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【第5回】鑑賞のためのバレエ・テクニック大研究!ーリエゾン・ド・ピルエット(ペアテ)

海野 敏

文/海野 敏(東洋大学教授)

第5回 リエゾン・ド・ピルエット(ペアテ)

■エネルギッシュな連続回転

第4回のグランド・ピルエットに続き、今回紹介する「リエゾン・ド・ピルエット」(liaison de pirouette)もピルエットの応用技です。直訳すれば「ピルエットの連結」です。リエゾン・ド・ピルエットも、ダブルやトリプルのピルエットと同じく回転を連続させるのですが、後者が軸脚の踵を下ろさずに2回転(720度)、3回転(1080度)するのに対し、リエゾン・ド・ピルエットは360度回るごとに両脚の踵を下ろします

回っては踵を下ろすことをくり返すリエゾン・ド・ピルエットは、軽快で乗りが良く、開放的でエネルギッシュな動きです。古典全幕バレエでは、元気で活発な登場人物や、明るく華やいだ場面に似合うテクニックです。

日本のバレエ教室では、リエゾン・ド・ピルエットを「ペアテ」「フェアテ」と呼んでいることが多いようです。川路明編著『新版バレエ用語辞典』によれば、これは「ピエ・ア・テール」(足を床につけること)の発音が変化したものとのこと。「タン・フェッテ」という呼び方もありますが、いずれも海外では通じない和製バレエ用語です。

鑑賞者の目線から言いますと、美しいリエゾン・ド・ピルエットの条件は、動きが円滑で回転が安定していることはもちろんですが、それに加えて、両脚の踵を下ろしたときに、第5ポジションになっていることが大切です。回転を続けながら踵を下ろすたびに両脚を5番にするのは、とてもむずかしく、常に確実にアン・ドゥオールが保てる身体でなければできません。

リエゾン・ド・ピルエットの応用技としては、回転しながらの移動があります。移動するためには、回るたびに軸足を移動方向へスムーズにずらさなければならず、難度の高い超絶技巧です。

■作品の中のリエゾン・ド・ピルエット

移動するリエゾン・ド・ピルエットが見せ場になっている古典全幕バレエの踊りと言えば、何といっても『ドン・キホーテ』第1幕のキトリのヴァリエーションでしょう。このヴァリエーションの終盤で、キトリはリエゾン・ド・ピルエットを16小節以上(16回以上)くり返して、闘牛士たちがケープを揺らして囃し立てる前を横切ってゆきます。

キトリのリエゾン・ド・ピルエットでは、シルヴィ・ギエムの演技が忘れられません。驚くほどテンポの速い演奏に合わせて回転しながら移動するのですが、一瞬踵を下ろしたときしっかり5番に入っており、しかもルティレで引き上げた脚の位置が高く、今まで見た舞台で最も切れ味のよいリエゾン・ド・ピルエットでした。

バランシン振付の『タランテラ』にも、リエゾン・ド・ピルエットが登場します。これは、男女のペアが超絶技巧を駆使し、速いテンポでノンストップで踊るテクニシャン向けの演目です。その終盤に、女性がリエゾン・ド・ピルエットで十数回連続して回り、男性がそれを横からタンバリンで囃すという場面があります。

多人数で一斉にリエゾン・ド・ピルエットを行う振付もあります。例えば、英国ロイヤル・バレエのマカロワ版『ラ・バヤデール』の第2幕、ガムザッティとソロルの婚礼式では、女性群舞が一斉にリエゾン・ド・ピルエットをします。バランシン振付の『ウエスタン・シンフォニー』の幕切れも印象的です。30人ほどのダンサーが格子状に並び、全員リエゾン・ド・ピルエットで威勢よく回り続けている最中に幕が下りるエンディングは、とても華やかです。

(発行日:2019年8月25日)

次回は…

第6回は、大きく移動しながらの回転技として「ピケ・トゥールとシェネ」を取り上げます。発行予定日は、2019年9月25日です。

第7回は「トゥール・アン・レールとトゥール・ザン・レール」を予定しています。

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うみのびん。東洋大学社会学部メディアコミュニケーション学科教授、情報学研究者、舞踊評論家。早稲田大学、立教大学でも講師を務める。バレエ、コンテンポラリーダンスの舞台評・解説を『ダンスマガジン』、『クララ』などのマスコミ紙誌や公演パンフレットに執筆。研究としてコンテンポラリーダンスの三次元振付シミュレーションソフトを開発中。著書に『バレエとダンスの歴史:欧米劇場舞踊史』、『バレエ パーフェクト・ガイド』、『電子書籍と電子ジャーナル』(以上全て共著)など。

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