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小林十市 連載エッセイ「南仏の街で、僕はバレエのことを考えた。」【第5回】2020年の始まりに思うこと。

小林 十市

ベジャール・バレエ・ローザンヌ(BBL)のスターダンサーとして世界中の舞台で活躍。
現在はBBL時代の同僚であった奥様のクリスティーヌ・ブランさんと一緒に、
フランスの街でバレエ教室を営んでいる小林十市さん。

バレエを教わりに通ってくる子どもたちや大人たちと日々接しながら感じること。
舞台上での人生と少し距離をおいたいま、その目に映るバレエとダンスの世界のこと。
そしていまも色褪せることのない、モーリス・ベジャールとの思い出とその作品のこと−−。

南仏オランジュの街から、十市さんご本人が言葉と写真で綴るエッセイを月1回お届けします。

***

一般的に新年の挨拶は年明け7日までとなっていますが、連載も5回目、2020年1月最初の投稿でもあるので、それなので、みなさん明けましておめでとうございます! 本年もよろしくお願いいたします。ということで、ここ最近SNSを見ていると落胆するようなニュースばかりですが、みなさんはいかがお過ごしでしょうか? 先日ツイッターで、2020年は1000年に一度の特別な年で、今年自分がなる年齢+生まれた西暦を足し算すると誰でも2020になるのだと。自分もやってみましたすぐに(笑)。51+1969=2020! 家族全員のもやってみましたが皆、2020でした。で、去年はどうだったんだろうと、50+1969=2019で……あ! ちょっとこれって当たり前じゃん!(笑)と、やっと気がつく自分……。それでも2020年という年、そういうことばかりでは無いでしょうが何か色々ある予感はします。

昔は2020年なんてとても遠い未来な感じがしたものでしたが、いま、我々はこの時代を生きているんですね。

文明が発達し、住みやすい世界になっていく感じがする時もありますが、そうでは無いのかもしれませんね。そんなことを自分は時々考えますが、昔から変わらないのは自分の肉体を使うこと、アプリケーションでは賄えない自分の体を使った努力、準備、パフォーマンス!

2020年は東京五輪がありますね! それと、ベジャール・バレエ団来日公演!!

僕がベジャール・バレエに入団し、最初に果たした来日公演はいまから30年前の1990年でした。

僕は 1989年に入団し、既に1シーズン経ってからの来日公演で演目も『ニーベルングの指環』『春の祭典』『ピラミッド』と踊り込んできた演目ばかりでした。たった1シーズンで踊り込んだ!? は、大袈裟に聞こえるかもしれませんが、当時のバレエ団はツアーが本当に多くて年間100以上の本番をこなしていました。

来日したのは秋頃で、すでに2シーズン目に入っていました。シーズン中のスケジュールに「日本公演」という文字が入っている時のワクワク感は海外で活躍するダンサーならわかると思いますが、とても嬉しいものです。と同時にふだんより緊張する場合もあります……。

僕のベジャール・バレエ団ダンサーとしての来日デビュー作は『ニーベルングの指環』の中のフローという5人いる神族のひとりでした。もともと僕はセカンドキャストだったのですが、東京だし十市が初日を飾れと、ベジャールさんの配慮で踊らせてもらったのです。そういう優しさもベジャールさんはお持ちでした。自分でいちばん自分の力を発揮出来たと思う作品は『春の祭典』の若者かなと思っています。

さて、今年のベジャール・バレエは再び『バレエ・フォー・ライフ』で戻ってきますね! 20年以上前の作品ですが古さを感じず衰えない素晴らしい作品だと思います。

7月には、オランジュのローマ劇場での公演が決まっています。僕もいまからとても楽しみです。

さて。

もう約2ヶ月前になりますが、初めて歌のビデオクリップの撮影に参加しました。

昔ベジャール・バレエで映像音響スタッフとして働いていた人が、現在売れっ子の監督として活躍していて、その彼から撮影の3日前に電話があり「こういう仕事があるがやってみないか?」と。Evi Oroszさんというベルギーのシンガーソングライターさんの「Shadow」という曲のビデオクリップで、「ふだん十市がインスタグラムでやっているような感じで動いてくれればいいから」と……。「ええ? ピルエット!?」って思ったのですが、場所はパリだし交通費宿泊費ギャラ出るし〜、行ってみるか!と(笑)。

最初、「撮影は1日で終わるから、日帰りでいいか?」と言われていて、「顔もそんなに出ないし、十市は撮影したものからかなり削られると思うけど、撮ったものは後で送るから」と。そんなふうに言われていたので、ある程度楽な気持ちでいました。指定された朝の時間に間に合う電車がなく結局前の晩オランジュを出ることになり、僕がすぐ考えたのが「ラーメン食べられる!」でした(笑)。

オランジュからTGVで3時間15分、リヨン駅に着いてすぐに地下鉄に乗り向かった先は……

「一風堂パリ」

もう長蛇の列、40分待ち!ちょっと異様な感じはします。ここだけだから並んでいるの!
待ちましたよ(笑)このために来たんだから!(違う)

人気なんですね〜一風堂。
いまやパリに3店舗構えているんですよ! すごいですね!

と、荷物抱えたまま行きました。

結構身体に疲れを残したまま迎えた撮影日。

朝、宿泊先のホテルで左側の肩甲骨あたり「ぶちっ」と筋肉が!

焦りましたとにかく。
オムロンの低周波治療器を持っていたので3回ほど使い、痛み止めも飲みました。

撮影場所は古びたアパートの建物の中にある元工場っぽいコンクリート剥き出し鉄柱剥き出しな場所で暖房がない少し寒いところでした。僕はジャズシューズとスニーカータイプのつま先が伸ばせる靴を持って行ったのですが、どちらにしろピルエットはできそうに無い感じでした(汗)。

ひと通り挨拶を済ませ着替えて柔軟を始めましたが、なかなか撮影が始まらない。
どうやら照明を作っているようで時間がかかる。

歌手のマネージャーさんから歌の説明を受け、「まあ光と影みたいな」とか歌のコンセプトを言われ、実際撮影が始まると監督からは「アドリブで動いて、楽しんで」だけで。

集中し始めると痛かったことも忘れ(痛み止め効いてる)いま自分ができる持ち合わせのすべてを出していかないと、ということしか考えられず時間も忘れ動き続けました。

でき上がりを観て結構映っていたので驚いたんですけど、なんと言いますか、ふだん自主練はしているけれど、身体の稼働範囲の狭さや、動きのボキャブラリーの貧しさ、「元ベジャール・ダンサー」という肩書を外され一人の表現者としてどう存在できるのか? ということを突きつけられた撮影でした。

そんなこともあり、今年は「自分にいまできる表現方法」みたいな道を見つけられるといいかなあ、と、漠然と思うのですが、思うだけで終わりそうです(笑)。

1年ってあっという間でしょう? そう思いませんか?

毎年始まるとあっという間に12月……。

自主練は続けたほうが良いでしょうね。いつまた、何かで呼ばれるかもしれないし、もらったチャンスの波に乗るための準備は怠らないほうがいいなと、実感した訳です。この仕事で。

ちなみにそのビデオクリップはこちらです。

YoutubeでEvi Orosz 「Shadow」で検索していただいてもすぐに出てきます。
よろしくです。

 

ラーメン、みなさん好きでしょう?

2020年1月15日 小林十市

★次回更新は2020年2月15日(土)の予定です

この記事を書いた人 このライターの記事一覧

元ベジャール・バレエ・ローザンヌ、振付家、俳優。 10歳より小林紀子バレエシアターにてバレエを始める。17歳で渡米し、スクール・オブ・アメリカン・バレエに3年間留学。20歳でスイス・ローザンヌのベジャール・バレエ・ローザンヌに入団。以後、数々の作品で主役をはじめ主要な役を踊る。2003年に腰椎椎間板変性症のため退団。以後、世界各国のバレエ団でベジャール作品の指導を行うほか、日本バレエ協会、宝塚雪組などにも振付を行う。また舞台やテレビ、映画への出演も多数。 2022年8月、ベジャール・バレエ・ローザンヌのバレエマスターに就任。

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