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【レポート】日本舞踊の可能性vol.6「琉球英雄傳」取材会~琉球史をベースに描くロマン。日本舞踊と琉球舞踊のコラボレーション

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©︎Yoshiyuki Okubo

琉球王朝をめぐる人間たちのドラマを日本舞踊×琉球舞踊で紡ぐ舞台『琉球英雄傳』が2024年11月22日(金)・23日(土)、東京の浅草公会堂で上演される。
本作は日本舞踊家の藤間蘭黄が芸術監督をつとめ、2018年から上演されている「日本舞踊の可能性」の第6弾。ピアノやバレエなど他ジャンルとのコラボレーションを通じて、日本舞踊の潜在的能力を見出す試みを続けてきた。
今回は琉球舞踊重踊流宗派親子と五耀会(*)がタッグを組み、琉球王朝最大の謎と伝えられる「護佐丸・阿麻和利の乱」に独自の解釈を加えた琉球史のドラマに挑戦する。
2024年10月初旬、東京の稽古場でおこなわれた取材会の模様をレポートする。
(*五耀会:藤間蘭黄、西川扇藏、花柳寿楽、花柳基、山村友五郎による日本舞踊ユニット)

あらすじ
時は15世紀。按司(あじ)と呼ばれる豪族たちを統括する首里の琉球王・尚泰久(しょうたいきゅう)のもとには、父王と共に琉球統一を果たした中城の按司・護佐丸(ごさまる)や家来の金丸(かなまる)、⼤城賢雄(うふぐすくけんゆう)らが仕えていた。
しかし王朝の権力はいまだ安泰ではない。とりわけ若き按司・阿⿇和利(あまわり)のもと勢いを増す勝連は、首里の脅威となっていた。
琉球の平和のために阿⿇和利のもとへ嫁いでいく、王の娘で護佐丸の孫・百⼗踏揚(ももとふみあがり)。
その裏で、ひとつの陰謀が動き始めていた――。

『琉球英雄傳』取材会

この日の登壇は藤間蘭黄(ふじま・らんこう)、西川箕乃助 改め 西川扇藏(にしかわ・みのすけ あらため にしかわ・せんぞう)、花柳寿楽(はなやぎ・じゅらく)、花柳 基(はなやぎ・もとい)、志田房子(しだ・ふさこ)、志田真木(しだ・まき)、の6名(山村友五郎は欠席)。

前列左から:花柳寿楽、花柳 基、後列左から:藤間蘭黄、志田真木、志田房子、西川箕乃助 改め 西川扇藏 ©STARTS

まずは作・演出・振付の藤間蘭黄が、上演に至るまでの経緯を述べた。

『琉球英雄傳』の原案となった『GOSAMARU(護佐丸)〜勇者たちの物語』は、沖縄の中城村(なかぐすくそん)から依頼を受け、2019年、世界遺産にて野外上演。特設舞台には1000人近くの観客が集まり好評を博した。2020年に東京文化会館での再演を予定していたが、新型コロナウイルスによるパンデミックで上演延期に。『GOSAMARU』への強い気持ちはあったものの、再演の目途は立っていなかったそうだ。
ところが、2023年6月に琉球舞踊「志田房子・真木の会」を鑑賞した帰り道、蘭黄氏は「志田真木さんの百十踏揚で『GOSAMARU』を上演したい」と思い立ったという。
「志田真木さんの華やかさ、上品さが百十踏揚のイメージにぴったりだなと思いました。時にちょうど真木さんの創作舞踊『黒髪』は生歌だったことと、三味線の音楽でも踊られているのを拝見したので、これは一緒に踊っていただけるかなと。五耀会の面々へも声を掛け、新たな『護佐丸』を作ろうということになりました」(蘭黄)

また蘭黄氏は琉球史に魅入られた理由を以下のように語った。
「最初私は琉球史に興味を持ってはいませんでした。それが中城村に呼ばれ、15世紀にできたという現地の石垣を見た瞬間、強く心打たれました。信長が安土城に築いた石垣よりも100年ほど前から、第二次世界大戦での沖縄戦の爆撃や集中砲火にも耐え、今でもしっかり残っている。その石垣にロマンを感じたのです。阿麻和利が按司だった勝連城跡からローマのコインが見つかったという話も聞いてより思いが膨らみ、ついには人物相関図が必要になるほど込み入った物語を作ってしまいました(笑)」

振付は日本舞踊パートを蘭黄氏、琉球舞踊のパートを志田房子、志田真木が手がける。長唄の歌詞は書き下ろしで、作曲・作調を六代目杵屋勝四郎が担当。五挺五枚(三味線方5人、唄方5人)に琴を加えての大合奏になるとのこと。邦楽囃子の作調は堅田新十郎。ティンパニーやシンバルといった洋楽器も織り交ぜたダイナミックな音楽が用意されている。

■キャラクター紹介・出演者によるコメント

続いて藤間蘭黄から、出演者とそれぞれが演じるキャラクター紹介がおこなわれ、出演者がひとりずつ意気込みや抱負を述べた。

尚泰久(しょうたいきゅう)/尚巴志(しょうはし):山村友五郎 

「本日欠席の山村友五郎さんには琉球王国の二人の王様をつとめていただきます。若き日の護佐丸と一緒に戦って琉球統一の足掛かりを作る若き初代の王、尚巴志とその息子の尚泰久。友五郎さんは体格が立派で大きい方ですし、その舞姿(まいすがた)にも大きさとおおらかさを感じさせてくれますので、ぜひ友五郎さんには王様役を、とお願いしました」(藤間)

護佐丸(ごさまる):西川箕乃助 改め 西川扇藏

護佐丸は伝説の人物とも言われており、記述はあまり残っていませんが、活躍した年代をみると、彼と阿麻和利には親子くらいの年代の開きがあります。この二人が親子だったら面白いのではないかと思い、『阿麻和利は護佐丸の息子だった』という創作を加えました。西川箕乃助 改め 西川扇藏さんにつとめていただきます。阿麻和利がいつも首に巻いている布切れは、乙樽と別れるときに護佐丸が渡したもの。護佐丸が阿麻和利を息子だと気づくアイテムとしています」(藤間)

西川箕乃助 改め 西川扇藏コメント

沖縄の屋外ステージで護佐丸をやらせてもらった時、蘭黄さん演じる息子の阿麻和利との親子間の葛藤を濃密に演じました。今回、当時の記憶を再現しながら、これは内面的なものを表現できる作品だとあらためて感じています。阿麻和利は自分の出生について知らず、敵方の僕(護佐丸)のことを親とは思ってもいない。とても辛い設定ですが、最後に勝つのは親子の情であってほしいと思いつつ演じたいと思います。人生経験を積み、いい意味で内面性が出せる年代になってきました。そのタイミングで非常にやりがいのある役をいただいたと思っています。護佐丸はひとりだけ世代が違い「じじい」役なんです。実年齢にも近くて、もうそういう年齢になったんだなと潔く認めて、頑固おやじのじじい役でやりたいと思っておりますので、楽しみにしていてください。

西川扇藏 ©Ballet Channel

大城賢雄(うふぐすくけんゆう):花柳 基

「尚泰久の家臣、大城賢雄は伝説の武将。歴史書にも“勢い狼虎(ろうこ)の如し”と表現されており、ものすごく体が大きくて力がある、鬼大城(うにうふぐすく)とも呼ばれるような人物であったと言われています。阿麻和利を攻め滅ぼして百十踏揚を助け、その功により彼女を妻とします。賢雄を演じていただく花柳 基さんは、敏捷な動きもダイナミックな動きもできるとともに、繊細な機微も表現していただける素晴らしい舞踊家なので、この非常に大事な役をお願いします」(藤間)

花柳 基コメント

イメージしているのは鬼柴田と言われていた柴田勝家。力が強く、一本気で直情径行な人物なのかもしれません。百十踏揚を中城から首里へ救い出すところは、よく戯れ歌にある「花のようなる秀頼様を鬼のようなる真田が連れて退きも退いたり加護島へ」を頭に浮かべております。
今回の舞台では、今までの日本舞踊と大きく違う点があります。それは一つひとつの所作に意味があるということ。我々が振事(*)として動きがちな、たとえば向き合う動きだけでも、蘭黄さんから「なぜ向き合うのか」について細かな説明がなされます。その一歩は何のために出すのか、とか、上から下を見る動きと下から上を見る動きでは別の理由がある、とか。さっと流れを覚えるだけで、あとは自分の中で醸成していくのが普段の振り写しなのですが、今回は振りや動きに与えられたものを蘭黄さんが我々にすべて託すがごとく、時間をかけて行っています。蘭黄さんの作品への思い入れが成せるのか、これこそが「蘭黄さん流」なのか。いろいろと思いつつ頑張りたいと思います。
(*振事:日本舞踊や歌舞伎において踊りや所作を主とする演技・演出のこと。所作事)

花柳基 ©Ballet Channel

百十踏揚(ももとふみあがり)/乙樽(おとだる):志田真木

「悲劇の王女、百十踏揚は琉球舞踊家の志田真木さんにつとめていただきます。護佐丸の娘(のちの王妃)と尚泰久の間の子で気品あふれる王女様ですが、政略結婚で敵方とも言える阿麻和利に嫁ぎます。彼の優しさに触れ馴染んできたところに、攻めてきた大城賢雄に連れ去られ、首里に戻されてしまいます。真木さんには、私が創作した人物で若き日の護佐丸が契った村の娘、乙樽も演じていただきます。こちらは琉球舞踊でも庶民の踊りを披露します」(藤間)

志田真木コメント

このたび、日本舞踊界でも名だたる先生方がお集りの公演にお声がけいただきました。私が演じる百十踏揚は、神に使える身分の役でもあります。琉球舞踊の源流は祈りの所作から生まれたと言われておりますので、琉球舞踊家としてもこのお役をいただけたのは嬉しいことですし、なにかに導かれたような気持ちです。今回は私がいちばん年下でみなさんの中に入れていただいた状態。気おくれしがちになるところを先生方が優しく包んでくださいます。尻込みせずに、末っ子の妹が素敵なお兄様たちに駆け寄っていくような気持ちで先生方におすがりして勉強させていただきたいと思います。

志田真木 ©Ballet Channel

百十踏揚の侍女/村の長老・万寿(まんじゅ):志田房子

「琉球舞踊家で人間国宝の志田房子先生にも、百十踏揚の侍女として特別出演をお願いました。琉球舞踊の監修を振付をお願いしていたのですが、やはり房子先生にも出ていただきたいと思い、ドキドキしながらお願いしたところご快諾いただきました。房子先生と真木さんが踊るだけで琉球の風が吹いてくるように感じます。また房子先生には乙樽の住む村の長老、万寿もつとめていただくことになりました。先生に2種類の舞を見せていただくとは、なんと贅沢なことかと思っております」(藤間)

志田房子コメント

琉球舞踊は自分の心の中で思いを秘めながら踊りますので、振りというものがあまりありません。今回参加するにあたって、先生方の(日本舞踊の)とても豊富な表現や大きな動きを拝見しました。琉球舞踊は静の世界ですので、私はいまのままでいいのかなと思いつつもなんとなく心動かされて、少しだけ、よいしょと動いてみることも。私はこの中でも最年長の88歳ですが、舞踊の世界では実年齢ではなく、舞踊年齢で踊ります。琉球舞踊では百十踏揚を演じておりまして、今回演じるのは娘(真木)なのが少しさみしいのですが、先生方ご指導よろしくお願いいたします。みなさんが見つめていてくださいますので、私も一生懸命に務めたいと思います。

志田房子 ©Ballet Channel

金丸(かなまる)後に 尚円:花柳寿楽

「尚泰久が腹心の部下として扱っている金丸という家来は花柳寿楽さんです。私の創作ではちょっとお腹に一物あるような複雑でちょっと黒い人物。後に尚円という名で琉球王の座につきます。見てのとおりノーブルな二枚目ですが、その内に秘めた黒いところを見せていただき、新たな魅力になるといいなと思ってお願いしました」(藤間)

花柳寿楽コメント

僕が演じる金丸と、友五郎さんが演じる尚泰久はお城の中にいることが多い。合戦のシーンも出てこないので、洋舞的に言うと僕たちはダンスナンバーがないんですね(笑)。なので金丸の腹に何かを持った人物像は演技で見せなくてはいけないと思います。
これまで、金丸はいつか王様になるために画策して尚泰久のそばにいると思っていたのですが、今日通してみて、彼はただただ尚泰久を守るために忠義を尽くしていたのではないかと感じました。なので王様に対しては善人であり、いっぽう家臣たちや他の国の人たちには少し冷徹なところがある。基さんが大城賢雄を柴田勝家のようだと言っていたので、じゃあ僕はと考えてみたら織田信長だなと。信長ほど激烈な人物ではありませんけれどね。最初はむしろ豊臣秀吉のように一生懸命尽くしていた。でもふと周りを見渡したら、自分より優れた人物はいないんじゃないかな、と感じて王様になるという野心が芽生えたのかもしれません。もし蘭黄さんが次回作で金丸の思いを書いてくださるなら(笑)、それを踊りで表現できるかもしれませんね。あと僕は沖縄『護佐丸』に出ていないので、沖縄についてのアドバンテージがないんです。時間があったら本当は現地に出かけてお城のところに立ちたい。それだけで湧いてくるイメージも大きく違うと思っています。

花柳寿楽 ©Ballet Channel

阿麻和利(あまわり):藤間蘭黄

「そして私、藤間蘭黄が演じる阿麻和利は、護佐丸が若き日に契った乙樽のあいだに生まれた子ども。庶民の中で育ちながら勝連の圧政に苦しむ民衆を助け、城主の茂知附按司(もちづきあじ)を倒して自分が勝連の城主になります。海外貿易で財をなし、やがて首里の脅威になっていくのですが、私は阿麻和利が6~7歳の子ども時代から15~16歳の若者を経て30歳ぐらいまでをつとめさせていただきます」(藤間)

藤間蘭黄 ©Ballet Channel

■質疑応答

最後は質疑応答がおこなわれ、記者たちから質問がよせられた。
※読みやすさのために一部編集しています

今回は日本舞踊と琉球舞踊のコラボレーションです。私たちにはあまりなじみのない琉球舞踊の美しさや魅力を教えてください。
藤間 まずなんと言っても手の動きの美しさです。日本舞踊はパントマイム的なものや、直線的で勢いのある動きも多いのですが、琉球舞踊はどの場面でも、たおやかな動きを保つというのが素晴らしいと思います。もうひとつは踊りの振り幅ですね。房子先生は手の振りが少ないと先ほどおっしゃいましたが、美しく静かで、能楽のように象徴的な動きを重ねてすべての感情を表す古典舞踊と、脚を上げ、腹のそこから浮かれて踊る雑踊(ぞうおどり。沖縄の言葉では「ぞーうどぅい」)があるのは面白いと思います。

房子 琉球舞踊の古典の場合は顔で表現することはありません。手の動きも少なく静かな中にあって、でもご覧になっている方には気持ちが伝わり涙されます。私たちは気持ちを伝えるために、ここ(胸)に「思い」、沖縄の言葉では「うむい」というんですけれども、それを一曲とおしてずっと静かに置いておきます。それが身体の中で見え隠れすることで人物の思いを伝えるのです。雑踊は庶民の踊りで、明るく跳ねるようにリズミカルに踊る動の世界。いっぽうの古典ではすり足で踊る静の世界。この踊り分けがどうできるかが踊り手にとって命の部分です。今回は私たちがいつも古典舞踊でやっております動きの中で、ちょっとした目線と顔の角度で、それを表現できたらいいなという思いがありまして、それを大事にして踊りたいと思います。

 一般のお客様が見てもわかる違いといえば、我々日本舞踊の手は「お指をつけて」というところからですが、琉球舞踊は(はらはらと動く特有の手の動きを真似て)これだけでも違って見えるんですね。これがなんともいえない。我々がやってもこうはなりません。でも本物だと(房子さん、真木さんの手の動きを見ながら)ね、ぜんぜん違うでしょ! この指先、手の動きひとつだけでも 僕はご覧になる価値があると思います。

©Ballet Channel

日本舞踊と琉球舞踊をどのようにコラボレーションさせるのでしょうか。パートごとに琉球舞踊のみ、日本舞踊のみと分けるのか、それともそれぞれの舞踊を一緒に踊る場面があるということでしょうか。
真木 男女一緒に踊るところでは、先生方は日本舞踊で踊りますが、私たちは琉球舞踊として踊ります。日本舞踊を教えていただくのではなく、同じ踊りを琉球舞踊として表現するんです。ですから私たちが日本舞踊を踊ることもないですし、五耀会の先生方に琉球舞踊を踊っていただくこともありません。踊りはだいたい男性と女性の掛け合いになっているので、目の動かしかたなど、それぞれの踊りで違いがあるところは調和が取れるところを探ります。違和感がないように先生方にも見ていただきます。どちらも日本芸能なので馴染みは良いですが、厳密に言えば違うところはあります。そこを違和感なく踊り、みなさまのお仲間に入れていただけるか。そこは緊張感をもって行っています。型を変えるのではなく、お互い歩み寄りながら、寄り添うような心持ちで進めています。

©Ballet Channel

寿楽 コラボレーションという意味ではもうひとつ、友五郎さんの地唄舞(上方舞)も入ります。パッと見ても分からないかもしれませんが、地唄風と日本舞踊風でも足取りや手の感じなどがちょっと違うんです。舞踊に詳しい人には、そこも深読みしてもらえたら嬉しいですね。どれもが違和感なくすっと融合しているような、いい感じにミックスされた作品にすべく、お稽古していこうと思います。

公演情報

「日本舞踊の可能性」vol.6『琉球英雄傳』

©︎Yoshiyuki Okubo

【日時】
2024年11月22日(金)19:00
2024年11月23日(土)15:00
※上演時間:約2時間予定

【会場】
浅草公会堂

【作・振付・演出】
藤間蘭黄

【振付】
志田房子、志田真木

【作曲・作調】
杵屋勝四郎

【作調】
堅田新十郎

【出演】
西川箕乃助 改め 西川扇藏、花柳寿楽、花柳 基、藤間蘭黄、山村友五郎、志田真木
志田房子(特別出演)

【演奏】
杵屋勝四郎・杵屋栄八郎 社中
堅田新十郎 社中
中川敏裕

【詳細・問合せ】
公演WEBサイト

公式Instagram

 

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