バレエを楽しむ バレエとつながる

  • 観る
  • 知る
  • 考える

【7/17開催】「Dance at the Gathering 2019〜ローザンヌ国際バレエコンクール出演者達の祭典」バックステージレポ&出演者インタビュー

阿部さや子 Sayako ABE

Photos: Ballet Channel

ローザンヌ国際バレエコンクール歴代出場者で、世界各地に羽ばたき活躍しているダンサーたちが集うガラ公演「Dance at the Gathering 2019〜ローザンヌ国際バレエコンクール出演者達の祭典」が、2019年7月17日に開催される。

その本番前日の7月16日、会場となる大阪NHKホールに取材に伺った。

出演ダンサーたちが続々と到着。
「久しぶり! 元気?」「いまどうしてるの?」――ダンサーたちの明るい声や笑顔やハグがしばし飛び交う。

しかし本番はもう明日。ダンサーたちはすぐに稽古着に着替え、バックステージへと向かう。そして舞台上手袖のスペースで各自黙々とウォーミングアップを始め、さっそくリハーサルが始まった。

限られた時間の中で最終調整をし、いつも一緒に踊っているわけではないパートナーとも呼吸を合わせていくプロフェッショナルたち。
その様子を写真とともにレポートする。

また出演者のうち6名のダンサーに、17日の本番で踊る作品や、海外生活の近況などについて話を聞いた。

バックステージ・レポート

今回の公演は3部構成。

第1部と第3部はクラシックからコンテンポラリーまで様々なスタイルの踊りが楽しめるパ・ド・ドゥ集。

その間の第2部には、ハンブルク・バレエ元ソリストの大石裕香のソロと、“島﨑徹セレクトダンサーズ”による島﨑作品が披露されるという趣向。

この日はまず第1部と第3部のリハーサルが行われた。

※会場の照明などの状況で、一部写真が撮れなかった作品があります。下記は上演作品の全てを網羅しておりません。ご了承ください

今年のローザンヌ国際バレエコンクールのファイナリスト、淵山隼平。ローザンヌで踊り、基礎の美しさで魅了した『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』を披露する

今年のローザンヌで見事4位に輝いた脇塚優は、カナダ・ロイヤル・ウィニペグ・バレエの白井沙恵佳とブルノンヴィル版『ラ・シルフィード』のパ・ド・ドゥを踊る。快活なステップ、楽しそうな笑顔は健在だ

木村楓音(アメリカン・バレエ・シアター)と太田倫功(ライン国立バレエ)の『タリスマン』。清涼感のある心地よい踊り。ジャンプも美しい

スロヴェニア国立マリボル歌劇場バレエから出演のふたり、中島麻美と大巻雄矢はエドワード・クルグ振付『ペールギュント』を踊る

今回初めてパートナーを組むという水谷実喜(バーミンガム・ロイヤル・バレエ)と吉山シャール=ルイ・アンドレ(ヒューストン・バレエ)は『白鳥の湖』第2幕のグラン・アダージオを踊る。水谷の繊細で美しいライン。吉山はポーズからポーズ、テクニックからテクニックに移行する瞬間がとてもドラマティックだ

第1部のリハーサルが終わり、続いて第3部に出演するダンサーたちが場当たりを始めた。優美なアティテュードを見せているのは二山治雄(パリ・オペラ座バレエ)

『海賊』のアリを踊るアクリ士門。ワイルドに跳び、回りながらも、品の良い慎み深さも感じさせる

英国ロイヤル・バレエからのゲスト、マヤラ・マグリ。リハーサルを待つ間、トウシューズを加工中

井阪友里愛(ベルリン国立バレエ)と二山治雄(パリ・オペラ座バレエ)による『薔薇の精』。表情豊かな井阪の演技。二山の全く着地音のしないジャンプや、腕の滑らかなうねりを観て、彼には妖精的な持ち味があることにあらためて気づかされる

吉山シャール=ルイは2演目に出演。ふたつめは黒鳥のパ・ド・ドゥ。パートナーはヒューストン・バレエの新星、マッケンジー・リクター。スタイルがとても美しく、演技には迫力がある

イングリッシュ・ナショナル・バレエの加瀬栞とバーミンガム・ロイヤル・バレエの厚地康雄。英国で輝く日本人プリンシパルふたりの、華やかな『ドン・キホーテ』!

ラストは『海賊』グラン・パ・ド・トロワ。瑠嘉(英国ロイヤル・バレエ)と士門(タルサ・バレエ)の”アクリ兄弟”がコンラッド役とアリ役で共演! メドーラは英国ロイヤル・バレエのマヤラ・マグリ。3人とも”楽しくてたまらない”という様子で踊っていて、観ているこちらも楽しくなる

出演者インタビュー

加瀬 栞
イングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB) プリンシパル
私が所属しているイングリッシュ・ナショナル・バレエは、とても魅力的なカンパニーです。プリンシパルだけでなくコール・ド・バレエのダンサーたちもどんどんレベルが上がってきていて、ソリスト役も充分に踊りこなせるだけのテクニックを備えた人が本当に増えています。これだけ実力のあるメンバーで全幕物を上演すると、すごく盛り上がるんですよ。みんな熱心で、真面目で、お互いを尊敬し合っている。そんな環境で踊れていることを、とても幸せに思っています。
今回の公演では、そんな風に海外で踊り続けてきた私を見ていただきたいです。演目は『ドン・キホーテ』より第3幕のグラン・パ・ド・ドゥ。じつは『ドン・キ』はENBのレパートリーには入っていないので、私がこの作品を踊るのは、昨年地元の発表会で踊って以来2回目。まだキャラクターを自分なりに考えている途中ですが、踊っていてすごく楽しい作品です。17日は、お客様にもぜひ楽しんで観ていただきたいです。

吉山シャール=ルイ・アンドレ
ヒューストン・バレエ プリンシパル
僕が出演するのは2作品。どちらも『白鳥の湖』からで、ひとつは第2幕の白鳥のパ・ド・ドゥをバーミンガムの水谷実喜さんと、もうひとつは第3幕の黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥをヒューストン・バレエ デミ・ソリストのマッケンジー・リクターと踊ります。実喜ちゃんがどれだけ質の高いダンサーであるかはみなさんご存じの通りですし、マッケンジーもまだ20歳と若手ながら、ユース・アメリカ・グランプリやジャクソン国際バレエコンクールでシルバーメダルを獲得するなど実力は充分にある。美しいふたりのバレリーナをパートナーに、それぞれパ・ド・ドゥだけでもストーリーを語れるようにーー例えば第2幕ならそこには登場しないロットバルトとの関係性、第3幕ならオデットに恋した王子が彼女にもう一度会えるのをどんなに楽しみにしていたかなど、その場面に至るまでに何があったのかが見えるように演じたいですね。
パ・ド・ドゥを踊る時に僕が心がけていることは、相手の女性をどう綺麗に見せるか。それにつきます。僕が運転手になるのではなく、彼女が運転手であって、僕は助手席に座ってサポートをする役目……というのは、カンパニーのディレクターに言われた言葉ですが(笑)。自分が主役になろうとしない。貪欲になり過ぎない。特に今回踊る『白鳥の湖』は女性のバレエですから、実喜ちゃんやマッケンジーがいちばん美しく見えるラインを追求しつつ、彼女たちと一緒に物語を紡ぎたいと思います。

水谷実喜
バーミンガム・ロイヤル・バレエ ファースト・ソリスト
今回は『白鳥の湖』第2幕より白鳥のパ・ド・ドゥを踊ります。この作品を舞台で踊るのは初めて。じつは3年ほど前にバーミンガム・ロイヤル・バレエで『白鳥』の主演にキャスティングされていたのですが、その時は残念ながら直前に怪我をしてしまいました。ですからこの舞台をとても楽しみにしていましたし、しかもずっと憧れていた吉山シャール=ルイ・アンドレさんと一緒に踊らせていただけるなんて、夢のようです! シャールさんは登場した瞬間から王子様。動きの隅々まで美しいだけでなく、私が踊りやすいようにサポートしてくださいます。
私は、このパ・ド・ドゥ1曲の中で、オデットの感情や王子との関係性は大きく変化すると考えています。最初に出てきた時の彼女はまだ人間ではなく、心がない状態。だから王子のことが怖くて、何とか彼から逃げようとします。でも、このパ・ド・ドゥを通して王子とふれあい、オデットのなかに“感情”が芽生えてくる。そして踊り終わる頃には、王子を信じてついていきたいという思いさえ抱くようになっています。それはとても大きな変化ですから、そうしたストーリーがしっかりとお客様に伝わるように演じたい。特に私が普段踊っている英国は“演劇の国”。バーミンガムも“演技”がとても重視されるカンパニーなので、私がこれまで学び、身につけてきたものを、日本の観客のみなさんに見ていただけるように踊りたいなと思っています。

アクリ瑠嘉
英国ロイヤル・バレエ ソリスト
僕はいま英国ロイヤル・バレエで踊っていますが、嬉しいことに、9月からファースト・ソリストに昇格することになりました! 4年前にソリストに上がった時は「僕で大丈夫なのかな……」と不安の方が大きかったけど、今回はもう、「頑張ります」と。いまのロイヤルには若くて実力のあるダンサーがものすごくたくさんいます。また、通常ファースト・ソリストに昇格する時は、その前にたくさん主役を与えられることが多いのですが、僕は主役はほとんど踊っていないんです。準主役やソリスト役など、主役に比べると“小さい役”をコツコツたくさん踊ってきた。そのことを認めていただけたのが、何よりも嬉しくて。ここまできたら、もう何も躊躇することなくどんどん踊っていきたい。“任せられること”を“プレッシャー”ではなく“自信”に変えて、いろんな作品に挑んでいきたいですね。
今回、そんな嬉しい報告を携えて日本のみなさんの前で踊れることを、とても幸せに思っています。しかも、ロイヤルの同僚のマヤラ・マグリ、そして弟の士門と一緒に『海賊』を踊れるなんて、こんな楽しい機会はないですよ。弟はアメリカで踊っていて、僕は英国。いつもは連絡なんてほとんど取らないけど(笑)、とても仲のいい兄弟です。それに年齢を重ねるにつれ、僕らはだんだん似てきている気がします。踊り方といい、ルックスといい。コンラッドとアリが似ているなんて……ちょっとやばいですね(笑)。でもだからこそ、“踊り”と“演技”で役柄の違いや互いの関係性をはっきり見せたいと思っていて。そして今回の公演の大トリを飾る演目ですから、マヤラと士門と3人で、華やかにいきたいと思います!

二山治雄
パリ・オペラ座バレエ 短期契約
『薔薇の精』は、2年前にいちど踊ったことがあります。それをもっと深めたいと思ったのと、僕がいま在籍しているパリ・オペラ座の先生に指導していただくいい機会になると思い、今回この作品を選びました。先生の名前はジル・イゾアール。彼はニジンスキーが踊る古い画像を引っ張り出してきて、通常のクラシック・バレエとは違う立体的な腕の使い方や、独特なスタイルの踊り方、音の取り方、そして歴史的背景まで教えてくれました。僕のなかでもすごく想像が膨らみましたし、明日は学んだことの成果をしっかりとお見せできたらいいなと思います。
パリ・オペラ座で働くようになって2年目が経ちました。正式入団を目指して挑戦を続けてきたのは、最高の場所で学び、もっと修行したい、という気持ちがあるからです。いろいろな人から「君のことをもっと考えて使ってくれるバレエ団に移った方がいいよ」と言われるのですが、僕はやはり、挑戦できるうちに挑戦して、もっといろんなことを学び、吸収したいというのがいちばんの思いです。たとえ入団は叶わなかったとしても、出来得る限りのことを吸収してから他の場所に行きたいと考えてきました。
次シーズンも短期契約のオファーはいただいていますが、どうするかを決めるのはこれからです。でも、いずれにしても僕の目標は、やりたいことをとことん突き詰めること。そして“やりたいこと”というのは、バレエです。それはずっと変わらないし、やるんだったら悔いのないようにやりたいと思っています。

木村楓音
アメリカン・バレエ・シアター(ABT)
今回の公演では『タリスマン』のパ・ド・ドゥを踊らせていただきます。選んだ理由は、これが“ロシアのバレエ”だから。アメリカでは絶対に踊ることがないだろうな、と思ったので、この機会にあえて挑戦することにしました。みなさんにぜひ注目していただきたいのは、最初のアダージオと最後のコーダのキャラクターというか、雰囲気の違いです。アダージオはとても落ち着いた曲調で、そのあとのヴァリエーションも静かなのですが、コーダで一気に盛り上がるんです。そこをぜひ楽しんでいただきたいです。
私はこれまでABTのスタジオカンパニーで踊っていたのですが、今年の9月からはカンパニーのアパレンティス(「研修生」「準団員」といった意味)に上がれることになりました。 スタジオカンパニーが“スクールのいちばん上”という位置付けなのに対し、アパレンティスは“プロとしてバレエ団で踊る”ということ。私にとってABTは“家”みたいな場所で、楽しくて、居心地が良くて、気まずい思いをしたことは一度もありません。この大好きなカンパニーでプロとしてのキャリアをスタートできるのが、本当に嬉しいです。ただ、コール・ド・バレエの一員になるということなので、踊れる量や機会はこれまでより少なくなると思います。それによって自分の踊りの技術がガクッと落ちないよう一生懸命努力して、どんどん自信をつけていきたいです!

 

公演情報

Dance at the Gathering 2019
ローザンヌ国際バレエコンクール出演者達の祭典

公演日時 2019/07/17(水) 18:30
会場 NHK大阪ホール
出演予定ダンサー(順不同) 小野 絢子(新国立劇場バレエ団 プリンシパル)
福岡 雄大(新国立劇場バレエ団 プリンシパル)
加瀬 栞 (イングリッシュナショナルバレエ団 プリンシパル)
厚地康雄(バーミンガムロイヤルバレエ団 プリンシパル)
水谷 実喜(バーミンガムロイヤルバレエ団 ファーストソリスト)
吉山 シャール ルイ・アンドレ(ヒューストンバレエ団 プリンシパル)
Mackenzie RICHTER(ヒューストンバレエ団 デミソリスト)
アクリ 士門(タルサバレエ団)
アクリ 瑠嘉(英国ロイヤルバレエ 団 ソリスト)
Mayara MAGRI(英国ロイヤルバレエ団 ファーストソリスト)
大巻 雄矢(スロヴェニア国立マリボル歌劇場バレエ団 ファーストソリスト)
中島 麻美(スロヴェニア国立マリボル歌劇場バレエ団 ソリスト)
二山 治雄(パリオペラ座バレエ団 短期契約)
井阪 友里愛(ベルリン国立バレエ団)
太田 倫功(Opera National De Rhin バレエ団)
木村 楓音(ABTスタジオカンパニー)
藤井 彩嘉(チェコ国立バレエ団)
有馬 和弥(赤松優バレエ団)
脇塚 優(2019年ローザンヌ国際バレエコンクール・ファイナリスト)
淵山 準平(2019年ローザンヌ国際バレエコンクール・ファイナリスト)
大石 裕香 (ハンブルグバレエ団 元ソリスト/ 振付家)
詳細 http://www.kyodo-osaka.co.jp/schedule/E022133-1.html

 

この記事を書いた人 このライターの記事一覧

類似記事

NEWS

NEWS

最新記事一覧へ