■日時
8月23日(土)17:00
(開場時間 開演の30分前)
■会場:島根県民会館 中ホール
【徳島公演】
■日時
9月13日(土)17:00
(開場時間 開演の30分前)
■会場:あわぎんホール(徳島県郷土文化会館)1階ホール
《出演》
佐藤 誓
伊藤キム
いわいのふ健
塩野拓矢
中村 蓉
鳥越勇作
富岡晃一郎
田村興一郎
関口 晴
(以下CHAiroiPLIN)
清水ゆり
小林らら
青井 想
スズキ拓朗
◆CHAiroiPLIN公式HPはこちら