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【動画付きレポート】新国立劇場バレエ団「ジゼル」ロンドン公演記者会見

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【記者会見ダイジェスト動画】
00:11〜 ロンドン公演にかける思い(吉田)
03:05〜 ロンドン公演にかける思い(吉田)
04:16〜 ロンドン公演で楽しみにしていること(米沢&井澤)
05:28〜 4月の「ジゼル」で全幕主演復帰。その時の心境は?(米沢)
06:56〜 ジゼルを踊るうえで変化はありましたか?(米沢)
07:39〜 今シーズン、海外で活躍するダンサーと共演して(井澤)
08:11〜 ロンドン公演に向けて(井澤)
<記者たちによる質疑応答>
08:32〜 Q1.海外公演を行うべきと考えた理由は?(木下)
08:48〜 Q2.木下代表からみたバレエ団の魅力(木下)
09:23〜 Q3.いま、ダンサー同士で話題になっていること
10:17〜 Q4.役作りについて(米沢&井澤)
11:38〜 Q5.ロンドン公演での目標は?(吉田)
12:27〜 フォトセッション

新国立劇場バレエ団が2025年7月24日から27日まで、英国ロイヤルオペラハウスにて『ジゼル』を上演する。
新国立劇場初の海外主催公演で、新国立劇場バレエ団がロイヤルオペラハウスでのデビューを飾る舞台となる。今回上演される『ジゼル』は吉田都舞踊芸術監督が初めて演出を手掛け、2022年10月に初演、2025年4月に再演された。

渡英を間近に控えた7月3日、新国立劇場オペラパレス ホワイエにてロンドン公演の記者会見が行われ、ロンドン公演のオフィシャルスポンサーを務める株式会社木下グループ代表取締役社長兼グループCEOの木下直哉、新国立劇場バレエ団舞踊芸術監督の吉田都、ロンドン公演で主演を務める新国立劇場バレエ団プリンシパルの米沢唯と井澤駿、新国立劇場理事の藤野公之が登壇した。

左から 株式会社木下グループ代表取締役社長兼グループCEO 木下直哉、新国立劇場バレエ団舞踊芸術監督 吉田都、新国立劇場バレエ団プリンシパル 米沢唯、同 井澤駿、新国立劇場理事 藤野公之 ©Ballet Channel

登壇者より挨拶

はじめに木下直哉氏と吉田都監督が、ロンドン公演開催の経緯を語った。

木下 数年前、都さんから新国立劇場バレエ団が高い水準にあると聞き、私自身も同様にバレエ団の成長を実感していました。しかし残念なことに、同団は日本でナンバーワンでも、世界的に見るとあまり知られていないのが現状です。世界に日本のバレエの魅力を届けるために、都さんの悲願である新国立劇場バレエ団のロンドン公演を必ず実現したいと考えました。木下グループがこうした取り組みをサポートできるのは光栄なことですし、今後もバレエ団には世界の舞台で戦っていただきたいと思っています。本公演の成功を心から願っています。

木下直哉代表 ©Ballet Channel

吉田 ロンドン公演の実現まで導いてくださった木下代表に、この場を借りてお礼申し上げます。木下代表とは、ロイヤル・バレエ・アカデミーの日本人留学生へのご支援のお願いにあがったのがきっかけで、現在も継続してサポートしていただいています。日ごろから新国立劇場バレエ団のみならず、日本のバレエ界を支えてくださっている木下代表ですが、ご自身もバレエのレッスンに通われています。ついに先日、オペラパレスで行われた東京バレエ団の『ザ・カブキ』にご出演されました。これだけバレエをサポートしてくださる代表の方も希有な存在ですが、本番に向けて日々レッスンとリハーサルに参加し、舞台に立たれるというのは本当にすばらしいことです。木下代表の舞台デビューをオペラパレスの客席から見届けるのは、不思議な感覚でした(笑)。

©Ballet Channel

続けて吉田都が司会者の質問に答えた。

ロンドン公演に向けた思いは?
吉田 新国立劇場バレエ団に参与した当初は、踊る側の視点でダンサーたちにオペラハウスの舞台に立ってほしいという夢を抱いていましたが、芸術監督になってから違う欲が出てきました。手前味噌にはなりますが、新国立劇場バレエ団はいまや世界レベルにあると感じています。だからこそ、世界じゅうの方に私たちの舞台を観ていただきたいと考えるようになりました。ロンドン公演を経て、ダンサーたちがどう成長するかを楽しみにしています。
初の海外公演に向けて、現地のプロモーション以外の部分はすべて新国立劇場で行っています。スタッフのみなさんも大変だとは思いますが、これらのノウハウは劇場にとっての財産になると思います。
2022年の『ジゼル』初演から2025年4月の再演にかけて変化は?
吉田 今回は再演でダンサーたちも振付が身体に入っているので、演技面を掘り下げられたと思います。初演から時間が経ったことで、舞台美術や衣裳、照明のすばらしさを再確認し、幕が開いた時に「いい作品ができあがった」とあらためて感じました。この『ジゼル』は、演劇性の高いブリティッシュスタイルを継承しながらも、新国立劇場バレエ団にマッチした作品になっています。

新国立劇場バレエ団「ジゼル」  撮影:長谷川清徳

新国立劇場バレエ団に合っているというのは?
吉田 『ジゼル』で求められる繊細な表現や美しく整ったコール・ド・バレエです。アラスター・マリオットさんの振付には、チャレンジングなフォーメーションが出てきます。コール・ド・バレエがきれいに揃っていても、機械的な動きだと観客の心は動かされません。大切なのは一人ひとりがストーリーを伝えること。再演では、第1幕は村人や貴族が生きる世界、第2幕は精霊たちの世界というように、しっかりとコントラストが見える作品に仕上がったと感じています。若手のダンサーのなかには、クラシックの作品だからと、村人なのに王子のような立ち姿になってしまう人もいるので、もっと日常の生活を送っている村人をイメージするように指導しました。

新国立劇場バレエ団「ジゼル」 撮影:長谷川清徳

新国立劇場バレエ団『アラジン』の配信では、視聴者の6割が海外からでした。日本から世界への発信について、手ごたえを感じていますか?
吉田 今や世界じゅうのバレエ団で上演されている『アラジン』ですが、この作品はデヴィッド・ビントレーさんが新国立劇場バレエ団のために作ってくださいました。海外の方にも観ていただけたのはとても良いことで、これからも配信を継続していきたいです。そういった意味でも、今回の『ジゼル』が日本と英国の架け橋となれたらと思います。

吉田都 ©Ballet Channel

続いて、7月24日・26日のロンドン公演で主演が予定されている、米沢唯と井澤駿がそれぞれ思いを語った。

米沢 まったく実感がないというのが正直なところです。私はイギリスに行くのが初めてで、ロンドンといえば幼い頃に観た映画『マイ・フェア・レディ』に出てくるコヴェントガーデンや、バレエのビデオで何度も観ていたオペラハウスがある憧れの場所。あと数週間後にそこで踊ることが夢のようです。公演のためにスーツケースを買ってはみたものの、本当に行くのかな?と思っていたのですが、今日こうして都さんや木下さんのお話を聞いているうちに「ロンドンに行くんだ!」とドキドキしてきました。何よりも、オペラハウスの舞台に一歩足を踏み入れることをいちばん楽しみにしています。

米沢唯 ©Ballet Channel

井澤 僕も楽しみで仕方がありません。実現に向けてご尽力くださった吉田監督、支援をしてくださった木下代表、スポンサーのみなさまに心から感謝しています。
ロイヤルオペラハウスで踊るということは奇跡で、僕にとっては夢のようなこと。プレッシャーもありますが、自分なりに『ジゼル』の作品とアルブレヒトの役を表現したいと思っています。

井澤駿 ©Ballet Channel

米沢さんは病気で舞台を離れた時期もありましたが、4月の『ジゼル』で全幕公演復帰を果たしました。4月の舞台は、特別な思いがありましたか?
米沢 「もう全幕は踊れないかもしれない」と覚悟を決めた時期もありました。でも1年が経ち、『ジゼル』で全幕復帰をして、ロイヤルの舞台で踊ることができるなんて、こんなに嬉しいことがあるのだろうかというくらい嬉しいです。感謝を胸に精一杯踊りたいと思います。
復帰に向けて、とにかく身体との向き合い方を一から見直しました。呼吸や睡眠、水分の摂り方、踊り方、自分の精神の持っていき方などすべてを見直して、これだけやって何かあったらもうしょうがないと腹をくくって舞台に立ちました。でも本番前に吉田監督の顔を見たら涙が出てきて、二人で泣いてしまいました。そのくらい新国立劇場の舞台が私にとってとても大切で、かけがえのないものなんだと感じた日でした。
吉田監督のバージョン以外の『ジゼル』を演じる時も、元気すぎたり、か弱すぎたりと塩梅が難しく、ジゼルがどんな少女なのかを掴むのに苦労した時期もありました。でも今回はすっと役に入ることができました。“踊りたくて踊りたくてしょうがない少女”という部分が自分とリンクしていて、それが役を掴む手がかりになったのではないかと思っています。
米沢さんのことは、吉田監督からも「リアルジゼル」とのコメントがありました。ロンドンに向けての意気込みをお願いします。
米沢 吉田都というすばらしいダンサーを愛したイギリスのみなさんに、新国立劇場バレエ団も愛していただけるような舞台をお届けしたいです。

米沢唯 ©Ballet Channel

井澤さんは今シーズンの『眠れる森の美女』で佐々晴香さん、『不思議の国のアリス』で高田茜さんと共演されました。その経験で得たものはありますか?
井澤 リハーサル期間が短かったのですが、技術的なことでも演じるという面でも、一緒に踊るたびに「こんな表現があるのか」と驚かされることばかりで、とても勉強になりました。相手の表現を受け取ってどう演じるかで相乗効果が生まれ、6月の『不思議の国のアリス』では3回の本番それぞれが違う舞台になったと感じています。ジャックを演じながら、アリスにもっと楽しんでほしいという感情が芽生えました。
今回の公演で得た学びと課題を今後に活かし、米沢さんとふたりで『ジゼル』の舞台をさらに磨きあげていきたいと思います。

井澤駿 ©Ballet Channel

記者による質疑応答

最後に質疑応答の時間が設けられた。記者たちから挙がった質問の内容(抜粋)は以下の通り。
※読みやすさのために一部編集しています

記者1 木下代表が新国立劇場バレエ団のロンドン公演を早急に実現させたいと考えた理由は?
木下 これほどにもすばらしいダンサー、バレエ団を世界に紹介しなければというのが率直な気持ちです。コール・ド・バレエの整った美しさに加え、都さんが舞踊芸術監督になられて、ダンサー一人ひとりの表現も磨かれたと感じています。役をどう表現し、役の人生をどう解釈して観客に伝えるか。そういった点においても、新国立劇場バレエ団のダンサーたちはすばらしいと感じています。
記者1 ロンドン公演を目前に控えたバレエ団の雰囲気は?
米沢 ダンサーも指導の先生方も熱の入ったリハーサルになっています。女性陣は「梅干しは持ってく?」「味噌はどうする?」といった話をよくしていますね。私もそうですが、銭湯好きやお風呂好きのダンサーが多いので、バスタブがあるといいねとお風呂事情もみんなで気になっています。
井澤 男性陣も「サウナあるかな?」と話したり、「あまり飲みすぎないようにしようね」とお互い注意もしています。
記者2 世界には戦火に見舞われている地域もあるなかで、今『ジゼル』という作品を届ける意義は?
吉田 だからこそ『ジゼル』を選んだというわけではありませんが、さまざまな条件が重なってオペラハウスで公演をすることが決まり、そこからのスタートでした。ありがたいことに、コロナ禍で暗くなっていた時期には、劇場でどれだけ励まされたかといった言葉をたくさんいただきました。舞台を通して心に栄養をお届けするというような形で、芸術にもできることはあると感じています。
記者3 「米沢さんならではのジゼル」、「井澤さんならではのアルブレヒト」とは?
米沢 私ならではというのは、自分ではわからないこと。観てくださったお客さまが「これが米沢唯のジゼルなんだ」と思ってくださるのがいいのかなと感じています。
吉田 彼女は、本当にニュートラルなところがすばらしい。だからこそどんな風にも変化できます。経験を積んだダンサーだと「こう踊りたい」というこだわりが必ずあるはずですが、彼女にはそれが感じられません。観ていて毎回驚かされます。
米沢 少し説明するのが難しいのですが……一度やったからと次も同じようにしてしまうと表現の幅が狭まってしまうので、毎回違う風に踊りたいと思っています。
井澤 作品の設定を大切にしたうえで、自分の感情をどう表現するかは、その時々で唯さんの反応を見たいと思っています。あえて作ってしまうと形になってしまうので、舞台に立って感じたままに踊りたいです。

新国立劇場バレエ団「ジゼル」 撮影:長谷川清徳

記者4 ロンドン公演の目標、どんな評価を目指したいかを教えてください。
吉田 イギリスのお客様は感じたままに反応してくださいます。日本のように静かに観て最後に拍手をするのではなく、舞台が良ければ合間でも拍手や歓声も起こるので、そういった反応が見られたらいいなと思っています。
ダンサーたちにはとにかく舞台を楽しんでもらいたいです。海外に来て少し環境が変わることで普段と違うところに力が入ったりすると思うのですが、4月の公演で見せてくれた「そのままでいいから」と伝えています。あくまで楽しんで、自分たちが積み重ねてきたものをしっかりとイギリスのお客さまに届けてほしいと思います。
ロンドンでプレスランチを行った際に、「楽しみにしている」とみなさんがとてもあたたかく迎えてくださいました。現地の方から舞台を観た後に辛口の評が出たとしても受け止めます。私たちの目標は、真摯に向き合って良い舞台を作り、お見せすることです。

吉田都 ©Ballet Channel

記者5 ロンドン公演の配信は予定していますか?
藤野 計画段階ですが、公演を録画し放映する方向で、調整を進めています。

左から 吉田都、米沢唯、井澤駿 ©Ballet Channel

公演情報

新国立劇場バレエ団『ジゼル』(ロンドン公演)

上演時間:約2時間15分(休憩含む)

◎日時・出演者
2025年7月24日(木)19:30 米沢唯・井澤駿
2025年7月25日(金)19:30 小野絢子・福岡雄大
2025年7月26日(土)14:00 柴山紗帆・速水渉悟
2025年7月26日(土)19:30 米沢唯・井澤駿
2025年7月27日(日)14:00 木村優里・渡邊峻郁

◎会場
英国ロイヤルオペラハウス

◎チケット取り扱い
ロイヤルオペラハウスwebページ

◎公演ウェブサイトはこちら

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