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【リハーサル動画付き】日生劇場ファミリーフェスティヴァル 2025「コッペリア」東京シティ・バレエ団インタビュー!

若松 圭子 Keiko WAKAMATSU

動画撮影・編集:古川真理絵(バレエチャンネル編集部)

2025年7~8月、日生劇場ファミリーフェスティヴァル 2025が開催されます。1993年当時、開場30周年を迎えた日生劇場が「家族で本格的な舞台芸術に触れてもらいたい」という思いでスタートさせた企画で、現在は毎年約2万人の観客が劇場に訪れる人気イベントです。
今年のラインアップは、クラシックコンサート、舞台劇、バレエ、ミュージカルと、いずれも子どもたちはもちろん、おとなも楽しめる4作品。その中で8月15~17日に上演されるのは、東京シティ・バレエ団によるバレエ『コッペリア』です。初めてバレエを観る子どもたちにも分かりやすいように、マイムやおはなしの解説が付いた“日生劇場版”は、3歳から鑑賞できます。
6月中旬に行われたリハーサルのようすを、動画レポートでお届けします。『コッペリア』演出・振付の石井清子さん、演出助手の中島伸欣さんのクロストークもあわせてお楽しみください。

取材したダンサーリスト
<スワニルダ役>
清水愛恵(しみず・まなえ)
斎藤ジュン(さいとう・じゅん)
庄田絢香(しょうだ・あやか)
<フランツ役>
浅田良和(あさだ・よしかず)
栄木耀瑠(えいき・ひかる)
<コッペリウス役>
春野雅彦(はるの・まさひこ)

©Takashi Shikama

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石井清子×中島伸欣クロストーク

『コッペリア』演出・振付の石井清子(いしい・きよこ)さんと演出助手の中島伸欣(なかじま・のぶよし)さんに、東京シティ・バレエ団『コッペリア』の魅力や日生劇場版ならではの見どころ、思い出の舞台鑑賞体験などについて聞きました。

右から:石井清子さん(東京シティ・バレエ団顧問)、中島伸欣さん(同団監督) ©Ballet Channel

この夏、日生劇場ファミリーフェスティヴァル 2025で上演される『コッペリア』は、バレエ団の代表作ですね。
石井 日生劇場ファミリーフェスティヴァルでの上演は今年で3度目。それに本公演のほか、学校公演も合わせると、400ステージ以上の公演を行ってきたことになります。
演出・振付を務める石井先生が『コッペリア』で好きなポイントは?
石井 まずは登場人物たちのキャラクターです。貴族でも、動物や妖精でもなく、ポーランドとハンガリーの山間の村に暮らす人たち。私も下町に生まれ育ちましたから、庶民的で明るく楽しい感じが好きですし、お客さまにも楽しんでいただけると思います。軽快なドリーブの音楽も素敵ですよね。フランスっぽい軽さがあって、ちょっと洒落ていて。
『コッペリア』の初演は1870年。『白鳥の湖』よりも前に作られた古典バレエです。
中島 原作となったホフマンの「砂男」が発表されたのが1817年、科学の研究が活発になってきた時代です。科学の存在は人々の生活をサポートし、夢を与えてくれる反面、脅かすこともあった。そのいっぽうで、魔女や魔法の存在も信じられていました。『コッペリア』はそんな時代に生まれたバレエなんですよ。
『コッペリア』に登場する発明家のコッペリウスは、自分が作った人形のコッペリアを娘のように可愛がっています。第2幕では屋敷に忍び込んできたフランツの魂を抜き取って、コッペリアに移そうとしますね。
石井 コッペリウスは、スワニルダが人形になりすましているのも知らずに、コッペリアが動き出したと大喜びするけれど、やっぱり人形は人形でしかなかった、という結末が待っています。人間にそっくりな人形を作って誇らしげなコッペリウスの姿を思うと、なんだか機械を信じすぎて想像力が追いつかなくなってしまった現代人への風刺にも見えてきます。いまでは科学の力で作れないものはないと思っている人も多いけれど、人のかたちをしたロボットは作れても、人間の心を作ることはできませんものね。

©Ballet Channel

日生劇場版には、この第2幕の終わりに新しい場面が加わっていると聞きました。
石井 コッペリウスのお話の結末を第2幕できちんと伝えて、第3幕は物語のフィナーレとして、純粋に踊りを楽しんでもらえるようにと考えました。「コッペリアはただの人形だったんだ」と嘆くコッペリウスのあたまの中に、彼が作った人形たちが現れます。
中島 コッペリウスは、自分の夢が完全に破壊されてしまったことを知って、強い悲しみを覚えるんですね。僕はここを、スワニルダとフランツの幸福感に対して意図的に「、」を打つというか、一瞬「待った」をかけるような場面だと思っています。ここまで楽しく観てきたけれど、幸せなお話の裏でこんなに悲しんでいる人がいる、ってことを、子どもたちにもちょっとだけで感じてほしい。難しいかもしれないけれど、だからこそごまかさずに、きちんと伝えたいって思うんですよ。

©Takashi Shikama

今回、主役をつとめる3組のダンサーに望むことは?
石井 スワニルダもフランツも、代々のトップダンサーたちが演じてきた役ですが、ダンサーが変われば踊りも変わります。私はそれぞれの個性が踊りに現れるように、ダンサーに合わせて振付を変えてしまうこともあります。古典作品の振付は、本来守っていくべきなのかもしれませんけれど(笑)、ダンサーによって面白いところも素敵なところも違いますからね。「あなたは、こう踊ったほうがきっといいわよ」と私から声を掛けるようにしているんです。
中島 清子先生は、ダンサーたちに「あなたのなかで『本当』だと思う動きをして」とおっしゃいます。真実を表現すればかならず客席にも伝わる、ということですよね? バレエは西洋で生まれたものだから、僕たち日本人は真似ることから始めます。でも、いつまでも物まねのままなんて、日本人として寂しいじゃないですか。ぬり絵の枠の中に指定された色を塗るだけのような踊りでは、人は感動しない。枠からちょっとはみ出てもいいから、自分だけの絵を描くような気持ちで踊ってほしいと思います。
石井 私はダンサーに言うんです。「『こうしなければいけない踊り』はしちゃいけない。『こうしたいと思う踊り』をして」と。クラシック・バレエの型だけを追い求めないで、「これが私の踊りよ!」と堂々と表現していいんです。自分が楽しんで踊らなかったら、お客さんも楽しめないでしょう?

©Ballet Channel

今回の公演で、初めての舞台鑑賞を経験する観客も多いと思います。先生方が印象に残っている舞台鑑賞体験を聞かせてください。
石井 私は第二次世界大戦の終戦直後に、初めて上演されたバレエ『白鳥の湖』ですね。当時、銀座はほとんどが焼け野原で、食べるものも満足にいきわたっていませんでした。そんな時に、『白鳥』が上演されたんです。GHQという連合国軍の総司令部があって、その隣が帝国劇場でした。門の前で銃を手に立っている占領軍の前を走り抜けて劇場へ向かいました。当時の私は『白鳥の湖』をまったく知らなかったけれど、パラシュートの布のような生地で作られたチュチュを着たバレリーナが踊っているのを観た瞬間、「こんなに美しいものが世の中にあるなんて……私がやりたいのはこれ!」と思いました。
中島 清子先生が御覧になった『白鳥の湖』は、藤田嗣治が舞台美術を担当したものです。東京シティ・バレエ団創始者の有馬五郎も、「フジタの白鳥」(https://tokyocityballet.com/swanlake/stage-art )には衝撃を受けたと聞いています。その縁もあって、東京シティ・バレエ団は2018年、創立50周年記念として「藤田美術の白鳥」を新制作しました。
僕の話は、清子先生のように感動的じゃないですけれど、いいですか? 18歳までの僕は、どちらかというと政治的なものや映画に熱中する、少々生意気な子どもだったんです。当時は70年安保闘争の時代。政治的な知識もない僕は、漠然とした生きづらさを感じていました。学生たちが封鎖していた東大安田講堂がこの先どうなるのか、もし機動隊によって封鎖が解除されたら、その先どうやって生き延びればいいんだろう……そんなある日、闘争の映画を観るために体育館に行きました。タバコを燻らせながら「世の中、もう終わりだな」なんてぼんやりと思っていた時、ステージにダンス部が現れて、モダンダンスを踊ったんです。『せせらぎ』っていう作品でした。それを観た瞬間、雷に打たれたみたいになりました。乗っかっていた重たい石が取り除かれたような気持ちの中で、「僕はまだ、この世界で生きていけるかもしれない」と感じ、バレエの道を志すようになりました。
お客さまにメッセージをお願いします。
石井 私の両親は歌舞伎が好きで、私が小さい時から、初日、中日、千穐楽と月に3度は歌舞伎座に出かけていました。両親が歌舞伎を観ているあいだ、私は畳のお部屋にいる割烹着をきたおばさんに預けられていました。そのうちに両親が、子どもは敵討ちや毒まんじゅうを食べて死ぬ場面を観ても分からないだろうけれど、踊りだったらわかるかもしれないと、少しの時間だけ劇場に入れてくれるようになりました。6代目尾上菊五郎『羽根の禿』を観たのも幼少期の記憶です。
劇場に行き、踊りを観て、なんて面白いのかしらと心躍るあの感じは、93歳になったいまも同じです。日生劇場ファミリーフェスティヴァルは小さなお子さんから観ていただけます。ぜひ小さな時から劇場に通って、夢を育ててほしいと願っています。

©Ballet Channel

【Q&A】ダンサーたちに聞きました!

Q:子どもの頃に観て印象に残っているバレエ公演は?

清水愛恵(しみず・まなえ)スワニルダ役

幼い時、母と一緒に日生劇場版『コッペリア』を観に行きました。細かなことは忘れてしまいましたが、すごく綺麗!と感じた記憶は残っています。 今回は、私の子どもが舞台を観に来てくれるんですよ。今までは母として隣の席で鑑賞していましたが、舞台で踊っている姿を初めて観てもらえます。

斎藤ジュン(さいとう・じゅん)スワニルダ役

『くるみ割り人形』です。頭が外れてしまったくるみ割り人形を、ドロッセルマイヤーが手を使わずにもとどおりにしたのにびっくり! 舞台が終わってもずっと不思議で、友だちと「あれ、どうなってるんだろう?」と真剣に話し合ったのを覚えています。

庄田絢香(しょうだ・あやか)スワニルダ役

初めてバレエを観たのは、お友だちの発表会。衣裳が可愛くて、親に「私もやりたい!」とお願いして習い始めました。ミュージカルも好きで、感情を踊りや歌で表現するのに憧れていて。発表会前にはバレエやミュージカルのDVDで演技の研究をして臨みました。

浅田良和(あさだ・よしかず)フランツ役

子どもの頃は観に行く機会がなかなか取れなかったのですが、中学生になり、バレエに本気でのめり込み始めると、親が東京までバレエ公演を観に連れて行ってくれました。一番印象に残っているのは、世界バレエフェスティバル。自分がどの席のどの角度から舞台を見ていたのかも記憶しています。

栄木耀瑠(えいき・ひかる)フランツ役

母が趣味でバレエを習っていたので、僕が初めて観たバレエ公演は母の発表会でした(笑)。ずっと寝ていたようなのですが、男性ゲストダンサーの踊りだけは、はっきり覚えています。プロの舞台の初鑑賞は、東京シティ・バレエ団の『くるみ割り人形』。くるみ割り人形役のテクニックに憧れました!

春野雅彦(はるの・まさひこ)コッペリウス役

母が、ジョルジュ・ドンの『ボレロ』に連れて行ってくれたそうなのですが、まだ小さかった僕は寝てしまって。いま思えば、すごくもったいないことをしました(笑)。その後に行った『くるみ割り人形』では、母曰く、くるみ割り人形とねずみの王様が戦うシーンだけ目を覚まして、真剣に観ていたそうです。

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公演情報

日生劇場ファミリーフェスティヴァル 2025
東京シティ・バレエ団
バレエ「コッペリア」-日生劇場版-

【日程】
2025年8月15日(金)~17日(日)

※上演時間 約2時間(休憩を含む)

【会場】
日生劇場

【主な出演者】
◆8月15日(金)11:00/8月16日(土)11:00
スワニルダ:庄田絢香
フランツ:浅田良和
コッペリウス:青田しげる

◆8月15日(金)15:00/8月17日(日)15:00
スワニルダ:斎藤ジュン
フランツ:栄木耀瑠
コッペリウス:春野雅彦

◆8月16日(土)15:00/8月17日(日)11:00
スワニルダ:清水愛恵
フランツ:濱本泰然
コッペリウス:春野雅彦

【スタッフ】
演出・振付:石井清子
芸術監督:安達悦子
音楽:L.ドリーブ

指揮:井田勝大
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

【公演詳細】
日生劇場ファミリーフェスティヴァル 2025公演情報ページはこちら
東京シティ・バレエ団公演情報ページはこちら

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