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【第18回】鑑賞のためのバレエ・テクニック大研究! -カブリオール

海野 敏

文/海野 敏(東洋大学教授)

第18回 カブリオール

■空中で両足を打ち合わせるジャンプ

跳躍で小さく移動するステップとして、第16回のパ・ド・ポワソン第17回のブリゼとブリゼ・ヴォレに続き、カブリオールを取り上げます。ただしカブリオールは、パ・ド・ポワソン、ブリゼ、ブリゼ・ヴォレと異なり、助走すれば大きく移動できます。古典全幕作品の男性ダンサーのソロでは、踊り始めの印象的な箇所に、大きく移動する華麗なカブリオールがしばしば登場します。

カブリオール」(cabriole)は、片脚を振り上げながら他の片脚で踏み切って跳び、空中で両脚を打ち合わせ、振り上げた脚を空中に残したまま、踏み切った脚で着地するステップです。片脚で踏み切り、空中で両足を打ち合わせる点ではブリゼと同じですが、ブリゼが両脚で着地するのに対し、カブリオールは片脚で着地します。

ブリゼとカブリオールは似ているので、バレエを習ったことのない鑑賞者にとっては、舞台上で咄嗟に見分けるのが難しいかもしれません。見たときの印象を比べれば、ブリゼの方が細かくて速く、カブリオールの方が大きくてゆったりした感じです。ブリゼが「1、2」というリズムならば、カブリオールは「1、2、3」です。

フランス語の名詞“cabriole”は、元来は「山羊や馬が跳ね回ること」という意味で、ダンスだけでなく、馬術の跳躍にも使われます。英語で馬術の跳躍技は“capriole”で、“b”と“p”の1字違いですが、語源は一緒です。ちなみに“cabriole leg”(日本語では「カブリオール脚」)というと、S字形に湾曲している家具の脚のことを指します。アンティーク家具で、テーブルや椅子の脚が動物の脚のようにカーブしているのを見たことはないでしょうか。これも同じ語源です。

■さまざまなカブリオール

カブリオールで片脚を振り上げる方向は、前、後ろ、横のいずれも可能です。前ならば「カブリオール・ドゥヴァン」、後ろならば「カブリオール・デリエール」、横ならば「カブリオール・ア・ラ・スゴンド」と言います(注1)

カブリオール・ドゥヴァンとカブリオール・デリエールには、空中で両足を1回でなく、2回打ち合わせる応用技があります。これは男性ダンサーが披露する超絶技巧のひとつで、「カブリオール・ドゥーブル」(~ double)あるいは「ダブル・カブリオール」と呼びます。

カブリオールを行い、空中に上げた脚の位置を変えずに体を半回転させて着地すれば、「カブリオール・フェッテ」(~ fouettée)というステップになります。カブリオール・フェッテは、ドゥヴァン、デリエール、ア・ラ・スゴンドのいずれでも可能です。このステップは「フェッテ・バッチュ」(fouetté battu)と呼ばれることもあります。

■作品の中のカブリオール

カブリオール・ドゥヴァンでまず思い浮かぶのは、『ドン・キホーテ第3幕グラン・パ・ド・ドゥのコーダの冒頭です。登場したバジルがいきなり高く跳んで、カブリオール・ドゥヴァン・ドゥーブルを2回披露します。この後2分半、キトリとバジルの超絶技巧合戦の幕開きとなるステップです。

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マリインスキーTVの映像より、『ドン・キホーテ第3幕のグラン・パ・ド・ドゥ。ボリショイ・バレエのアルチョム・オフチャレンコ演じるバジルが、コーダで力強いカブリオール・ドゥヴァン・ドゥーブルを披露しています。

眠れる森の美女第3幕のグラン・パ・ド・ドゥでも、デジレ王子のヴァリエーションの冒頭にカブリオール・ドゥヴァンが3回入ります。まず上手から下手へ向かって左脚で踏み切って1回、次に下手から上手へ向かって右脚で踏み切って1回、そして再び上手から下手へ向かって左脚で踏み切って1回です。同じカブリオールでも、バジルには力強さ、デジレ王子には優雅さを感じます。

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英国ロイヤル・バレエの映像より。『眠れる森の美女第3幕スティーヴン・マクレイが踊る王子のヴァリエーションです。こちらの映像では王子は下手から踊り始め、気品のあるカブリオール・ドゥヴァン・ドゥーブルを見せています。

ジゼル第2幕アルブレヒトのヴァリエーションも印象的です。上手奥から登場したアルブレヒトが、冒頭でカブリオール・ドゥヴァン・ドゥーブルを2回繰り返します。カブリオールで着地したあと、両脚を大きく4番に開いて上半身を大きく後ろにそらすポーズ(後ろへのカンブレ)も特徴的なシークエンスです(注2)

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2017年のアメリカン・バレエ・シアタージゼル』の舞台映像より、ダニール・シムキンが踊るアルブレヒトのヴァリエーションカブリオール・ドゥヴァン・ドゥーブル着地後の、しなやかな上体のカンブレにも注目です。

次に、カブリオール・デリエールならば、『ラ・バヤデール第2幕、ソロルとガムザッティの婚約式の場面でのソロルのヴァリエーションの冒頭に、カブリオール・デリエール・ドゥーブルが3回入ります。ソロルのヴァリエーションは「マネージュ(舞台を周回)→舞台中央で連続回転技→マネージュ」という構成なのですが、その冒頭のマネージュは、華麗なカブリオールを見せるための振付になっています(注3)

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セルゲイ・ポルーニンが踊る、『ラ・バヤデールよりソロルのヴァリエーション。高さのある軽やかなカブリオール・デリエール・ドゥーブルを見せています。ポルーニンのマネージュは左回り→左回りです。

ドン・キホーテ第3幕のグラン・パ・ド・ドゥバジルのヴァリエーションでも、冒頭にドゥーブル・トゥール・アン・レール(第7回参照)で大きく跳躍した後、2回目の大きな跳躍でカブリオール・デリエール・ドゥーブルが入ります。空中の高い位置で、両脚をはっきりと2度打ち合わせることができる演技を見られると感動します。

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DANCE OPENの映像より、『ドン・キホーテ第3幕のグラン・パ・ド・ドゥ。ダニール・シムキンバジルのヴァリエーションで、両脚を大きく2度打ち合わせるカブリオール・デリエール・ドゥーブルを披露しています。

男性ばかりではありません。『パキータ第3幕、「グラン・パ・クラシック」の冒頭では、女性ダンサーが4人ずつ登場し、片手を腰に添えたポーズでカブリオール・ア・ラ・スゴンドを繰り返します。ヌレエフ版の『白鳥の湖第2幕では、「大きな白鳥の踊り」のフィニッシュ直前で、全員がカブリオール・ドゥヴァンを3回繰り返します。

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ワガノワ・アカデミーの映像より、『パキータ』の「グラン・パ・クラシック」。こちらの振付では、カブリオール・ア・ラ・スゴンドのときに両手が腰から離れています。

白鳥の湖第1幕、「パ・ド・トロワ」のコーダは、カブリオールの頻出する振付です。冒頭で女性ダンサーがカブリオール・フェッテを6、7回連続させますし、その後登場する男性ダンサーも、いきなりカブリオール・ドゥーブルを3回繰り返します。終盤では、3人そろってカブリオール・デリエールを繰り返す場面があります。

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マリインスキー・バレエのマリア・ホーレワの映像から、『白鳥の湖第1幕より「パ・ド・トロワ」のコーダ。こちらの振付では、ホーレワによる冒頭のカブリオール・フェッテは6回連続。男性ダンサーは下手手前から上手奥に向かってカブリオール・デリエール・ドゥーブルを3回繰り返します。永久メイも出演。

(注1)カブリオール・ドゥバン(cabriole devant)、カブリオール・デリエール(~ derrière)、カブリオール・ア・ラ・スゴンド(~ à la seconde)は、それぞれカブリオール・アン・ナヴァン(~ en avant)、カブリオール・アン・ナリエール(~ en arrière)、カブリオール・ドゥ・コテ(~ de côté)とも呼ばれます。

(注2)カブリオールの着地の後、カンブレをしない場合も多いのですが、筆者はカンブレをした方が「ミルタに踊らされているアルブレヒトの哀しみ」を感じて好みです。

(注3)このソロルのヴァリエーションは、最初のマネージュと最後のマネージュで、男性ダンサーがどちらに周回するか注目すると面白いです。最初も最後も右回り(時計回り)が多い気がしますが、ダンサーの得手不得手があって、右回り→左回り、左回り→右回り、左回り→左回りのすべてのパターンがありますので。

(発行日:2020年11月25日)

次回は…

来月はお休みをいただきます。

新年の第19回は、印象に残る少し変わったステップ、「アンボワテ」を予定しています。発行予定日は2021年1月25日です。

\Information/
2021年1月9、10日東京・豊洲文化センターにおいて、本連載を執筆している海野敏先生主催のコンテンポラリーダンス公演が行われます。新しい動きの創出をめざし、3人の気鋭の振付家がコンピュータソフトの支援を受けて振付けた作品を上演。詳細はウェブサイトをご覧ください!
Advanced Choreography vol.2
https://advancedchoreography.net/

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うみのびん。東洋大学社会学部メディアコミュニケーション学科教授、情報学研究者、舞踊評論家。2018年度より東京大学客員教授。バレエ、コンテンポラリーダンスの舞台評・解説を『ダンスマガジン』、『クララ』などのマスコミ紙誌や公演パンフレットに執筆。研究としてコンテンポラリーダンスの三次元振付シミュレーションソフトを開発中。著書に『バレエとダンスの歴史:欧米劇場舞踊史』、『バレエ パーフェクト・ガイド』、『電子書籍と電子ジャーナル』(以上全て共著)など。

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