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【第13回】鑑賞のためのバレエ・テクニック研究! -パ・ド・シャとグラン・パ・ド・シャ(2)

海野 敏

文/海野 敏(東洋大学教授)

第13回 パ・ド・シャとグラン・パ・ド・シャ(2)

Covid-19の感染予防で自粛生活が続く中、劇場でバレエを鑑賞する至高の楽しみがおあずけになっております。しかし、DVDやBlu-ray disc、テレビ番組の録画やユーチューブの映像ならば、ポーズ、巻き戻し、スロー再生を駆使し、バレエダンサーのスーパーテクニックを隅々まで味わえるという利点もあります。そんな時、この連載がお役に立てば幸いです。

■作品の中のグラン・パ・ド・シャ

前回は代表的な「パ・ド・シャ」として、(A)チェケッティ派のパ・ド・シャ(B)ロシア派のパ・ド・シャ(C)グラン・パ・ド・シャの3種類を説明し、(A)と(B)について印象に残る古典作品の振付を紹介しました。今回は(C)グラン・パ・ド・シャが見どころの踊りの紹介から始めます。

グラン・パ・ド・シャが印象的な古典全幕と言えば、まず『ドン・キホーテ』でしょうか。第1幕キトリ登場してすぐの踊りで、グラン・パ・ド・シャで何度も大きくジャンプします。主人公の明るく溌溂とした性格を表した、勢いのある振付です。

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こちらは5/23にBlu-rayが発売されたばかりの英国ロイヤル・バレエ『ドン・キホーテ』(カルロス・アコスタ版)のダイジェスト映像。キトリ役の高田茜が大きなグラン・パ・ド・シャで華やかに登場します。

第3幕、婚礼のグラン・パ・ド・ドゥでも、キトリはヴァリエーションの冒頭で、アラベスクからのグラン・パ・ド・シャをくり返します(注1)

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こちらも同じく英国ロイヤル・バレエ『ドン・キホーテ』の映像から。第3幕、高田茜によるキトリのヴァリエーションです。

『ドン・キホーテ』第2幕の「夢の場」にもグラン・パ・ド・シャが見どころの場面があります。夢の最後を飾るコーダで、森の精(ドリアード)たちが舞台に斜めに列を作り、その前を上手奥から下手前へ、森の精の女王とドルシネアがダイナミックな跳躍で通過する場面です。まず森の精の女王がグラン・パ・ド・シャの連続で横切り、つづいて同じフレーズでドルシネアも、同じくグラン・パ・ド・シャの連続で横切ります(注2)

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こちらは新国立劇場バレエ団の映像。『ドン・キホーテ』第2幕「夢の場」より、ドルシネアがグラン・パ・ド・シャで横切る場面が見られます。

『ラ・バヤデール』第2幕ガムザッティのヴァリエーションもグラン・パ・ド・シャが際立つ振付です。ガムザッティとソロルの婚礼で、彼女が自分の魅力をアピールする約1分半の短い踊りですが、冒頭、デヴェロッペ・エカルテ・ア・ラ・スゴンドからのグラン・パ・ド・シャで始まり、終盤にも、アラベスク(またはエカルテ・ドゥバン)のポーズを挟んだグラン・パ・ド・シャのくり返しで舞台をマネージュ(周回)します。そして、最後はグラン・パ・ド・シャの3連続で舞台を斜めに横切り、華麗にフィニッシュします(注3)

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ペンシルベニア・バレエの映像より。『ラ・バヤデール』第2幕よりガムザッティのヴァリエーションです。踊り出しの振付はカブリオールのバージョンです。

グラン・パ・ド・シャは、もちろん男性ダンサーの踊りの見せ場にも登場します。例えば『海賊』のアリ『ラ・バヤデール』のソロルは、それぞれ一番見どころとなるグラン・パ・ド・ドゥのアダージオの冒頭、前奏で舞台に登場してすぐに、グラン・パ・ド・シャの大きなジャンプを披露することが多いです。

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マリア・コチェトコワとダニール・シムキンによる、『海賊』よりアリとメドーラのグラン・パ・ド・ドゥ。こちらは2009年8月、東京文化会館で開催された「世界バレエフェスティバル」での映像です。

■パ・ド・シャの応用技

パ・ド・シャは応用技がいくつもありますが、2つだけ紹介します。1つ目は「パ・ド・シャ・アン・トゥールナン」(pas de chat en tournant)です。「アン・トゥールナン」はこの連載でしばしば登場する用語で、「回転しながら」という意味。パ・ド・シャ・アン・トゥールナンは、パ・ド・シャをしながら半回転または1回転するステップです。

パ・ド・シャ・アン・トゥールナンを使ったユニークな踊りが、フレデリック・アシュトン振付ベアトリクス・ポター物語(ピーターラビットと仲間たち)にあります。絵本『ジェレミー・フィッシャーどん』を元にした場面で、カエルの被り物を身につけた男性ダンサーが、数えきれないほど小さなジャンプを重ねるのですが、その中にパ・ド・シャ・アン・トゥールナンでマネージュするシークエンスが含まれています。

2つ目は「ガルグイヤード」(gargouillade)です。この不思議な語感のフランス語は、「バチャバチャと水音を立てる」という意味だそうです。辞書によっては「ボチャボチャ」、「ゴボゴボ」という擬音語が書かれています。パ・ド・シャで跳び上がって、空中で片脚ずつロン・ド・ジャンブ・アン・レールする(膝から下を回す)という大変むずかしいステップです。しかもテクニシャンは左右の脚を2回転ずつします。パ・ド・シャでの滞空時間は1秒足らずですから、とても素早く両脚を動かさなければなりません。

ガルグイヤードは、『くるみ割り人形』第2幕金平糖の精のヴァリエーションに登場します。この2分強のヴァリエーションは細かい足さばきが見どころの踊りですが、その終盤にガルグイヤードの反復が見られます(注4)。この踊りでは、ロイヤル・バレエのピーター・ライト版『くるみ割り人形』で吉田都が踊った、上品で軽快なガルグイヤードが忘れられません。

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こちらが英国ロイヤル・バレエのピーター・ライト版『くるみ割り人形』より金平糖の精のヴァリエーション。ローレン・カスバートソンが美しいガルグイヤードを披露しています。

(注1)キトリのヴァリエーションにはさまざまなパターンがあり、グラン・パ・ド・シャが入らない振付もあります。

(注2)他にも『ドン・キホーテ』でグラン・パ・ド・シャを効果的に使った例を2つ。ヌレエフ版では、第3幕のグラン・パ・ド・ドゥのアダージオ前半で、キトリとバジルが一緒にグラン・パ・ド・シャでジャンプする印象的なシークエンスがあります。アコスタ版『ドン・キホーテ』では、第1幕で闘牛士たちがそろってグラン・パ・ド・シャで跳び回りまわり、壮観です。

(注3)ガムザッティのヴァリエーションにもさまざまパターンがあり、冒頭にグラン・パ・ド・シャが入らない振付もあります。

(注4)ガルグイヤードはプロでもむずかしいステップのためか、パ・ド・シャなどほかのステップで踊ることが少なくありません。

(発行日:2020年05月25日)

次回は…

第14回は「ソ・ド・バスク」を予定しています。6月はお休みをいただき、発行予定日は2020年7月25日です。

 

#おうち時間どうしてますか?
通勤時間と劇場へ行く時間がなくなって余裕ができるかと思いきや、大学のオンライン授業の準備でかえって多忙を極めています。とりわけ、リアルタイムに受信できない学生のために録画教材を用意するのに、膨大な時間がかかります。少しだけユーチューバーになった気分です。

あと、本サイトの乗越たかお氏連載「バレエファンのための!コンテンポラリー・ダンス講座」が軽妙な文章と豊富な映像で面白く、楽しみに読んでいます。

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うみのびん。東洋大学社会学部メディアコミュニケーション学科教授、情報学研究者、舞踊評論家。2018年度より東京大学客員教授。バレエ、コンテンポラリーダンスの舞台評・解説を『ダンスマガジン』、『クララ』などのマスコミ紙誌や公演パンフレットに執筆。研究としてコンテンポラリーダンスの三次元振付シミュレーションソフトを開発中。著書に『バレエとダンスの歴史:欧米劇場舞踊史』、『バレエ パーフェクト・ガイド』、『電子書籍と電子ジャーナル』(以上全て共著)など。

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