
©蓮見徹
2025年10月10日から開幕するミュージカル『エリザベート』。実在したオーストリア皇后エリザベートの生涯を、ミヒャエル・クンツェ(脚本・作詞)とシルヴェスター・リーヴァイ(音楽・編曲)が描いた本作は、1992年にウィーンで初演。以来、世界10か国以上で上演されてきました。
日本では1996年に宝塚歌劇団版、2000年に東宝版を発表。東宝版上演25周年を迎えた今回は、東急シアターオーブのほか、北海道、大阪、福岡で上演されます。エリザベート役を演じるのは望海風斗と明日海りお。トート役は前回公演に続き古川雄大、井上芳雄(東京公演)、山崎育三郎(北海道・大阪・福岡公演)が出演します。
キャスト発表を終えた7月下旬、エリザベート役の望海風斗さんに、作品への意気込みや男役への想い、舞台に立つ原点となったバレエについて聞きました。
- Story
- 死、それは偉大なる愛
自由を愛し、類なき美貌を誇ったハプスブルク帝国最後の皇后エリザベートと、彼女を愛した黄泉の帝王“トート=死”。トートはエリザベートが少女の頃から彼女の愛を求め続け、彼女もいつしかトートの愛を意識するようになる。しかし、その禁じられた愛を受け入れることは、自らの死を意味した。滅亡の帳がおりる帝国と共にエリザベートに“運命の日“が訪れる―。

望海風斗 Futo Nozomi
神奈川県横浜市出身。元宝塚歌劇団雪組トップスター。幼少期よりバレエを始め、2003年宝塚歌劇団入団。月組にて初舞台を踏み、同年花組に配属。2014年雪組に組替えし、2017年雪組トップスターに就任、『ひかりふる路(みち)〜革命家、マクシミリアン・ロベスピエール〜』でお披露目を果たし、『ファントム』や『ONCE UPON A TIME IN AMERICA』などの主演を務める。2021年『f f f-フォルティッシッシモ-』/『シルクロード~盗賊と宝石~』にて宝塚歌劇団退団後は、女優として舞台やテレビ等幅広く活躍。おもな出演作に『DREAMGIRLS』、『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』、『イザボー』、『マスタークラス』など。第30回読売演劇大賞優秀女優賞、第48回菊田一夫演劇賞受賞。2025年10月よりミュージカル『エリザベート』エリザベート役にて出演。
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ミュージカル『エリザベート』に主演!
- 『エリザベート』主演が決まったときの感想は?
- 望海 お話をいただいた時は、本当に驚きました。これまで生きてきて、まさかエリザベート役を演じることになるとは思ってもいなかったんです。大好きな作品ですし、このようなチャンスをいただけたことが何よりも嬉しいです。
- 望海さんが感じる作品の魅力は?
- 望海 『エリザベート』は、ハプスブルク家の輝かしい栄光の裏側を描いた作品。ロマンティックな歌詞とロックミュージックという、一見アンバランスなものが見事に融合していて、とても魅力的です。光と影を対比させることで、観る人を作品の世界観にぐっと引き込んでいますよね。音楽も素晴らしく、どの曲も好きなのですが、とくに「愛と死の輪舞(ロンド)」というナンバーが好きです。「死」が人間に惹かれるという、物語のきっかけにもなっている曲。この楽曲を聴いていると、何かが始まる予感がします。
- これまで宝塚歌劇団の雪組公演で暗殺者ルキーニを、スペシャル・ガラ・コンサートではトートを演じました。エリザベートという役柄の印象は?
- 望海 トートを演じたときに、エリザベートから強い生命力を感じました。彼女は死と相反するものを持っている存在ですよね。エリザベートには死の影がつきまとうけれど、命を輝かせようとする生き方そのものがトートを惹きつけてやまない魅力なのだと思います。
これからお稽古を進めていくなかで生まれるものを大事にしながら、エリザベート像を作り上げていきたいです。
- 作中で印象的なシーンはありますか?
- 望海 東宝版にしかないシーンで、皇太后のゾフィーが亡くなる前に「ゾフィーの死」という曲を歌う場面があります。私はその歌を聴いたときに、彼女にあたたかい人間味を感じました。ハプスブルク家を統べる皇太后としての冷酷さの裏に、子を想う母の気持ちや、彼女自身が必死に乗り越えてきた壁や苦労がある。この1曲に込められたゾフィーの思いを受け取って、あらためてこの作品の深さを感じました。はじめて観た時は衝撃的でしたし、今も大好きなシーンです。
- 共演者とのエピソードは?
- 望海 共演回数が多いのは、トート役を演じる井上芳雄さん。どんな作品においても、いてくださると安心感がありますね。そして芳雄さんといると、ジェットコースターに乗っているような気持ちになります。一緒にお芝居をさせていただくたびにとてつもないエネルギーを感じるので、ぼーっとしていたら置いていかれてしまうと思って食らいついています(笑)。
- 作中の曲にちなんで、もし“最後のダンス”を踊るなら?
- 望海 (即答で)宝塚劇場の大階段で黒燕尾を着て踊りたいです。

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男役からありのままの自分へ
- 望海さんが舞台に興味を持ったのはいつ頃でしたか?
- 望海 9歳か10歳の時、叔母に連れられて観に行った宝塚歌劇団の公演でした。あっという間に魅了されて、「こんな素敵な世界があるんだ」と心が震えたんです。同時にあの舞台に立ちたい、宝塚歌劇団に入りたいという思いが芽生えました。
- 当時、憧れていたトップスターは?
- 望海 天海祐希さんです。お芝居も佇まいもすべてがナチュラルな方でした。子どもながらに、本当に男性じゃないかと思うような自然なしぐさに引き込まれたんです。女性としてもかっこよくて、私の憧れでした。
- 望海さんは宝塚歌劇団に入団し、雪組トップスターとして活躍。在団中、いちばん思い出に残っていることは?
- 望海 思い出すのは退団の時です。コロナ禍でなかなか思うように公演ができなかったこともあり、いろんな方のいろんな思いを浴びました。劇団でお世話になっている方や退団された先輩方、一緒にいた雪組の子たち、応援してくださるファンの方々。みんなの思いがあって、公演が成り立っているのだということをあらためて感じる日々でした。宝塚歌劇団に入団して18年、ここまで頑張ってきて本当によかったと思いました。
- 宝塚歌劇団を退団した後、舞台への出演を重ねるなかで気持ちの変化はありましたか?
- 望海 男役をやりきって、人生のいちばん大きな目標を達成できたと思いました。でもこの後は何を目指して頑張ればいいのだろう?と。宝塚の時のような明確な目標がないので、はじめのうちは何を思って舞台に立てばいいのかわからなくなってしまった時期もありました。私がいたのは宝塚という場所で、これからは男役から変わらなきゃいけない。みなさんと一緒に稽古をするなかで、自分がどこか違う場所にいるような感覚もありました。それから、作品を通してたくさんの方に出会い、経験を重ねていくうちに、だんだんと自然な自分でいられるようになりました。そうなるまでに3年くらいかかったと思います。その間はずっと模索の日々でしたね。

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- 舞台に立つうえで大切にしていることは?
- 望海 舞台はお客さまがわざわざ足を運んでくださる特別な場所です。配信の公演もありますが、せっかくなら「劇場に来て良かった」と思ってもらいたいじゃないですか。お客さまにその日にしかできないものをきちんとお届けする。決められた歌や台詞を守りつつ、劇場の空気感や反応を感じながら、一回一回の舞台を作るようにしています。
歌や台詞をきちんと正しく響かせるのは大前提で、そういった技術的な面は稽古で仕上げるものです。そのうえで、歌う時は舞台に立った瞬間にこぼれる新鮮な思いを大切にしています。役としても望海風斗としても自分をさらけ出す。それができるのが、ミュージカルの歌の部分だと思うんです。
- 歌のために取り組んでいることは?
- 望海 時間がある時は韓国に行ってミュージカルを観たり、ボイストレーニングを受けたりしていますね。韓国にはびっくりするくらい歌の上手い方が多いのですが、同じ人間だから私も絶対にできる!と思って練習しています。現地の公演で生の歌を聴いて刺激をもらったり、日ごろどんな訓練をしているのかを学んだりするのが、今とても楽しくて。
実際にレッスンを重ねていくうちに、声を出すアプローチの仕方が少しずつ変わってきました。前に強く出さなきゃと思っていたけれど違うなとか、力を抜いたほうが高音も出るとわかっていてもできていなかったなとか。これまで引っかかっていた部分も、先生に特訓していただくなかで、掴めるようになってきました。『エリザベート』でこれがどう活かされるのか楽しみです。
- 今回のエリザベート役のように、実在の人物を演じる時の役作りは?
- 望海 時代背景や国の情勢、育った環境について知るために、資料を探すようにしています。ただ、史実の通りその人になれるわけではないので、台本を読んで作品の中でどういう人なのか、どんな信念を持っているのかを探っていますね。その人の原点とも言える史実からわかる背景と、台本に書かれている背景を組み合わせる。そうすることで、作品の世界を生きているかのように役を作り上げられたらと思います。

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原点はバレエの発表会
- 望海さんがバレエを始めたきっかけは?
- 望海 昔から身体で表現することが好きで、歌ったり踊ったりするのが大好きな子どもだったそうです。そんな私を見て、家族が幼い私をバレエ教室に通わせてくれました。
- バレエを続けるなかで、楽しかったことやつらかったことは?
- 望海 発表会がいちばん楽しい思い出です。通っていた教室の発表会は規模が大きく、全国から生徒が集まり、1週間ほど劇場を貸し切って行われていました。大きな劇場で、綺麗な衣裳を着て、スポットライトを浴びて踊る。舞台に立つことが好きになった原点は、バレエの発表会だったと思います。
いっぽうで、バレエに対する苦手意識もあって。周りの子はどんどんうまくなっていくのに自分は成長を感じられなくて、もどかしい思いをしていました。発表会があったから頑張れたけれど、そういった目標がなければ続けられなかったかもしれませんね。でもバレエ時代のお友達とは今も仲が良いですし、みんなで一生懸命やったことが楽しい思い出として刻まれています。
- トウシューズにまつわる思い出はありますか?
- 望海 私、甲が全然出なくて……足首の関節炎になってしまいました。宝塚音楽学校に入ってからもトウシューズを履くレッスンがあったのですが、いつも甲が引けたまま立っていたんです。本当にポワントで立つには、向き不向きがありますよね。だから、綺麗に立てる人ってすごいなと思います。それでも、トウシューズを買いに行ったり、選んだりするのは楽しかったです。
- 印象に残っているバレエ作品は?
- 望海 宝塚歌劇団の在団中から、作品の振付で元ハンブルク・バレエの大石裕香さんにお世話になっていました。その時に映像で見せていただいた『椿姫』がとにかく衝撃的で。自分が習っていたこともあって、バレエはきちっと型に当てはめなくてはいけないもので、難しいとか厳しいといった印象がありました。でも、『椿姫』を観た時に「お芝居そのものだ」と感じたんです。美しいだけではなくて、感情がありありと伝わってくるようなダンサーの表現に心が震えました。バレエが自分の好きなものとこんなにも共通しているんだと分かって、とても嬉しかったです。
- 望海さんが感じるバレエの魅力とは?
- 望海 宝塚を経て、ミュージカルに出演していちばん思うのは、踊る人にとってバレエは基礎だということ。それと同時に受け継がれる伝統でもあり、音楽や舞台美術と一体となった総合芸術でもあります。私は得意ではなかったけれど、バレエを通ってきて本当によかったなと思っているんです。言葉がなくても、身体で感情を表現することで観る人の心を震わせる。バレエはなんて尊いものなんだろうと感じます。日々の稽古の積み重ねで、人間の肉体の限界にも挑戦しているので、ぜひ多くの方に触れていただきたいです。
- 最後に公演を楽しみにしている読者へメッセージを。
- 望海 『エリザベート』はみなさんに長く愛されている作品ですので、はじめて出演させていただく身としてとてもドキドキしています。これまで作品に出演されている方々と一緒に稽古できるのが楽しみですし、とにかく自分にできることをひたすらやっていこうと思います。お客さまが劇場を後にする時に「来てよかった」と思っていただけるように、みなさんと素敵な作品を作りあげていきたいです。

©蓮見徹
ヘアメイク:yuto
スタイリスト:嶋岡隆、北村梓(Office Shimarl)
ピアス ¥6,050 リング ¥4,510 共にieLS(ロードス☎︎03-6416-1995) パンプス ¥37,400(銀座かねまつ☎︎03-3573-0077) その他スタイリスト私物
公演情報
ミュージカル『エリザベート』
東京公演
【日程】2025年10月10日(金)~11月29日(土)
【会場】東急シアターオーブ
北海道公演
【日程】2025年12月9日(火)~18日(木)
【会場】札幌文化芸術劇場 hitaru
大阪公演
【日程】2025年12月29日(月)~2026年1月10日(土)
【会場】梅田芸術劇場メインホール
福岡公演
【日程】2026年1月19日(月)~1月31日(土)
【会場】博多座
【キャスト】
エリザベート(ダブルキャスト) 望海風斗、明日海りお
トート(トリプルキャスト) 古川雄大、井上芳雄(東京公演のみ)、山崎育三郎(北海道・大阪・福岡公演のみ)
フランツ・ヨーゼフ(ダブルキャスト) 田代万里生、佐藤隆紀
ルドルフ(ダブルキャスト) 伊藤あさひ、中桐聖弥
ルドヴィカ/マダムヴォルフ 未来優希
ゾフィー(ダブルキャスト) 涼風真世、香寿たつき
ルイジ・ルキーニ(ダブルキャスト) 尾上松也、黒羽麻璃央
マックス 田村雄⼀
ツェップス 松井 工
エルマー 佐々木 崇
ジュラ 加藤 将
シュテファン 佐々木佑紀
リヒテンシュタイン 福田えり
ヴィンディッシュ 彩花まり
朝隈濯朗、安部誠司、荒木啓佑、奥山 寛、後藤晋彦、鈴木大菜、田中秀哉
西尾郁海、福永悠二、港 幸樹、村井成仁、横沢健司、渡辺崇人
天野朋子、彩橋みゆ、池谷祐子、石原絵理、希良々うみ、澄風なぎ
原 広実、真記子、美麗、安岡千夏、ゆめ真音
トートダンサー
五十嵐耕司、岡崎大樹、澤村 亮、鈴木凌平
德市暉尚、中村 拳、松平和希、渡辺謙典
Swing 三岳慎之助、傳法谷みずき
少年ルドルフ(トリプルキャスト) 加藤叶和、谷慶⼈、古正悠希也
【クリエイティブ】
脚本/歌詞 ミヒャエル・クンツェ
音楽/編曲 シルヴェスター・リーヴァイ
演出・訳詞 小池修一郎(宝塚歌劇団)
【公演に関するお問合せ】
東宝テレザーブ TEL:03-3201-7777
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