
パリ・オペラ座 IN シネマ 2025「眠れる森の美女」 ©Natalia Voronova
太陽王ルイ14世の時代にさかのぼり350年以上の歴史を誇る芸術の殿堂、パリ・オペラ座。そこで上演されたバレエとオペラの舞台を映画館で体験できる、「パリ・オペラ座 IN シネマ 2025」が新たに開幕しました。バレエ作品のラインアップはルドルフ・ヌレエフの振付による『眠れる森の美女』。今年4月に行われた公演の収録映像を8月22日(金)から8月28日(木)までの7日間、全国の劇場で公開します。
今回は美しいブルーバードを披露した、カドリーユのシェール・ワグマンにインタビュー。昨年7月に入団してまもなく大役に抜擢された期待の新星に、役作りやヌレエフ作品の魅力について聞きました。

シェール・ワグマン Shale Wagman
カナダ出身。2014年ユース・アメリカ・グランプリ(YAGP)コロラド州大会にてジュニア部門ユース・グランプリ受賞、プリンセス・グレース・アカデミーに留学。2018年ローザンヌ国際バレエコンクール第1位とルドルフ・ヌレエフ財団芸術賞受賞。同年イングリッシュ・ナショナル・バレエ入団。ゲストダンサーとしてマリインスキー・バレエ『ラ・シルフィード』のジェームス役を踊る。2021年バイエルン国立バレエ入団、2022年ファースト・ソリストに昇格。2024年7月パリ・オペラ座バレエ入団。©Julien Benhamou OnP
- ブルーバードを踊ってみての感想を教えてください。
- シェール ブルーバードを踊ることを心から楽しみにしていました。オペラ座に来て最初のシーズンで、すばらしい役を演じることができてとても幸せでした。
- 僕はもともと動物的な役が好きなんです。動物的というのは人ではない存在で、ブルーバードのような鳥もそうですし、先シーズンに『シルヴィア』で演じた神話のキャラクターもそうです。そういったキャラクターは、身体の奥底で感じていることを踊りで表現する、ダンサーの本能に近い役。だからとても自然に演じられます。
今回は、演劇でよく使われる「メソッドアクティング」という手法を使いました。これは、自分を本物の鳥だと信じてブルーバードを演じるやり方です。まずは役になりきるために鳥の動きをくまなく研究し、踊りに落とし込みました。羽根の一枚一枚まで神経を行き渡せるようにしてアームスを使うこと。そして鳥の習性にならい、先に目で物を捉えてからその軌道を追って頭を動かすこと。どちらも意識してやってみると、すごく鳥っぽくなるんですよ!
さらにブルーバードという役は、曲の最後までノンストップで跳び続けるのでスタミナ勝負です。振付にもたくさんバットゥリーが入っていますし、トゥール・アン・レールも左右回らなければいけません。じつは1回目の舞台の時に感染症で顔がはれてしまい、呼吸をするのもやっとでしたが、この「メソッドアクティング」のおかげで痛みを忘れて踊りきることができました。

パリ・オペラ座 IN シネマ 2025「眠れる森の美女」イネス・マッキントッシュ(フロリナ姫)、シェール・ワグマン(ブルーバード)
- ヌレエフ版『眠れる森の美女』の魅力とは?
- シェール ヌレエフ版の舞台美術や衣裳は、今まで目にしたバージョンの中でもっとも美しいものだと感じています。じっさいにセットの中に入ってみると『眠れる森の美女』の世界に連れてこられたような気持ちになり、自然と役に入ることができるんです。映画館でご覧になるみなさんには、大きなスクリーンでじっくりと堪能していただきたいです。
- ヌレエフの振付の特徴はどんなところにあると感じますか?
- シェール ヌレエフの振付はステップのアプローチがとにかくユニーク。細かいフットワークのなかにもエレガンスがあります。さらにゆったりとした音楽の中にも緩急自在な動きがちりばめられ、コントロールを求められるところも特徴的です。たとえばアダージオの最後にグラン・ジャンプを跳んだり、音を倍速で取るすばやいステップが入ることも。そういった細かいところにも、ヌレエフのすばらしい音楽性が活かされていますよね。ダイナミックに変化する振付で、音楽と戯れるように楽しく踊っています。
とくに男性ダンサーにとって、ヌレエフの振付は魅力的です。彼が振付けた男性のソロは、回転や跳躍ばかりではなく、フェミニンで繊細な表現が織り込まれています。またアダージオが、女性のソロやパ・ド・ドゥのほかに、男性のソロにも積極的に使われていること。これも彼ならではだと思います。
僕がパリ・オペラ座バレエに入りたいと思った理由のひとつは、ヌレエフの作品が踊りたかったから。彼の振付が大好きなので、これからもオペラ座で踊っていきたいです。

パリ・オペラ座 IN シネマ 2025「眠れる森の美女」 ©Agathe Poupeney
- シェールさんの幼い頃についても教えてください。バレエを始めたのは何歳でしたか?
- シェール 僕がバレエを始めたのは13歳で、すごく遅いんです。もともとは6歳からダンスを始めていて、ジャズやコンテンポラリー、タップやヒップホップなどさまざまなジャンルを踊っていました。出身のカナダではダンスのコンテストがさかんで、その延長で「ブロードウェイに立ってみたい」という夢を描いていた時期も。さまざまなオーディション番組に応募して、11歳の時に「カナダズ・ゴッド・タレント」という番組のファイナリストに選ばれました。振り返れば、この頃に培った恐怖や失敗を恐れない気持ちは、バレエダンサーを目指すうえでとても強みになったと思います。
それからしばらくしてとある映画に出演する機会があったのですが、その撮影期間に『くるみ割り人形』のセットの中で、バレエの先生と運命的な出会いを果たしました。その先生に勧められた映画『ファースト・ポジション』を観て、僕はバレエに目覚めました。プライベートでレッスンを受けるようになって、その半年後にはユース・アメリカ・グランプリに出場。スカラシップをいただいて、モナコのプリンセス・グレース・アカデミーに留学しました。
僕は幸いなことにさまざまなダンスを習っていたおかげで、10歳で8回転のピルエットができていたし、アクロバティックなジャンプも得意でした。そうした土台もあって、どうすればそのパができるようになるのか、身体を動かしているうちに感覚を掴んでいたのかもしれません。そのいっぽうで、ジャズやコンテンポラリーにはアン・ドゥダンの動きが多く、バレエを始めた当初はターンアウトにとても苦労しました。当時の僕の脚は、バレエダンサーの脚ではなかったんです。普通は10歳で基礎が身についているところを13歳で基礎を学びはじめ、少しでも早くバレエダンサーの体つきになれるように一生懸命努力しました。僕はまだ成長過程にいるので、これからもよりクリーンなテクニックを磨いていきたいです。
- パリ・オペラ座バレエのレパートリーのなかで踊ってみたい作品はありますか?
- シェール ヌレエフ版『ドン・キホーテ』のバジルがドリームロールです。ユニークで洗練されたフレンチスタイルに、オーケストレーションもすばらしく、完璧な作品だと感じています。それから、ジェローム・ロビンズの『アザー・ダンス』は自分自身を投影できる作品だと思っているので、いつか踊りたいです。やりたい役がほかにもたくさんあって、数年後にはヌレエフ版『ラ・バヤデール』のソロルとジェローム・ロビンズの『Opus 19』を踊れたらいいなと思っています。
僕の大きな夢は、ベジャールの『ボレロ』のメロディを踊ること! 実現まで長い時間がかかると思いますが、その日を迎えられるように踊り続けていきたいです。

パリ・オペラ座 IN シネマ 2025「眠れる森の美女」イネス・マッキントッシュ(フロリナ姫)、シェール・ワグマン(ブルーバード)
パリ・オペラ座 IN シネマ 2025『眠れる森の美女』上映情報
【上映期間】
2025年8月22日(金)から8月28日(木)※7日間限定上映
【上映劇場】
札幌シネマフロンティア
フォーラム仙台
TOHOシネマズ 流山おおたかの森
ユナイテッド・シネマ浦和
TOHOシネマズ 日本橋
イオンシアタス調布
TOHOシネマズ ららぽーと横浜
ミッドランドスクエアシネマ
大阪ステーションシティシネマ
イオンシネマ京都桂川
TOHOシネマズ 西宮OS
kino cinéma 天神
【料金】
(全席指定、税込)
一般-3,700
学生-2,500(※要学生証)
【キャスト】
オーロラ姫:ブルーエン・バティストーニ
デジレ王子:ギヨーム・ディオップ
青い鳥:シェール・ワグマン
フロリナ姫:イネス・マッキントッシュ
リラの精:ファニー・ゴルス
カラボス:サラ・コラ・ダヤノヴァ
第1ヴァリエーション:アリス・カトネ
第2ヴァリエーション:パティントン・エリザベス・正子、オルタンス・ミエ=モーラン
第3ヴァリエーション:カミーユ・ボン
第4ヴァリエーション:エレオノール・ゲリノー
第5ヴァリエ―ション:クララ・ムーセーニュ
第6ヴァリエーション:エロイーズ・ブルドン
公爵:アルテュス・ラヴォー
白猫:エレオノール・ゲリノー
長靴を履いた猫:イザック・ロペス・ゴメス
パ・ド・サンク:セリア・ドルゥーイ、アンドレア・サーリ、クララ・ムーセーニュ、セホー・ユン、カミーユ・ボン
4人の王子:アルテュス・ラヴォー、ケイタ・ベラリ、レオ・ド・ビュスロル、フロリモン・ロリュー
【スタッフ】
振付:ルドルフ・ヌレエフ
(台本:シャルル・ペロー、原振付:マリウス・プティパに基づく)
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
指揮:ヴェロ・ペーン
舞台美術:エツィオ・フリジェリオ
衣裳デザイン:フランカ・スカルシャピノ
照明デザイン:ヴィニチオ・チェリ
★公式サイトはこちら
配給:東宝東和