バレエを楽しむ バレエとつながる

PR
  • 観る
  • 知る
  • PR

【9/19から公開! 英国ロイヤル・バレエ「バレエ・トゥ・ブロードウェイ」】「トゥー・オブ・アス」カルヴィン・リチャードソン インタビュー~僕たちは記憶の断片を覗くように踊る

若松 圭子 Keiko WAKAMATSU

「バレエ・トゥ・ブロードウェイ」より「トゥー・オブ・アス(ふたり)」カルヴィン・リチャードソン ©2025 Johan Persson

ロンドンのコヴェント・ガーデンにある歌劇場「ロイヤルオペラ・ハウス」で上演されたバレエとオペラを映画館で鑑賞できる「英国ロイヤル・バレエ&オペラ in シネマ」。臨場感のある舞台映像はもちろん、開演前や幕間にはリハーサルの特別映像や舞台裏でのスペシャル・インタビューを楽しめるのも、“映画館で観るバレエ&オペラ”ならではの魅力です。

2024/25シーズンのラインアップはこちら

2025年9月19日(金)から9月25日(木)までの1週間、TOHOシネマズ日本橋ほか全国の劇場で公開されるのは、英国ロイヤル・バレエによる「バレエ・トゥ・ブロードウェイ」です。

バレエからミュージカルまで幅広い作品を手掛ける振付家、クリストファー・ウィールドンの作品から『フールズ・パラダイス』『トゥー・オブ・アス(ふたり)』『Us(僕たち)』『パリのアメリカ人』の4本が上演されます。

今回は『トゥー・オブ・アス(ふたり)』に出演するプリンシパル、カルヴィン・リチャードソンに話を聞きました。

カルヴィン・リチャードソン Calvin Richardson
オーストラリア出身。5歳でダンスを始める。14歳でからビクトリアン・カレッジ・オブ・アーツ・セカンダリー・スクールに入学、バレエを学ぶ。2012年ローザンヌ国際バレエコンクールでファイナリストに選ばれ、英国ロイヤル・バレエ・スクール・アッパースクールに入学。2014年英国ロイヤル・バレエ入団。2021年ファースト・ソリスト、2024年プリンシパルに昇格。 ©Andrej Uspenski

昨年、プリンシパルに昇格した時はどんな気持ちでしたか?
プリンシパルに昇格した時は感動の一言でした。この夢をかなえるために長い時間を費やしてきましたから。嬉しさでいっぱいになったと同時に、最初は少し怖さも感じました。
昇格後、仕事への向き合い方に変化はありましたか?
ファースト・ソリストの時も主要な役を踊るチャンスはありましたが、その回数は「シーズン一番のハイライト」と呼べるほどわずかでした。プリンシパルになるとそこが一転して、毎回主役クラスを演じることになります。その変化を身体に落とし込むために、プリンシパル昇格1年目は少し視野を狭めて、目の前のことだけに集中するように心がけました。嬉しいことに、『シンデレラ』の王子や、『オネーギン』のレンスキーなど、多くの素晴らしい役でデビューする機会をいただきました。充実したシーズンを過ごせたと同時に、芸術性とプロフェッショナルさを貫いているプリンシパルたちへのリスペクトの気持ちをより抱くようになりました。

「バレエ・トゥ・ブロードウェイ」より「トゥー・オブ・アス(ふたり)」

「バレエ・トゥ・ブロードウェイ」の『トゥー・オブ・アス(ふたり)』に出演が決まった時の気持ちは?
僕はジョニ・ミッチェルの音楽の大ファンなんです。だから彼女の音楽で踊れるのは嬉しかったですね。『トゥー・オブ・アス』は、ふたりだけで踊る作品です。パートナーのローレン・カスバートソンとは、クリストファー・ウィールドンの『ストラップレス』や『冬物語』でも共演してきました。これまでにたくさんの小さな瞬間を一緒に積み重ねてきた彼女と、この作品を踊れることにワクワクしました。
この作品の中で、とくに好きなポイントを教えてください。
現代的な作品ですから、リアルな視点でアプローチできるのはダンサーにとって魅力のひとつ。そしてなんといっても、ジョニ・ミッチェルの音楽と歌詞で世界が描かれているところです。ステージでは歌手のジュリア・フォーダムがライブで歌うんですよ。生歌でパフォーマンスできるだけでも光栄なのに、舞台上にオーケストラも入り、僕たちは音楽をすぐ近くで感じながら踊るんです! 『トゥー・オブ・アス』は、僕の中で特別な位置を占める作品のひとつになりました。
この作品はジョニ・ミッチェルの曲ごとに4つのシーンに分かれ、それぞれがソロまたはデュエットで構成されています。リチャードソンさんがいちばん好きなのはどの場面ですか?
もちろん、ローレンとのデュエットです。4曲目の「Both Sides Now」が流れる場面ですね。全体がゆっくりとした動きなので、お互いにじっと見つめ合ったり、アイコンタクトを取ったりと、ふたりで物語を紡いでいくことができます。
ローレン・カスバートソンさんはどんなダンサーですか?
ローレンはスーパースターで、僕にとってはハリウッドの華やかな魅力そのもの。そんな彼女と踊っていると、特別な気持ちになります。
ジョニ・ミッチェルの歌詞からは、どんなインスピレーションを受けましたか?
ローレンと僕の作品の解釈は少し違っているところもあって、それもまた、この作品の魅力だと思います。振付のクリストファー・ウィールドンともよく語り合いました。デュエットの冒頭で、揺れながら前後にステップを踏むところがありますが、その動きは最後に逆向きで繰り返されます。彼はそのムーブメントを「記憶の中を進み、そして戻ってくるようなイメージ」だと言いました。それを聞いた時、僕には、男と女が違うレンズを通して同じドラマを見ているイメージと、四季の風景が浮かびました。4つの歌詞には男と女それぞれの人生が描かれていて、季節が移り変わるようにふたりの関係も変化していく、といったような。これはあくまで僕の解釈なので、もしかしたらまったく違うかもしれませんが。

「バレエ・トゥ・ブロードウェイ」より「トゥー・オブ・アス(ふたり)」ローレン・カスバートソン ©2025 Johan Persson

リハーサルで印象に残っているエピソードを聞かせてください。
最初の頃、僕たちはジョニ・ミッチェルの歌が録音された音源を使って稽古をしていました。歌をよく聴いて、動きのアクセントをどの音にはめ込むか探しながら踊っていたのですが、後半、ジュリア・フォーダムが稽古場に参加するようになり、生声でリハーサルが始まると、ちょっとした変化が起きました。ジュリアはジョニの音楽に彼女なりの解釈を持っているので、同じ歌でも違いがある。だから、僕たちがアクセントをはめ込む部分もおのずと変わってくるんです。歌詞や振付を再解釈し、踊りに反映させていくプロセスは興味深く、なかなかチャレンジングでもありました。なぜなら、ダンサーはひとつの方法に慣れてしまうものだから。やり方を変えるためには少し距離を置いて考え直し、ゼロから組み立てていく必要が出てきます。
4曲目「Both Sides Now」のラストシーン、デュエットを踊っていたふたりはそれぞれ右と左に分かれて立ち去ります。袖に消える直前、ふと互いに振り返り視線を交わせますが、あの時はどんな気持ちですか?
人生の過程では、何かを求めて手を伸ばしてみたものの、思っていたものとは違ったと気づくことがあります。歌の中に何度も繰り返される「I really don’t know life at all(人生について、私は何も知らない)」というフレーズがありますが、ここはそんな瞬間を切り取ったシーンだと思います。ローレンと目が合うあの瞬間は、少しだけメランコリックに「さよなら」を告げるような気持ちであり、いっぽうでお互いを大事に思い、繋がり合う恋人同士のような思いでいっぱいにもなります。それはウィールドンが言ったように、記憶の断片にズームインし、またズームアウトしていくような感覚とも似ています。

「バレエ・トゥ・ブロードウェイ」より「トゥー・オブ・アス(ふたり)」ローレン・カスバートソン、カルヴィン・リチャードソン

リチャードソンさんのキャリアについても聞かせてください。どういう経緯でバレエダンサーになったのでしょうか?
僕はオーストラリアの田舎、ビクトリア州の地方で育ちました。心はカントリーボーイですね(笑)。僕の学校で踊りを学んでいる男の子は2人しかいませんでした。僕には2人の姉がいて、学校が休みの時は、地元のEisteddfod(エイステズヴォッド)と呼ばれる芸術関係のコンクールに一緒に出たりしていました。僕たちはジーン・ケリーのミュージカルを観て育ったんです。ミュージカルの舞台を観るために、家族でメルボルンまで出かけることもありました。僕のインスピレーションの源はミュージカルで、バレエは僕がやってみたいことを手助けするためのもの、という位置づけでした。

メルボルンのビクトリアン・カレッジ・オブ・アーツ・セカンダリー・スクールに入学してからは、バレエを中心としたプログラムを学びました。振付も始めましたし、コンテンポラリーダンスやアクロバットも経験しましたが、少しずつバレエに夢中になってきて。それまではバレエもミュージカルもコンテンポラリーも、やりたいものは全部やる! それが僕のやり方でした。でもバレエをやるなら専念したほうがいい、とバレエスクールを探すことに。その時はまだイギリスに来るなんて思いもしませんでしたし、ましてやロイヤル・バレエ・スクールなんて、自分には手の届かないものだと思っていました。

「バレエ・トゥ・ブロードウェイ」より「トゥー・オブ・アス(ふたり)」

今でも思い返してみると、どうやってこうなったんだろうと、自分でも驚きです。この芸術に身を捧げることができて、本当に恵まれていると感じています。僕はほかのバレエダンサーとは違って、小さな頃からバレエのビッグスターの映像を観たり、憧れたりした経験はありません。でもそのおかげで、バレエのすべてを新鮮な目で見ることができたし、いろいろなことを柔軟に吸収することができたのかもしれません。

ロイヤル・バレエのようなカンパニーにいることができて僕は本当に幸運です。なぜなら、クラシック・バレエに限らず、本当に多様なジャンルのダンスを踊ることができるから! 入団する前は、こんなに幅広いレパートリーを踊れるとは思ってもいませんでした。『不思議の国のアリス』ではマッドハッターでタップを披露する機会をもらえました。そしてクリストファー・ウィールドンをはじめ、ウェイン・マクレガー、クリスタル・パイト、ホフェッシュ・シェクターといった振付家の作品に関われることも嬉しい。

僕の目標は、パートナーから安心して任せられると感じてもらえるダンサーになること。そしてお客さまにも、安心して観ていられる踊りをお届けすることです。カンパニーのダンサーたちからは、いつも刺激をもらっていますし、この仕事をするうえで関わるすべての人たちに、今は感謝の気持ちでいっぱいです。

上映情報

英国ロイヤル・バレエ&オペラ in シネマ 2024/25
ロイヤル・バレエ「バレエ・トゥ・ブロードウェイ」

「バレエ・トゥ・ブロードウェイ」より「パリのアメリカ人」 ©2024 Sebastian Nevols

2025年9月19日(金)~9月25日(木)TOHOシネマズ 日本橋 ほか1週間限定公開
★上映館、スケジュールなど詳細は公式サイトをご確認ください

(2025年5月22日上演作品/上映時間:2時間31分)

【プログラム】
『フールズ・パラダイス』
出演:
高田茜、ウィリアム・ブレイスウェル、マリアネラ・ヌニェス、ルーカス・B・ブレンツロド、ヴィオラ・パントゥーソ、リアム・ボズウェル、テオ・デュブレイユ、アネット・ブヴォリ、ジャコモ・ロヴェロ

振付:クリストファー・ウィールドン
音楽:ジョビー・タルボット
衣裳:ナルシソ・ロドリゲス
照明デザイン:ペニー・ジャコバス
ステージング ジェイソン・フォウラー
ゲスト振付家へのシニア・レペティトゥール:ディアドラ・チャップマン

『トゥー・オブ・アス(ふたり)』
出演:ローレン・カスバートソン、カルヴィン・リチャードソン

歌唱:ジュリア・フォーダム
振付:クリストファー・ウィールドン
音楽:ジョニ・ミッチェル
( I Don’t Know Where I Stand,  Urge for Going(アージ・フォー・ゴーイング),  Both Sides Now(青春の光と影), You Turn Me on I’m A Radio(恋するラジオ))
衣裳:ハリエット・ユング、リード・バルテルミ
照明デザイン:ナターシャ・カッツ
主演指導:ロビー・フェアチャイルド、ゼナイダ・ヤノウスキー

『Us(僕たち)』
出演:マシュー・ボール、ジョセフ・シセンズ

振付:クリストファー・ウィールドン
音楽:キートン・ヘンソン
衣裳:キャサリン・ワット
照明デザイン:ナターシャ・カッツ
リハーサル・ディレクター:クリストファー・サンダース
主演指導:スチュアート・キャシディ、ディアドラ・チャップマン、ロビー・フェアチャイルド、マイケル・ナン、ウィリアム・トレヴィット

『パリのアメリカ人』
出演
リーズ:フランチェスカ・ヘイワード
ジェリー:セザール・コラレス
ロイヤル・バレエのアーティストたち

振付:クリストファー・ウィールドン
音楽:ジョージ・ガーシュウィン
美術:ボブ・クロウリー
照明デザイン:ナターシャ・カッツ
ステージング:ダスティン・レイトン
リハーサル・ディレクター:クリストファー・サンダース
主演指導:ジャクリーン・バレット
シニア・レペティトゥール:サマンサ・レイン

この記事を書いた人 このライターの記事一覧

NEWS

NEWS

最新記事一覧へ