Ⓒ HM2019-SleepingBeauty
英国ロイヤル・オペラ・ハウスの舞台映像を映画館で楽しめる「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2019/20」。
2020年9月4日(金)からは、ロイヤル・バレエの『眠れる森の美女』が全国公開される。映像は本年1月に収録されたもの。6月にも上映され好評を博した作品だ。
オーロラ姫を演じているのは、次々と主役に抜擢され輝きを増すファースト・ソリストの金子扶生(かねこ・ふみ)。金子はこの2019/20シーズンにオーロラ役デビューを飾ったばかり。
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当初この日はローレン・カスバートソンがオーロラ姫を踊る予定だったが、公演当日に怪我のため降板。リラの精に配役されていた金子が、急きょ主役を任された。
おそらくは自身にとっても忘れがたい思い出となったであろうこの舞台や役、作品に対する思い入れや、リハーサルでのエピソードについて、ロンドンにいる金子に話を聞いた(取材は2020年6月下旬)。
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- オーロラ姫に抜擢された時の率直な感想は?
- 金子 『眠れる森の美女』は、ロイヤル・バレエのレパートリーの中でも、とくに長い歴史を持つ純クラシック作品です。オーロラ姫の衣裳を見るだけで、これまで素晴らしいバレリーナたちが同じ衣裳を着て踊っていたのが浮かんできて、夢のような気持ちになります。そしてもちろんオーロラ姫は「いつか踊ってみたい」と願っていた憧れの役のひとつでしたので、配役が発表されたときは本当に嬉しかったです。
- リハーサルのなかで印象に残っていることはありますか?
- 金子 今回はダーシー・バッセルさんに指導していただいたのですが、「怖がらないで、楽しんだらいいわよ」と楽観的に考えることを教えていただきました。「できない」という気持ちになると、それがすごくストレスになったり、楽しむことができなくなってしまう。ダーシーはそういう考えをなくしてくれるような指導をしてくださったので、とても救われました。偉大なバレリーナだった方々にコーチングしていただけるのは本当に特別なことで、毎回、貴重な経験をさせていただいています。
- 踊りや表現を深めていくなかで苦労したことはありますか?
- 金子 「ロイヤル・バレエのオーロラ姫」を極めようとするのは、私にとって大きな挑戦でした。オーロラ姫は、腕で丸い形を作ることがとても大事にされていたり、決められた型に沿うよう整えていきます。劇場が閉鎖される前までは『白鳥の湖』のオデット役を練習していたのですが、オデットでは自分で自由に変えられる部分もあり、同じ古典でも『白鳥の湖』と『眠れる森の美女』はまったく違うんです。歴史あるロイヤル・バレエの『眠れる森の美女』は、そのように厳密に型が決められているところも貴重だと思いますし、私もできるだけ「ロイヤル・バレエの『眠れる森の美女』」に近づこうと努力しました。
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- 2019年11月のオーロラ姫デビュー公演はいかがでしたか?
- 金子 オーロラ姫のデビューは、目まぐるしい1週間の中で迎えた舞台でした。正直なところ……身も心も、本当にいっぱいいっぱいでした。
デビューを4日後に控えた火曜日の朝、オーロラ姫役での『眠れる森の美女』の舞台リハーサルが初めて行われました。衣裳もメイクも本番同様の状態で踊り、リハーサルが終わった時点ですでにクタクタだったのですが、そのあとにトリプル・ビル(『コンチェルト』/『エニグマ・ヴァリエーション』/『ライモンダ』第3幕)の本番がありました。この日もライブシネマをしていて、私は『ライモンダ』でソロを踊らせていただき、次の日は『マノン』の最終日で娼婦役を、翌日は『眠れる森の美女』の初日でリラの精を。その2日後の土曜日が、オーロラ姫のデビュー公演でした。この1週間は精神的にも余裕がなく、身体の疲れもすごく感じていて。そのような中で迎えたデビューは、自分の中では完璧ではなかったし、悔いの残ることもたくさんあったのですが、周りのみなさんがすごく応援してくれて、無事に終えることができました。
- デビューの週は、毎日違う作品、違う役を踊っていたのですね。
- 金子 1つのことだけに集中できないのは、ロイヤル・バレエで踊っていく上で難しいと感じるところのひとつです。いつもいろいろな作品・役を練習しながら、いろいろな舞台に出演しながら、その中で今回のようにデビューの公演もやってくる。私の気持ちとしては、オーロラ姫だけに集中したかったのですが、それができるわけもなく……。でも、そのような状況でも、デビューはとても楽しむことができましたし、舞台を観ていた監督もすごく喜んでくださいました。
- 今回のライブシネマでは、当日に急きょオーロラ姫として主演されました。代役を告げられたとき、どのようなことを感じましたか?
- 金子 代役での主演が決まったときは、本当に不安だらけでした。当初の配役どおりリラの精の準備に集中していたら、当日のお昼ごろ、「オーロラ姫を踊ってください」と言われて。12月の最初に踊らせていただいて以来、ライブシネマの日まで1ヵ月以上、オーロラ姫は練習していませんでした。王子役のフェデリコ・ボネッリさんや4人の王子とも、この役を一緒に踊ったことがなく、しかもこの日はライブシネマで、世界中のお客様に舞台を観ていただける日。本当に大丈夫なのか、と一度は不安で泣いてしまったのですが、友人などからの励ましがすごく頼りになって、乗り切ることができました。
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- そうして励まされた言葉のなかで、とくに心に残っているのは?
- 金子 フェデリコさんに言っていただいたことが、印象に残っています。「こういうサプライズの舞台は、リハ―サルで作り上げていく時間がなかったのだから、何を心配しても無駄。ただ「いまを生きる」という気持ちで、いまを楽しんで踊ろう」。これを聞いて、本当にそうだな、と思って。まだ起こっていないことを心配しても無駄だから、楽しんだ方がいい、楽しむ方が勝ちだという気持ちで、本番の舞台に臨みました。
- 『眠れる森の美女』の中から好きなシーンをひとつ挙げるとしたら?
- 金子 やっぱり、登場シーンからのローズ・アダージオですね。主役を踊らせていただくときは、舞台の上に立っているとだんだん緊張がほぐれていくことが多いのですが、オーロラ姫の場合は登場してすぐ、もっともチャレンジングであるローズ・アダジオを踊らなければなりません。それが大きな課題であり、すごく緊張する場面です。ですが、あのシーンはオーロラ姫の16歳のお誕生日パーティー。自分が本当に16歳になったつもりで、パーティーがとても楽しみだという気持ちで舞台に出ていきました。そうすると緊張も和らぎましたし、何よりあのチャイコフスキーの素敵な音楽を聴いていると、舞台を心から楽しむことができましたね。
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- 第2幕のヴァリエーションもすごく印象的でしたが、あのシーンはどのような感情で踊っているのでしょうか?
- 金子 第2幕のオーロラ姫はリラの精が王子に見せている幻影なのだと私は解釈しています。幻影だから、魂はそこにあるけど、私自身はそこにいない。オーロラ姫の身体は眠ったままだけど、魂が踊っている……そのようにイメージして踊りました。
- 衣裳もとても素敵ですが、とくに好きな衣裳はありますか?
- 金子 どれも大好きなので、選べないですね。第1幕のピンクの衣裳は、これぞオーロラ姫という感じがして、象徴的です。第2幕の幻影の衣裳は、近くで見るとオパールのような装飾が施されていて、まさにオーロラのように輝くのがとても素敵なんです。第3幕は結婚式らしい、純白のウェディング・ドレス。着るだけで心が喜ぶというか、とても嬉しくなります。
- 最後に、ロイヤル・バレエの『眠れる森の美女』の魅力を教えてください。
- 振付、衣裳、舞台セット……長い歴史を重ねてきたからこその魅力と、チャイコフスキーの名曲。本当に特別な作品です。ぜひ映画館の大きなスクリーンと素晴らしい音響でお楽しみください!
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上映情報
【振付】マリウス・プティパ
【追加振付】フレデリック・アシュトン、アンソニー・ダウエル、クリストファー・ウィールドン
【プロダクション】モニカ・メイソン(ニネット・ド・ヴァロワとニコライ・セルゲイエフに基づく)
【美術】オリバー・メッセル
【デザイン追加】ピーター・ファーマー
【音楽】ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
【指揮】サイモン・ヒューイット
【出演】
オーロラ姫:金子扶生
フロリムント王子:フェデリコ・ボネッリ
国王フロレスタン24世: クリストファー・サンダース
お妃: エリザベス・マクゴリアン
カタラビュット:トーマス・ホワイトヘッド
カラボス:クリステン・マクナリー
英国の王子:ギャリー・エイヴィス
フランスの王子:ニコール・エドモンズ
インドの王子:デヴィッド・ドネリー
ロシアの王子:トーマス・モック
伯爵夫人:クリスティーナ・アレスティス
フロレスタン:ジェームズ・ヘイ
フロレスタンの姉妹:マヤラ・マグリ、アンナ・ローズ・オサリヴァン
長靴を履いた猫:ポール・ケイ
白猫:レティシア・ストック
フロリナ姫:ヤスミン・ナグディ
青い鳥:マシュー・ボール
赤ずきん:ロマニー・パイダク
狼:ニコール・エドモンズ
~プロローグ~
澄んだ泉の精: ロマニー・パイダク
お付きの騎士:アクリ瑠嘉
魔法の庭の精: マヤラ・マグリ
お付きの騎士: ヴァレンティノ・ズケッティ
森の草地の精: クレア・カルヴァート
お付きの騎士:カルヴィン・リチャードソン
歌鳥の精: アナ・ローズ・オサリヴァン
お付きの騎士: ジェームズ・ヘイ
黄金のつる草の精: 崔由姫
お付きの騎士: セザール・コラレス
リラの精:ジーナ・ストーム=ジェンセン
リラの精のお付きの騎士:ニコル・エドモンズ
◆上映劇場
9月4日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか、全国公開
◆公式サイト
http://tohotowa.co.jp/roh/movie/?n=the_sleeping_beauty