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【特集:パリ・オペラ座バレエ】①ジェルマン・ルーヴェ(エトワール)インタビュー〜僕と一緒に、物語の世界を生きてほしい

青木かれん Karen AOKI

©︎Jean-Pierre Delagarde / Opéra national de Paris

2024年2月、パリ・オペラ座バレエ日本公演が開幕! 4年ぶりの来日となる今回はヌレエフ版『白鳥の湖』とマクミラン振付『マノン』の2作品を上演します。

太陽王ルイ14世により創設された世界最古のバレエ団として、偉大な歴史を刻み続けてきた同団。2022年にはジョゼ・マルティネズが芸術監督に就任し、さっそくオニール八菜やマルク・モロー、ギヨーム・ディオップがエトワールに任命されるなど、また新たな時代が拓かれようとしています。

本特集では、パリ・オペラ座バレエのダンサーたちのインタビューを連続でお届けします。
第1回はエトワールのジェルマン・ルーヴェ。2011年に18歳でパリ・オペラ座バレエに入団し、5年でエトワールに任命された、新時代の貴公子です。

Interview #1
ジェルマン・ルーヴェ Germain Louvet
エトワール

ジェルマン・ルーヴェ ©Ballet Channel

ルーヴェさんがダンスを始めたのは4歳の時だそうですね。きっかけは?
僕は音楽をかけると自然と踊りだすような子どもだったらしく、もともと身体を動かすよう勧められていたこともあって、ダンス教室に通うようになりました。クラシック・バレエの道に進んだのは7歳の時。習い始めた時からずっとバレエが好きでしたね。僕にとってバレエは自分を表現するための手段だと思っています。
その後2005年にパリ・オペラ座バレエ学校に入学し、2011年にパリ・オペラ座バレエに入団。2016年12月28日にエトワールに任命されました。エトワールになって、どんな変化がありましたか?
エトワールになってからというのは、まるで別の仕事に就いたような感覚でした! まず、舞台で踊るのは主役だけになったこと。そして踊るだけでなく、取材や撮影の仕事も頻繁に入るようになりました。
エトワールになっていちばん嬉しいのは、数多くの偉大なレパートリーを自由に表現できるようになったことですね。もちろんそのいっぽうで、観客の期待につねに応えていかねばならないことや、毎年新しい作品に取り組みながら進歩している姿を見せなければならないというプレッシャーもありますが。
これまで踊った中で印象に残っている作品は?
1つ目はルドルフ・ヌレエフ版『ロミオとジュリエット』です。スジェの頃にレオノール・ボラックと一緒に踊りました。言うまでもなく素晴らしいバレエで、僕にとって大切な作品です。
2つ目は『白鳥の湖』。この作品でエトワールに任命されたという意味でも思い入れがありますし、踊るたびに発見があります。
3つ目はピナ・バウシュ振付の『コンタクトホーフ』。すべてがひっくり返るような衝撃を与えてくれた作品です。
4つ目はモーリス・ベジャール振付の『ボレロ』です。幼い頃、クロード・ルルーシュ監督の映画『愛と哀しみのボレロ』を観てから、ずっと踊りたいと思っていた作品でした。本当に夢が叶いました。
『コンタクトホーフ』を踊った時の「すべてがひっくり返るような衝撃」とは?
僕はもともとピナ・バウシュが大好きだったんです。15歳の頃からパリ市立劇場やシャトレ座でヴッパタール舞踊団の公演を観ていて、そのたびに作品の世界観に惹きつけられていました。そして月日が経ち、2022年パリ・オペラ座で『コンタクトホーフ』の上演が決まり、ヴッパタール舞踊団のダンサーたちから指導を受けられることになった。かつて客席から観ていたジョー・アン・エンディコットやジュリー・シャナハンから、直接指導を受けられるなんて……その経験を通して、本当にたくさんのものを受け取りました。
『コンタクトホーフ』はふだんパリ・オペラ座で踊るような演目とはまったく異なる作品で、時にはショッキングで暴力的な描写もあります。でも、それがあの作品の肝なのです。そして、ソロではなく群舞で踊る作品であることも重要でした。僕は早いタイミングでエトワールに任命されたため、スタジオではパートナーと一緒に練習することが多く、それは幸運なことであるいっぽうで、グループの中で仕事をする経験はどうしても希薄になっていた。『コンタクトホーフ』は、そんな僕に「自分はパリ・オペラ座という集団の一員なのだ」と再認識させてくれました。
『ボレロ』のメロディを踊るのは幼い頃からの夢だったとのこと。あの赤い円卓の上に立った瞬間、どのような感情が湧き上がりましたか?
暗闇の中、高いテーブルの上にたった一人で立ち、周りをリズムの男性たちにぐるりと取り囲まれている。その中央で観客の視線を一身に浴びるのは、かなりの緊張感がありました。最初に片手を動かし始める瞬間から強烈なプレッシャーを感じましたが、そのぶん集中力が高まって、初日からとても落ち着いて踊ることができたんですよ。ほかのダンサーたちや指揮者、オーケストラのエネルギーが加わって、力が増幅していくのを味わいながら踊り続ける……そんな不思議な感覚でした。

©Ballet Channel

『白鳥の湖』の王子や『ロミオとジュリエット』のロミオのように、明確なドラマのある作品・役柄を演じる際に意識していることは?
物語や役を通して、自分がどう生きているかを表現することです。僕自身の生きざまを見せることで、お客様にとってもその作品が単なる「架空のお話」ではなく、いまそこで起きているリアルな「自分たちの物語」になるのではないでしょうか。『白鳥の湖』は遠い昔のお話であり、『ロミオとジュリエット』はルネサンス期のお話。それでも観客のみなさんに、その物語の世界を僕と一緒に生きてもらいたいと思いながら演じています。
その2作品をはじめ、パリ・オペラ座バレエのレパートリーには、ヌレエフが振付を手がけたものが多くあります。ヌレエフ作品の魅力はどんなところにありますか?
ヌレエフは、ミュージカルの舞台や映画の要素を取り入れるなど、独自のスタイルでクラシック・バレエを現代化した振付家です。たとえば、ブロードウェイミュージカルの雰囲気や、ジーン・ケリーの出演映画『雨に唄えば』のような世界観を取り入れたりしています。ロシアで厳しいバレエの教育を受け、スペクタクルなバレエの素晴らしさを体感していた彼が、キャリアの過程で古典作品の様式を革新していった。そのことが作品に魅力を与えているのではないでしょうか。
ヌレエフのスタイルには、ある種の新しさがあります。それは、男女を平等に扱っていること。たとえばグラン・パ・ド・ドゥのアダージオでは、男性がただ女性を支える立場に終始するのではなく、まるで「ツインソウル」(双子の魂)であるかのように対等な関係で踊るんです。
ジェルマンさんはオニール八菜さんとしばしばパートナーを組んでいますが、彼女はどんなダンサーだと感じますか?
とても美しいダンサーで、太陽のような魅力があります。洗練された踊りで、動作の一つひとつに時を止めるかのような威厳がある。しかし人柄は気さくで、パートナーとして密にコミュニケーションを取ってくれるので、とても踊りやすい相手です。
ルーヴェさんは2022年に『Des choses qui se dansent』を上梓していて、文章を書くのも好きだと聞きました。
書くこととダンスは少し似ていて、パーソナルな部分に関わる仕事です。ダンスは言葉を使わずに、動きや空間、音楽で表現をしますが、僕にとっては言葉もとても大切だし、「書く」という表現手段も同じくらい重要です。ひょっとしたら、将来は演技など言葉を使う仕事に関心を持つかもしれません!

©Ballet Channel

ジェルマン・ルーヴェ Germain Louvet
ブルゴーニュ出身。7歳からクラシック・バレエを習い始め、2005年パリ・オペラ座バレエ学校入学。2011年に18歳でパリ・オペラ座バレエに入団。2014年コリフェ、2015年スジェに昇進。2016年プルミエール・ダンスールの昇格試験に合格。翌2017年1月1日からプルミエール・ダンスールとなる予定だったところ、2016年12月28日にヌレエフ版『白鳥の湖』でジークフリート王子を踊り、エトワールに任命された。

公演情報

パリオペラ座バレエ団 2024年日本公演
会場:東京文化会館
詳細:NBS 日本舞台芸術振興会 公演ページ

「白鳥の湖」全4幕

音楽:ピョートル・チャイコフスキー
振付・演出:ルドルフ・ヌレエフ(マリウス・プティパ、レフ・イワーノフに基づく)
装置:エツィオ・フリジェリオ
衣裳:フランカ・スクアルチャピーノ
照明:ヴィニーチョ・ケーリ

2024年
2月8日(木)18:30
オデット/オディール:オニール八菜
ジークフリート王子:ジェルマン・ルーヴェ

2月9日(金)18:30
オデット/オディール:パク・セウン
ジークフリート王子:ポール・マルク

2月10日(土)13:30
オデット/オディール:ヴァランティーヌ・コラサント
ジークフリート王子:ギヨーム・ディオップ

2月10日(土)18:30
オデット/オディール:オニール八菜
ジークフリート王子:ジェルマン・ルーヴェ

2月11日(日)13:30
オデット/オディール:アマンディーヌ・アルビッソン
ジークフリート王子:ジェレミー=ルー・ケール
※[1/30追記]オデット/オディール役のアマンディーヌ・アルビッソンは降板し、代わってパク・セウンが主演する旨の発表あり。詳細・最新の公演情報は日本舞台芸術振興会WEBサイトでご確認ください

※上演時間:約2時間50分(休憩含む)予定

「マノン」全3幕

音楽:ジュール・マスネ
振付:ケネス・マクミラン
オーケストレーション・編曲:マーティン・イエーツ
原作:アベ・プレヴォー
装置・衣裳:ニコラス・ジョージアディス
照明:ジョン・B.リード

2024年
2月16日(金)19:00
マノン:ドロテ・ジルベール
デ・グリュー:ユーゴ・マルシャン

2月17日(土)13:30
マノン:ミリアム・ウルド=ブラーム
デ・グリュー:マチュー・ガニオ

2月17日(土)18:30
マノン:ドロテ・ジルベール
デ・グリュー:ユーゴ・マルシャン

2月18日(日)13:30
マノン:リュドミラ・パリエロ
デ・グリュー:マルク・モロー

2月18日(日)18:30
マノン:ミリアム・ウルド=ブラーム
デ・グリュー:マチュー・ガニオ

※上演時間:約2時間45分(休憩2回含む) 予定

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