バレエを楽しむ バレエとつながる

  • 観る

【2/18公開!】英国ロイヤル・バレエ「くるみ割り人形」アクリ瑠嘉インタビュー “この役には、自分で物語を作っていく楽しさがある”〜英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2021/22

阿部さや子 Sayako ABE

英国ロイヤル・オペラ・ハウスで上演されたバレエとオペラの舞台+特別映像を映画館で楽しめる人気シリーズ「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2021/22」がまもなくスタート!

2022年2月18日(金)~7月21日(木)までの期間中、全6演目が各1週間限定で全国公開されます。

2022年2月18日(金)〜24日(木)の1週間上映されるのは、英国ロイヤル・バレエの大人気演目であるピーター・ライト版『くるみ割り人形』
このライト版『くるみ割り人形』は、ストーリーそのものにユニークな特徴があります。

手品師で発明家のドロッセルマイヤーは、王室でねずみをやっつける罠を発明。ところがそれに怒ったねずみの女王は、ドロッセルマイヤーに復讐します。彼の甥のハンス・ピーターに呪いをかけて、くるみ割り人形の姿に変えてしまうのです。呪いを解く方法は、くるみ割り人形がねずみの王様を倒すこと。そして彼の外見に関わらず、自分を愛してくれる娘に出会うことーー。

英国ロイヤル・バレエ「くるみ割り人形」ドロッセルマイヤー:クリストファー・サウンダーズ © 2021 ROH. Photograph by Foteini Christofilopoulou

今回シネマ上映される舞台では、日本出身のダンサーたちも大活躍。まずは主役のひとりであるくるみ割り人形/ハンス・ピーター役を演じているアクリ瑠嘉。また花のワルツをリードするローズ・フェアリー役の崔由姫や、ヴィヴァンデール役の佐々木万璃子が華やかなソロを披露しています。そして前田紗江、佐々木須弥奈、五十嵐大地など期待の日本人ダンサーたちの姿も随所で観ることができるのでぜひチェックを。

今回は、くるみ割り人形/ハンス・ピーター役のアクリ瑠嘉さんに特別インタビュー! 作品の見どころや役のこと、英国ロイヤル・バレエのファースト・ソリストとして活躍する現在の思いなどについてお話を聞きました。

アクリ瑠嘉(英国ロイヤル・バレエ ファースト・ソリスト) ©Johan Persson

🎄

英国ロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』のくるみ割り人形/ハンス・ピーター役と言えば、とにかく全編にわたって出ずっぱり、踊りも演技もたっぷりの役ですね。
アクリ このライト版『くるみ割り人形』は、クララとくるみ割り人形が最初から最後まで物語を作っていくという素晴らしさがあって、そこが僕らとしても最高に楽しいところです。もちろん大変といえば大変で、僕の場合はとくに第1幕。登場するとすぐにねずみの王様たちとのバトルシーンがあって、クララとのパ・ド・ドゥがあって、さらに雪の精たちのシーンでも一緒に踊って……と、本当にノンストップです。でも、だからこそ楽しいんですよね。ずっと舞台に出ていられる充実感や、幕が下りた瞬間に感じる達成感は格別です。
くるみ割り人形/ハンス・ピーターは、例えば王子とも違うし『コッペリア』のフランツみたいな村の青年とも違う、独自の個性や雰囲気を持つ役どころですね。この役ならではの難しさや、踊る上で大事にしなくてはいけないことはありますか?
アクリ おっしゃる通りで、僕はプリンスと村人のちょうど中間くらいの雰囲気を持つ存在だと考えていますね。そしてそういうキャラクター性の違いを、踊りそのものでいかに表現できるか。その役の個性をどれだけ出して踊れるかに、いつも心を配っています。とくに、ねずみの王様との戦いが終わってくるみ割り人形の仮面が外れ、初めてハンス・ピーターとして踊り始めるところは、とてもクラシカルでアカデミックな振付。王子のようにクリーンかつエレガントな美しいラインを描きつつ、青年らしいエネルギーを出して踊ることを強く意識しています。
「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン」は開演前や休憩時間に舞台裏の様子やダンサーインタビューなどを楽しめるのも大きな魅力で、今回の上映では嬉しいことに瑠嘉さんのインタビュー映像も見られます。その中で瑠嘉さんは、「ハンス・ピーターは呪いによってくるみ割り人形の中に閉じ込められていた」のだと。そして仮面が取れてクララとのパ・ド・ドゥに入っていくシーンは「僕が初めてハンス・ピーターとしてクララに出会う場面だ」と語っています。
アクリ そうなんです。だから、自分を閉じ込めていた仮面が外れて、ハンス・ピーター自身に戻るところは、やっぱりこの役の一番のハイライトかなと思います。曲も最高ですし!

英国ロイヤル・バレエ「くるみ割り人形」第1幕より クララ:イザベラ・ガスパリーニ、ハンス・ピーター:アクリ瑠嘉 ©2020 ROH. Photograph by Emma Kauldhar

その時……ハンス・ピーターとして初めてクララに出会った時、瑠嘉さんはどんな気持ちで踊っているのでしょうか?
アクリ そうですね……彼女に対する「愛」でしょうか。愛と言っても、それは必ずしも恋愛的な意味ではなくて。ハンス・ピーターにとって、クララは自分を助けてくれた人です。自由になった喜びの中で、真っ先に彼女の姿を探して、自分自身に戻った僕の踊りを彼女に観てもらいたいという気持ちで踊っています。

あのパ・ド・ドゥは技術的にはとても難しいですし、ましてやその直前がねずみたちとの戦いで、心身ともにテンションはハイパーに高まっている状態なんですね。それを一気に押さえ込んで、あの静かで美しい世界へと空気を一変させなくてはいけないわけですから、やはりどうしても緊張はしてしまいます。でも、もう何度も踊ってきた役ですし、いつも「大丈夫、僕はできる」と自分に言い聞かせながら演じています。

もうひとつ、瑠嘉さん演じるハンス・ピーターには、とてもおもしろい場面があります。それは第2幕の冒頭、お菓子の国に到着したハンス・ピーターが、金平糖の精や王子に「ここに来るまでにはこんなことがあったんです!」とマイムで説明するくだりです。あのマイムの演技で大切にしていることは?
アクリ ロイヤル・バレエは演劇的なバレエを得意とするバレエ団で、僕らが普段やっているのは「舞台用のマイム」や「ポール・ド・ブラで語るマイム」というよりも、リアルな人間が日常生活のなかで普通にやっている身振り手振り、みたいなものが多いんですよ。でもハンス・ピーターの場合は、まさに舞台用の、振付としてのマイムです。しかも第1幕で何が起こったのかを、たった1〜2分のマイムと踊りで伝えなくてはいけません。だからとにかく動きをはっきりと、明確に見せることが大事。ステップは難しいのですが、あまりそこにとらわれないように、物語をきちんと伝えることに集中していますね。

英国ロイヤル・バレエ「くるみ割り人形」第2幕より ハンス・ピーター:アクリ瑠嘉 ©2021 ROH. Photograph by Foteini Christofilopoulou

あの場面の瑠嘉さんのマイムは、とても音楽的でもあると感じました。
アクリ 嬉しいです。とくにあのマイムの場面は、音楽にぴたりと合う振付になっていますからね。僕はいついかなる時も、音楽をいちばん大切にして踊っています。音楽があるから、僕は踊ることができる。音楽に踊らせてもらっていると言ってもいいくらいです。
音楽と言えば、まさに『くるみ割り人形』はまさに名曲の宝庫。全曲の中でとくに好きな楽曲はありますか?
アクリ やはり、第1幕でクララと僕が踊るパ・ド・ドゥの曲(「松林の踊り」)と、第2幕の「金平糖の精と王子のグラン・パ・ド・ドゥ」の音楽が大好きです。とくにグラン・パ・ド・ドゥの曲については、「あんなに素晴らしい音楽が生まれることは、もう永遠にないんじゃないかな?」と思うほどです。あの場面を迎える時、クララとハンス・ピーターはもう自分たちの出番はほぼ終わっていて、金平糖の精と王子が踊るのをただ舞台前方に座って観ているだけなんです。何しろ、オーケストラピットがすぐ下にありますからね。いろいろな楽器の音色が重なり合って、大音量で響いてくる名曲を聴きながら、プリンシパルたちの踊りを特等席で楽しめるという……まさに最高のもてなしを受けている、至福の場面です(笑)。

英国ロイヤル・バレエ「くるみ割り人形」第2幕より 金平糖の精と王子のグラン・パ・ド・ドゥ 金平糖の精:ヤスミン・ナグディ、王子:セザール・コラレス ©2021 ROH. Photograph by Foteini Christofilopoulou

瑠嘉さんは『ロミオとジュリエット』のマキューシオや『マノン』のレスコーなど演劇的な作品や役でも高く評価されていますが、この『くるみ割り人形』のように純粋なクラシック作品も好きですか?
アクリ 大好きです。でも、本当に難しいとも思います。身体を極限まで使って究極の美を表現しなくてはいけないのがクラシック・バレエですから。
2012/2013シーズンにロイヤル・バレエに入団して、約10年が経ちますね。ここまでを振り返って、率直にどんな思いが浮かんできますか?
アクリ 僕はとてもいい時に入団して、いい経験をたくさんさせてもらってきたなと思います。入団当時はモニカ・メイソン前監督時代を背負ってきたダンサーたちがまだ現役で踊っていらしたんですね。そうした偉大な先輩方の踊りや演技を必死に見て学ぶことができたから、いまの僕があると言えます。そしてまさにこの10年ほどの間に、バレエ団はクラシック作品だけでなくコンテンポラリーにも力を入れるようになり、レパートリーの幅がぐんと広がってきたのも嬉しい流れで。本当に楽しかった。あっという間の10年でした。だからこの先の10年も1日1日を大切にして、いろんなことに挑戦していきたいです。
世界中から才能あるダンサーが集まる人気バレエ団ですから、最高の環境であるいっぽうで、例えば必ずしも踊りたい役が踊れなかったり、思うように上に行けなかったりと、苦しいことや厳しいこともあるのではないかと思います。それでも自分の踊りを追求していくために、瑠嘉さんが心がけていることや、大切にしている考え方はありますか?
アクリ そうですね。いまのロイヤル・バレエはすごくレベルが高くて、僕の周りにも才能あふれるダンサーがたくさんいます。そうした環境や自分に負けることなく頑張り続けるというのは、けっして簡単なことではありません。苦しい時やつらい時は、もちろんあります。でもそんな時はいつも、自分にこう言い聞かせます。「このカンパニーは、僕を必要としてくれているのだ」と。ここで踊っているダンサーに、必要とされていない人なんてひとりもいないはずです。うまくいかないことは誰にでもあるけれど、その試練を乗り越えられるのは、その人自身だけだから。くじけずに頑張り続けていけば、その努力はいつか絶対に報われると僕は信じています。
バレエダンサーは心身ともに酷使する仕事だと思いますが、その面で大切にしていることはありますか?
アクリ 自分自身のケアにも時間をかけることですね。まずは怪我をしないよう、ウォーミングアップやクールダウンを大切に。そしてメンタル面でいっぱいいっぱいになってしまった時は、趣味など好きなことで気分転換していますね。フレッシュになった気持ちで、またバレエに向き合うようにしています。
ちなみに、瑠嘉さんにとって気分転換になる趣味とは何ですか?
アクリ 僕は自然に触れるのが好きなので、休みができるとロンドンの郊外へハイキングに出かけたりしています。静かなところできれいな空気を吸うと、とてもリフレッシュできます。
つい先日、ローザンヌ国際バレエコンクールが開催されました。瑠嘉さんも2010年に15歳で出場した経験をお持ちですが、プロを目指して頑張っていた15歳くらいの頃の自分にアドバイスやメッセージを伝えるとしたら、どんな言葉をかけてあげたいですか?
アクリ 「もっと一日一日を楽しんで、人生を謳歌して!」と伝えたいです。若い頃はとにかくバレエのキャリアが一番で、バレエのことばかり考えて日々を過ごしがち。僕自身もそうだったと思います。でもいまにして思うと、バレエを頑張る時は頑張って、それ以外の時はもっといろいろなことに興味を持ってもいいんじゃないかなと。またバレエ団では人といかにコミュニケーションを取るかも大切なので、若いうちから様々な人と触れ合っておくのもいいだろうと思います。バレエ人生において、コンクールは“はじめの一歩”にすぎません。結果がすべてと思わずに、いろいろなことにどんどん挑戦して、人生そのものを楽しんで。あの頃の僕にも、いまバレエを頑張っている若いみなさんにも、そう伝えたいです。

英国ロイヤル・バレエ「くるみ割り人形」第1幕より クララ:イザベラ・ガスパリーニ、ハンス・ピーター:アクリ瑠嘉 ©2021 ROH. Photograph by Foteini Christofilopoulou

上映情報

【上映期間】2022年2月18日(金)〜2月24日(木)

【上映劇場・上映時間】こちらでご確認ください

【振付】ピーター・ライト

【原振付】レフ・イワノフ

【第1幕戦闘シーンの振付】ウィル・タケット

【美術】ジュリア・トレヴェリャン・オーマン

【音楽】ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー

【原台本】マリウス・プティパ(「くるみ割り人形とねずみの王様」E.T.A.ホフマンに基づく)

【プロダクションとシナリオ】ピーター・ライト

【ステージング】クリストファー・カー、ギャリー・エイヴィス、サマンサ・レイン

【指揮】クン・ケセルス

【出演】
ドロッセルマイヤー:クリストファー・サウンダーズ
クララ:イザベラ・ガスパリーニ
ハンス・ピーター/くるみ割り人形:アクリ瑠嘉
金平糖の精:ヤスミン・ナグディ
王子:セザール・コラレス
シュタルバウム博士:ギャリー・エイヴィス
クララのパートナー:スタニスラウ・ヴェグリジン
キャプテン:トーマス・モック アルルカン:ケヴィン・エマートン
コロンビーヌ:シャルロット・トンキンソン
兵士:ベンジャミン・エラ ヴィヴァンデール:佐々木万璃子
ねずみの王様:ルーカス・ビヨルンボー・ブレンズロッド
スペイン:ナディア・ムロバ・バーレー、アイダン・オブライエン
シャーロット・トンキンソン、ジャコモ・ロヴェロ
ジーナ・ストーム・ジャンセン、ケヴィン・エマートン
アラビア:メリッサ・ハミルトン、ルーカス・ビヨルンボー・ブレンズロッド
中国:レオ・ディクソン、カルヴィン・リチャードソン
ロシア:ジュンヒュク・ジュン、ハリソン・リー
葦笛:ミカ・ブラッドベリ、カトリーナ・ニケルスキ
ロマニー・パイダク、アメリア・タウンゼンド
ローズ・フェアリー(薔薇の精):崔由姫
ローズ・フェアリーのエスコート:ジョセフ・オーメア、デヴィッド・ドネリー
フランシスコ・セラノ、ジョセフ・シセンズ
花のワルツのソリスト:オリヴィア・カウリー、レティシア・ディアス
ハンナ・グレンネル、イザベル・ルーバッハ
天使と子供たち:ロイヤル・バレエ・スクールの生徒たち

【上映時間】2時間37分

【詳細】公式ウェブサイトでご確認ください

英国ロイヤル・バレエ「くるみ割り人形」 ©️2015 ROH. Photograph by Tristram Kenton

この記事を書いた人 このライターの記事一覧

NEWS

NEWS

最新記事一覧へ