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太陽王ルイ14世の時代にさかのぼり350年以上の歴史を誇るバレエの殿堂、パリ・オペラ座バレエ。ルドルフ・ヌレエフが振付けた『白鳥の湖』の今年6月の最新公演を収録した、『パリ・オペラ座「白鳥の湖」IMAX』 が11月8日(金)から11月14日(木)までの7日間限定で全国公開 されます。
バレエ作品が、IMAX認証カメラで収録した「Filmed for IMAX」作品として劇場公開されるのは世界初。クローズアップでダンサーの豊かな表情の変化や繊細な演技を捉え、まるで群舞の中へ入り込んだかのような没入感のあるシーンも。また舞台を上空から映し出したダイナミックなカメラワークなど、IMAX認証カメラならではの演出も取り入れられています。
主役のジークフリート王子とオデット/オディールは、共にエトワールのポール・マルク(写真左)とパク・セウンが演じる ©Natalia Voronova
ヌレエフ版の最大の特徴とも言えるのが、ロットバルトの存在です。第1幕では王子の家庭教師ヴォルフガングとして登場しますが、その正体は悪魔ロットバルト。演じるのはプルミエ・ダンスールのパブロ・レガサ 。第3幕ではオディールと王子、ロットバルトの三角関係が透けて見えるようなパ・ド・トロワを踊るほか、テクニカルなヴァリエーションも披露します。
ロットバルト役のパブロ・レガサ ©Natalia Voronova
今回は、このロットバルト役を演じるパブロ・レガサに単独インタビュー。撮影時のエピソードや、役作りのこと、踊る時に大切にしていることなどについて聞きました。
パブロ・レガサ Pablo Legasa 6歳よりバレエを始め、2007年パリ・オペラ座バレエ学校入学。2013年パリ・オペラ座バレエ入団。2016年コリフェ、2018年スジェ、2020年プルミエ・ダンスールに昇進。主なレパートリーは『白鳥の湖』ジークフリート、ロットバルト、『ドン・キホーテ』バジル、『ロミオとジュリエット』マキューシオ、パリスなど。©Julien Benhamou/OnP
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パブロさんも今回のパリ・オペラ座『白鳥の湖』IMAXを観たそうですが、感想は?
レガサ とても感動しました! IMAX映像というものを観たのは今回が初めてだったのですが、映像といい、音響といい、あまりにもクオリティが高くて驚きました。そしてそのクオリティだからこそ、バレエ『白鳥の湖』の物語がよりクリアに伝わるとも感じました。
パブロさんは以前から「ロットバルト役が大好き」と語っていました。バレエでは初となるIMAX作品でロットバルト役にキャスティングされ、どのように感じましたか?
レガサ それはもう、とても嬉しかったです。僕はロットバルトのように邪悪な役を演じるのが大好きなんですよ。悪役というのは演劇的な要素が強く、役作りを楽しむことができますから。
今回自分にとって新たな挑戦だったのは、とくに第1幕の演技をどうするか、綿密に考えて臨んだことです。何しろIMAXシアターでの上映ですから、ふだん劇場で上演するのとは異なる層のお客様が観に来てくださるはず。そしていつもの舞台であればあまり観客には見えないであろう細かな目線や頭の角度なども、IMAXの高性能カメラはくっきりと映し出してくれるだろうと。僕自身、新たな観点からこの役柄を捉え直し、さらに深めていく良い機会になりました。
映画館でIMAX上映されることを意識して、具体的にはどんな工夫をしたのですか?
レガサ まずはメイク。映像でクローズアップされるとなると、ふだんの舞台メイクだと濃すぎますから、シネマにふさわしいバランスに仕上げるようにしました。そしてもちろん演技の面も。いつもは大きな劇場のいちばん遠くのお客様まで届くように演じていますが、今回はほんの1メートル先からカメラが撮っているような場面もあったんですよ。参考にしたのは、映像の世界で活躍する俳優たちの演技です。大げさな芝居に見えないように、演技のボリューム感をちょうどよい塩梅まで落としていく、ということをしました。
私も一足先にIMAX試写を拝見したのですが、まさにカメラがパブロさんに肉薄したり、コール・ド・バレエの間を掻き分けて進んだりしているように見えました。つまりあれは、本当にカメラマンが舞台の上にいて、ダンサーたちに接近しながら撮影していたということでしょうか?
レガサ その通りです。僕らにとってもちょっと慣れない撮影方法で驚きました(笑)。パリ・オペラ座バレエの公演に撮影が入ることはよくありますが、今回の撮影ではお客様がまったくいなくて、カメラマンが舞台の上にいました。黒い服を着てカメラを抱えたカメラマンたちが歩き回るなかで、僕たちはいつもの舞台と同じように衣裳を着てメイクをして踊ったわけです。時には「えっ、そこに入ってくるの?!」というような場所にスタッフが現れたり、場面の途中で中断しなくてはいけなかったりして、最初のうちはなかなか演技に集中できませんでした。でもそうした環境にもみんな徐々に慣れてきて、今となってはこの新たな経験からまたひとつ力を得ることができたように感じています。
なるほど……あの映像はそうやって撮影されたんですね。
レガサ 撮影の時にカメラマンの方と少しお話ししたら、今回の撮影は彼らにとっても新たな経験だったと言っていました。「こんなふうに、舞台上で踊っている人たちの中にカメラを持って入っていくような撮り方をするのは初めてでした」って。撮るほうも撮られるほうも初めての経験だった、というわけです。おもしろいですよね。
観るほうの私たちも、あれほどの臨場感に包まれるのは初めての経験です! そして今回上映されるヌレエフ版『白鳥の湖』の最大の特徴のひとつと言えるのが、パブロさん演じるロットバルト役です。冒頭、ジークフリート王子がうたた寝をしている後ろを、巨大なマントにすっぽり身を包んだロットバルトがスーッと滑るように横切っていく……あの “魔の予感”としか言いようのない不気味な動きを真上アングルから観られるのも、シネマならではでおもしろいですね。
レガサ 冒頭の登場シーンに関しては、僕はふだんの舞台とまったく同じ動きをしました。あの場面でいちばん気をつけているのは“歩き方”。できるだけ深くプリエをしたまま、頭がぴょこぴょこ上下しないよう注意深く歩いています。マントの中ではすごく頑張っているんですよ! みなさんの目にロットバルトが舞台の上を滑っているように見えたなら、僕としては成功です。
ヌレエフ版では、ジークフリート王子と特別な絆で結ばれている家庭教師ヴォルフガングの正体が悪魔ロットバルト、という設定になっていますが、パブロさんはこの役どころについてどのように解釈していますか?
レガサ ロットバルトという役には、「これだ」という決定的な解釈はないと思っています。そこがこの役のおもしろいところです。もちろん演技的なアイディアはいろいろと持っていますが、ロットバルトがどういう存在で、ヴォルフガングがどういう人間なのか、自分の中でもまだクリアになっていない部分があります。はっきりしているのは、ヴォルフガングはジークフリートに対して絶大な影響力を持っているということ。そして彼には家庭教師と悪魔という二つの顔があり、とてもミステリアスな存在だということです。年齢不詳で、不老不死のような雰囲気もあって、王子を操り、騙すことを楽しんでいる。その得体の知れない不気味さや支配力を醸し出すことを、いつも心がけています。
©Natalia Voronova
その「支配力」の表現について。とりわけ第1幕のロットバルトは、ステップやテクニックではなく、さりげない仕草や目線、佇まいといったものだけで物語世界全体を支配しているように見えますが、パブロさんはどのようにして、その支配的な存在感を表現しているのでしょうか?
レガサ いまよりもずっと若手だった頃から、『白鳥の湖』にはいろんな役で出演してきました。舞台の上で、時には客席からも、たくさんの先輩方がロットバルトを演じる姿を観てきたことが、自分の糧になっているのを感じます。なかでも大好きだったのは、カール・パケットのロットバルトです。彼の演技や存在感からヒントを得ているところが大いにあります。
先ほどお話ししたように、ロットバルトはいろいろな解釈があり得る役です。演じ方においてもさまざまな可能性を秘めていて、どこまでも掘り下げることができるし、自分なりにアイディアを膨らませる余地がある。だから僕はこの役が大好きなんです。どういうふうに一歩を踏み出すか? 目線はどう動かすか?……等々、演技プランを考えることじたいが本当に楽しい。ロットバルトに関しては、かなり細かいところまで考え抜いています。
そしてもちろんロットバルトは演技だけでなく、第3幕ではテクニックがふんだんに盛り込まれたソロを踊ります。個人的に何より驚いたのは、パブロさんの踊りの音楽性です。まるでステップやポール・ド・ブラがオーケストラを指揮しているかのように感じられたのですが、パブロさんが音楽との関係という面で大切にしていることがあれば教えてください。
レガサ 音楽は、僕にとって本当に、本当に!大事なものです。これ以上あり得ないほど音楽を大切にしていますし、ダンサーとは時として音楽家であらねばならないとも思っています。
じつは、僕は人生でバレエよりも先に音楽と出会いました。両親とも音楽家だったので、生まれた時から常に音楽が流れている家庭で育ち、僕自身もとても幼い頃からピアノを習い始めたんです。好きだったのはやはりクラシック音楽。思春期の頃、同世代の友達がみんなロックやポップスに夢中になっているなかで、僕はストラヴィンスキーの「春の祭典」やチャイコフスキーの交響曲を聴いているような少年でした。
ですから偉大なる作曲家チャイコフスキーが作った『白鳥の湖』を踊れるなんて、本当に幸せです。他の作品においても同じですが、いつも「この音楽を自分の身体でどう歌おうか」と考えながら踊っています。
全編を通して名曲しかない『白鳥の湖』の中でも、パブロさんの心がいちばん震えるのはどの楽曲ですか?
レガサ 第4幕、ジークフリートが湖に戻ってくる時の、あの音楽がたまらなく大好きです。(♪タ〜ラリ〜ラリラリラリラ〜ラリラリ〜と歌いながら)本当に素晴らしい旋律だと思います。
今回のIMAX映像で、お気に入りの場面は?
レガサ 同じく第4幕で、白鳥たちの群舞を真上アングルから撮影した場面がありますよね。あそこが僕にとっては非常に新鮮で、新たな発見もあり、とても気に入りました。
©Natalia Voronova
ロットバルト役の“パートナー”、ジークフリート王子とオデット/オディールをそれぞれ演じたポール・マルクさんとパク・セウンさんについても聞かせてください。パブロさんから見て、二人はどんな魅力のあるダンサーですか?
レガサ 二人は共に、オペラ座が誇る偉大なエトワールです。ポールとセウンのレベルに見合う演技をお見せしなくてはいけないというのは、僕にとって大きなチャレンジでもありました。二人ともものすごく練習熱心で、自分自身に対して誰よりも厳しい。いつも目標を高く持ち、そこに到達できるまで絶対に諦めない、素晴らしい性格の持ち主です。もちろん、努力だけでなく才能も豊かであることは言うまでもありません。今回ずっと一緒にリハーサルする機会を得て、彼らの一挙手一投足を目の当たりにできたことじたいが、本当に幸せな時間でした。
パブロさんは、「いつか演じてみたい」と語っていたロットバルト役にもキャスティングされ、現在はプルミエ・ダンスールまで昇格するなど、若い頃に望んでいた夢を着実に叶えてきています。ずばり、夢を叶えるために大切なことは何だと思いますか?
レガサ 難しい質問ですね。いろいろな要素があると思いますが、何より大切なのはまず“練習量”。そして“才能”と“チャンス”だと思います。
僕自身のことでいえば、カドリーユからひとつ上のコリフェに上がる時がいちばん大変でした。カドリーユとはいわゆる“群舞”の階級で、オペラ座のヒエラルキーではいちばん下のランクではありますが、ものすごくたくさんの人がひしめいているし、個々のレベルもすごく高いんです。そこからコリフェに上がるのは至難の業。僕も昇進するのに3年ほどかかっていて、いつも「自分はなぜこの仕事をしているのか」と自分に問い直したり、「子どもの頃はどんな気持ちでバレエを踊っていたのか」と初心に立ち返ったりと、心身両面の努力が必要でした。
オペラ座では毎日のように舞台があって、同じ踊りを10回、20回と踊らなくてはいけないこともあります。それでも舞台に立つたびに、自分はバレエが好きだということ、踊れて嬉しいという気持ち、そして一生懸命練習した日々の成果を、きちんとお見せしなくてはと思っています。僕は飛び抜けた才能の持ち主ではありません。満足のいく結果が得られないこともあるし、不安定な状況に陥ることもあります。でもそんな時こそ、自分の内なる情熱に立ち返り、ダンスを始めた頃の気持ちを思い出す。それが、夢を叶える原動力になっているような気がします。
『パリ・オペラ座「白鳥の湖」IMAX』上映情報
【上映期間】
2024年11月8日(金)から11月14日(木)※7日間限定上映
【上映劇場】
ユナイテッド・シネマ札幌
TOHOシネマズ 仙台
ユナイテッド・シネマ浦和
TOHOシネマズ 流山おおたかの森
TOHOシネマズ 日比谷
TOHOシネマズ 新宿
イオンシネマ シアタス調布
109シネマズ川崎
横浜ブルク13
イオンシネマ新潟亀田センター
シネマサンシャインららぽーと沼津
109シネマズ名古屋
TOHOシネマズ 二条
TOHOシネマズ なんば 本館
109シネマズ大阪エキスポシティ
TOHOシネマズ 西宮OS
広島バルト11
イオンシネマ岡山
シネマサンシャイン衣山
ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13
【料金】
全席指定・税込 3,700円均一 + IMAX追加料金
※IMAX追加料金は映画館により異なります。詳しくは各劇場サイトをご確認ください。
【キャスト・スタッフ】
監督 :イザベル・ジュリアン
音楽 :ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
オデット/オディール :パク・セウン(エトワール)
ジークフリート王子 :ポール・マルク(エトワール)
家庭教師ヴォルフガング/ロットバルト :パブロ・レガサ(プルミエ・ダンス―ル)
パ・ド・トロワ :エロイ―ズ・ブルドン(プルミエール・ダンスーズ)、ロクサーヌ・ストヤノフ(プルミエール・ダンスーズ)、アンドレア・サーリ(スジェ)
チャルダッシュ :オーバーヌ・フィルベール(スジェ)ジャック・ガストフ(プルミエ・ダンス―ル)
スペイン :カミーユ・ボン(スジェ)、カン・ホヒョン(スジェ)、フロラン・メラック(プルミエ・ダンス―ル)、アルテュス・ラヴォ―(プルミエ・ダンス―ル)
ナポリ :マリーヌ・ガニオ(スジェ)、ニコラウス・チュドラン(スジェ)
演奏 :パリ・オペラ座管弦楽団
指揮 :ヴェロ・ペーン
★公式サイトはこちら
配給:東宝東和