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【第7回】鑑賞のためのバレエ・テクニック大研究!ートゥール・アン・レール

海野 敏

文/海野 敏(東洋大学教授)

第7回 トゥール・アン・レール

■跳躍と回転の組み合わせ

第1回から回転技を続けて紹介してきましたが、今回取り上げるのは、ジャンプして回転するテクニックを代表する「トゥール・アン・レール」(tour en l’air)です。この技は、作品中はおもに男性ダンサーが披露します。フランス語で「トゥール」は「回転」、「アン・レール」は「空中で」です。

ここでちょっと、空中回転について考えてみましょう。体操競技のゆか(床運動)やストリート系ダンスで空中回転と言えば、跳躍して“水平”な軸を中心に身体を回転させる宙返り技のことです。体操で言えば、前方宙返り、後方宙返りが基本となり、これに「ひねり」などの動きが加わってどんどん複雑になります。ストリート系ダンスで言えば、前宙(フロントフリップ)、バク宙(バックフリップ)、側宙(サイドフリップ)が基本となり、これにさまざまな動きが加わって、ウェブスター、フォーリア、コークスクリューなど、高度なアクロバット・トリッキングになります(注1)

一方、バレエの空中回転は、跳躍して“鉛直”な軸を中心に身体を回転させるのが基本です。この連載でこれまで取り上げた回転のテクニックも、跳躍はしませんが、すべて“鉛直”が回転軸です。反対に、体操やストリート系ダンスには、鉛直な軸を中心に身体を回転させる技は、あまり目立ちません。空中での鉛直な軸を中心とする回転が重視されるという点では、バレエはフィギュアスケートと似ています。

バレエのすごいところは、助走・踏み込みなしに空中回転できることです。体操、ストリート系ダンス、フィギュアスケート、いずれの空中回転も、助走あるいは踏み込みが前提です(注2)。しかし、トゥール・アン・レールは、助走・踏み込みなしです。トゥール・アン・レールを見ると、5番のプリエが、いかに大きなエネルギーを筋肉に蓄えた姿勢なのかがわかります。バレエの基本であるアン・ドゥオール(ターン・アウト)の効用はいくつかありますが、エネルギーを貯めるというのもそのひとつです。

トゥール・アン・レールの動きを具体的に説明すると、「足を5番ポジションにしたドゥミ・プリエから、真上へ跳び上がってつま先を伸ばした姿勢で1回転し、着地して5番ポジションのドゥミ・プリエに戻る」となります。左右の足の前後は、踏み切りと着地で入れ替わります。

■トゥール・アン・レールの応用技

真上に跳び上がって着地するまでに2回転すれば、「ダブル・トゥール・アン・レール」または「ドゥブル・トゥール・アン・レール」です。日本では、フランス語の“tours en l’air”を「トゥール・ザン・レール」と音を濁らせて発音する人が多いですが、正しい発音では音は濁らず、「トゥール・アン・レール」のままだそうです(注3)。日本には、トゥール・ザン・レールを省略した「ザンレール」という呼び方もありますが、これも海外では通じません。

では、何回転までできるかというと、3回が上限のようです。実際の舞台で3回転のトゥール・アン・レールはめったに演じられることはなく、私自身も完璧な3回転を見たことがありません。3回転に見えても、空中では2回転半で、あとの半回転は着地後に加えます。そもそも2回転でも難度の高いテクニックであり、2回転に見えても、空中では1回転半のトゥール・アン・レールは珍しくありません。フィギュアスケートでは、氷上で助走をつけてさえ、4回転が上限なのはご存知でしょう。

回転の方向は、右回りと左回りがあります。回転のあいだ、空中では両方の脚を真っすぐ伸ばすことが多いですが、空中で片脚をルティレにすることもあります。

さて、バレエの作品でダブル・トゥール・アン・レールは、男性ダンサーの見せ場に頻繁に登場します。例えば『白鳥の湖』第3幕、「黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥ」では、王子がヴァリエーションでダブル・トゥール・アン・レールを繰り返しますし、コーダでは、ダブル・トゥール・アン・レールで空中の片脚をルティレにし、その脚を着地のときに後ろへ伸ばしてアラベスク・アロンジェのポーズになる振付をよく見ます。

『くるみ割り人形』第2幕、「金平糖のグラン・パ・ド・ドゥ」では、王子のヴァリエーションの冒頭に「ダブル・トゥール・アン・レール→エシャペ・ソテ×3回」を2回繰り返す振付が定番です。『ジゼル』第2幕では、アルブレヒトがミルタに「踊り続けて死ね」と命ぜられ、ヴァリエーションの最後に、ダブル・トゥール・アン・レールで着地してそのまま倒れます。

『ドン・キホーテ』のバジル『海賊』のアリにも、それぞれのヴァリエーションの最後に印象的なダブル・トゥール・アン・レールが登場します。『ドン・キホーテ』第3幕、グラン・パ・ド・ドゥでのバジルのヴァリエーションは、ダブル・トゥール・アン・レールの着地で膝を床につき、片手を高く上げてフィニッシュします。アリのヴァリエーションの最後は、ダブル・トゥール・アン・レールをした後、倒れ込んで片手を掲げて天を仰ぐフィニッシュです。このとき、ダブル・トゥール・アン・レールを2連続する、すなわち4回転するテクニシャンもいます。

(注1)体操競技やストリート系ダンスも、インターネット上で検索しますと、テクニックを解説する動画が無数にアップされています。検索するときは、日本語だけでなく、英語を使うとさらに面白い動画を発見できます。興味があれば検索してみて下さい。

(注2)体操でもストリート系ダンスでも、助走・踏み込みなしの前方・後方宙返りは可能ですが、実際のパフォーマンスではあまり見ません。

(注3)フランス語には、語末のsを次にくる母音といっしょに発音する「リエゾン(連音)」という発音の仕方があるため、「トゥール・ザン・レール」という誤った呼び方が定着したようです。

(発行日:2019年10月25日|修正日:2019年10月29日)

次回は…

第8回は、回転技を取り上げる最後の回として、「イタリアン・フェッテとその他の回転技」を予定しています。

12月は休載し、第9回は2020年1月に掲載いたします。

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うみのびん。東洋大学社会学部メディアコミュニケーション学科教授、情報学研究者、舞踊評論家。2018年度より東京大学客員教授。バレエ、コンテンポラリーダンスの舞台評・解説を『ダンスマガジン』、『クララ』などのマスコミ紙誌や公演パンフレットに執筆。研究としてコンテンポラリーダンスの三次元振付シミュレーションソフトを開発中。著書に『バレエとダンスの歴史:欧米劇場舞踊史』、『バレエ パーフェクト・ガイド』、『電子書籍と電子ジャーナル』(以上全て共著)など。

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