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【第28回】鑑賞のためのバレエ・テクニック大研究!ーランヴェルセ

海野 敏

文/海野 敏(東洋大学教授)

28回 ランヴェルセ

■背中を反らせて裏返る動き

パ・ド・ブーレ(第2425回)、デヴェロッペ(第26回)、アラベスク・パンシェ(第27回)と紹介してきましたが、いずれも主役女性ダンサーの踊りで目立つ動きとポーズでした。しかし、今回の「ランヴェルセ」(renversé)は、主役男性ダンサーの踊りでも印象に残る動きです。

一般にランヴェルセと呼ばれている動きは、正確には「ピルエット・ランヴェルセ」(pirouette ~)または「ピルエット・アヴェック・ランヴェルセ」(~ avec ~; ランヴェルセを伴ったピルエット)と言います。フランス語の“renversé”は、「ひっくり返した」「裏返した」「逆転させた」という意味です。本来ランヴェルセだけでは、裏返る動きのことのみを指しますので、バレエ教室では、「ランヴェルセは回転ではありません」と教わることが多いかもしれません。

しかし、ランヴェルセと言えば通常はピルエット・ランヴェルセで、背中を反らせてぐるりと回転しているように見えます。連載第8回の「回転技を整理する」という項目では、「跳躍なし、移動なし」の回転技のグループに、グラン・フェッテ(第12回)やピルエット(第3回)と並べて、ランヴェルセの名前も挙げておきました。以下でも、ピルエット・ランヴェルセのことを、単にランヴェルセと呼びます。

ランヴェルセは、動脚を空中で大きく回し(ロン・ド・ジャンブ)、上体を後ろへ反らしながらアティテュード・デリエールのポーズになり、同時に軸脚をつま先立ち(ドゥミ・ポアントまたはポアント)にして1回転します。このとき、両腕も大きく広げて動かします。ダンサーにはバランスを保つコントロール力が必要です。背中が柔らかく、バランス感覚の優れたダンサーが踊るランヴェルセは、振り上げた動脚が空間に美しい螺旋の軌跡を描き、とてもダイナミックで優雅な動きに見えます。

■作品中のランヴェルセ

男性主役ダンサーのランヴェルセでは、『ラ・バヤデール』のソロルのヴァリエーションの冒頭が印象的です。第2幕、ガムザッティとの婚礼式で踊るソロルのヴァリエーションは、音階が上昇する冒頭の音楽に合わせてランヴェルセで入る振付が定番です(注1)。その直後から行う力強いマネージュ(舞台の周回)を予感させる、つかみの動きです。マネージュが右回りの時は下手奥で右回りのランヴェルセから始め、左回りの時は上手奥で左回りのランヴェルセから始めます。

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『ラ・バヤデール』第2幕よりソロルのヴァリエーション。動画ではセルゲイ・ポルーニンが、上手奥で左回りのランヴェルセから入り、ダイナミックなマネージュに繋げています。

20世紀に作られた全幕作品の傑作、マクミラン振付の『ロミオとジュリエット』では、第1幕の「バルコニーのパ・ド・ドゥ」で、ロミオがランヴェルセをします。序盤、ふたりが見つめ合い手を取り合った後、音楽のテンポが速くなってロミオがソロで踊り出すのですが、その冒頭にランヴェルセが3回入ります。このランヴェルセの繰り返しは、ジュリエットへの思いが溢れて踊り出したことを表現するのにぴったりの動きだと、見るたびに振付家の才能に感心します(注2)

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英国ロイヤル・バレエより『ロミオとジュリエット』第1幕の「バルコニーのパ・ド・ドゥ」。動画はケネス・マクミランの振付で、冒頭からロミオのランヴェルセを見ることができます。フェデリコ・ボネッリの美しい脚と腕の伸びやかな動きから、溢んばかりの思いが伝わってきます。

『ドン・キホーテ』第1幕、バジルのヴァリエーションにはさまざまな振付がありますが、バジルがソロでなく、キトリの2人の友人を両脇に従えて3人で踊るバージョンがあります(注3)。踊り始めてすぐ、3人がそろって、勢いのあるランヴェルセを右回り、左回り、右回り、左回りと4度繰り返します。テンポが速く、華やかなランヴェルセの連続です。

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『ドン・キホーテ』第1幕より。3人揃ったランヴェルセが見られるのは14秒からです。バジルを演じるダニール・シムキンが持ち前の背中の柔らかさを十二分に生かし、大らかな弧を描く美しいランヴェルセを披露しています。
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パリ・オペラ座バレエより『ドン・キホーテ』第1幕。こちらのルドルフ・ヌレエフ版では、カール・パケット演じるバジルとキトリの友人たちが、とてもエレガントなランヴェルセを4度繰り返しています。

女性主役ダンサーのランヴェルセでは、『白鳥の湖』第3幕、オディールのヴァリエーションが思い浮かびます。このヴァリエーションに使われるチャイコフスキーの楽曲には、短調で始まる曲と長調で始まる曲の2種類がありますが、長調で始まる曲のほうでは、後半にランヴェルセが入る振付をよく見ます。後半、音楽が冒頭と同じメロディーに戻ったところで、オディールが勝ち誇ったようなランヴェルセを披露します。

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英国ロイヤル・バレエ『白鳥の湖』第3幕のオディールのヴァリエーションには、長調の曲が使われています。ナタリア・オシポワのしなやかなランヴェルセが見られるのは1分30秒からです。

『ライモンダ』第1幕、主役が踊る「夢の場のヴァリエーション」にも、定番の振付には、印象に残るランヴェルセが登場します。ライモンダが夢の中でジャン・ド・ブリエンヌと会って踊る場面なのですが、ヴァリエーションの後半で、「ランヴェルセ→パ・ド・ブーレして回転」を5回繰り返し、舞台を移動してゆきます。ヴァイオリンのソロの美しいメロディーに合わせて、ライモンダがフランス貴族のお嬢様らしく、エレガントに踊る場面です。

★動画でチェック!
マリインスキー・バレエ『ライモンダ』より第1幕の「夢の場のヴァリエーション」です。ランヴェルセの一連の動きは、1分30秒から。弦楽器の音色にふさわしいゆったりとしたランヴェルセを、ヴィクトリア・テリョーシキナが見事なコントロール力で滑らかに繰り返しています。

(注1)第18回「カブリオール」では、このソロルのヴァリエーションの序盤にカブリオール・デリエール・ドゥブルが入ることを紹介しましたが、ランヴェルセをせずに、いきなり跳躍してカブリオールから始める振付もあります。また、アラベスクやアティテュード・デリエールのポーズから始める場合もあります。

(注2)同じプロコフィエフの音楽を使ったクランコ版『ロミオとジュリエット』のバルコニー・シーンでも、同じロミオのソロ部分にランヴェルセが入りますが、連続ではありません。また、ラヴロフスキー版でも、ロミオのソロにランヴェルセが入った舞台を見たことがあるのですが、過去の舞台映像を探しても入っていなかったので、ラヴロフスキーの元の振付には入っていないようです。

(注3)この3人で踊るバージョンは、例えばアメリカン・バレエ・シアターやKバレエカンパニーが採用しています。古くからのバレエファンは、バリシニコフが主役で踊る映像で、このバージョンを記憶されている方が多いのではないでしょうか。

(発行日:2021年11月25日)

次回は…

第29回は「ポール・ド・ブラ」、第30回は「レヴェランス」を予定しています。第30回で一区切りとし、第31回からは「パ・ド・ドゥ編」を始める予定です。

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うみのびん。東洋大学社会学部メディアコミュニケーション学科教授、情報学研究者、舞踊評論家。2018年度より東京大学客員教授。バレエ、コンテンポラリーダンスの舞台評・解説を『ダンスマガジン』、『クララ』などのマスコミ紙誌や公演パンフレットに執筆。研究としてコンテンポラリーダンスの三次元振付シミュレーションソフトを開発中。著書に『バレエとダンスの歴史:欧米劇場舞踊史』、『バレエ パーフェクト・ガイド』、『電子書籍と電子ジャーナル』(以上全て共著)など。

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