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【特集:パリ・オペラ座バレエ】④アントニオ・コンフォルティ(スジェ)インタビュー〜「バレエをやる!」とひらめいた日から、僕は踊りと共にいます

若松 圭子 Keiko WAKAMATSU

©︎Jean-Pierre Delagarde / Opéra national de Paris

2024年2月、パリ・オペラ座バレエ日本公演が開幕! 4年ぶりの来日となる今回はヌレエフ版『白鳥の湖』とマクミラン振付『マノン』の2作品を上演します。

太陽王ルイ14世により創設された世界最古のバレエ団として、偉大な歴史を刻み続けてきた同団。2022年にはジョゼ・マルティネズが芸術監督に就任し、さっそくオニール八菜やマルク・モロー、ギヨーム・ディオップがエトワールに任命されるなど、今また新たな時代が拓かれようとしています。

本特集では、パリ・オペラ座バレエのダンサーたちのインタビューを連続でお届けします。
第4回は2023年にスジェに昇進したアントニオ・コンフォルティです。2012年収録のドキュメンタリー『未来のエトワールたち パリ・オペラ座バレエ学校の一年間』でも注目を集めたコンフォルティ。昨年7月「オペラ座ガラ―ヌレエフに捧ぐ―」来日で演じたヌレエフ版『白鳥の湖』のロットバルトを、今回は全幕で披露します。

Interview #4
アントニオ・コンフォルティ Antonio Conforti
スジェ

アントニオ・コンフォルティ ©Ballet Channel

昇進おめでとうございます。スジェになってから気持ちに変化はありましたか?
本当に幸運だったと感じています。入団してから10年、決して楽な道ではありませんでしたが、昇進までのあいだに支えてくれた多くの方たちにこころから感謝しています。
気持ちの上で大きく変わったのは、いままで僕がやってきたことに間違いはなかったと確信できたことです。スジェという立場は、与えられた役を踊ってもいいのだという自信を僕に与えてくれます。同時にパリ・オペラ座バレエに対する責任というものも強く感じるようになりました。
バレエを始めてから、パリ・オペラ座に入るまでのエピソードを聞かせてください。あなたが他のインタビューで「突然『クラシック・バレエがやりたい』と思った」と話しているのを読みましたが、なぜそう思ったのかとても興味があります。
答えにくい質問ですね(笑)。なぜなら本当に“突然”そう思ったんですよ。僕はイタリア出身で、ナポリにほど近いサレルノという街のそばにある、住民1000人程度の小さい村に生まれ育ちました。バレエやダンス文化がまったくない環境だったのに、なぜ自分の中に「バレエをやりたい」という強い思いが生まれたのか……すごく不思議です。
当時のことを思い返してみると、僕は母の希望で水泳を習っていましたが、それが嫌で嫌でいつも泣きながら通っていました。何度もやめたいと言ったけれど許してもらえなかった。そこで、僕はある日こう言ったんです。「水泳をやめたい。僕はバレエをやる」と。母もびっくりしたと思います。だって村にはバレエの文化はまったくなかったし、彼女自身もバレエについて何も知りませんでしたから。母はバレエを習う方法を調べて、僕にある取引を持ちかけました。「わかったわ、習いなさい。でもバレエをやるなら水泳も続けること!」って(笑)。
取引を交わした僕は、1年間水泳とバレエを両立。僕が踊りを本当に好きなことも少しずつ家族にわかってもらえて、2年目からは水泳をやめ、バレエに集中できるようになりました。でも、いくら水泳をやめたかったとはいえ、なぜ自分の中に「バレエ」が浮かんだのかは分からないままです。でも当時の僕に「バレエ」というインスピレーションを与えてくれた神様にはとても感謝しています。
バレエを始めてから、水泳のように「もう習いたくない」と思ったことは?
いままで一度もありません。やめたいと思ったことも、嫌だと思ったことも。苦しくてバレエから距離を置きたいと感じた時はもちろんありました。だけどそういう時はいつも自分に問いかけるんです。「なぜバレエを続けたいの?」と。そうやって自分を見つめ直す時間は、僕の踊りに新たな力を与えてくれます。人生が続く限り、踊りは僕と共にあり続ける。そう確信しています。

©Ballet Channel

イタリアでバレエを習っていたコンフォルティさんは、15歳でパリ・オペラ座バレエ学校へ入る決意をします。
第一次審査は写真とビデオ審査でした。通常のオーディションの年齢制限は13歳なので、15歳で中途入学するための方法はそれだけだったんです。
なぜ、パリ・オペラ座バレエ学校に行こうと思ったのか……舞台を観て感動して、ここで踊りたいと思ってはいましたが、決意したきっかけはやはり「オペラ座がパッと頭に浮かんだ」から。オペラ座が自分にすごく近いところにあるような感じがしたんです。そこで今度は母に「パリ・オペラ座バレエ団に入りたい」と伝え、母はバレエ学校に行く方法を調べてくれました。しかし「行く」と言ってはみたものの、まだ子どもだった僕にとっては家族と離れて遠いパリへ行くのはやっぱり怖かった。だから一度だけ「やっぱりやめようかな」と口にしました。
お母様は何と?
「受けたいのなら受けてもいい。でも受かったら絶対に行かなければダメよ。あとで行かないと言うくらいならオーディションを受けるのはやめなさい」と。それで気持ちが決まりました。僕がやりたいことをいつも応援して、励ましてくれて、決してストップをかけない両親には本当に感謝しています。
それから約1年かけて、第一次審査に出すためのビデオや写真撮影の準備を重ねました。家族はいろいろと助けてくれましたし、バレエ教室の先生は練習に何度も付き合ってくれました。パリ・オペラ座は、僕の住む村からは遠く遠く離れた憧れの場所。もしかしたら、みんな本当に受かるとは思っていなかったかもしれません。たとえ失敗しても僕が落ち込まないようにと応援してくれていたんだと思います。
第一次審査に無事合格し、親と一緒にナンテールの学校(パリ・オペラ座バレエ学校新校舎)へ。エリザベット・プラテル校長の前で第二次審査を受け、入学が許可されました。2010年5月18日、16歳になる少し前でした。
学校での思い出を聞かせてください。言語の壁はどうやって克服しましたか?
第2学年から編入しました。入学当初はフランス語がほとんど分からなかったので、授業の内容を理解できるように少し下の学年に入って学びました。でもその年の冬には、ダンス史の口頭試験をフランス語で受けられるまでになったんですよ。バレエのレッスンは最初から仲間とコミュニケーションを取ることができました。ダンスは世界共通の言語ですしね。
コンフォルティさんのレパートリーのひとつ、ヌレエフ版『白鳥の湖』のロットバルト役について聞かせてください。
大好きな役です。ロットバルトは物語の「悪」を象徴する存在として描かれていることが多いですが、ヌレエフ版はそこに心理的な側面が加わっています。魔力を持つ者でありながら王子の家庭教師でもあるという設定になっているので、場面によって見え方も変わるのが面白いと思っています。
第1幕では家庭教師として王子が立派な男性に成長するよう導くだけでなく、じつに曖昧な部分も秘めています。家庭教師ロットバルトは、王子にとって強くそして官能的に……非常に“魅力的に”描かれている。つまり彼は、王子を誤った選択へと導いていく存在なんです。王子はロットバルトに魅惑された瞬間に、彼に裏切られるというわけです。
第3幕ではオディールを連れて現れ、王子に永遠の愛を誓わせます。この場面もすごく面白い。ヌレエフ版『白鳥』は現実の世界ではなく、実在しないものも描いています。第1幕の現実以外は王子の妄想で、オデットへ誓った愛も、王子の理想の愛の妄想なのではと思えるように作られているように感じます。
ロットバルト役を演じるうえで意識していることや、こだわりはありますか?
心理的な部分を表現するために時間はかかりましたが、それぞれの登場人物との関係性を積み上げていくことで、ロットバルトとしてどう在るべきかが掴めるようになってきました。ヌレエフ版の特徴である複雑な振付も、舞台全体を支配するロットバルトの強烈な存在感に繋がっている。踊っていると、まるでロットバルトは自分の計算通りに物語を進めているかのように感じます。
ロットバルトを単純な「悪」として見せたくない。それが演じるうえでの僕のこだわりです。恐ろしい悪魔の雰囲気でなく、磁力のようなもので王子を惹きつけ、支配するような存在として魅せたいと思いながら演じています。日本のみなさんにもぜひ楽しんでいただきたいです。僕は日本で踊れるのが本当に嬉しいし、来日するたびに我が家に帰って来たような、落ち着いた気持ちになるんですよ。

©Ballet Channel

アントニオ・コンフォルティ Antonio Conforti
イタリア出身。8歳からバレエを習い始める。2010年 パリ・オペラ座バレエ学校に入学。2012年にパリ・オペラ座バレエにカドリーユとして入団し、2020年コリフェ、2023年の昇格試験ではハロルド・ランダー振付『エチュード』よりマズルカを踊り、スジェに昇進した

公演情報

パリオペラ座バレエ団 2024年日本公演
会場:東京文化会館
詳細:NBS 日本舞台芸術振興会 公演ページ

「白鳥の湖」全4幕

音楽:ピョートル・チャイコフスキー
振付・演出:ルドルフ・ヌレエフ(マリウス・プティパ、レフ・イワーノフに基づく)
装置:エツィオ・フリジェリオ
衣裳:フランカ・スクアルチャピーノ
照明:ヴィニーチョ・ケーリ

2024年
2月8日(木)18:30
オデット/オディール:オニール八菜
ジークフリート王子:ジェルマン・ルーヴェ

2月9日(金)18:30
オデット/オディール:パク・セウン
ジークフリート王子:ポール・マルク

2月10日(土)13:30
オデット/オディール:ヴァランティーヌ・コラサント
ジークフリート王子:ギヨーム・ディオップ

2月10日(土)18:30
オデット/オディール:オニール八菜
ジークフリート王子:ジェルマン・ルーヴェ

2月11日(日)13:30
オデット/オディール:アマンディーヌ・アルビッソン
ジークフリート王子:ジェレミー=ルー・ケール
※[1/30追記]オデット/オディール役のアマンディーヌ・アルビッソンは降板し、代わってパク・セウンが主演する旨の発表あり。詳細・最新の公演情報は日本舞台芸術振興会WEBサイトでご確認ください

※上演時間:約2時間50分(休憩含む)予定

「マノン」全3幕

音楽:ジュール・マスネ
振付:ケネス・マクミラン
オーケストレーション・編曲:マーティン・イエーツ
原作:アベ・プレヴォー
装置・衣裳:ニコラス・ジョージアディス
照明:ジョン・B.リード

2024年
2月16日(金)19:00
マノン:ドロテ・ジルベール
デ・グリュー:ユーゴ・マルシャン

2月17日(土)13:30
マノン:ミリアム・ウルド=ブラーム
デ・グリュー:マチュー・ガニオ

2月17日(土)18:30
マノン:ドロテ・ジルベール
デ・グリュー:ユーゴ・マルシャン

2月18日(日)13:30
マノン:リュドミラ・パリエロ
デ・グリュー:マルク・モロー

2月18日(日)18:30
マノン:ミリアム・ウルド=ブラーム
デ・グリュー:マチュー・ガニオ

※上演時間:約2時間45分(休憩2回含む) 予定

 

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