
写真左から、アレコ役をダブルキャストで演じる大川航矢さんとアレクサンドル・トルーシュさん、演出・振付の宝満直也さん ©Tomoko Tominaga
バレエ『アレコ』は、1942年にレオニード・マシーンがバレエ・シアター(現アメリカン・バレエ・シアター)のために振付けた作品。美術はマルク・シャガールが担当し、4幕からなる作品に合わせ、4枚の巨大な舞台背景画(縦約9m×横約15m)を制作しました。
このシャガールの背景画を収蔵・展示している青森県立美術館が、2024年にバレエ『アレコ』を新制作(演出・振付:宝満直也)。全6公演のチケットがわずか数日で完売するなど大きな反響を呼んだ本作が、2026年5月29日(金)~6月7日(日)に東京で上演されることが決定しました。会場は、2026年3月28日(土)にオープンする文化の実験的ミュージアム「MoN Takanawa: The Museum of Narratives」内のシアター空間「Box1000」。シャガールの背景画は、デジタル技術を用いて舞台上に出現するとのこと。主人公のアレコ役は、初演でも同役を踊った大川航矢に加えて、ハンブルク・バレエ元プリンシパル(現在ゲスト・プリンシパル)のアレクサンドル・トルーシュが演じます。
- 『アレコ』あらすじ
- 文明社会に嫌気がさしたロシアの貴族の青年アレコは、自由を求めてロマの一団に加わり、首長の娘ゼンフィラと恋に落ちる。しかし自由奔放なゼンフィラの心は、ほどなくしてロマの若者に移ってしまう。それを知ったアレコは嫉妬に狂い、ゼンフィラとその愛人を刺し殺してしまう。
今回は、本作品の演出・振付を手がけるダンサー/振付家の宝満直也さんにインタビューしました。2025年、ドイツで9ヵ月間ほど在外研修を行い、振付家として重要な手応えをつかんだ彼が、思いも新たに挑むバレエ「アレコ」のこと。ダブルキャストでアレコ役を演じる大川航矢さん、アレクサンドル・トルーシュさんの魅力などについても聞きました。

宝満直也 Naoya HOMAN
ダンサー/振付家。神奈川県出身。新国立劇場バレエ団、NBAバレエ団を経て、現在フリー。ダンサーとしても活動しながら振付家として才能を発揮。『海賊』『白鳥の湖』『狼男』『美女と野獣』『3匹のこぶた』『アレコ』など、次々と作品を発表している。2025年3月末〜12月まで、「文化庁令和6年度新進芸術家海外研修」としてドイツのベルリン・バレエ・カンパニーに在籍。 ©Tomoko Tominaga
◆
- 宝満直也さんは2025年の春からドイツのベルリン・バレエ・カンパニーで在外研修を行い、12月に帰国しました。ドイツで過ごした9ヵ月間はいかがでしたか?
- 宝満 最高でしたね。ベルリン・バレエ・カンパニーでは、ベルリンでの舞台のほかに、スイスとイタリアでの公演にも出演させていただきました。ドイツのダンスカルチャーに触れて、欧州各国のいろんな劇場の舞台も観て。日本を俯瞰することもできたし、本当にたくさんの学びがありました。
- いちばんの収穫だったと思うことは?
- 宝満 クリエイティビティの面でいうと、夏に世界中の振付家のレペティトゥール(振付指導者)がベルリンに集まって開催される、1ヵ月間ほどのワークショップに参加したことでしょうか。ピナ・バウシュ、マルコ・ゲッケ、クリスタル・パイト、アクラム・カーン、アレクサンダー・エクマン、ピーピング・トム、ヨハン・インガーといった錚々たる振付家の名が連ねられていて、僕はクリスタル・パイト作品の1週間のワークショップと、アクラム・カーン作品の1日5時間×6日間=計30時間のワークショップを受けました。
とくに強烈な印象を受けたのは、クリスタル・パイト自身が踊ったソロを習った時です。動きに対する凄まじいまでの緻密さや意識の深さを目の当たりにしたというか……傍目にはただ思い切り自由に動いているように見えても、じつはすべてが徹底的に考え抜かれ、決められているんです。その完璧なベースの上で、個々のダンサーが自身のイマジネーションやクリエイティビティを駆使して、さらに表現を深めていく。そうした創作のプロセスがヨーロッパでは当たり前に行われているのだということに、はっとさせられました。
これまでも、僕は僕なりに全力で創作に取り組んできました。だけど、作品造形の深さという意味では、まだまだ浅かった。一流の振付家は、必ず自分の「振付哲学」を持っています。優れた振付家の作品って、幕が開いてダンサーが動き出した瞬間に、誰の作品かすぐに分かりますよね。それはなぜかといえば、振付家自身の「自分は何を表現したいのか」「ダンサーに何を見せてほしいのか」という明確な意図が、舞台空間に充満しているからではないでしょうか。

©Tomoko Tominaga
- 振付家としての核みたいな部分に、素手で触れたような体験だったのですね。
- 宝満 そうですね。日本にいる間も、「何が違うんだろう?」とずっと思っていたんですよ。世界的に認められている著名な振付家たちの作品と自分の作品との決定的な違いは何だろうって。バレエダンサーはみんな「あのダンサーと自分の踊りは何が違うのか」と考えるものですが、それと同じように、僕は自分の振付についてずっと疑問を持ち続けてきました。そのひとつの答えが「哲学」、つまり掘り下げる深さが全然違ったんだな、と。
ただし引き続き難しいのは、僕のように日本で活動してきた振付家が海外でも挑戦してみたいと思った時に、そのための道筋がまったくと言っていいほど未開拓だということです。ダンサーの場合は、すでに多くの日本人が世界で認められていますよね。ドイツでもいろいろなカンパニーで日本人ダンサーが活躍していますし、パリ・オペラ座バレエ、英国ロイヤル・バレエ、マリインスキー・バレエなど世界最高峰のバレエ団でも、日本人が主役を張れるまでになっている。そんな凄いことが可能になっているのは、日本のダンサーが世界に出ていくための道筋がすでに確立されていることも大きいはずです。つまり、日本のバレエ教室で育った生徒たちが、ユース・グランプリ(YGP)やローザンヌ国際バレエコンクール等を経て留学し、海外のバレエ団に就職する——そういう日本なりの道筋が、振付家にはまだありません。だから僕はこれから自分でその道を開拓していきたいとも思っています。
- ドイツでの充実した経験は、宝満さんのこれからの作品に何か変化をもたらしそうですか?
- 宝満 じつは、自分の作品自体はあまり変わらない気がしています。ドイツにいる間、できる限り舞台に足を運び、凄まじい作品もたくさん観てきましたが、観れば観るほど感じるようになったのは、「真似をしてもしょうがない」ということでした。小手先で真似しても意味がなくて、自分は自分の中を深めていくしかないんだと。9ヵ月間の研修で、いまの自分にないものが何なのか、よくわかりました。だけど同時に、すでに自分が持っているものにも気づけたし、「このやり方は世界でも通用する」と手応えを感じたこともあったんです。海外研修で得たものを自分の中に落とし込むことも、自分を見失わないことも大切にしながら、創作活動をしていきたいと思っています。

©Tomoko Tominaga
- そうして気持ちも新たに帰国した宝満さんを、さっそく大きなプロジェクトが待っています。2024年に青森県立美術館で世界初演されたバレエ『アレコ』が、東京・高輪の「MoN Takanawa: The Museum of Narratives」(2026年3月28日開館)で、2026年5月29日から上演されます。
- 宝満 初演の時から「長く再演され続ける作品になれば」と願っていましたし、いつか首都圏等のお客様にも観ていただけたらと思っていましたが、こんなに早く実現することになって嬉しいです。
- 青森県立美術館での初演は、シャガールが描いた4枚の背景画に囲まれた空間での上演でしたが、今回はどうなりますか?
- 宝満 まさにそこが、今回の工夫のしどころだと思っています。青森県立美術館では本物の画を背景にしてダンサーたちに踊ってもらうことができたし、その画にLED照明を当てるなどの演出もできました。しかし今回はそれができません。あの巨大な4枚の原画が醸し出す空気感や迫力を、映像を使って再現しなくてはいけないわけです。例えば映像で映し出した画に照明を当てても白く飛んでしまうだけですから、本当に当てるのではなく「当たっている風」に映像を編集しなくてはいけません。しかも、お客様がフェイクだと感じないように。
- なるほど……再演とはいえ、初演の時とはまったく別の創造性が必要になるということですね。
- 宝満 あの背景画へのリスペクトだけは絶対に守りたいけれど、そのまま映し出したところで、あの画の力もバレエ作品としての魅力も決して伝わらないので。まずは映像での見え方をよく研究して、ベストな道を導き出さなくてはと思っています。ただ、逆に今回だからこそ実現できることもあるんですよ。シャガールの背景画はストーリー展開に合わせて第1幕から第4幕まで4枚あるわけですが、美術館で上演した際は、最初から最後まで全編を第4幕の前で上演しました。現物の背景画を、踊りに合わせて動かしたり入れ替えたりすることは不可能なので。しかし映像であれば、各幕の画をちゃんとストーリーに連動させて見せていくことができます。ですから今回はまた新しい作品を作るような気持ちで、シャガールの画と踊りが美しく調和する演出を目指したいと考えています。

青森県立美術館版 バレエ「アレコ」(2024年)より 勅使河原綾乃(ゼンフィラ)、北爪弘史(ロマの若者) 撮影:西川幸治
- もうひとつ、今回ならではの新たなことが。主人公・アレコ役を、初演キャストである大川航矢さんと、現在フリーでハンブルク・バレエのゲスト・プリンシパルとしても活躍しているアレクサンドル・トルーシュさんが、ダブルキャストで演じるそうですね!
- 宝満 最高のダンサーたちに主役をお願いできることになりました。今回は全10回公演で、前半5回が航矢くん主演、後半5回がサーシャ(編集部注:アレクサンドルの愛称)さん主演になります。ちなみにメインキャストでいうと、ヒロインのゼンフィラも勅使河原綾乃さんと山田佳歩さんのダブルキャスト、ロマの若者も宮内浩之くんと北爪弘史くんのダブルキャストになるんですよ。
まず大川航矢くんについて。彼が抜群のテクニックの持ち主であることは言うまでもありませんが、それ以上に僕が大好きなのは、何をやっても「バレエ」が崩れないところです。ロシア仕込みの盤石な基礎を備えている航矢くんは、どんなに難しいステップやウルトラC級のテクニックでも、絶対に「バレエ」のクオリティを保って見せてくれる。そこが大川航矢くんというバレエダンサーの真髄だと思っています。また役に飛び込んでいく姿勢もすごく真摯で、振付家として心から信頼できるダンサーです。今回の再演で、アレコという役をさらに深掘ってもらえたら嬉しいですね。
いっぽうサーシャさんは、僕がぜひ一緒に仕事をしてみたいと願ってきたダンサーです。彼はハンブルク・バレエで、ジョン・ノイマイヤーの作品を20年以上も踊り続けてきました。ノイマイヤーは人間の感情や人間同士の関係といったものを凄まじい深度で描き出す振付家で、そんなノイマイヤー作品を数多く踊ってきたサーシャさんが、アレコという男にどうアプローチし、どんな息吹を吹き込んでくれるのか。きっと彼の一挙手一投足が、僕に新たな学びを与えてくれるだろうと期待しています。サーシャさんは振付家と一緒にクリエイションをすることを楽しんでくれるタイプのアーティストで、しかも僕と同い年でもあるんですよ。航矢くんのアレコと、サーシャさんのアレコ、それぞれ一緒に作り上げていけることに、とてもわくわくしています。
- それぞれのダンサーの個性や解釈を活かしたアレコ像になるわけですね。楽しみです。
- 宝満 航矢くんには航矢くんの、サーシャさんにはサーシャさんの『アレコ』のストーリーがあると思いますし、作中の出来事を二人が同じように感じるとは限りません。ゼンフィラやロマの若者など他の人物たちの捉え方も二人それぞれ違うでしょうし、愛についての考え方も二人それぞれ違うでしょう。アレコという人間を演じるダンサーもまた生身の人間なので、それぞれ寄り添いながら作品を作っていきたいと思っています。
- 公演を楽しみにしている読者にメッセージを。
- 宝満 プーシキンの詩を原作にした物語、チャイコフスキーの音楽、シャガールの背景画。歴史に名を刻む芸術家たちが遺してくれたピースに、現代の振付家である僕の感覚が混ざり合って生まれたのがバレエ『アレコ』です。こうした総合芸術作品を深め、高め、続けていくためには、観客のみなさんの力が必要です。文化は生き物。過去を学ぶことはとても重要ですが、それを単に真似たり繰り返したりするだけではダメだと僕は思っています。みなさんも一緒に新しい文化を作っていくという気持ちで、この作品を楽しんでくださったら嬉しいです。

取材当日(2026年1月上旬)に顔を合わせた3人の、この笑顔! ©Tomoko Tominaga
公演情報
MoN Takanawa: The Museum of Narratives
バレエ「アレコ」
開催日時
2026年
5月29日(金)19:30
5月30日(土)13:00、17:00
5月31日(日)13:00、17:00
6月4日(木)19:30
6月5日(金)19:30
6月6日(土)13:00、17:00
6月7日(日)13:00
・5月29日(金)〜 5月31日(日)=大川航矢、勅使河原綾乃出演
・6月4日(木)〜 6月7日(日)=アレクサンドル・トルーシュ、山田佳歩出演
会場
MoN Takanawa: The Museum of Narratives Box1000
- MoN Takanawa: The Museum of Narrativesとは…
- MoN Takanawa: The Museum of Narrativesは「100 年先へ文化をつなぐ」を掲げ、TAKANAWA GATEWAY CITY における、文化創造の役割を担います。伝統芸能、漫画・アニメ、音楽、食、といった日本の文化に最新のテクノロジーを掛け合わせ、分野を横断する多種多様なプログラムを展開し、新しい Narrative(=物語)を生み出していきます。伝統を未来へつなぎ、新たな日本文化を創造・発信する文化の実験的ミュージアムです。
-

MoN Takanawa: The Museum of Narratives 外観 パース提供:JR東日本

Box1000 パース提供:JR東日本
※パースは計画中のものも含まれるため、一部変更となる場合があります
主な出演者
大川航矢
アレクサンドル・トルーシュ
勅使河原綾乃
山田佳歩
宮内浩之
北爪弘史
演出・振付
宝満直也
チケット
※すべて税込価格
※2歳未満入場不可
※膝上鑑賞可(無料)。2歳以上で席を利用の場合はチケットが必要
■【公式】MoN Takanawaチケット(会員限定)
開始日時:2026年2月28日(土)10:00
販売券種:
S席 9,500円
A席 7,500円
B席 5,500円
プレミアム席(13:00/17:00の回のみ)22,000円
U29 S席(19:30の回のみ) 7,500円
販売方法:先着販売
★チケット購入はこちら
※MoN Takanawaチケットの利用には会員登録が必要
※プレミアム席(13:00/17:00の回のみ)特典:観劇当日の朝に実施するバレエクラスの見学、昼公演と夜公演の合間に行う、ダンサー・演出家とのティータイム
■MoN Takanawa公式プレイガイド ゲスト販売(Fever)
開始日時:2026年2月28日(土)10:00
販売券種:
S席 9,500円
A席 7,500円
B席 5,500円
プレミアム席(13:00/17:00の回のみ)22,000円
U29 S席(19:30の回のみ) 7,500円
販売方法:先着販売
★チケット購入はこちら
※プレミアム席(13:00/17:00の回のみ)特典:観劇当日の朝に実施するバレエクラスの見学、昼公演と夜公演の合間に行う、ダンサー・演出家とのティータイム
詳細
バレエ「アレコ」公演WEBサイト
問合せ
MoN Takanawa 問合せフォーム