
©Shoko Matsuhashi
二ノ宮知子のコミックを原作に、実写ドラマや映画など多くの作品を生んできた「のだめカンタービレ」。2023年上演のミュージカル版をフルオーケストラバージョンに改訂した 「ミュージカル『のだめカンタービレ』シンフォニックコンサート!」が、9月6、7日の台湾公演を終え、9月13~15日は東京ガーデンシアターで幕を開けます。
主要キャストは、のだめ役を上野樹里、ミルヒーことシュトレーゼマン役を竹中直人、千秋真一役を三浦宏規が続投。千秋は実際のオーケストラを前にタクトを振る場面もあるとのこと。東京公演の演奏は東京フィルハーモニー交響楽団、指揮は田邉賀一が務めます。
2人目のインタビューは、世界的に有名なドイツ人指揮者、フランツ・フォン・シュトレーゼマンを演じる竹中直人(たけなか・なおと)さん。俳優、映画監督、ミュージシャンなど多彩な分野で活動を続ける竹中さんにお話を聞きました。

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- 『のだめカンタービレ』のドラマをはじめ、すべての実写版で指揮者のシュトレーゼマン役を演じている竹中さん。最初にこの役をオファーされた時はどう思いましたか?
- 竹中 「え?なぜわたし?」って思いました。僕はどんなお仕事も依頼があれば断らないんです。スケジュールさえ合えば何でも引き受けますが、ミルヒー(シュトレーゼマン)役だけは、最初お断りしたんです。だってドイツ人の役ですからね。僕は日本人だし、できるわけないじゃないですか。
でも僕がお断りしたら、ドラマのプロデューサーと監督がとても切ない顔をなさって……。それでつい「……じゃあ、特殊メイクで高い鼻を付けて、髪の毛は白髪のロングヘアで……」って言ったんです。原作を読んでいなかったので、僕が勝手にイメージしたドイツ人指揮者のデザイン画も描いたりして。それを見たお二人が、「これでいきましょう!」と目を輝かせてくださった。そのお顔を見たらもう、演らざるを得ない状況になってしまったんです。
- 竹中さんが考えたキャラクターイメージが採用されてしまったと。
- 竹中 「ホントにこれでいいんですか?」って思いましたよ。原作とはあまりにも違いすぎるから、原作者の二ノ宮さんはもしかしたら怒っていたんじゃないかな……。
- 2023年のミュージカルでミルヒーは映像から飛び出し、生の舞台に登場しました。
- 竹中 ドラマシリーズで終わりと思っていたんです。まさかミュージカルのお話をいただいて。え?!また僕でいいのかなって感じながら演ってしまったんですよね……。そして今年はミュージカルのコンサートバージョン、しかも東京フィルハーモニー交響楽団のフルオケ! 「何で何で?!僕なんかがホントに出ていいの??」という気持ちはいっぱいありました。でもドラマからずっと繋がっている物語ですからね、もうお断りするわけにもいかず。これで最期と、演ることになってしまいました。ぼくなんかにこだわって下さるお気持ちも大変ありがたいことですが、原作ファンの方々に申し訳ない気持ちもいっぱいありました。

2025年台湾公演より。中央がシュトレーゼマンを演じる竹中直人さん 写真提供:東宝演劇部
- 出演依頼を断らないのは、竹中さんのポリシーですか?
- 竹中 そんな頑なポリシーなんて僕にはないです。ただ気が小さいんですよ。仕事がなかった頃のことを思ったら、僕をキャスティングしたいと思ってくれたことだけで、とてもとてもうれしかった。だから仕事は選びたくないんです。僕は「脚本を読んでから決める」っていう言葉がすごく嫌いなんです。「なにを偉そうに」と思っちゃう。自分なんかに声を掛けてくれたらなんでもやると言う心は今も変わらないです。でもドイツ人指揮者の役はさすがに悩みましたけど……。
- ミルヒーの役作りはどのように行いましたか?
- 竹中 役を「作る」って考えたことはないですね。役というのは、相手を受けることで生まれるものだと思っています。監督や、スタッフ、共演者を感じて役は生まれてくる。役を作るのは、その作品を観た観客の方々です。観た人それぞれの人生の価値観で、その役を捉えていく。役を作るのはお客さんなんじゃないかな。僕が演じているミルヒーは、「のだめ」の原作に出てくるキャラクターとはまったく違っていた。それを役として受け入れてくださった方がいてくださったからまたこうして続けられたんだと思います。
そう思うようにしています(笑)。

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- 2年前のミュージカル初演、そして今回の舞台で共演する若い俳優たちについて思うことは?
- 竹中 「10年早い」みたいな言葉を使うのは大嫌いです。みんなそれぞれ個人というものを持っている。僕は、人と人との関係は尊敬から始まると思っています。年齢やキャリアなんて関係なく、「この人素敵だな」っていう気持ちが作品作りに繋がってゆく。
2年前のミュージカルを一緒につくった時、みんな人間的に素直な方たちだなと思いました。「のだめ」のドラマは多くの人から支持を受けているだけに、「このキャラクターはこの人じゃなきゃダメ」って思われることも多いはずだけど、みんなその事実を素直に受け入れててね、僕にはそんなみんながとてもキラキラして見えました。楽屋にいる時も、みなさん可愛いです(笑)。役者って屈折してるほうが面白かったりすることもあるのですが彼らはとてもピュアです。素敵な俳優たちが集まったと思っています。
- コンサートバージョンの見どころを聞かせてください。
- 竹中 あの「のだめ」がコンサートに、しかも東京フィルハーモニー交響楽団の生演奏で!っていうのはすごいことですよね! でも見どころはどこかと聞かれたら「ない」って言いますね。僕たちは一部だけじゃなくて、全部を楽しんでもらうために舞台を作っていますからね。あえて言うなら、見どころは全部です。見どころはこの作品を観て感動した人が、このシーンが素敵だったって誰かに伝えたいと思うことが、「見どころ」であって、いつの間にか定番になった「見どころ」っていつも何それ??って思っちゃいます。見どころは僕たちじゃなくて、観に来てくださったみなさんが作るものじゃないかな。ぼくはひねくれてますね。

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竹中さんに3つのquestion!

- ものまねを始めたきっかけは?

- 自分に対するコンプレックスが強かった。自分じゃない人間になりたいといつも思っていました。そのためにはどうしたら良いのかといつも考えていました。ものまねは大好きだったし、自分以外の人間になれる。だから役者の世界に憧れたんです。

- 竹中さんにとって映画監督という仕事は?

- 映画を作るのはとても楽しいです。そして僕の夢です。音楽も美術も衣裳もキャスティングもすべて自分の好きな世界に作れます。とても魅力的な仕事です。映画監督はとても贅沢なお仕事です。

- 迷うことはありますか?

- 迷うのは人間として当たり前でしょう? それでもなんとか生きていかなきゃいけないし、残された時間ももうそんなに長くない。だから迷わないようにしています。食事の注文をする時も迷わない! お店の人に迷惑かけたくないですからね(笑)。

竹中直人 Naoto Takenaka
1956年3月生まれ、神奈川県出身。高校時代から自作映画を撮り始める。多摩美術大学芸術学部デザイン科でグラフィックデザインを学ぶかたわら、ものまね芸を披露したり、8ミリ映画の制作に着手。大学卒業後に劇団青年座に入団。デビュー後はドラマ、映画、舞台など多くの作品に出演。映画『Shall we ダンス?』では日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞。初監督作品となった映画『無能の人』では主演も務め、ヴェネツィア国際映画祭にて国際批評家連盟賞を受賞した。ミュージシャンとしても活動し、インディーズを含む多くのCDを制作。2017年には玉置浩二が全作曲を担当したアルバム「ママとカントリービール」をリリースしている。©Shoko Matsuhashi
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公演情報
「ミュージカル『のだめカンタービレ』 シンフォニックコンサート!」

- あらすじ
- 音楽大学のピアノ科に在籍しながら指揮者を目指すエリート学生・千秋真一は、ある日、酔って自宅の前で眠ってしまう。目覚めるとゴミの山と悪臭が漂う部屋にいて、そこで美しいピアノソナタを奏でる女性と出会う。彼女の名前は野田恵(通称・のだめ)。千秋と同じマンションの隣室に住み、同じ音大のピアノ科に在籍していたのだった。千秋はのだめの中に秘めた天賦の才を感じ取り、いっぽうのだめは千秋の外見と音楽の才能に憧れ、彼にまとわり付くようになる。過去のトラウマから千秋は将来に行き詰まりを感じていたが、のだめとの出会いをきっかけに音大の変人たちや運命を変える指導者に出会い、音楽の楽しさを思い出しながら、指揮者への道を一歩一歩、切り拓き始める。のだめも千秋から大きな刺激を受け、新しい環境でピアノに励み、それぞれ成長して行くのだが-。
東京公演
【日程】2025年9月13日(土)~9月15日(月・祝)
【会場】TOKYO GARDEN THEATER(東京ガーデンシアター)
【キャスト】
野田 恵:上野樹里
千秋真一:三浦宏規
峰 龍太郎:松島勇之介/有澤樟太郎/高橋健介(日替出演・出演日順)
三木清良:華 優希/清水美依紗(日替出演・出演日順)
奥山真澄:大久保祥太郎
黒木泰則:竹内將人
江藤耕造:なだぎ武
フランツ・フォン・シュトレーゼマン:竹中直人 ほか
ゲストピアニスト:石井琢磨
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
指揮:田邉賀一
【スタッフ】
原作:二ノ宮知子「のだめカンタービレ」(講談社「Kiss」所載)
作詞・上演台本・演出:上田一豪
音楽:和田 唱
クラシック音楽監修・指揮指導:茂木大輔
◆公式サイトはこちら