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【特集:パリ・オペラ座バレエ】③ポール・マルク(エトワール)インタビュー〜真に必要な動きだけがそこにある。それがオペラ座スタイルのダンスです

阿部さや子 Sayako ABE

©︎Jean-Pierre Delagarde / Opéra national de Paris

2024年2月、パリ・オペラ座バレエ日本公演が開幕! 4年ぶりの来日となる今回はヌレエフ版『白鳥の湖』とマクミラン振付『マノン』の2作品を上演します。

太陽王ルイ14世により創設された世界最古のバレエ団として、偉大な歴史を刻み続けてきた同団。2022年にはジョゼ・マルティネズが芸術監督に就任し、さっそくオニール八菜やマルク・モロー、ギヨーム・ディオップがエトワールに任命されるなど、今また新たな時代が拓かれようとしています。

本特集では、パリ・オペラ座バレエのダンサーたちのインタビューを連続でお届けします。
第3回はポール・マルク。2020年、世界がコロナ禍に沈むなかでエトワールに任命され、明るいニュースでバレエファンを沸かせてくれたダンスール・ノーブルです。

Interview #3
ポール・マルク Paul Marque
エトワール

ポール・マルク ©︎Ballet Channel

2020年、コロナ禍の真っただ中でエトワールに任命されたポール・マルクさん。そのニュースは日本のバレエファンにも明るい気持ちをもたらしてくれました。
そう言っていただけてとても嬉しいです。僕にとっても、あのエトワール任命は特別な瞬間でした。通常は主役級の役を演じたダンサーが終演後に任命されますが、僕がその日踊ったのは『ラ・バヤデール』のブロンズ・アイドル(黄金の像)。しかも無観客上演になってしまった舞台でしたから、よけいに驚きました。まるで魔法にかかったような気持ちでしたね。
エトワールになって3年ほどが経ち、日々の生活や心境に変化はありますか?
いちばんの変化は、キャスティングされる役が変わったことですね。主役級の役しか演じなくなったということ。他はあまり変わりません。
エトワールになると、自分は何を踊りたいかをある程度リクエストできると聞いたことがありますが、実際はどうなのでしょうか?
それはイエスであり、ノーでもあります(笑)。というのは、毎年シーズンの終わりに芸術監督と面談をして、次のシーズンをどうするか話し合うんですね。その際に僕たちダンサーは自分が踊りたいものと踊りたくないものを伝え、監督は僕たちの望みをできるだけ考慮して配役をしてくださる、というのはあります。ただしもちろん、舞台はみんなで作るもの。当然、自分の希望が叶うこともあれば叶わないこともあります。それでも監督はじめスタッフのみなさんが、僕たちダンサーが喜んで踊れるように可能な限り頑張ってくださっていることには、いつも感謝しています。
パリ・オペラ座は伝統的なクラシック作品から前衛的なコンテンポラリー作品まで幅広いレパートリーを擁していますが、マルクさんがとくに好きなのはどういうタイプの作品ですか?
……こうした取材でインタビュアーの話す日本語を聞いているのが、僕はとても好きなんですよ。日本語って美しいなと思います。僕もいつか話してみたい(笑)。質問にお答えすると、現時点では王道的な作品が好きです。例えば『白鳥の湖』『くるみ割り人形』『ラ・バヤデール』などヌレエフが手がけたクラシック作品、マクミランの『ロミオとジュリエット』や『マノン』、クランコの『オネーギン』など。でも、それは僕がまだあまり多くの作品を経験していないからかもしれません。これから様々なタイプの作品に出会いたいし、そのなかで自分の好みが変わっていったり、「じつはこういう作品が合っている」というものに気づいたりする可能性はあると思います。
マルクさんはテクニカルな振付を踊っても非常にエレガントで、観るたびに「これこそバレエだ」と感じさせてくれます。ご自身としては、踊る時にとくに心がけていることはありますか?
本番の舞台に立ったらもう何かを心がけているということはなく、むしろ細かな意識から自由になって、ただ物語に没頭しています。でもリハーサルの段階では、もちろんテクニカルなことを丹念に練習していますよ。どうやって女性をリフトすれば美しいか、ステップに軽やかさを出すにはどのように動けばいいか、など。
子どもの頃のことも少し聞かせてください。パリ・オペラ座の公式WEBサイトに出ているマルクさんのプロフィールページには動画も掲載されていて、そのなかでどうやってバレエと出会ったかについても語られていました。それによると、幼い頃にお姉さんがバレエを習っていて、そのお迎えに行った時に窓に張り付いて、「僕もこれがやりたい!」と言ったと。それは何歳の頃のことだったのでしょうか?
2歳の時です。ただ、じつはそのエピソードは母親がのちに話してくれたもので、自分では何も覚えていないんですよ。何しろ2歳でしたから(笑)。
そうだったのですね! では、実際にバレエを習い始めたのは何歳ですか?
3歳からです。
その頃の様子を想像しただけで可愛いです(笑)。しかしバレエは決して簡単なダンスではなく、厳しいことだらけだったと思います。⁠⁠⁠⁠⁠⁠⁠バレエがつらくなったりやめたくなったりしたことはありませんでしたか?
確かに厳しい世界で、困難に感じたことはありました。でも、僕のなかには幼いながらもすでに情熱が生まれていたんですね。たとえ練習がうまくいかなくて「もうやめたい」と思ったとしても、翌日にはケロッとしてまたレッスンに向かう。そんな子どもでした。
スクール時代を振り返って、少年時代のマルクさんが最初から簡単にできたことと、懸命に努力してやっとできるようになったことを教えてください。
身体の柔軟性は、苦労して身につけたというより、もともと自分に備わっていたものという気がします。苦労したのはグラン・ソー(大きなジャンプ)。僕はバレエを始めるのが早かったから、基礎的なことは自然に身につけていくことができました。でも成長するにつれて難しいテクニックもどんどん教わるようになり、習得するのに努力が必要なことがたくさん出てきました。中でもグラン・ソーは技術を身につけるまで時間がかかりましたね。
いまや質の高いグラン・ソーこそマルクさんの大きな魅力のひとつなのに、もともとはあまり得意でなかったというのは意外です。いまバレエをがんばっている子どもたちに、グラン・ソーが上手になるためのアドバイスをするとしたら?
最大のアドバイスは、「練習あるのみ」です!努力を惜しまず、ひたすら練習を繰り返すこと。それが僕自身のやってきたことであり、上達のための唯一の秘訣だと思います。
そうしてみごとパリ・オペラ座バレエに入団してまもなく10年。これまで踊ってきたなかでターニングポイントになったと思う作品や役を教えてください。
まずは『白鳥の湖』です。子どもの頃からずっと夢見ていた作品だったので、初めてジークフリート王子を踊らせてもらった時のことはやはり鮮明に記憶に刻まれています。
もうひとつはマクミラン振付の『マイヤリング』ですね。じつは、僕はもともとルドルフ役にはキャスティングされてい⁠⁠なかったんですよ。ところが踊る予定だったダンサーたちが病気や怪我で降板することになって、僕のところに役が回ってきた。ルドルフは自分がこれまで演じてきたどの役とも明らかに違っていて、正直に言うと、踊るのが怖いと思いました。パートナーとの呼吸が重要で技術的にも難しいうえに、ルドルフという複雑な人間を表現しなくてはいけないわけですから。本当にチャレンジングな役でしたが、マクミランと直接仕事をしていたイレク・ムハメドフが、振付家から習ったことをすべて教えてくれたんです。そのおかげで、舞台はとてもうまくいきました。
ちなみに、本番前に必ずやっているルーティーンはありますか?
もちろんあります。ただ、その内容は踊る作品によって都度変わります。例えば『白鳥の湖』と『マノン』では、振付も求められる動きの質も違いますよね。つまり僕は、作品に合わせて身体を整えるためのことを、いつもルーティーンとしてやっています。
なるほど! ありがとうございます。ところでマルクさんはしばしばパク・セウンさんとパートナーを組んでいますが、あなたの目から見て、パクさんはどんな魅力をもつダンサーですか?
素敵なジャンプ、柔軟性に富んだ身体。テクニックも表現も素晴らしいバレリーナです。でもそれ以上に僕が強調したいのは、彼女の人柄の良さですね。美しいダンサーであるだけでなく、本当に穏やかで優しい性格の持ち主なんですよ。静かで、いつだってポジティブで、何があっても絶対に怒らない。一緒に仕事をする相手として、これはとても優れた資質だと思います。
最後に、マルクさんの思う「オペラ座スタイル」のバレエの魅力とは?
フランス派のバレエの極み、つまりエレガントでシックなダンスである、ということに尽きます。いろいろと要素を付け足すよりも、真に必要な動きだけで見せていく。足し過ぎもせず、引き過ぎもしない、じつに洗練されたダンススタイルだと思います。

©︎Ballet Channel

ポール・マルク Paul Marque
フランス・ランド県出身。3歳でバレエを始め、10歳でパリ・オペラ座バレエ学校に入学。2014年パリ・オペラ座バレエ入団。2016年コリフェ、2017年スジェ、2018年プルミエ・ダンスールに昇進。2020年12月13日、コロナ禍のため無観客上演となったヌレエフ版『ラ・バヤデール』でブロンズ・アイドル(黄金の像)役を踊り、エトワールに任命された。その時のもようは2022年公開のドキュメンタリー映画&Blu-ray「新章パリ・オペラ座~特別なシーズンの始まり」にも収められ、話題を呼んだ。

公演情報

パリオペラ座バレエ団 2024年日本公演
会場:東京文化会館
詳細:NBS 日本舞台芸術振興会 公演ページ

「白鳥の湖」全4幕

音楽:ピョートル・チャイコフスキー
振付・演出:ルドルフ・ヌレエフ(マリウス・プティパ、レフ・イワーノフに基づく)
装置:エツィオ・フリジェリオ
衣裳:フランカ・スクアルチャピーノ
照明:ヴィニーチョ・ケーリ

2024年
2月8日(木)18:30
オデット/オディール:オニール八菜
ジークフリート王子:ジェルマン・ルーヴェ

2月9日(金)18:30
オデット/オディール:パク・セウン
ジークフリート王子:ポール・マルク

2月10日(土)13:30
オデット/オディール:ヴァランティーヌ・コラサント
ジークフリート王子:ギヨーム・ディオップ

2月10日(土)18:30
オデット/オディール:オニール八菜
ジークフリート王子:ジェルマン・ルーヴェ

2月11日(日)13:30
オデット/オディール:アマンディーヌ・アルビッソン
ジークフリート王子:ジェレミー=ルー・ケール
※[1/30追記]オデット/オディール役のアマンディーヌ・アルビッソンは降板し、代わってパク・セウンが主演する旨の発表あり。詳細・最新の公演情報は日本舞台芸術振興会WEBサイトでご確認ください

※上演時間:約2時間50分(休憩含む)予定

「マノン」全3幕

音楽:ジュール・マスネ
振付:ケネス・マクミラン
オーケストレーション・編曲:マーティン・イエーツ
原作:アベ・プレヴォー
装置・衣裳:ニコラス・ジョージアディス
照明:ジョン・B.リード

2024年
2月16日(金)19:00
マノン:ドロテ・ジルベール
デ・グリュー:ユーゴ・マルシャン

2月17日(土)13:30
マノン:ミリアム・ウルド=ブラーム
デ・グリュー:マチュー・ガニオ

2月17日(土)18:30
マノン:ドロテ・ジルベール
デ・グリュー:ユーゴ・マルシャン

2月18日(日)13:30
マノン:リュドミラ・パリエロ
デ・グリュー:マルク・モロー

2月18日(日)18:30
マノン:ミリアム・ウルド=ブラーム
デ・グリュー:マチュー・ガニオ

※上演時間:約2時間45分(休憩2回含む) 予定

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