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小林十市 連載エッセイ「南仏の街で、僕はバレエのことを考えた。」【第8回】外出禁止生活の中で。

小林 十市

ベジャール・バレエ・ローザンヌ(BBL)のスターダンサーとして世界中の舞台で活躍。
現在はBBL時代の同僚であった奥様のクリスティーヌ・ブランさんと一緒に、
フランスの街でバレエ教室を営んでいる小林十市さん。

バレエを教わりに通ってくる子どもたちや大人たちと日々接しながら感じること。
舞台上での人生と少し距離をおいたいま、その目に映るバレエとダンスの世界のこと。
そしていまも色褪せることのない、モーリス・ベジャールとの思い出とその作品のこと−−。

南仏オランジュの街から、十市さんご本人が言葉と写真で綴るエッセイを月1回お届けします。

***

日本もついにと言いますかやっとと言いますか、緊急事態宣言が7都府県ですか、生活の維持に必要な場合を除き不要不急の外出・移動を自粛するということなんですよね。フランスだと自粛ではなく外出禁止!っていう、もう「家にいて下さい!」と。もちろんまったく外に出てはいけないというわけではないですけど、スーパーへ買い物に行ったり、犬の散歩だったり、仕事の都合だったりと人それぞれですが、毎回外出するたびに外出許可証の〈外出理由〉の項目に記入し、それを持っていない場合や外出の内容が項目通りでない場合は罰金を払うという結構厳しい規則ですが、フランス政府はあるカテゴリーの人々には生活保障/保護をちゃんとしてくれているようです。

クリスティーヌと僕のバレエ教室もレッスンができないので、最初は「振替レッスンをするので」と生徒のみんなに理解をいただきましたが、外出制限/禁止が延長されたり発表会ができなくなる場合は、月謝の払い戻しで最悪スタジオ経営破綻で終わる可能性もあるわけです。

外出禁止令が発令された最初の週は自分も外出許可証に記入し一人スタジオへ行き自主練をしていたのですが、パリや大きな街では規則を守らない人が多かったので

2週目から規則が厳しくなり、例えば個人的な運動や犬の散歩については自宅から1キロ圏内1時間以内と行動範囲と時間が制限されてしまいスタジオに行けなくなってしまいました。3週目に入ると、これは確かパリだけですが10時から19時までジョギング禁止とまでになりました。

ここ南仏のオランジュでは比較的規則は守られているほうかもしれません。僕も週1でバイクに乗ってスーパーへ買い物へ行きましたが、道では車や人をほとんど見かけませんでした。

イギリスやほとんどのヨーロッパのバレエ団も公演がキャンセルされたり、すでにシーズンを終えてしまったバレエ団もあります。ダンサーにとって踊れないことがどれだけつらいかは自分も右足小指を骨折した時に嫌というほど味わいました。
が、考えようによっては、コロナに罹ってしまった方々のことを思うとこうして無事に生活できていることがどれだけありがたく感謝すべきことなのかとも思うわけです。

さて、缶詰状態になったダンサーたちが家でトレーニングをし始めましたね。
SNSという文明の発達でこうして家にいながらにして世界中のバレエ団の作品やカンパニーのレッスンも受けられるという。ある意味バレエファンには逆に嬉しい状況なのかもしれないですね。僕も普段この南仏にいて舞台を観る機会があまりないのでこういうのは嬉しいですね。

そしてすでにいろいろな方がやっていらっしゃいますが、僕もZOOMというアプリケーションを使ってバレエ教室の生徒たちとレッスンを始めました。

やはりプロのダンサーたちと違って、生徒たちはどうトレーニングをしたらいいのかわからないというのがあるので、体が鈍らないためにも最低限のエクササイズはしておいたほうがスタジオを再開した時にいろいろスムーズにことが運ぶのではと思います。
僕は月水金と中高生のクラスを教え、クリスティーヌが火木と小学生クラス、火金と大人のバー・オ・ソルを教えています。

その他、この外出禁止生活のなかで自分がやり始めたことは、まあ座って心落ち着けることとか、娘との時間も多く取れるので一緒に遊んだりしています。

この外出禁止令でいちばんつらい思いをしているのは、アパート/マンションに住んでいる人々ではないかと思います。僕ら家族は幸いにも庭があるので、外出禁止で家に籠っているという感覚があまりなく、外出禁止令が発令されてからずっと天気もいいので、庭に出て運動したり昼はテラスでご飯を食べることもできます。

あと、このような生活が続くなかで……僕ら家族の間では料理を作った人は後片付けをしないという暗黙の了解みたいなのが自然にでき上がりました。

普段通りに行動ができずに不便なこととか多いですが
そんな人間の都合とは全く関係なく
この外出禁止でいちばん喜んでいるのは犬たちではないかと!?

なぜって、みんながずっと家にいるから!(笑)

はい、終わり(笑)

もう書くことないな……いや、本当に自分が生きている間にこういうことが起きるって正直考えたことなかったです。みなさん本当に今この状況を乗り切って収束を迎えた後の人生に向けて力を合わせていきましょう!
という感じですよね。

先日テレビで『ジゼル』を久しぶりに観ました。

僕にとっての『ジゼル』は留学時代に観た、アメリカン・バレエ・シアターのバリシニコフとフェリの『ジゼル』。1986年7月4日にメトロポリタン歌劇場で観た時の公演です。
完売でしたが劇場まで行きました。ダフ屋からオーケストラシートを1席2倍の値段で買って何とか観られることになり、すごく胸ときめいたのを覚えています。
何しろ初「生バリシニコフ」でしたから!

まあ厳密に言うと僕にとっての「生バリシニコフ」はスクール・オブ・アメリカン・バレエのオーディションを受けた1986年5月14日の翌週、5月22日にバリシニコフがスクールのレッスンを受けに来た時なんですけどね、舞台上での彼を観るのはこの時が初めてでした。

その前に、あれは何ていうお店だったかな? リンカーンセンターの近くブロードウェイに面したお店でバレエの本とか写真とかビデオを売ってるお店があって、そこでマカロワとバリシニコフが1977年に踊った『ジゼル』のVHSを買ってずっと観ていたのです。

その日の公演が素晴らしかったのは言うまでもなく、その記憶と先日テレビで観た『ジゼル』と比べてしまうと、比べるというか気になったところがひとつあって、それはマイム。

バリシニコフとフェリのやりとりってものすごく自然で、バレエマイムなんだけど普通に道端で交わしている会話に見えていたんです当時の僕には。それが脳裏に焼きついていて、テレビで観たものがちょっと演芸会っぽく見えてしまった。

という……。

コロナのくだりが短かかったので『ジゼル』の話を付け足したのですが中途半端でした……。
あしからず。

みなさん
くれぐれもお気をつけて。
こんな状況でずっと家にいるんですけど時間が経つのは非常に早いように思います。
今は辛抱する時でしょう。
再び明るい舞台で輝くために!

追記

昨日(4月13日)マクロン大統領が国民に向けて演説をしました。

毎回見ていて思うのですが、この人カンペ読んでいないよな、言葉の緩急の付け方とか感情の込め方とか本当に役者さんだなあ……と。

そこじゃない!見るとこ(笑)

それで、です。

現時点での結論として、外出禁止令は511日まで延長します。と。

とりあえず11日が目標な感じです。しかもそれは、今まで通りに我々が厳しい外出禁止令のルールを守れば、ということらしいです。

そして11日以降は徐々に?(Progressivement)まずは学校を再開していく、と。この「徐々に」がまだ具体的にどういうことなのかわからないです。学校に行った子どもたちが家庭にウイルスを持ち帰ったらどうするんだ? と、9月の新学期からでいいのでは? とも言われているみたいです。その辺りまだ混乱中っぽいですね。

そして、レストランや映画館、ホテルも! 音楽祭とかもちろんバレエ公演、人々が集う場所とかは7月中旬までは禁止と……。

なので、上の記事に書いていた僕たちのバレエスタジオの発表会も、できなくなりました(泣)。

ちょっと……どうしよう?

どうなるんだろう?

本当に先が見えない不安ですね。

クリスティーヌと僕は、スタジオの生徒たちと今やっているオンラインレッスンを続けるつもりでいます。
希望としては、今後の「徐々に再開していく」というものの中にバレエ教室も含まれて、例えば「人数制限」をしながらレッスンを再開できるとか? そうなればいいなあと思っています。先が見えなくても立ち止まることはできないですよね。

なので自分はいつも通りに体は動かしていようと思います。

Vive la Republique et Vive la France
共和国万歳、フランス万歳

って、本当かっこいいわ!

2020年4月15日 小林十市

★次回更新は2020年5月15日(金)の予定です

この記事を書いた人 このライターの記事一覧

元ベジャール・バレエ・ローザンヌ、振付家、俳優。 10歳より小林紀子バレエシアターにてバレエを始める。17歳で渡米し、スクール・オブ・アメリカン・バレエに3年間留学。20歳でスイス・ローザンヌのベジャール・バレエ・ローザンヌに入団。以後、数々の作品で主役をはじめ主要な役を踊る。2003年に腰椎椎間板変性症のため退団。以後、世界各国のバレエ団でベジャール作品の指導を行うほか、日本バレエ協会、宝塚雪組などにも振付を行う。また舞台やテレビ、映画への出演も多数。 2022年8月、ベジャール・バレエ・ローザンヌのバレエマスターに就任。

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