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ロンドンのコヴェント・ガーデンにある歌劇場「ロイヤル・オペラハウス」で上演されたバレエとオペラを映画館で鑑賞できる「英国ロイヤル・バレエ&オペラ in シネマ」 。臨場感のある舞台映像はもちろん、開演前や幕間にはリハーサルの特別映像や舞台裏でのスペシャル・インタビューを楽しめるのも、“映画館で観るバレエ&オペラ”ならではの魅力です。
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2025年1月17日(金)から1月23日(木)までの1週間、TOHOシネマズ日本橋ほか全国の劇場で公開されるのは、英国ロイヤル・バレエによる『不思議の国のアリス』 です。
バレエのみならず数々のミュージカルも手掛ける振付家クリストファー・ウィールドンと、映画音楽の作曲家として知られるジョビー・タルボットがタッグを組み、トニー賞受賞者のボブ・クロウリーが美術を担当。ユニークなキャラクターたちの活躍や独創的な舞台美術なども楽しい、世界中で愛されている大ヒット作です。
英国ロイヤル・バレエ「不思議の国のアリス」
主演は映画『ロミオとジュリエット』でもパートナーを組んだ2人のプリンシパル、フランチェスカ・ヘイワード とウィリアム・ブレイスウェル 。そして本作の大人気キャラクター、マッドハッター役を演じるのは、スティーヴン・マックレー です。ウィールドンが彼のために振付けたというこの役は、華麗なタップが最大の見どころ。怪我から復帰し、今回の上演でも圧倒的なパフォーマンスを見せているスティーヴン・マックレーに話を聞きました。
スティーヴン・マックレー Steven McRae オーストラリアのシドニー生まれ。2003年にローザンヌ国際バレエコンクールのスカラシップを得てロイヤル・バレエ・スクール(ホワイト・ロッジおよびアッパー・スクール)に入学。2004年に英国ロイヤル・バレエ入団。2005年にファースト・アーティスト、2006年にソリスト、2008年にファースト・ソリスト、2009年にプリンシパルに昇格した。© Johan Persson
Story
オックスフォードにある大学教授の娘アリス一家の自宅でガーデンパーティが開催されようとしている。アリスは仲良しの庭師のジャックに贈られた薔薇のお礼に、ジャムタルトをプレゼントする。だが、タルトを盗んだとアリスの母に責められてジャックはクビになってしまう。悲しむアリスを一家の友人である数学者ルイス・キャロルが慰めて写真を撮ろうとしたところ、彼は白うさぎに変身する。追いかけたアリスがうさぎ穴を降りてたどり着いたのは、アリスの母にそっくりで暴虐の限りを尽くすハートの女王が支配する不思議の国だった。ここでも女王のジャムタルトを盗んだ罪で処刑されそうになっているハートの騎士ジャックを救おうと、アリスの奇想天外な冒険が始まる。
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第2幕の幕開け、テーブルの上で鮮やかなタップを披露し、観客の心を掴むマッドハッター。演じる時に心がけていることはありますか?
マッドハッターは私のためにクリストファー・ウィールドンが作ってくれた特別な役。とても光栄ですし、大切に演じています。
踊るたびに、自分がオーケストラの一部になったように感じます。タップダンスの靴音はノイズではありません。弦楽器やパーカッションと共鳴し、脚を楽器のように使ってリズムを奏でるもの。クラシック・バレエと同じように音楽を感じて楽しみながら踊っています。
マックレーさんが演じるマッドハッターのステップは、ときに台詞を語っているように聞こえます。役柄をどのようにタップダンスで表現していますか?
タップダンスを踊ると、まるで喋っているかのように感じられますよね。つまり、靴音は私の声なんです。喋る時に、一つひとつの言葉をきちんと発音しないと通じないことがあります。それと同じように、タップを踊る時も、一つひとつのステップで音を正確に出さなければいけません。さらに話し方に抑揚をつけるように、靴音にアクセントをつけて鋭くしたり、時には柔らかくしたりと強弱をつけています。
マックレーさんの足さばきは、難しい振付でもとても軽やかで楽しく、息をするような自然さが感じられます。バレエの時と比較して、タップを踊る時にとくに意識している身体の使い方はありますか?
マッドハッターのタップダンスにはクラシック・バレエの要素もあるので、タップとバレエの部分をうまくつなぎ合わせてバランスを取るテクニックがとても難しいんですよ。みなさんご存じの通り、バレエは上に身体の重心を引き上げますが、タップダンスは靴で音を出すために下に重心を取ります。踊りの中でちょうどいいバランスを見つけるのが大変なのですが、私はこのチャレンジを心から楽しんでいます。
英国ロイヤル・バレエ「不思議の国のアリス」
振付家のクリストファー・ウィールドンさんとは、どのようにマッドハッターの役作りをしましたか?
最初に振付のクリストファーと音楽のジョビー・タルボットと一緒にセッションを行い、クリスが歌うリズムに合わせ、即興のようにしてさまざまなフットワークを見せました。それに対してクリスから指示をもらい、少しずつ変化を加えながら、マッドハッターの振付が作られました。
マッドハッターをどんな人物だと考えますか?
マッドハッターは、言いたいことを我慢せずに言ってしまうような自由な人です。物事を深く考えたり、言葉を飲み込んだりすることがありません。きっと彼は素直な子どもの心を忘れていないのだと思います。そうやって大人の私たちに、「生きているとエキサイティングなことも起これば、ストレスを感じることもある。ときには間違えたっていい。とにかく楽しまなきゃ」と語りかけてくる。人生はそんなものだと思い出させてくれるキャラクターです。
マッドハッターは騒がしくて、他人の意見に左右されないように見えるけれど、じつは寛大な心を持っています。彼はアリスの役に立ちたい、アリスを守りたいと思っているんですよ。
初演から再演へと回を重ねるなかで、役の捉え方が変化したと感じる部分はありますか?
マッドハッターを演じるたびに、役へのアプローチが変わります。たとえばロミオを演じる時も同じで、ジュリエットがどんなまなざしを向けてくるかによって、交わす視線も見つめる表情も違うものになります。自分の経験やキャリアで培ってきたものが役に反映されるので、演じるたびに変化していくんです。
マッドハッター役においては、とくにアリス役のダンサーに合わせて、異なるアプローチで役作りをしています。初演の時は、ローレン・カスバートソンとサラ・ラムが僕のアリスでしたが、それぞれまったく違いました。今回はフランチェスカ・ヘイワードと、この役でデビューするエラ・ニュートン・セヴェルニーニと共演しています。
英国ロイヤル・バレエ「不思議の国のアリス」
全幕を通してとくに好きなシーンはありますか?
第2幕でマッドハッターが登場する場面はとても印象的でアイコニック。カーテンが上がるとステージの上にマッドハッターがいる光景は、クールですよね。でもあの場面は踊り手からすると、みなさんが見ているよりもずっと大変なんです。じつは舞台がとても狭いうえに滑りやすい。そのなかでさまざまな演技をしながら、自分のタップの靴音をオーケストラと合わせなければいけません。いつも「大丈夫。なるようになるさ」と思いながら演じています。
膝の怪我のあと、治療やリハビリを重ねて、『不思議の国のアリス』で復帰となりました。あらためて舞台に立ったときの気持ちを教えてください。
何度か怪我と向き合ってきたなかでも今回は大きな手術が必要で、すぐに回復できるものではありませんでした。ですから、舞台への復帰は大きなチャレンジでした。医学の進歩のおかげで怪我から復帰できたこの経験が、次世代のダンサーたちにも希望を与えることができると思っています。
私にとって舞台に立つことはひとつの祝福です。私はバレエが大好きで、この美しい芸術を心から愛し、情熱を注いでいます。バレエダンサーの仕事は、大変だけれどとても美しいものです。
マックレーさんが考える『不思議の国のアリス』の魅力とは?
子どもから大人まで誰もが楽しめること。小さな子どもだけではなく、ルイス・キャロルの原作を何十年も前に読んだような人でも、きっと童心に返れる作品だと思っています。そして演出やキャラクターたちのやり取りに、演劇的な要素が強いところも魅力です。
この作品は、舞台美術や衣裳のデザインも素晴らしい。昔から使われている伝統的な舞台技術を継承しつつ、最新のプロジェクションマッピングなども取り入れて、それらを見事に融合させています。場面転換も多く、作品全体がお祭り騒ぎのようなにぎやかさがあってスペクタクルな作品。だからこそ、『不思議の国のアリス』が世界中で上演され、みなさんに愛されているのだと思います。
ぜひ、バレエダンサーを目指している子どもたちにメッセージをお願いします。
国を問わず、バレエダンサーになりたい人に伝えたいのは、夢を信じてほしいということ。希望を持ち、つねに心を開いて、スポンジのようにたくさんのことを吸収してほしい。この『不思議の国のアリス』という作品も、夢や希望にあふれていますよね。
それと同時に「自分でいること」を大切にしてもらいたいと思います。あなたは世界に一人しかいないのだから。ほかの人の真似をせずに、自分にしかないユニークな部分を伸ばしながら学んでいってください。
英国ロイヤル・バレエ「不思議の国のアリス」
上映情報
英国ロイヤル・バレエ&オペラ in シネマ 2024/25
ロイヤル・バレエ『不思議の国のアリス』
2025 年1月17日(金)~1月23日(木)TOHOシネマズ 日本橋 ほか1週間限定公開
★上映館、スケジュールなど詳細は公式サイト をご確認ください
【キャスト】
アリス:フランチェスカ・ヘイワード
庭師ジャック/ハートのジャック:ウィリアム・ブレイスウェル
ルイス・キャロル/白うさぎ:ジェームズ・ヘイ
アリスの母/ハートの女王:ローレン・カスバートソン
アリスの父/ハートの王様:ベネット・ガートサイド
手品師/マッドハッター:スティーヴン・マックレー
ラジャ/イモ虫:ニコル・エドモンズ
公爵夫人:ギャリー・エイヴィス
牧師/三月うさぎ:中尾太亮
聖堂番/眠りねずみ:ソフィー・アルナット
料理女:クリステン・マクナリー
召使/魚:レオ・ディクソン
召使/カエル:五十嵐大地
アリスの姉妹:マリアンナ・ツェンベンホイ、ボミン・キム
執事/首切り役人:ケヴィン・エマートン
3人の庭師:ハリー・チャーチス、ジョシュア・ジュンカー、マルコ・マシャーリ
俳優:レイン・デ・ライ・バーネット、ダミアン・リー・スターク、ダニエル・スワン
【振付】クリストファー・ウィールドン
【音楽】ジョビー・タルボット
【指揮】クン・ケッセルズ
【編曲】クリストファー・オースティン、ジョビー・タルボット
【美術】ボブ・クロウリー
【台本】ニコラス・ライト
【照明デザイン】ナターシャ・カッツ
【映像デザイン】ジョン・ドリスコル、ジェマ・キャリントン
【演出】クリストファー・サウンダーズ、エリザベス・トゥーヒー
【ゲスト主役演出家】ジリアン・ヴァンストーン
【シニア・レペティトゥール】ギャリー・エイヴィス、サマンサ・レイン
【レペティトゥール】シアン・マーフィー
【プリンシパル指導】サミラ・サイディ、エドワード・ワトソン、ゼナイダ・ヤノウスキー
【管弦楽】ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団
【プリンシパル・ゲスト・コンサート・マスター】ヴァスコ・ヴァシリエフ