ベジャール・バレエ・ローザンヌ(BBL)のスターダンサーとして世界中の舞台で活躍。
現在はBBL時代の同僚であった奥様のクリスティーヌ・ブランさんと、フランスの街で暮らしている小林十市さん。
いまあらためて、その目に映るバレエとダンスの世界のこと。
いまも色褪せることのない、モーリス・ベジャールとの思い出とその作品のこと−−。
南仏オランジュの街から、十市さんご本人が言葉と写真で綴るエッセイを月1回お届けします。
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スタジオの照明が外の暗さと対照的にほんわり暖色系で明るく、冬を感じさせる。
まだ夕方5時前だけど、外は風が強く枯葉が舞い空は既に暗くなっている。
こんなに季節をまたいで日本に滞在するなんて久しぶりのことだ。そして今回3度目の新潟。
まるでカンパニーメンバーのように普通に朝スタジオに来てみんなと一緒にレッスンを受ける自分。みんなにも「お帰りなさい」と言われた。(結構嬉しい……)
レッスン後、スタジオでは Noism 0が来月行う公演のための創作を始めている。
バロック風の音楽が響くスタジオに座りながら、金森穣くんたちをうらやましく眺める自分。「ああ、いいな〜創作現場。模索し、試し、踊る、いいな〜」って正直思う。穣くん、井関佐和子さんと山田勇気さんの3人が楽しそうに作っていく過程を見ながらそこに入っていない自分が、なんとなく寂しさをどこか遠く奥のほうで感じている。
穣くんのアイデア、音楽のチョイス、振り、すべて好き。今回はDance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021での作品『A JOURNEY〜記憶の中の記憶へ』や東京バレエ団に振付けた『かぐや姫』そしてまだ全貌は明らかではないけど創作過程の作品。三種異なる振り、作品を見てきている。
「今日は何をするんだっけ!?」と、突然思う……もちろんNoismで自分の稽古はない。けれど同じ「りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館」の建物の中の能楽堂で「エリア50代」の仕込みをしている最中だから現場へテーブルの位置を決めにいく(行くといってもひとつ上の階だけど……)。
KAAT公演以来の制作チームやスタッフのみなさんに会う。そうだよ「エリア50代」。僕にはまだ踊る作品があるのだ。とNoismノスタルジーから抜け出し、自分を見つめ直す。
テーブルを置いたら場所がなくて動けないんじゃないか? と思ったけどなんとか平気そう……と、ここから本番までの数日毎朝Noismでレッスンを受け、能楽堂の舞台と穣くんが振付をしているスタジオとの往復が続いたのでした。
僕の楽屋はNoismフロアだった……。
そして……
写真左から:僕、伊藤キムさん、平山素子さん、近藤良平さん
「エリア50代」新潟りゅーとぴあ能楽堂バージョン! 初日、そして2日目の大千秋楽! 両日無事に終了いたしました。東京から観に来ていただいた方々にも新潟のみなさまにも、劇場へ足をお運びいただきまして心より感謝いたします。
やはり能楽堂という横浜とは別空間で踊れたこと。そして毎日、穣くんの創作活動を目の当たりにし影響を受けていた自分。無意識に踊りが変化してきていたかもしれません。こうして今回の企画としては終わりましたけど、自分の中には課題が残っているので今後も踊り続けて行きたい作品です。海外でもやってみたいし、しばらく間をあけてまた日本でもやってみたい。自分もまだ舞踊家として成長できるのかもしれないしチャレンジし続けたい気持ちはありますから。
そして新潟を離れる=穣くん、佐和子さん、 Noismのみんなともお別れの時です……いやあ、寂しい(泣)。
9月からずっと一緒にいたわけですが、本当にあらためて、人生において普通では考えられないような様々な瞬間を共に過ごしてきた旅の仲間たちに感謝します。
僕はいつも「その場を立ち去る人間」なんです……。南仏に妻子を残しその場を去り、実家の母を残しその場を去り、東京バレエ団で指導を終えてその場を去り、こうして穣くん佐和子さん、みんなと一緒に踊りその場を去っていくのはいつも自分なのです。それでも「いつでも帰って来て!」と言ってくれて、去ることを惜しんでくれて、次に期待してくれるみんながいる。それがどれだけ自分の励みになるか! 本当に感謝です。幸せ者だなあ俺……(合掌)
東京へ戻り。
翌日横浜市役所へ。
横浜アーツフェスティバル実行委員会のみなさんと山本康介くん。
長い時間をかけて企画した催しが、始まるとあっけなく幕を閉じて去ってゆく。けれど我々の間には信頼という絆ができたわけで、今後に繋がればと心から思います。
お客様や参加したアーティストのみなさんの心に残る瞬間をひとつでも多く作ろうと、影で支えてくれたスタッフさんたちや企画案を形にしたアーツフェスティバル実行委員会のみなさん。本当にお疲れ様でした! そして「舞踊の情熱」で大変お世話になった山本康介くん! コロナ禍でどうなるかと心配だったけど、結果すべて良い公演だったと思います! 横浜から世界へ発信できる、世界に誇れるフェスティバルになるように、今後も継続されることを望みます。斎藤友佳理さんもおっしゃっていましたが、第1回の時から確実に進化してきているフェスティバルですから、今後第5回、第6回と続けていってほしいと。その時第4回Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021が伝説の回と言われるかもしれない!?(笑)ディレクターとか似合わないことやらせていただきましたけど、みんな笑顔で喜んでくれて本当に良かったとホッとした自分でした。
今月もお読みいただきありがとうございます!
小林十市
★次回更新は2021年12月27日(月)の予定です