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【8/22開幕!】はじめてのバレエ「白鳥の湖」〜古典の名作を1時間40分で楽しめる!制作のひみつを舞台監督・立川好治さんに聞きました

阿部さや子 Sayako ABE

東京バレエ団「白鳥の湖」中島映理子(オデット)、生方隆之介(ジークフリート王子) Photo:Koujiro Yoshikawa

2025年8月22日(金)〜24日(日)、〈めぐろバレエ祭り〉(8月16日〜24日/めぐろパーシモンホール)にて、東京バレエ団《はじめてのバレエ『白鳥の湖』》が初演されます。

同団はこれまでにも、はじめてバレエを観る人たちや子どもたちが気軽に楽しめるバレエ『ねむれる森の美女』『ドン・キホーテの夢』を制作。上演時間は休憩込みで約1時間30〜40分、語り役のキャラクターが言葉で説明しながら物語を案内してくれる人気シリーズで、《はじめてのバレエ『白鳥の湖』》はその3作目となります。

このシリーズの制作に一からたずさわってきたのが、東京バレエ団など数々のバレエ公演を支える舞台監督の立川好治(たちかわ・よしはる)さんです。立川さんは、『ねむれる森の美女』では演出を、『ドン・キホーテの夢』では脚本を担当。今作でも脚本をはじめ制作の重要な役割を担う立川さんに、お話を聞きました。

舞台監督の立川好治さん ©Ballet Channel

立川さんは、東京バレエ団の人気レパートリー『ねむれる森の美女』の演出や『ドン・キホーテの夢』の脚本を手がけたとのこと。今回の《はじめてのバレエ『白鳥の湖』》は、どのように作品づくりを進めているのですか?
立川 このシリーズは、全幕をまるごと上演すれば3時間〜3時間半くらいかかる古典作品を、約半分の1時間30〜40分ほどの長さにする、というのがひとつの決まりごとです。今回の《はじめてのバレエ『白鳥の湖』》も、『白鳥の湖』全幕の3分の1くらいをカットしなくてはいけませんから、まずは東京バレエ団の斎藤友佳理団長がどのシーンや曲を使うかを決めて、そこに私から「このシーンは少し長すぎるから、少し曲をつめるのはどうですか?」「ここに語りを入れるとわかりやすくなるのでは」などの意見を出したり、台本や語り役のセリフを書いたりしながら、制作を進めています。
『白鳥の湖』は“クラシック・バレエの永遠の名作”ともいわれる作品。名曲・名場面だらけなのに、それをカットしていくのは大変そうです。
立川 オリジナルの音楽やストーリーの流れをくずさず、バレエになれていない人が観てもあきないようにするには、どの音楽を残し、どの音楽をアレンジしたりカットしたりすればいいか。それを決めていくのは、とてもむずかしい作業です。『白鳥の湖』は、やはり第2幕の白鳥たちの場面がいちばんの肝(きも)ですから、そこはある程度のボリュームで見せたいし、子どもたちに物語をきちんと体験してもらうには、最後のエピローグまでちゃんと入れたい。そんなふうに、いろいろな視点から慎重に考えながらつくっています。
バレエはよく「敷居が高い」「むずかしそう」といわれます。じっさい、バレエをあまり観たことのない人に『白鳥の湖』などのおもしろさや魅力を伝えるのはむずかしいなと、いつも思います。
立川 そうですね、かんたんなことではないと思います。私が大事にしているのは、「これから何が起こるのか」を予言する部分と、「いま起きたことは何だったのか」をあとから解説する部分をちゃんと用意して、観客の頭の中に「?」を残したままにしないことです。とくにバレエをはじめて観る人や子どもたちのためには、必要最小限の言葉をつかって「何が起きるのか」と「何が起きたのか」をわかりやすく解説するよう、台本を書いています。

東京バレエ団「白鳥の湖」中島映理子(オディール)、生方隆之介(ジークフリート王子) Photo:Koujiro Yoshikawa

『ねむれる森の美女』では式典長のカタラビュットが、『ドン・キホーテの夢』ではドン・キホーテの従者のサンチョ・パンサが“語り役”になって、観客に物語の世界を案内してくれました。今回の『白鳥の湖』では、だれが語り役になりますか?!
立川 今回は「道化」です。彼はいつも宮廷の中を駆けまわり、そこで起こるできごとをよく見ています。また、国や権力とは少しはなれた価値観でものがいえる存在でしょうし、バレエの中で言葉を語らせても違和感のないキャラクター。『白鳥の湖』の中で語り役をつとめられるのは道化しかいないと、最初から考えていました。
道化が案内してくれる『白鳥の湖』、すごくおもしろそうです! しかし作品をナビゲートするなら、作中の人物ではなく「案内役のおねえさん」みたいな人が幕の合間に登場して説明する、みたいなやり方もあると思います。だれを語り役にして、何を語らせるのか。そこにはどんなこだわりがありますか?
立川 私は、物語とはだれかが「外」から解説するのではなく、物語の登場人物が「中」のできごととして語るべきだと思っているんですね。その語り手には、だれが適役なのか。『ねむれる森の美女』の場合はそれがカタラビュットで、彼にはほぼモノローグ(独白)で語らせました。次の『ドン・キホーテの夢』の語りはダイアローグ(対話)形式がいいと思い、語り役はサンチョ・パンサ、その相手には(言葉は話しませんが)馬のロシナンテを選びました。今回の『白鳥の湖』の脚本はまだ最終稿ではないのですが、過去2作品とはまたちがう雰囲気になると思います。
道化といえば、踊りの見せ場たっぷりの役どころ。でも今回は語りが中心で、あまり踊らないのでしょうか?
立川 いいえ、たくさん踊りますよ。今回の『白鳥の湖』には4人の道化が登場して、メインで踊る道化、語り役になる道化など、それぞれに役割をにないます。私は、語り役には踊りでも活躍してもらいたいなと思っています。なぜなら、物語の「中」の人として語ると同時に、東京バレエ団というバレエカンパニーの一員として語ってもらいたいからです。
これまで『ねむれる森の美女』や『ドン・キホーテの夢』を観るたびにおどろかされてきたのは、カタラビュットやサンチョ・パンサを演じるダンサーの語り口がとても自然なことです。彼らは役者さんではないのに、なぜあんなにうまくセリフをいえるのですか?
立川 そう思ってもらえるのは、とてもうれしいです。私たちも「ダンサーなのにセリフをいえてすごいですね」というレベルを超えて、セリフが演技に自然に溶けこむところまでいきたいと思ってきたので。舞台の上で声を出し、言葉を語るには、心の訓練と肉体の訓練の両方が必要です。しかしこれまで語り役をやってもらったダンサーたちは、演劇的なバレエは経験していても、演劇そのものは経験したことがない人たちばかり。まずはセリフのテキストを自分の中で肉体化して、言葉として出すという訓練からやってきました。
そうした訓練も、立川さんが指導にあたってきたのですか?
立川 そうです。ただ、「役者」として訓練をするわけではないので、演劇の稽古のメソッドとはちがうやり方を意識的にとっています。
演出ができて、脚本が書けて、演技指導もできる舞台監督さん……って、すごすぎませんか?!
立川 (笑)。私はもともと、アンダーグラウンド演劇の演出をやっていたんです。でもいろいろなことがあって、芝居の世界は断念して、食べていくために舞台の裏方の仕事をするようになりました。以来、演劇に関することはいっさいやらないようにしていたのですが、2012年に子どものためのバレエ『ねむれる森の美女』を新制作するとなった時、バレエ団のことをよく知る私に「演出と脚本をやってもらえないか」と依頼があった。自分にとってバレエはすでに人生の大きな部分を占めていて、楽しいこともたくさん経験させてもらってきましたから、その感謝の気持ちもあってお引き受けしたのがはじまりです。

東京文化会館でお仕事中の立川さん Photo:Shoko Matsuhashi

もうひとつ思うのは、『ねむれる森の美女』も『ドン・キホーテの夢』もタイトルに《子どものためのバレエ》とついているのに、このシリーズは私たち大人のバレエファンが観ても楽しくて、すごく見ごたえがあるということです。
立川 それはとても強く意識していることです。子どもだからといって甘くみない。過度に子どもの側に寄りすぎない。逆に子どもたちのほうから一歩こちらに踏み出してきてほしいし、大人が観て楽しめないものを子どもが観て楽しいわけがない、と思っています。
『ドン・キホーテの夢』でサンチョ・パンサが「さんまは目黒に限ります」と落語ネタを語る場面があり、いつも「渋いな〜」と思いながら観ているのですが(笑)、それも「子どもを甘くみない」という姿勢のあらわれでしょうか?!
立川 そのセリフについてはいろんな人から「さすがに子どもには通じないでしょう!」と言われますが、そこは妥協せず、「いや、目黒といえばさんまですから」と(笑)。ちなみに全国公演の時は、ここはその土地の名物を食べるシーンになります。

「お仕事道具を見せてください」とお願いすると、「これを」とインカムを出してくれた立川さん。「舞台裏で使う道具は山ほどありますけれど、舞台監督という仕事で最も大切なのは“コミュニケーション”。本番が始まると、私はいつも客席のいちばん後ろから舞台を観ています。そしてアクシデントが起こった時に対応するのはもちろん、少しでも気になることがあればすぐに各セクションに連絡を取り、こまかく直してもらったりしています」。©Ballet Channel

今回の《はじめてのバレエ『白鳥の湖』》ならではの工夫やこだわりはありますか?
立川 今回こだわっているのは、「時間と場所の推移をたち切らない」ということです。『白鳥の湖』を全幕で上演する場合、一般的には「1幕・2幕→休憩→3幕→休憩→4幕」というふうに、3幕(黒鳥の場面)と4幕(白鳥たちの場面)のあいだに休憩を入れることが多いですよね。でも私は、3幕でオディールにだまされオデットをうらぎってしまった王子が、無我夢中で湖に向かう、その演劇的な高まりを「休憩」でたち切るべきではないと思うんですよ。王子が必死にオデットを追いかけていく流れのまま4幕になり、彼らの心理的な葛藤がロットバルトとの戦いになって、フィナーレをむかえる。そうでなければ、演劇的に納得がいかないんです。
なるほど……!
立川 ですから、今回は3幕と4幕を続けるための“しかけ”を工夫しています
どんなしかけなのか、舞台を観るのが楽しみです! 最後に、立川さんが『白鳥の湖』全幕の中でいちばん好きな場面を教えてください。
立川 私は「四羽の白鳥の踊り」が好きです。
そうなのですね!
立川 まだテレビが白黒だった時代に中継されていた、どこかのバレエ団による「四羽の白鳥の踊り」。それを目にしたのが、私にとってはじめてのバレエ体験でした。当時はまだ小さな子どもだったので、それがどんな番組だったのかは覚えていません。でも、ブラウン管の中で踊っていた「四羽の白鳥」は、自分の人生の中の印象的なシーンとして、いまも記憶に残っています。

東京バレエ団「白鳥の湖」より四羽の白鳥 写真左から:安西くるみ、足立真里亜、秋山瑛、涌田美紀 Photo:Kiyonori Hasegawa

公演情報

はじめてのバレエ
白鳥の湖 ~母のなみだ~

2025年
8月22日(金)15:00

オデット/オディール:秋山 瑛
ジークフリート王子:池本 祥真
ロットバルト:岡﨑 司
王妃:政本 絵美
道化:二山 治雄
道化たち:後藤 健太朗(語り)、小泉 陽大、津守 貴嵩
オデットの母:榊 優美枝
王子の友人:工 桃子、安西 くるみ、山下 湧吾
四羽の白鳥:中沢 恵理子、工 桃子、長岡 佑奈、池戸 詩織
スペイン:中川 美雪、加藤 くるみ、加古 貴也、中嶋 智哉、本岡 直也、陶山 湘

8月23日(土)11:30
オデット:中島 映理子
オディール:伝田 陽美
ジークフリート王子:生方 隆之介
ロットバルト:本岡 直也
王妃:榊 優美枝
道化:山下 湧吾
道化たち:山仁 尚(語り)、孝多 佑月、ハギンズ・ミカエル聖也
オデットの母:政本 絵美
王子の友人:長岡 佑奈、池戸 詩織、陶山 湘
四羽の白鳥:本村 明日香、前川 琴音、相澤 圭、福田 天音
スペイン:中沢 恵理子、工 桃子、後藤 健太朗、髙橋 隼世、山下 諒太朗、青木 恵吾

8月23日(土)15:30
オデット:金子 仁美
オディール:長谷川 琴音
ジークフリート王子:南江 祐生
ロットバルト:本岡 直也
王妃:榊 優美枝
道化:山下 湧吾
道化たち:山仁 尚(語り)、孝多 佑月、ハギンズ・ミカエル聖也
オデットの母:政本 絵美
王子の友人:長岡 佑奈、池戸 詩織、陶山 湘
四羽の白鳥:本村 明日香、前川 琴音、相澤 圭、福田 天音
スペイン:中沢 恵理子、工 桃子、後藤 健太朗、髙橋 隼世、山下 諒太朗、青木 恵吾

8月24日(日)11:30
オデット/オディール:秋山 瑛
ジークフリート王子:池本 祥真
ロットバルト:岡﨑 司
王妃:政本 絵美
道化:二山 治雄
道化たち:後藤 健太朗(語り)、小泉 陽大、津守 貴嵩
オデットの母:榊 優美枝
王子の友人:工 桃子、安西 くるみ、山下 湧吾
四羽の白鳥:中沢 恵理子、工 桃子、長岡 佑奈、池戸 詩織
スペイン:中川 美雪、加藤 くるみ、加古貴也、中嶋 智哉、本岡 直也、陶山 湘

8月24日(日)15:30
オデット:中島 映理子
オディール:伝田 陽美
ジークフリート王子:生方 隆之介
ロットバルト:岡﨑 司
王妃:政本 絵美
道化:二山 治雄
道化たち:後藤 健太朗(語り)、小泉 陽大、津守 貴嵩
オデットの母:榊 優美枝
王子の友人:工 桃子、安西 くるみ、山下 湧吾
四羽の白鳥:中沢 恵理子、工 桃子、長岡 佑奈、池戸 詩織
スペイン:中川 美雪、加藤 くるみ、加古 貴也、中嶋 智哉、本岡 直也、陶山 湘

★予定上演時間:約1時間40分(休憩1回含む)

【会場】
めぐろパーシモンホール 大ホール

【詳細・問合せ】
NBS日本舞台芸術振興会 公演WEBサイト

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