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【第11回】鑑賞のためのバレエ・テクニック大研究!ーグラン・ジュテ(3)バレル・ターン&540

海野 敏

文/海野 敏(東洋大学教授)

第11回 グラン・ジュテ(3)

■バレル・ターン

前回、男性ダンサーによるグラン・ジュテと回転の合わせ技として、「ジュテ・アン・トゥールナン」と「ジュテ・アントルラセ」を紹介しましたが、さらに2種類を紹介します。

1つ目は、英語で「バレル・ターン」(barrel turns)、または「バレル・ロール・ターン」(barrel roll turns)と呼ばれる回転付き跳躍です。「バレル・ジャンプ」とも言います(注1)。フランス語では「トゥール・ドゥ・ラン」(tour de reins)と呼ばれています。

名前の由来を説明する前に、動きを説明します。ジュテで大きくジャンプをしたとき、上体を反らして45度ぐらい傾けます。空中で半回転し、着地したら、さらに半回転をして非軸足を1歩進め、そのままの勢いで再び上体を反らしてジャンプをします。跳躍するたび内回りに1回転するステップであり、跳躍の頂点では、空中で一瞬静止するようにも見えます。凄いダンサーになると、空中で体を水平近くまで傾けることもあります。

跳躍と回転のリズムは、前回のジュテ・アン・トゥールナンの連続では「1、2、1、2、…」でしたが、バレル・ターンは「1、2、3、1、2、3、……」の3拍子。大きなボールが「ポーン、ポーン」とゆったりと弾むようなリズムです。

英語の「バレル」の意味は「樽」。空中で樽を抱いているように見えるからだそうです。いっぽう、フランス語の「ラン」の意味は「腰」なので、「トゥール・ドゥ・ラン」は「腰のひねり」です。ほかにも、空中で両手を広げて回転する様子から、「プロペラ・ターン」、「ヘリコプター・ターン」という呼び名もありますが、これらはバレエ以外のダンスで使われることが多いようです。

古典全幕の主役男性ダンサーのヴァリエーションまたはコーダで、マネージュをするときに披露されます。例えば『ディアナとアクティオン』のパ・ド・ドゥのコーダで、男性のバレル・ターンを見ることができます。『ドン・キホーテ』のバジル、『海賊のアリ』、『ラ・バヤデール』のソロルなども、バレル・ターンでマネージュすることがあります。

■ファイヴ・フォーティ(540)

2つ目は「ファイヴ・フォーティ」(five forty)と呼ばれる回転付き跳躍です。空中で体が540度、すなわち1回転半回るように見える男性のテクニックで、観客に強い印象を残す離れ業です。「ファイヴ・フォーティ・リヴォルタード」と呼ぶこともあります(注2)

通常の左回転(反時計回り)で動きを説明します。体を半回転させながら右脚で踏み切ってジャンプし、空中で上体を大きく傾け、右脚を大きくプロペラのように回転させて左脚を追い越します。この右脚の回転に伴って体も空中で1回転し、右脚で着地します。右脚で踏み切って右脚で着地すること、着地したとき踏み切ったときとは体が反対を向いていることが特徴です。

空中で傾いた体が勢いよく「ぐるん」と回る姿は、たいへん華麗です。踏み切りから着地までの回転が540度なのですが、着地後も勢いで体を半回転させるので、鑑賞していると2回転に見えます。

この大技は、本来はバレエのステップではなく、20世紀後半に、格闘技の動きからバレエへ取り入れられたものだと言われています。アメリカン・バレエ・シアターのダニール・シムキンが得意とする超絶技巧で、世界に広めたのは彼かもしれません。

実際の舞台では、主役男性がテクニシャンの場合、ヴァリエーションまたはコーダのマネージュの最後に、決め技として披露することがあります。とりわけバレル・ターンの連続でマネージュする場合、ファイヴ・フォーティでフィニッシュすることが多いです。

★動画でチェック!
こちらは2009年8月、東京文化会館で開催された「世界バレエフェスティバル」より。アリ役のダニール・シムキンマネージュでバレル・ターンを11回連続させ、12回目にファイヴ・フォーティで締めくくっています。

(注1)「バレル・ターン」と「バレル・ジャンプ」を使い分けて、前者をジャンプせずに回転する動きに用いる場合もあるようですが、海外のバレエ界で“barrel turns”と言えば、ジャンプを伴って回転する動きを指すのが普通のようです。

(注2)「リヴォルタード」は、イタリア語の「リヴォルターレ」(rivoltare)=「ひっくり返す」に由来するフランス語ですが、ダンス以外では使われないようです。ネット上に“rivoltade”と“revoltade”という2種類の綴りがあり、後者の方が多く使われています。さらにファイヴ・フォーティの別名として「カジョール・リヴァルタット」という日本語表現も見つけましたが、これは調べても由来が分かりませんでした。

(発行日:2020年03月25日)

次回は…

第12回は、「パ・ド・シャとグラン・パ・ド・シャ」を紹介します。発行予定日は、2020年4月25日です。
第13回は、「ソ・ド・バスク」を予定しています。

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うみのびん。東洋大学社会学部メディアコミュニケーション学科教授、情報学研究者、舞踊評論家。2018年度より東京大学客員教授。バレエ、コンテンポラリーダンスの舞台評・解説を『ダンスマガジン』、『クララ』などのマスコミ紙誌や公演パンフレットに執筆。研究としてコンテンポラリーダンスの三次元振付シミュレーションソフトを開発中。著書に『バレエとダンスの歴史:欧米劇場舞踊史』、『バレエ パーフェクト・ガイド』、『電子書籍と電子ジャーナル』(以上全て共著)など。

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