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ステージ交差点〜ようこそ、多彩なる舞台の世界へ〈第16回〉「魔法の○○」

高橋 彩子

ダンス、バレエ、オペラ、演劇、文楽、歌舞伎、ミュージカル……〈舞台芸術〉のあらゆるジャンルを縦横無尽に鑑賞し、独自の切り口で世界を見わたす舞踊・演劇ライターの高橋彩子さん。

「いろんなジャンルを横断的に観ると、舞台はもっとおもしろい!」ーー毎回ひとつのキーワード(テーマ)をピックアップして、それぞれの舞台芸術の特徴やおもしろさ、共通するところや異なるところに光を当てていただきます。

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魔法の〇〇

古今東西、人を惹きつけてやまないもののひとつが、魔法だろう。人知を超えた力を持てたなら、そしてその力で富や名声や幸せを得ることができたなら。そう願う人たちによって、これまで数えきれないほどの物語が生まれてきた。面白いのは、魔法が多くの場合、特別な道具と共にあること。空飛ぶじゅうたん、不思議な帽子、底なしの革袋……。身ひとつで魔法が使えるほうが万能だけれど、道具に託されているがゆえに、それを得たり失ったり、使いこなせなかったりといった悲喜こもごものドラマにもなる。今回は、魔法にまつわる舞台をいくつかご紹介しよう。

刀剣の絶大なる威力〜オペラ『ワルキューレ』『ジークフリート』、ミュージカル『刀剣乱舞』、能&歌舞伎&文楽『小鍛冶』〜

強さや勇敢さの象徴と呼ぶべき剣。選ばれし者だけが使える剣というのは、幾多の神話や伝説にて描かれてきた。アーサー王伝説の中で王が石から引き抜くエクスカリバー、北欧神話の中でシグムンドが巨木から引き抜いたグラム……。ひとたび然るべき人物の手中に収まれば、これらは素晴らしい魔法の力で主を助ける。

作曲家リヒャルト・ワーグナーは北欧・ゲルマン神話をもとにオペラ「ニーベルングの指環」四部作を創作。その2作目『ワルキューレ』3作目『ジークフリート』に、剣のエピソードが登場する。該当箇所を簡単にご紹介しよう。

『ワルキューレ』©Ken Howard/Metropolitan Opera

神ヴォータンと人間の間に生まれたジークムントは、戦で傷を負って森の中の家に逃げ込み、そこにいた女性ジークリンデから介抱を受ける。じつはこの家はジークムントの敵フンディングのもので、ジークリンデは彼の妻だったが、ジークムントとジークリンデは惹かれ合う。しかしフンディングはジークムントが追っていた男だと気づき、翌日の戦いを言い渡してその場を去る。さて、この家のトネリコの木には剣が刺さっており、誰も引き抜くことができずにいたが、目の前で光り輝く剣を見たジークムントは、それが父に約束された霊剣ノートゥングだと悟り、引き抜く。さらにジークリンデが生き別れになった双子の妹だと分かり、二人は家を出る。
ヴォータンはこのジークムントをフンディングに勝たせる心づもりでいたが、ヴォータンの不義の子である双子の近親相姦という事態に結婚の神である妻フリッカが怒りをぶつけ、断念。愛娘であるワルキューレ(戦乙女)のブリュンヒルデに、ジークムントの敗北を命じる。しかしブリュンヒルデは、愛するジークリンデとの別れを嘆くジークムントに心打たれ、また、父の真の願いは彼を助けることにあると考える。だがジークムントは、ヴォータンによって剣を打ち砕かれ、フンディングに刺されて落命。ブリュンヒルデはジークムントとの子を宿したジークリンデを逃がすが、ヴォータンは命に背いたかどでブリュンヒルデの霊力を奪って人間にして眠らせ、目覚めさせた男の妻になるという罰を与える。ブリュンヒルデは、炎に囲まれた岩山で眠りに就く。(『ワルキューレ』
ジークリンデは森の中で息子ジークフリートを産んで他界し、鍛冶屋のミーメが彼女からジークフリートを託されて育てている。ミーメはジークリンデからノートゥングの破片を渡されていたが、どうしてもこれを剣として鋳直すことができずにいた。それもそのはず、この剣を扱うことができるのは、“恐れを知らない者”だけ。運命に導かれるように、ジークフリートがノートゥングを鍛え上げ、その剣と、大蛇を退治して手に入れた魔法の鎧で、ブリュンヒルデが眠る岩山に入り、見事、彼女を目覚めさせる。(『ジークフリート』

『ワルキューレ』©Ken Howard/Metropolitan Opera

重要な人物や事物の、テーマ曲ならぬテーマメロディとでも呼ぶべき「ライトモティーフ」を作って音楽に織り込み、状況に合わせて発展させたワーグナー。ノートゥングのライトモティーフも存在しており、そのモティーフが現れると、剣が光り輝いて現れるさまを聴覚的に感じることができる。

『ジークフリート』©Ken Howard/Metropolitan Opera

『ワルキューレ』『ジークフリート』は、映画館でオペラを楽しめるMETライブビューイングのアンコール上映として、今月(2021年9月)観ることができる。その前日譚にあたる『ラインの黄金』や後日譚の『神々の黄昏』と共に味わってみてほしい。前回の連載でもご紹介した通りダンスとも縁のあるロベール・ルパージュの演出はマジカルな美しさだ。

『ジークフリート』©Ken Howard/Metropolitan Opera

さて、そんな剣は、男の子のおもちゃとしても人気。飾りがついたり光ったりと、持ち主に特別感を与える工夫がいっぱいだ。女の子用のものが少ないのは何故なのか、本当に女の子には受けないものなのかは、前回の連載で書いたことに通じる話なわけだが、近年、女性にも人気の「剣」が?!  日本刀を擬人化(擬神化)したゲームとして生まれ、舞台、アニメ……と様々に発展している『刀剣乱舞』だ。今月もそのひとつ、「ミュージカル『刀剣乱舞』 ~静かの海のパライソ~」の東京公演が行われ、その後、福岡、大阪、再び東京、そして宮城と公演が続く。

この『刀剣乱舞』のキャラクターの一人、刀剣男士「小狐丸」は、平安時代の刀工・三条宗近によって作られたとされる名刀。その誕生エピソードは能『小鍛冶』に描かれ、同名の文楽や歌舞伎にもなっている。

〈『小鍛冶』あらすじ〉
夢のお告げを受けた一条天皇の命により、勅使の橘道成三條小鍛冶宗近のもとを訪れ、剣を作るよう言う。宗近は、そのような大事な剣は、自分と同等の力量を持つ相鎚の打ち手がいない以上、作ることができないと答えるが、受け入れられない。かくなる上は神の力を頼ろう、と、宗近は自身の氏神である稲荷明神を詣でる。するとどこからか童子(前シテ)が現れ、自分が相鎚を勤めるから鍛冶壇を飾って待つようにと言って稲荷山に消えていく。
帰宅した宗近が衣服を着替え、鍛冶壇にしめ縄を巡らせて捧げ物を捧げ、身を清めて祝詞を唱えながら待っていると、狐の姿となった稲荷明神(後シテ)が現れ、壇に上がって主槌役の宗近に、相槌を打つ弟子分としての礼をする。宗近は鉄を取り出し壇に上がり、槌を手に取る。こうして宗近と狐の共同作業が始まり、ついに剣が完成。宗近が刃の表に「小鍛冶宗近」と刻み、狐は裏に「小狐」と刻み、小狐丸が誕生。狐は、この剣で国を治めれば国土が栄えるだろうと言って、小狐丸を勅使に渡し、帰っていくのだった。

刀匠と神聖な狐が二人して鍛冶を行う楽しさ、めでたさは格別。この能『小鍛冶』は、金春流の能楽師による公演が、2021年10月3日(日)に国立能楽堂の金春会定期能(シテ中村昌弘)、11月20日(土)に矢来能楽堂の今春円満井会(シテ本田芳樹)で観ることができる。

2021年4月は、この能から生まれた歌舞伎と文楽の『小鍛冶』が、同時に国立文楽劇場と歌舞伎座でかかるという珍しい月に。歌舞伎では猿之助が童子実は稲荷明神を演じ、文楽では老翁実は稲荷明神(そう、文楽では童子ではなく老人)の人形を公演前半は吉田玉助、後半は吉田玉志が遣(つか)った。この時の文楽公演の模様は短い抜粋動画がアップされている。

なお、この文楽公演では、オンラインゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-(とうけんらんぶおんらいん)』とのコラボレーションを実施。コラボポスターやコラボリーフレットのほか、「刀剣男士 小狐丸」文楽人形の製作・展示などを行なったところ、刀剣乱舞ファンが押し寄せる事態に。文楽を楽しんだ様子をSNSなどで目にすることができたのは、嬉しい驚きだった。

『小鍛冶』「刀剣乱舞-ONLINE-」コラボポスター©2015 EXNOA LLC/Nitroplus

「刀剣男士 小狐丸」文楽人形 著者撮影

魔法を繰り出す杖とほうき〜バレエ『眠れる森の美女』、ミュージカル『ウィキッド』〜

男の子の剣に相当する、女の子にとっての魔法のおもちゃの定番といえば、杖・ステッキだろう。セーラームーンにもプリキュアにも、カラフルでキラキラしたステッキが登場する。舞台でよく見るこの種の杖といえば、ご存知、バレエ『眠れる森の美女』のリラの精や『シンデレラ』の仙女が持っているもの。その杖のひと振りで、リラはカラボスの力をはねのけ、死の呪いを眠りに変える。王子にオーロラの幻影を見せる際に使われることも。いっぽうの仙女は杖でシンデレラを着飾らせ、カボチャを豪華な馬車に変える。

ちなみに、リラや仙女が持つ杖はたいてい、かなり華奢なものになっているが、これに近いのが、指揮者の指揮棒ではないかと思う。オーケストラの誰にでもよく見える形で指示を行き渡らせ、演奏を束ねるのに必要な指揮棒。今はホールが昔より明るくなったせいか、持たない指揮者もいるが、指揮棒もまた、特別な力・エネルギーを行き渡らせるための魔法の杖、なのかも?!

そしてもうひとつ、忘れてはいけないのが、魔女の代名詞と呼ぶべき、ほうき。どうして魔女がほうきにまたがって空を飛ぶのかには諸説あるようだが、掃除の道具が魔法のアイテムとしてここまでメジャーになっていることじたいが興味深い。連載第8回でもご紹介したミュージカル『ウィキッド』には“南の良い魔女”グリンダが杖を振り回し、ほうきを構えた“西の悪い魔女”エルファバと対峙する場面がある。魔法の王道アイテム2つの使われ方にもご注目。

呪われた道具に翻弄されて〜歌舞伎『伊勢音頭恋寝刃』、バレエ『赤い靴』〜

さて、ここまでご紹介したのは、力を増大させてくれる頼もしい味方だったが、呪われた力で人々を翻弄する道具もある。歌舞伎の中で、手にした者を狂わせ、人を殺傷させてしまう恐ろしい妖刀はその代表例。『八幡祭小望月賑』の妖刀「村正」、『籠釣瓶花街酔醒』の「籠釣瓶」(こちらも村正の刀)と並んで知られているのが、『伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)』に登場する「青江下坂」だ。

〈『伊勢音頭恋寝刃』あらすじ〉
阿波の蓮葉(はちすば)家の家老の息子、今田万次郎は、お家の重宝である名刀「青江下坂」の探索を命じられ、一度は見つけ出すが、廓通いにはまり込み、刀を質に入れ、刀の鑑定書である折紙も、徳島岩次の悪巧みで偽物にすり替えられてしまう。万次郎の家来筋にあたる青江家から福岡家に養子に入り、伊勢神宮の御師となっている福岡貢は、今田家から要請を受けて万次郎を助けようとするうち、蓮葉家乗っ取りを企む藩主の弟・蓮葉大学から徳島岩次へ宛てた密書を手に入れて悪事の証拠をつかむ。
折紙は入手できていないものの青江下坂を取り戻すことができた貢は、万次郎に渡そうと、遊女屋の油屋を訪ねる。万次郎が不在だったので待とうとした貢だったが、古株の仲居・万野は貢の恋人である遊女・お紺に会わせず、待つなら替り妓(別の遊女)を呼べと言い出す。さらに持っている刀を預けろと言うので当惑する貢だったが、信頼できるかつての家来筋で今は料理人の喜助がこれを預かる。徳島岩次がこの青江下坂の刀身をこっそりはずし、持ってきた偽物を青江下坂の柄や鞘へ収め、本物を偽物に収める、喜助はその様子を見て、貢にあとで、別の鞘に収まった本物の青江下坂を渡すことにする。
さて、替り妓としてやって来た遊女・鹿野は、貢が自分に惚れていると勘違いしており、しかも彼に金を用立てたつもりになっている。実はこれも万野の仕業で、貢には全く身に覚えのないことなのだが、鹿野らに責められて立場が悪くなっているところへ、お紺が現れ、貢を責めて愛想尽かしをする。これは、油屋にいる岩次になびくと見せて折紙を奪い、貢に渡すための方便だったが、そうと知らない貢は憤怒を抑え、喜助から刀を受け取ってその場を去る。
その後、鞘を見て自分が持っている刀は偽物だと思い込んで戻った貢は、貢が本物を持っていったと知る万野ともみ合いになる。そのうち、いつの間にか本物が収まる鞘が割れて刀がむき出しになり、貢は万野を斬ってしまう。声を上げた万野を貢は斬り殺し、さらに鹿野や岩次らを次々に斬っていくが、お紺から折紙を渡されて真意を聞き、また、自分が持っているのが本物の青江下坂だと知る。こうして、お家を窮地から救うための青江下坂の刀と折紙は晴れて揃ったのだった。

青江下坂は、もともと貢の祖父が買い求めたものなのだが、その後、祖父も父も亡くなり、青江家は没落した。手に入れた者を不幸にする妖刀で、貢の刃傷沙汰もそれゆえのこと。伊勢音頭が流れる中、貢が青江下坂を手に大立ち回りを繰り広げるクライマックスは凄絶美に溢れた、歌舞伎らしい見せ場となっている。

この『伊勢音頭恋寝刃』は2021年10月、国立劇場で通し狂言として上演される。貢を演じるのは、中村梅玉。2015年にも国立劇場で演じており、誠実味のある真っ直ぐな男がお紺に愛想尽かしされて深く怒り傷つくさまを克明に表現していた。6年ぶりの上演で一層の深化が期待できそうだ。

『伊勢音頭恋寝刃』福岡貢(中村梅玉) 提供:国立劇場

アンデルセンの童話およびマイケル・パウエル監督の映画、そしてこれらを原作に、マシュー・ボーンが作り上げたバレエ『赤い靴』に登場する赤い靴もまた、呪われたアイテムだ。
原作童話は、孤児のカーレンが赤い靴に憧れ、ひきとってくれたおばあさんに買ってもらい、おばあさんの言いつけを守らず、病気になったおばあさんの看病もせず、靴を履いてダンスパーティーにでかけた結果、休むことなく踊り続けなくてはならなくなってしまうという話。この物語を劇中劇として取り入れつつ、踊らずにはいられないダンサーの宿命と重ねたパウエル監督の着眼点は見事で、それをまた多彩なダンスで表現したマシュー・ボーンの舞台も見どころ満載。
マシュー・ボーンの『赤い靴』は2020年に来日公演が予定されていたものの、コロナ禍で中止。今年になってその映画版である「マシュー・ボーン IN CINEMA/赤い靴」が全国で上映されて好評を博した。その舞台を生で見られるのを心待ちにしたい。

魔法なのか、それとも?〜オペラ『チェネレントラ』、バレエ『シンデレラ』(ヌレエフ版)〜

さて、ここまで人生を一変させる力をもった魔法の道具について書いてきたが、そうした道具を敢えて排した舞台も最後に紹介しよう。
ロッシーニが作曲したオペラ『チェネレントラ』は、シンデレラの物語のオペラ化。オペラとしてのシンデレラには、マスネが作曲した『サンドリヨン』という名作もあるのだが、ロッシーニの作品の物語上の特徴のひとつは、魔法使いや魔法の杖を持ち込まなかったことにある。

『チェネレントラ』あらすじ
アンジェリーナは、母の再婚相手ドン・マニフィコの屋敷で、母亡きあと、「チェネレントラ(灰かぶり)」と呼ばれて姉達にこき使われている。そこへ物乞いが現れ、姉達は冷たくあしらうが、チェネレントラはパンとコーヒーを与える。じつはこの物乞いは王子の家庭教師であるアリドーロの変装だった。やがてラミーロ王子の使者が現れ、花嫁探しのため、この家の3人の娘を宮殿に招待することを告げる。次に王子の従者がこっそりやって来るが、じつは彼こそ、従者に身をやつした本物の王子で、アリドーロから花嫁としてふさわしい女性がいると聞いて会いに来たのだ。すぐに惹かれ合うふたり。その後、王子の従者ダンディーニが化けた偽の王子と、従者に化けたラミーロ王子が、屋敷を正式に訪問する。姉2人は偽の王子に夢中になり、舞踏会へ赴く。いっぽう、アンジェリーナはドン・マニフィコから舞踏会へ行くことを許してもらえなかったが、アリドーロが連れて行く。人々はアンジェリーナの美しさに驚く。
城で、王子姿のダンディーニがアンジェリーナに求愛するが、彼女は従者を愛していると語る。その言葉を耳にしたラミーロが喜んで求婚すると、アンジェリーナは彼に腕輪を差し出し、自分を見つけ、普段の姿を見て決めてほしいと伝えて去る。いっぽう、ダンディーニは姉妹のどちらを選ぶのかと迫ったドン・マニフィコに自分の身の上を明かし、ドン・マニフィコらを怒りと失望へと追い込む。
ラミーロはドン・マニフィコ邸を訪れ、アンジェリーナの腕にもう片方の腕輪を見つけて城へ迎え入れる。アンジェリーナは自分に冷たい仕打ちをした父や姉達を許し、大団円となる。

1816年初演とは思えない、現代性を持ったオペラ『チェネレントラ』。早口など超絶技巧いっぱいの歌や抱腹絶倒の人間模様が魅力の「オペラ・ブッファ」(喜歌劇)だ。
前述した今月のMETライブビューイングのアンコール上映のラインアップには、この『チェネレントラ』も入っている。魔法使いが登場しない本作だが、チェーザレ・リエーヴィ演出版ではアリドーロが天使の羽をつけているのも面白い。

『ラ・チェネレントラ』©2008 The Metropolitan Opera

さらに10月には、新国立劇場の2021/2022シーズン開幕演目として、この『チェネレントラ』が新制作される。演出の粟國淳は舞台を1950〜70年代のローマのチネチッタ(映画撮影スタジオ)に設定。ラミーロは映画のプロデューサー、アリドーロは映画監督で、『チェネレントラ』という映画のヒロイン役を探し、アンジェリーナが見事にその役を勝ち得るということになるようだ。

『チェネレントラ』美術・衣裳のアレッサンドロ・チャンマルーギによる舞台スケッチより 提供:新国立劇場

ところで、この新国立劇場版の設定を聞いて、バレエファンはルドルフ・ヌレエフが振付けた『シンデレラ』を思い出すことだろう。ヌレエフの場合は1930年代のハリウッドが舞台。ラミーロは映画スター、仙女にあたる役柄は男性の映画プロデューサーで、シンデレラは映画スターの共演相手に選ばれ、実生活でもスターと結ばれる、というもの。森英恵が手がけた美しい衣裳や、巨大なキングコングやオープンカーなども目を楽しませてくれる作品だ。

こうして見ていくと、魔法の道具のほうでも持ち主を選んでいて、誰が相手でも無条件で幸せになるわけではない。魔法の道具がない場合も同様だ。結局は人なんだよと、逆説的に教えられているような気分にもなってくるではないか。

★次回は2021年10月1日(金)更新予定です

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舞踊・演劇ライター。早稲田大学大学院文学研究科(演劇学 舞踊)修士課程修了。現代劇、伝統芸能、バレエ・ダンス、 ミュージカル、オペラなどを中心に取材・執筆している。年間観劇数250本以上。第10回日本ダンス評論賞第一席。現在、Webマガジン『ONTOMO』で聴覚面から舞台を紹介する「耳から“観る”舞台」、バレエ雑誌『SWAN MAGAZINE』で「バレエファンに贈る オペラ万華鏡」を連載中。撮影=中村悠希

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