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【現地取材!ベジャール・バレエ・ローザンヌ②】4人の日本人ダンサーにインタビュー 〜大貫真幹、大橋真理、岸本秀雄、武岡昂之介

阿部さや子 Sayako ABE

朝のクラスレッスン。バレエマスター小林十市さんによる指導のもと、ベテランのスターダンサーから入団1年目の若手まで、みんなで一緒にレッスンを行なっていました ©️Ballet Channel

ベジャール・バレエ・ローザンヌ(BBL)では、現在4人の日本人ダンサーが踊っています。

2010年に入団して、これまで数々のプリンシパル・ロールを踊ってきたベテランの大貫真幹さん。
BBLの付属バレエ学校「ルードラ」で学んで2013年カンパニー入団、今年で在団10年を迎えた大橋真理さん。
東京バレエ団からBBLに移籍して早5年、いまやすっかりBBLの主要メンバーとして活躍している岸本秀雄さん。
2022年、コロナ禍のためいっそう狭き門となった入団オーディションをみごとパスして新メンバーとなった武岡昂之介さん。

巨星モーリス・ベジャール亡きあとに入団し、その財産的レパートリーを踊り継ぎつつ、現芸術監督のジル・ロマンと共に“いまのBBL”を体現しているダンサーたち。
2023年2月、スイス・ローザンヌにあるベジャール・バレエ・ローザンヌ(BBL)の稽古場でお話を聞きました。

写真すべて:©️Ballet Channel

【現地取材!ベジャール・バレエ・ローザンヌ①】小林十市インタビュー&バレエ団の稽古場探訪 記事はこちら

Interview 1
大貫真幹 Masayoshi ONUKI
“現役を終えるその日まで、ここできちんと踊りたい”

大貫真幹さん

大貫真幹さんは2010年にベジャール・バレエ入団。ダンサーたちの入れ替わりもあるなか、約13年間ここで踊り続けているベテランですね。
大貫 ベテランというか、化石です(笑)。あっという間に時が経ってしまいました。
大貫さんにとってBBLの魅力とは?
大貫 ジル・ロマンですね。ジルに教われるということ。彼のセンスや美意識に興味を引かれ続けているし、彼から学べることがまだまだたくさんあります。もちろんベジャール作品も深くて踊っていて楽しいのですが、僕自身は残念ながらベジャールさんと直接仕事をしたことがありません。だからベジャール作品についても、ジルに教わることで理解してきました。
現在のBBLの二本柱である、ベジャールが遺したレパートリーと、ジル・ロマン芸術監督の振付作品。実際に踊るダンサーとして感じる、それぞれのスタイルの違いやおもしろさとは?
大貫 ベジャール作品とロマン作品は、もちろんムーヴメントそのものは違いますけど、共通する面が多々あります。例えば間(ま)の取り方とか、ピースからピースへの移行の仕方、作品がどう始まってどう終わるか、とか。僕はジルの作品にも、ベジャールさんから繋がっているものを強く感じます。クラシック・バレエのテクニックを中心とした振付の時などはとくにそうですね。

入団して13年。カンパニーの変化を感じることは?
大貫 変化を感じることはいろいろありますね。例えば公演数。入団当初は年間100公演くらいあったのが、だんだん減ってきています。とくにコロナ禍の間は文字通り半減してしまいました。そして舞台数が減ったせいもあるのか、リハーサルの雰囲気も昔に比べたら穏やかになった感じはあります。やはりベジャールさんと一緒に働いていた世代の人たちのほうが、稽古の仕方も力強かったなと思います。
まさにその「ベジャールさんと一緒に働いていた世代」である小林十市さんが、今シーズンからバレエマスターに就任しました。
大貫 僕にとってはとてもやりやすいです。クラスの内容も良いですし、ベジャール作品についても、十市さんはよりオリジナルに近い指導をしてくださるので。リハーサルのやり方もとてもわかりやすいです。
今後のダンス活動の展望や目標は?
大貫 僕はいま40歳で、おそらくこのカンパニーで現役を終えることになるだろうと思います。その時がいつなのか……ここにはパリ・オペラ座バレエのような定年制度がないので、いまは自分で自分の状態を探りながら働いています。ただ、意識しているのは「いつ辞めるか」ではなく、「辞める時まできちんと踊る」こと。長くダンサーをやってきたので、最後もきちんと締め括りたいなと思っています。

クラスレッスンにて

Interview 2
大橋真理 Mari OHASHI
“立っているだけで、語っている。ベジャール・ダンサーの在り方の秘密を知りたくて”

大橋真理さん

大橋真里さんは2013年入団で、今年でちょうど10年になりますね。あらためて、ベジャール・バレエに入団した経緯を教えてください。
大橋 少し遡るのですが、私は高校1年生の時にドイツのジョン・クランコ・スクールに留学したんですね。ところがたった2週間で両足の三角骨障害を起こしてしまって。手術後にもう一度ジョン・クランコで頑張ろうと思ったけれど、言葉の壁もあってうまくいかず、いったん日本に帰国。だけどどうしても「自分の居場所は日本じゃない」という感覚が拭えず、母と一緒にヨーロッパに出かけて、自分の目で、自分の行きたい学校やカンパニーはどこなのかを見て回ったんです。それでたどり着いたのが、ベジャール・バレエの付属スクールであるルードラでした。まずはクラスを見学しようとスタジオに向かっていたら、その手前でカンパニーがクラスをやっていて。それを見た瞬間に「私はここに入りたい!」と強く思いました。
高校生にして「自分の居場所は日本じゃない」と。おもしろいですね。
大橋 何か具体的に根拠があったわけではないのですが、もともと父の仕事の関係で海外に住んでいたこともあって、小学生くらいの頃から考え方がインターナショナルだったのかもしれません。
十代のバレエ少女だった大橋さんの目には、ベジャール・バレエやルードラのどんなところが魅力的に映ったのでしょうか?
大橋 じつはルードラを訪れるまで、私はベジャール作品というものを一度も観たことがありませんでした。でもそのクラス見学に来た時に、カンパニーがちょうど『春の祭典』のリハーサルをしていたんですね。それまでクラシック・バレエ以外は観たことも学んだこともなかったから、「これは何だろう?!」と。あまりにもかっこよくて、衝撃的で、「絶対に私もこれをやるんだ!」と心に決めました。
初めて出会ったベジャール作品が『春の祭典』だったんですね。
大橋 そうなんです。本当にラッキーでした。
自分の目で見て選んだ場所で、10年間踊ってきて。いまは率直にどんな気持ちで仕事をしていますか?
大橋 沼にはまる、という表現は少しおかしいかもしれないけれど、やればやるほど奥が深すぎて、終わりがない。10年経ったいまもまだ道の途中にいる。そういう感覚です。BBLのレパートリーって、型通りに踊れば済むものはひとつもなくて、そこに確固たる人間性がなければ作品として成立しないんです。ジル、十市さん、エリザベット(・ロス)、ジュリアン(・ファヴロー)……ベジャールさんと直接仕事をしてきた方々の踊りや存在の仕方みたいなものを見ていると、「いったい何が違うんだろう? 何をどうすればいいんだろう?」と、本当に毎日思います。究極的には、どうやって生きたら、彼らのようなアーティストになれるのか……と。掘り下げれば掘り下げるほどもっと深いところがあって、まさに沼にはまっていくようです(笑)。

センター・レッスン。写真2列目左にエリザベット・ロスさんの姿も

本当に! ジル・ロマンさんたちから立ちのぼるあの特有のオーラというか、いわゆるベジャール・ダンサーからしか醸されない、存在の深みみたいなもの。あれはいったい何なのでしょうか……。
大橋 そこに立っているだけで、あるいは腕をひとつ動かしただけで、語ることができるというか、引き込まれてしまうというか。それが何なのか、日々勉強中です。
目標にしたい人が目の前にいるというのは素晴らしいことですね?
大橋 この上なく幸せです。私は残念ながら生前のベジャールさんとはお会いできなかった世代で、「一言でいいから何か言葉が聞けたらな……」と思うことはありますけれど、こうして大先輩たちがいてくださるだけでも幸せなことだと常々感じています。
現在BBLのレパートリーの両輪であるベジャール作品とジル・ロマン作品、大橋さんが感じるそれぞれの違いや魅力とは?
大橋 ベジャール作品の魅力は、ピュアなところでしょうか。身体ひとつで舞台に立ち、何も隠せない状態で、シンプルに愛と生と死を踊る。だからこそ同じ作品でも踊る人によって全然違ってきます。例えば『ボレロ』でも、円卓の上で踊るのが誰かによって、まるで違う作品に見えますよね。それこそダンサーの人間性が120%出る振付なのだと思います。

いっぽうジルの作品は、フィジカルの魅力。動きそのものの魅力で観客を引き込むような面白さがあって、私たちダンサーも、とにかく「動くことを楽しむ!」という感覚で踊っています。つまり「踊れてなんぼ」という作品が多いので、体力的にはとてもハードです。でもすごく楽しいですね。ジルならではの茶目っ気もあればダークな部分もあって、エンターテインメント性も高いと思います。

そして今シーズンからは小林十市さんがバレエマスターに就任されましたね。
大橋 十市さんは本当に細かいところまで教えてくださる方で、ご自身がベジャールさんから学ばれたことを惜しみなく伝えようとしてくださっているのをひしひしと感じます。そしてジルと十市さんのやりとりを見ていると、「戦友」という言葉が浮かんでくるというか。「ああ、おふたりはこうやって、楽しい時も苦しい時も一緒に闘ってきたんだな」と思います。
最後に、大橋さん自身のこれからの目標などがあれば聞かせてください。
大橋 入団したての頃は「あの作品を踊りたい!」みたいな目標をたくさん持っていましたけれど、いまはあまり先のことは考えていません。このカンパニーのいいところは、多種多様なダンサーがいるところ。いろんな人種、いろんな体型、いろんな年齢の人たちが、みんなでひとつの舞台を作っていくところに魅力があるし、人数があまり多くないので踊るチャンスもたくさんあります。いまはとにかく、目の前の作品や、自分にできることを精一杯やる。ただそれだけです。

Interview 3
岸本秀雄 Hideo KISHIMOTO
“多様な個性がひしめくこの場所で、僕は僕なりのバレエを追求したい”

岸本秀雄さん

岸本秀雄さんは2018年に東京バレエ団からベジャール・バレエに移籍。もう5年が経つのですね。
岸本 あっという間ですね。でも、まだまだ勉強不足です。ジルさんや十市さん、ドメニコさん、エリさん、ジュリアン……先輩たちを目の当たりにしていると、自分との差を感じずにはいられません。
どのような部分をもっと勉強しなくてはと感じるのですか?
岸本 ベジャールのスタイル。もちろん踊り手としての経験値が明らかに違うのも実感しますし、見せ方、角度、身体のコントロール、表現力……すべてが自分にはまだ欠けているというイメージです。
先ほどクラス・レッスンを見学させていただいて、岸本さんは日本で踊っていた頃よりも身体が強くなったような印象を受けました。
岸本 そうですね。昨年9月に『火の鳥』のタイトルロールを踊らせていただいたのが今シーズンのいちばん大きな出来事で、その時にリハーサルもたくさんしていただいたので、体力的にもずいぶん鍛えられました。
『火の鳥』のタイトルロールといえば、ベジャール・バレエを志すダンサーにとって夢の役のひとつでは?

岸本 はい、東京バレエ団にいた頃から憧れていた役です。ずっと「火の鳥をやりたい」と思い続けていました。

クラスレッスン中の岸本さん。後ろには武岡昂之介さんの姿も

ついに夢が叶ったと。BBLに入団して5年、ますます充実していますね。
岸本 日々のトレーニングや身体のコンディションといった面の充実感もありますが、バレエのことを考える時間がずっと増えたな、ということを実感しています。例えば寝る前に「そうだ、ここをケアしておこう」と考えたり、誰かの踊りを映像で見ては「この人はこういう踊りをしている。ということはここの筋肉を使って……」と分析したり。ローザンヌに来てから、そういう時間が増えました。
バレエに向き合う時間が増えたということですね。
岸本 それもそうですし、仕事に向き合っている、という実感も強いです。
プロ意識が強くなった?
岸本 そうですね、日々成長しなければと考えています。また、ジルさんのバレエに対するこだわりの強さ、妥協のない姿勢についていくためには、できる限り深く考えて勉強し、そして練習していかなければと思っています。
それにしても……先ほど稽古場を見学してあらためて感じましたが、BBLのダンサーのみなさんは本当に多様ですね。
岸本 多様ですね。みんなものすごく個性的です。性格、考え方、踊り方、人によって全然違います。コンテンポラリーが得意な人もいれば、クラシックが強い人もいるし、いろんな個性がある。キャラクターの強い人たちばかりです。
そんな集団の中に、岸本さん自身もひとつの個性として存在しているわけですね。
岸本 そうですね、だからすごく楽しいです。「ならば僕は僕なりに」って思えますし。僕は僕なりに練習して、僕なりに働く。もちろんみんなの働きについていかなくては、という部分はありますが、僕は僕でしっかり練習していくという感覚ですね。
そして今シーズンからは小林十市さんがバレエマスターに迎えられました。
岸本 十市さんがこちらに来て最初に指導に入られたのが『火の鳥』で、たくさんリハーサルを見てくださり、とてもありがたく思っています。十市さんは僕たちダンサーをとてもよく見ていて、どういうふうに鍛えていくのが効果的か、深く考えた上でレッスン内容を作ってくださっているので、感謝ももちろんですがとても勉強になります。
これから踊ってみたい作品や役、今後の目標などがあれば聞かせてください。
岸本 そうですね、踊りたい役をあげたらキリがありませんが、まずそれらを踊れるようになるために、自分のバレエをこれからも追求していきたいです。どう自分のバレエを創造し、構築していくか、日々考えていきたいと思っています。

クラスレッスンでもリハーサルでも、稽古に臨む岸本さんの充実した表情が印象に残りました

Interview 4
武岡昂之介 Konosuke TAKEOKA
“僕ら若者世代にも、ベジャールの魅力は必ず伝わる”

武岡昂之介さん

武岡昂之介さんは2022年に新入団。ベジャール・バレエに入って初めてのシーズンはいかがですか?
武岡 毎日とても刺激的です。ダンサーのみなさんが優しくて、居心地もすごく良いですし。僕はここに入るまでベジャール作品にあまり触れてこなかったというのもあって、昨年オーディションに受かってからも、カンパニーで自分が踊っているところをイメージできなかったんです。だけど実際にローザンヌに来てからは、身体的にも内面的にもかなり変わったと思います。
どのように変わりましたか?
武岡 「自分はプロになったんだ」という実感が生まれました。去年まではバレエ学校にいたけれど、いまはプロのカンパニーにいる。もう、空気感が全然違います。毎日毎日がプレッシャーですが、楽しくやっています。
先ほどのクラス・レッスンで、武岡さんの素晴らしいピルエットにダンサーのみなさんから拍手が起こっていましたね!
武岡 いえ……(笑)。でも本当に温かい環境で、1年目の新入りとしてすごくありがたいです。

クラスレッスン中の武岡さん。一つひとつの動きをすみずみまで丁寧に行いながらステップを重ねていく姿が際立っていました

BBLを目指そうと思ったきっかけは?
武岡 ひとつのきっかけは、小さい頃にBBLの来日公演を観に行ったこと。あまり鮮明に記憶しているわけではないのですが、『ボレロ』を観てそれが好きだったのは覚えていました。そしてバレエ学校を卒業する年齢になり、まさに就職活動をしなくてはいけないタイミングで、コロナ禍になってしまって。オーディション自体がほとんどなくなってしまったなか、BBLがダンサーを募集しているのを見つけて、「子どもの頃に観たあのバレエ団だ!」と。それですぐに履歴書などを送り、オーディションをしていただきました。
実際に入団して、作品を踊ってみての感想は?
武岡 クラシック・バレエのベースにベジャールさんの独特な動きが入っているところが、すごく魅力的だしおもしろいです。入団して最初の作品が『火の鳥』で、僕はパルチザンの役をいただいたのですが、実際に踊ってみたらもう大好きになりました。以前は『眠れる森の美女』や『白鳥の湖』といった王道の古典バレエが好きだったけれど、いまや『火の鳥』が自分の中の「好きな作品ランキング」の上位にあります。あとは『バレエ・フォー・ライフ』が、踊っていて最高に楽しいです! とてもやりがいのある毎日を過ごせています。
素敵ですね! 聞いているこちらまで嬉しい気持ちになります。
武岡 僕の世代だと、やはりベジャール作品にあまり触れたことがない人が多いんです。以前の僕みたいに。だけど実際に観たり踊ったりしてみたら絶対に魅力がわかるので、ぜひ若い人にも知ってもらいたいです。
武岡さんのような存在が、ベジャール作品の魅力を次世代に伝える橋渡しになりそうです。
武岡 僕にはまだそんな大それたことは言えませんが、いつかそうなれたらいいなと思います。
ジル・ロマンさんの振付作品には、どんな魅力を感じますか?
武岡 いままで見たことのないような振付なんです、ジルさんの作品って。ジル・ロマン作品にしかない、独特な動きでできているというか。そして何か具体的なメッセージがあるわけではないけれど、理解すればするほど、いろいろなものが見えてくる作品だという気がします。理解しようとすればするほど面白くなる。そこに僕は魅力を感じていますね。ただ、体力的には物凄くしんどいです。初めて踊った時はびっくりしました。
しかし今シーズンから入団ということは、まさに小林十市さんがバレエマスターに就任されるのと同じタイミングだったのですね。
武岡 はい、ちょうど同じ時期に入団しました。プロになったばかりの僕を本当に温かくサポートしてくださっています。でもレッスンやリハーサルでは厳しく指導してくださるので、とてもありがたいですね。プロとしてどう振る舞うべきかということも教わっていますし、困ったときはいつも十市さんに相談しています。
最後に、これからの目標を聞かせてください。
武岡 十市さんはもちろん、真幹さん、秀雄さん、真理さん……ここにいらっしゃる日本人ダンサーはみなさんプリンシパルロールを踊っていらっしゃいます。その姿を観ると、本当にかっこいいなと思うんです。だから僕もいつか、先輩方のように中心で踊れるようになりたいです。

いきいきとした表情でリハーサルに臨む武岡さん(写真奥)。一緒に踊っているのは岸本秀雄さん

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