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【世界のバレエ団】パリ・オペラ座バレエ〜世界最古。その存在が、バレエの歴史を物語る〜

渡辺 真弓

バレエは国際的な芸術です。
世界にはさまざまなバレエ団が存在し、それぞれが守るべきものを守り、変化すべきものを変化させながら、人々に舞台を届け続けています。

〈バレエチャンネル〉ではこれから不定期で、世界各国のバレエ団をピックアップして紹介していきます。

記念すべき第1回に取り上げるのは、2020年2月27日〜3月8日の日本公演も楽しみなバレエの殿堂、パリ・オペラ座バレエ団です。

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パリ・オペラ座ガルニエ宮 ©︎Jean-Pierre Delagarde / Opéra national de Paris

基本情報

  • 創立:1661年
  • 本拠地:パリ・オペラ座ガルニエ宮、バスティーユ・オペラ座
  • 芸術監督:オーレリ・デュポン(2016年就任)
  • 主なエトワール:マチュー・ガニオ、ドロテ・ジルベール、マチアス・エイマン、レオノール・ボラック、ジェルマン・ルーヴェ、ユーゴ・マルシャン、ヴァランティーヌ・コラサント
  • 公式サイト:https://www.operadeparis.fr/

沿革

パリ・オペラ座バレエ団の歴史は350年を超え、世界最古でバレエの歴史そのもの。1661年に「太陽王」ルイ14世が創立した王立舞踊アカデミーを起源とし、19世紀のロマンティック・バレエの隆盛を経て、20世紀にはリファール、ヌレエフ両巨匠によって世界トップクラスの水準に到達、21世紀の今日に至っている。
2019年は、パリ・オペラ座の母体となった王立音楽アカデミーの1669年の創立から数えて350周年、1989年にフランス革命200年を記念してバスティーユ・オペラ座が開場して30年という二重の節目の年。シーズン・プログラムには劇場の総力が注がれ、ガラ公演や展覧会に至るまで祝祭的な香りの強い行事が開催されている。

ガルニエ、バスティーユそして「第3の舞台」

パリ・オペラ座は近年、「伝統と革新」を目標に掲げて活動しているが、劇場にもその姿勢が明確に表れている。本拠地は、歴史的建造物のガルニエ宮(1875年開場、座席数2,013)と近代建築のバスティーユ・オペラ座(1989年開場、座席数2,700)の2カ所。バレエ公演は、年間150回以上に上る。ガルニエ宮は、設計者シャルル・ガルニエの名を冠し、まさにヴェルサイユ宮殿を彷彿させるような絢爛豪華な宮殿の装いで、昼間はパリ屈指の観光名所として賑わっている。

パリ・オペラ座ガルニエ宮 ©︎Christian Leiber / Opéra national de Paris

ガルニエ宮の劇場内。座席に座って天を仰ぐとそこにはシャガールの天井画が ©︎E. Bauer / Opéra national de Paris

まさにヴェルサイユ宮殿を彷彿とさせる、絢爛豪華なガルニエ宮内のグラン・ホワイエ ©︎Jean-Pierre Delagarde / Opéra national de Paris

1989年にフランス革命200年を記念して開場した、近代建築のバスティーユ・オペラ座 ©︎Christian Leiber / Opéra national de Paris

バスティーユ・オペラ座は客席も非常に広い ©Patrick Tourneboeuf/Tendance Floue/OnP

さらにオペラ座のWeb上でも「第3の舞台」が公開され、最新の映像テクニックを駆使した映像がオペラ座の魅力をアピール、若い観客を引きつけようとする努力も怠っていない。

オペラ座は、ガストン・ルルーの小説『オペラ座の怪人』の舞台になったことでも知られ、「怪人」が愛用していた第1ロージュ5番のボックス席の入り口には、「オペラ座の怪人のボックス席」を示す金色のプレートが貼られ、ガルニエ宮の必見観光スポットの一つとなっている。

19世紀ロマンティック・バレエの時代から20世紀の黄金時代

18世紀に、カマルゴ、サレ、ヴェストリスといったスターたちが登場した後、ノヴェールが「バレエ・ダクシォン(演劇的に筋の一貫したバレエ)」を提唱し、19世紀にはロマンティック・バレエ全盛の時代が訪れる。ロマンティック・バレエの特徴は、遠い異国が舞台で、妖精が主役であること。シュナイツホーファー作曲『ラ・シルフィード』(1832年)やアダン作曲『ジゼル』(1841年)などの名作が生まれた。『ラ・シルフィード』では、マリー・タリオーニがポワント(つま先立ち)の技法を披露し、歴史的な成功を収める。花を逆さにしたような形の、丈の長いロマンティック・チュチュが開発され、森の場面では、「バレエ・ブラン(白いバレエ)」の幻想的な効果を高めるのに大きな役割を果たした。

「ジゼル」ドロテ・ジルベール ©︎Svetlana Loboff / Opéra national de Paris

「ジゼル」ドロテ・ジルベール 、マチュー・がニオ ©︎Svetlana Loboff / Opéra national de Paris

タリオーニに続いて、『ジゼル』に主演した、イタリア出身のカルロッタ・グリジも初々しい魅力で人々の心を虜にした。妖精の世界を描いたバレエはしばらく活況を呈するが、同じような主題が繰り返され、スターがいなくなると、次第に活気を失い、バレエの中心はロシアへと移行していく。
オペラ座バレエが輝きを取り戻すのは、20世紀初め、ディアギレフ率いるバレエ・リュスが来演してからのことである。バレエ・リュス出身のスター、セルジュ・リファールが1930年にメートル・ド・バレエに就任、四半世紀にわたってオペラ座を率い、ネオ・クラシックの名作『白の組曲』をはじめ、神秘的な『レ・ミラージュ』、実験作の『イカール』など多彩なバレエを振付け、オペラ座を隆盛に導いた。
リファールの後には、1983年に世紀の天才舞踊手ルドルフ・ヌレエフが着任し、6年間にわたってオペラ座に君臨し、『ライモンダ』『白鳥の湖』『シンデレラ』などグランド・バレエの大作を毎年のように制作。100年に一人の天才シルヴィ・ギエムや当代一の貴公子マニュエル・ルグリなど「ヌレエフ世代」と言われるエトワールを輩出し、バレエ団を世界最高峰と評価されるまでに成長させた。1992年に病を押して振付けた『ラ・バヤデール』は、絢爛豪華な制作で、大ヒット作となり、オペラ座バレエのかけがえのない財産として踊り継がれている。

エトワールを頂点としたピラミッド構造

団員は約150名。「星(スター)」を意味する15名(2020年2月1日現在)の「エトワール」を頂点に、プルミエ・ダンスール、スジェ、コリフェ、カドリーユと5つの階級に分けられている。この階級ピラミッドは、宮廷での序列を反映したものと言われ、スジェ以下のコール・ド・バレエ(群舞)の団員は、毎年末に行われる昇級試験によって上位に上がる仕組みになっているが、このオペラ座ならではのシステムが団員相互の競争意識を煽り、高いレベルを保つ要因ともなっている。
ちなみに「エトワール」という名称が公式に使用されたのは1940年からで、第1号はリセット・ダルソンヴァル(1952年にリファールらと来日)。以後、イヴェット・ショヴィレ、ノエラ・ポントワ、シルヴィ・ギエム、アニエス・ルテステュ、パトリック・デュポン、ローラン・イレール、マニュエル・ルグリ、ニコラ・ル・リッシュ、マチュー・ガニオ等々、100名近いエトワールが誕生してきた。
エトワールは、昇級試験によってではなく、オペラ座の総裁と舞踊監督の決定によって任命される。近年は、公演終了後に観客の前で発表されることが多く、新エトワール誕生の瞬間は実にドラマティックで感動的である。

【現在のオペラ座を代表するエトワールたち】

マチュー・ガニオ ©︎James Bort / Opéra national de Paris

ドロテ・ジルベール ©︎James Bort / Opéra national de Paris

ジェルマン・ルーヴェ ©︎James Bort / Opéra national de Paris

レオノール・ボラック ©︎James Bort / Opéra national de Paris

ユーゴ・マルシャン ©︎James Bort / Opéra national de Paris

オペラ座がこれまで優れたエトワールを輩出してきたのは、舞踊手を養成するパリ・オペラ座バレエ学校の存在が大きい。創立は1713年に遡り、2013年には創立300年祭が盛大に祝われた。校長は、クロード・ベッシーの後任として、2004年からエリザベット・プラテルが就任し今日に至る。

パリ・オペラ座バレエ学校 ©︎Agathe Poupeney / Opéra national de Paris

エリザベット・プラテル校長 ©︎David Elofer

近年の芸術監督は、1990年〜1995年パトリック・デュポン、1995年〜2014年ブリジット・ルフェーヴル、2014年〜2016年バンジャマン・ミルピエで、ミルピエの電撃辞任の後、2016年8月からオーレリ・デュポンが後任となった。デュポンは、『マノン』や『眠れる森の美女』の表題役などを当たり役とした人気スターで、ダンサーとしても健在、マーサ・グラハムの小品などで時折舞台に立っている。
ヌレエフ振付の古典バレエの大作に加え、リファール、バランシン、ロビンズのネオ・クラシック、ニジンスキーやニジンスカのバレエ・リュス時代の作品、クランコやマクミラン、アシュトンの物語バレエ、ベジャール、プティ、キリアン、フォーサイス、ノイマイヤー、バウシュ、シェルカウイ、ナハリン等レパートリーは驚くほど広範で豊かである。
デュポン時代に入ってからは、カナダ出身のクリスタル・パイト振付『Seasons’Canon』(2016)や勅使川原三郎振付『グラン・ミロワール』(2017)、スウェーデンの鬼才アレクサンダー・エックマン振付『プレイ』(2017)等が初演され、オペラ座の挑戦的な姿勢は変わっていない。

オーレリ・デュポン芸術監督 ©︎Sophie Delaporte

2019年5月8日には、パリ・オペラ座創立350年記念ガラを開催。2019—2020シーズンは、9月に、イエーツ原作の『鷹の井戸』(杉本博司演出・美術、池田亮司作曲、アレッシオ・シルヴェストリン振付)とフォーサイス振付『BLAKE WORKS Ⅰ』で、開幕し、10月は、クリスタル・パイトの新作『Body and Soul(ボディ・アンド・ソウル)』が初演された。
12月には、ヌレエフの大作『ライモンダ』が11年ぶりに上演される予定だったが、年金改革を巡る大規模ストの影響で、バスティーユで初日の幕を開けた後、続く21公演が中止、同時期ガルニエ宮で予定されていたプレルジョカージュ振付『ル・パルク』も全23公演が中止になるという異例の事態に陥った。これは、パリ・オペラ座350年の歴史の中で、前代未聞の出来事と言えよう。
2020年2月に入ってから、ようやく『ジゼル』で公演は再開され、来日公演を待っている日本のファンもほっと胸をなでおろしていることだろう。
今シーズンの話題としては、5月に、マクミラン振付『うたかたの恋(マイヤーリング)』がレパートリーに入るのが注目される。

ヌレエフ版「ライモンダ」©︎Svetlana Loboff / Opéra national de Paris

ヌレエフ版「ライモンダ」ドロテ・ジルベール、ユーゴ・マルシャン ©︎Svetlana Loboff / Opéra national de Paris

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MAYUMI WATANABE 舞踊評論家、大学講師、週刊オン・ステージ新聞編集長 お茶の水女子大学及び同大学院修士課程で舞踊教育学を専攻。 オン・ステージ新聞社に勤務する傍ら、季刊『バレエの本』に寄稿。1990年『毎日新聞』に舞踊評を執筆し正式デビュー。 1991〜2006年パリ在住。 これまで『ダンスマガジン』『SWAN MAGAZINE』『バレリーナへの道』『ぶらあぼ』、web『ONTOMO』等に寄稿。 2019年9月より週刊オン・ステージ新聞編集長に就任。

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