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ミュージカル「四月は君の嘘」加藤梨里香(宮園かをり役)インタビュー〜好きだから、嫌いになる。そんな誰かの背中を押せる作品に

阿部さや子 Sayako ABE

ミュージカル「四月は君の嘘」宮園かをり役を演じる加藤梨里香さん ©Toru Hasumi

音楽に引き合わされた若き音楽家の卵たちが、大切な人との出会いと別れを通してその才能を開花させていくーー。

2022年に初演され、2024年にはロンドンのウェストエンドや韓国・ソウルでも現地プロダクションで上演された、日本発のオリジナルミュージカル『四月は君の嘘』。原作の新川直司によるコミックは、これまでにTVアニメ化や実写映画化されていずれも大ヒット、NETFLIX等で配信され世界的にも人気を博しています。

『ジキル&ハイド』『スカーレット・ピンパーネル』『デスノート THE MUSICAL』などで知られる名匠フランク・ワイルドホーンが作曲を手がけるなど、前回の上演時にも大きな話題を読んだ同作が、2025年8月、東京をはじめ全国各地で再演されます。

オールキャストオーディションで選出されたという今回の上演で、ヒロインの宮園かをり役を演じる加藤梨里香さんにインタビューしました。

加藤梨里香 Ririka KATO
1998年3月20日生まれ、神奈川県出身。明治大学文学部文学科演劇学専攻卒。幼少の頃より子役として舞台やミュージカルに出演。2012年より「劇団ハーベスト」に参加、2016年から同団の2代目リーダーを務め、2018年劇団座長に就任、2019年卒団。これまでの主な出演作品に、舞台『剣豪将軍義輝』(ヒロイン・真羽)、ミュージカル『花より男子』(牧野つくし)、『レ・ミゼラブル』(コゼット)、『リトルプリンス』(王子)、ミュージカル『シンデレラストーリー』(シンデレラ)、『ザ・ビューティフル・ゲーム』(バーナデット)、『カラフル』(佐野唱子)、『CROSS ROAD〜悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ〜』(アーシャ)などがある。©Toru Hasumi

【Story】
かつて指導者であった母から厳しい指導を受け、正確無比な演奏で数々のピアノコンクールで優勝した神童・有馬公生(岡宮来夢/東島京)は、母の死をきっかけにピアノの音が聴こえなくなり、コンクールはおろかピアノに向き合うことからも遠ざかってしまう。母の死から数年後の4月。高校生になった公生は、幼なじみの澤部椿(希水しお/山本咲希)を通じ、同い年のヴァイオリニスト・宮園かをり(加藤梨里香/宮本佳林)と出会う。ヴァイオリンコンクールでかをりの圧倒的かつ自由な演奏を聴き、公生の世界は、再びカラフルに色づき始める。

かをりは、好意を寄せる渡亮太(吉原雅斗/島太星)との仲を椿に取り持ってもらい、渡と椿の幼なじみである公生とも行動を共にするようになる。やがて公生はかをりに好意を抱くようになるが、親友である渡に気を遣ってしまい想いを伝えることができない。そして椿はそんな公生のかをりへの恋心に気付き、また自身に芽生えた公生への恋心に思い悩む。

公生のことを“友人A”と呼びぞんざいに扱いつつも、自分のコンクールのピアノ伴奏を命じるなど、何かにつけて公生を音楽の世界に連れ戻そうとするかをりと、どんどんかをりに惹かれていく公生。しかし、公生が再び音楽の道に戻ろうとした矢先、かをりに大きな秘密があることを知る……。

2022年に日生劇場で初演された人気ミュージカル『四月は君の嘘』、今回はオールキャストオーディションで選出された新キャストで上演されるとのこと。加藤梨里香さんは主人公・有馬公生に決定的な影響を与えるヒロイン、宮園かをり役を演じます。
加藤 私は宮園かをり役と澤部椿役でオーディションを受けたのですが、かをり役に決まったと報(しら)された時は、すごく意外でびっくりしました。かをりは、前回の上演時には生田絵梨花ちゃんが、映画版では広瀬すずちゃんが演じた役。いくちゃんやすずちゃんみたいに可愛い女優さんたちが演じてきた人物なのに、私でも大丈夫なのかな……?って。でも、配役していただいた以上は、自分が今までやってきたことや感じてきたことを丁寧に出して、私らしくかをりちゃんと向き合えたらと思っています。

©Toru Hasumi

「意外でびっくりした」というのが意外です。多くのファンはむしろ、梨里香さんは宮園かをりのイメージにぴったりだと感じているのではないでしょうか?
加藤 ありがとうございます。かをちゃん(かをり)みたいな明るさとか、周りを引き込めるような魅力が自分にあるのかな?と思うし、彼女は明るいけれど、どこか儚い役どころなんですね。そこが、どちらかといえば元気で活発なタイプの自分に合うのかな……って。でも、周りの方からも「ぴったりだよ!」って言っていただけて、少しほっとしています。
梨里香さんが「自分のこういうところはかをりと似ているな」「ここはすごく違うな」と思うところを、それぞれ教えてください。
加藤 公生には、椿と渡くんという2人の幼なじみがいます。その密な人間関係の中に、かをちゃんは気後れすることなく入っていく。私にはそういう勇気がまったくないので、そこは大きく違うところです。
似ているのは、人を振り回してしまうところ(笑)。私も、友達とか周りのみんなをわりと振り回しているという自覚があります……。
梨里香さんはかつて「劇団ハーベスト」の座長を務めていました。そうしたリーダー性も、かをりと重なるところがあるのでは?
加藤 座長といっても、私がみんなをリードするというよりは、みんなのほうが積極的に動いてくれていたんです。学校に通っていた頃も学級委員をしていたけれど、自分から立候補したわけではなくて、周りが動いて私をリーダーに立ててくれたような感じでした。そんなふうに、いつも周りのみんなが私を支えてくれています。
『四月は君の嘘』は漫画が原作で、ミュージカルの他に、アニメ化や映画化もされていますね。
加藤 私もミュージカル、アニメ、映画と、すべて観させていただきました。この作品は、音楽に対する愛であふれているところがすごく魅力的だなと思います。ただ、原作とアニメでは登場人物たちが中学3年生だけど、映画とミュージカルでは高校3年生に設定されていて。そこが、演じる上ではちょっと難しくなるような気がしています。
役の年齢が3歳上がることで、どのような点が難しくなりそうですか?
加藤 高校生って、大人と子どものはざまですよね。中学3年生だったら許されることが、高校3年生になると印象が変わる。そこが難しいなと思いますけれど、かをちゃんのエネルギッシュな部分を大事にしながら、説得力を高めていきたいです。

©Toru Hasumi

梨里香さんはいつも主役など台詞がたくさんある役を演じていますが、台詞を覚える秘訣はありますか?
加藤 お稽古前日の夜に台本を繰り返し読んで、寝る。睡眠学習です(笑)。私、テストとかも一夜漬けタイプなんです。ギリギリまで追い詰められた時に、集中力を発揮します。
役作りについてはどうですか? 役を理解し、表現するために、自分なりに工夫していることはありますか?
加藤 その役がいまどんな景色を見ているのか、具体的に想像しながら演じることを心がけています。私は視覚的なものから表現のヒントをもらうことが多くて。とくに今回は舞台セットが比較的シンプルなので、それぞれのシーンにふさわしい風景を画像などで探して、それをイメージしながらお稽古しています。
役作りといえば、今回はヴァイオリニストの役ということで、ヴァイオリンの練習をしているそうですね?
加藤 練習していると言っても、本当に少しだけですけれど……。ヴァイオリンをお借りして、YouTubeで初心者用の動画を探して、見よう見まねで「きらきら星」に挑戦しています。『レ・ミゼラブル』で共演した清水美依紗ちゃんがヴァイオリンを弾けるので、動画を撮って送ったら「ちゃんとできてるよ」って。ちょっと安心しました(笑)。
音を出せるだけでもすごいことだと思います! ヴァイオリンでなくても、これまでに何か楽器を習った経験はありますか?
加藤 私、幼い頃から習い事はたくさんしていて、ジャズダンスを週に3回、クラシック・バレエ、ヒップホップ、それから水泳もやっていました。でも、楽器はひとつも習ったことがなくて。「私は歌って踊りたいから楽器は必要ない。楽器を弾いていると手がふさがっちゃうし!」って、よくわからないことを言っていたそうです(笑)。
梨里香さんは確かな歌唱力の持ち主なので、てっきり楽器など音楽を学んだ経験があるものと思っていました。
加藤 歌は習っていました。でも私、子どもの頃はすごくハスキーで、高い声がまったく出なかったんですよ。それがいま、『レ・ミゼラブル』のコゼット役みたいなソプラノ・パートを歌えるようになったのは、とことん向き合って鍛えてくださる先生に出会えたおかげです。本当に感謝しています。
努力でそこまで変われたというのは、いま夢を追いかけて頑張っている人たちの励みにもなりそうです。
加藤 絶対に変われると思います。私は負けず嫌いで、「できないこと」が何よりも悔しいんです。歌でもダンスでも練習はあまり好きじゃないのですが(笑)、それ以上にできないことのほうが嫌。だから、練習しないと!って。

©Toru Hasumi

数年前のブログに「グラン・フェッテ32回転をついに回れた」と書いてありましたが、もしかしたらそれも……
加藤 はい、それも負けず嫌いのおかげです。バレエを習っていた頃に出た発表会で、トウシューズでグラン・フェッテを回らなくてはいけなかったのですが、その時は納得がいくまでやりきれませんでした。それがずっと悔しくて、自宅で――床を傷めてしまうし、本当は良くないことですけれど――トウシューズを履いて、コツコツ練習を続けて。それでついに、フェッテだけはできるようになりました。
ちなみに、バレエは何歳から何歳まで習っていたのですか?
加藤 もともとジャズダンスのウォーミングアップでバー・レッスンだけはやっていたのですが、基礎としてきちんとバレエを習ったほうがいいと言われてレッスンに通い始めたのは、小学校4年生くらいの時でした。ジャズダンスと比べると、バレエはギュッ!と身体を締めて、型を正確に守って踊らなくてはいけませんよね。それが当時はちょっと窮屈で苦手だったのですが、このお仕事をするようになって「やっぱりバレエは大事だな」と実感するようになりました。それで大人になってから、あらためてレッスンを再開。バレエって、トウシューズで軸に乗れた時がすごく気持ちいいし、小さい頃みたいに感覚だけで踊らず頭も使いながら練習すると、少しずつでも確実に変化していけるんですよね。最近はなかなかレッスンに行けていないけれど、やっぱりバレエもすごく楽しい。もっとちゃんと踊りをやってみたいなとも思います。
次々と大きな舞台に立ち、歌にダンスにお芝居にと大忙しの梨里香さんですが、欠かさずにやっているトレーニングなどはありますか?
加藤 ストレッチは絶対に欠かさないようにしています。身体だけは固くならないようにしよう、って。とくにバレエの先生から「トレーニングを怠ると、背中からどんどん固くなっていくからね」とアドバイスをいただいたので、背中を反るストレッチと、反った体勢を背筋でキープするエクササイズだけは必ずやっています。

©Toru Hasumi

再び、ミュージカル『四月は君の嘘』のお話を。本作の作詞・作曲は稀代のメロディメーカーとして知られるフランク・ワイルドホーンで、とても素敵な楽曲がたくさんありますが、なかでもお気に入りのナンバーは?
加藤 本当にすべての曲が大好きですけれど、強いて言えば、かをちゃんのソロ曲「パーフェクト」を挙げたいです。タイトルになっている“パーフェクト”っていう言葉に、彼女のいろんな思いがこもっているような気がしていて。そのかをちゃんの心を表せる「パーフェクト」を歌えたら、と思っています。

こちらが宮園かをりのソロ曲「パーフェクト」。歌唱は加藤梨里香さんと、同役をWキャストで演じる宮本佳林さん

宮園かをりという役を演じる上で大事にしたいことは?
加藤 音楽を愛する力。そして「いまを生きる」ということ。かをちゃんとして、“いま”を精一杯楽しみ、生きたいと思います。
今回に限らず、梨里香さんが役を演じる時にいつも大事にしていることがあれば教えてください。
加藤 心に嘘をつかないこと、でしょうか。稽古中はたくさん考えて、頭もたくさん使うけれど、舞台に立った時はもう、真実の心だけで動くこと。相手の目を見て、会話をして、目の前にあるものを大事にして、嘘をつかずに生きる。それを大事にしながら演じています。
最後にぜひ、梨里香さん自身の言葉で、本作の魅力や見どころを聞かせてください。
加藤 この作品は、主人公の公生が、本当は大好きなはずの音楽に挫折してしまったところから始まります。好きだからこそ、挫折する。好きだからこそ、嫌いになる。何かを本気で目指して頑張っている中で、時として訪れるそういう瞬間に、そっと背中を押してくれる――『四月は君の嘘』は、そんな作品だと思います。いま立ち止まっている方にとっても、過去に立ち止まった経験がある方にとっても、この作品が一歩を踏み出す力になったら嬉しいです。

着ている制服は実際の舞台衣裳。「私が通った高校の制服もブレザーでしたから、懐かしさもありつつ、卒業から9年経つのでちょっとそわそわします(笑)。でもこれを堂々と着て舞台に立てるように、高校3年生のかをちゃんの気持ちをどんどん育てていきたいです」。©Toru Hasumi

公演情報

ミュージカル『四月は君の嘘』

原作:新川直司(講談社「月刊少年マガジン」)
脚本:坂口理子
作詞・作曲:フランク・ワイルドホーン
作詞:トレイシー・ミラー/カーリー・ロビン・グリーン
編曲:ジェイソン・ハウランド
訳詞・演出:上田一豪
製作:東宝/フジテレビジョン
出演:岡宮来夢/東島京、加藤梨里香/宮本佳林、希水しお/山本咲希、吉原雅斗/島太星、原慎一郎、鈴木結加里、武内耕、三木麻衣子、内海大輔、飯塚萌木

【東京公演】
2025年8月23日(土)~9月5日(金)
昭和女子大学人見記念講堂

【愛知公演】
2025年9月12日(金)~9月14日(日)
Niterra日本特殊陶業市民会館フォレストホール

【大阪公演】
2025年9月19日(金)~9月20日(土)
梅田芸術劇場メインホール

【富山公演】
2025年10月4日(土)~10月5日(日)
オーバード・ホール 大ホール

【神奈川公演】
2025年10月12日(日)~10月13日(月祝)
厚木市文化会館 大ホール

★詳細・問合せ
公演公式WEBサイト

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