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【特集:DDD2021】柄本弾さんに訊く!「ボレロ」にまつわる10の質問〜横浜ベイサイドバレエ開幕直前SP

阿部さや子 Sayako ABE

「横浜ベイサイドバレエ」東京バレエ団 Photo:Kiyonori Hasegawa

「横浜ベイサイドバレエ」が、間もなく開幕する。

夏の終わりの風、港の夜景を映す海、潮の匂い、波の音。
そんな風景の中に設られた野外ステージが、夜空に浮かび上がるがごとくライトアップされ、ダンサーたちが踊り始める。
その瞬間、観ているこちらもおなかの底から嬉しさがこみ上げてくる。
あの独特の幸福感や開放感は、「横浜ベイサイドバレエ」ならではのものだ。

3年に1度、横浜で繰り広げられる日本最大級のダンスフェスティバル「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 」
「横浜ベイサイドバレエ」は、そのオープニングを飾るイベントとして、2021年8月28日・29日の両日に開催される。

今回上演されるのは、『ギリシャの踊り』(ベジャール振付)、『海賊』よりパ・ド・トロワ(プティパ振付)、『ボレロ』(ベジャール振付)の3演目。
なかでも『ボレロ』は過去3回の「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA」でも熱狂を巻き起こした、同フェスティバルには欠かせない人気作品だ。

観に行く方には3年に1度のこの機会をさらに満喫していただくために、観に行けない方にはまたいつかこのマスターピースをたっぷり楽しんでいただくためにーー29日に主役(メロディ)を踊る柄本弾さん(東京バレエ団プリンシパル)に、『ボレロ』についてお話を聞きました。

柄本 弾(東京バレエ団プリンシパル)Photo:Ayano Tomozawa

Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021 イベント一覧はこちら

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Q1 柄本弾さんは6年前(2015年)の「横浜ベイサイドバレエ」で初めて『ボレロ』を踊り、以来もう何度もこの作品を踊っていますね。あらためて、『ボレロ』を踊る時に大事にしていることを教えてください。

柄本 誰しもが見て感じる通り、『ボレロ』はとてもエネルギッシュな作品です。ですから6年前に初めて踊った時から、とにかくフルアウト――つまり最初から全力を出しきって踊ること。そして周りの「リズム」(*)を鼓舞して、みんなと共にクライマックスへと上り詰めていく『ボレロ』が、僕なりの最高形であり、目指すべき完成形だと思ってきました。

ところが、ついこの7月に「HOPE JAPAN」ツアーで名古屋公演を行った際に、かつて『ボレロ』を踊ったバレエ団の先輩の後藤晴雄さんが観にいらして、「弾は、もう少しお客様と対話をするように踊ってもいいんじゃないか?」とアドバイスしてくださったんです。それまで、僕はただ一方的にエネルギーを発するようにしてこの作品を踊ってきました。でも、こちらから投げっ放し、出しっ放しではなくて、時にはお客様から“受け取る”意識も持ったほうが、僕なりの良さが生きるのではないかと言ってくださって。

メロディを踊る時、僕の両サイドと背面の3面はリズムのダンサーたちにぐるりと取り囲まれていますが、正面にいらっしゃるお客様は“4面目のリズム”。晴雄さんからアドバイスをいただいてからは、そんなふうにイメージするようになりました。振付の中で周りを見渡す時はダンサーたちの目をしっかりと見るよう意識してきましたが、お客様とも同じように対峙してみようと。ダンサーもお客様も、みんな仲間にして自分のメロディを踊っていく。それが、今の僕らしい『ボレロ』だと思っています。

*モーリス・ベジャール振付『ボレロ』では、中央の赤い円卓に立って踊るダンサー(主役)を「メロディ」、周りを取り囲む男性群舞を「リズム」と呼ぶ

Q2 『ボレロ』は踊ることを許された人しか踊れない作品として有名ですが、「こう踊らなくてはいけない」という決まりごとはありますか? 指導の方から「こう踊るべし」と指示されたことなどがあれば教えてください。

柄本 「一つひとつの型をしっかり踊るように」と言われています。『ボレロ』の振付は独特の動きやポーズでできていますが、その一つひとつの型を厳密に守り、精確に行うようにと。もちろん内面から湧き上がるパッションや、命を燃やすようなエネルギーを出すことも重要な作品だと思いますが、僕自身はそうしたものを自然と放出して踊るタイプのダンサーなので、その点については要求されたことがありません。

Q3 先ほどのお話にも出てきた「リズム」について。柄本さんもかつてはリズムを踊っていて、いまはメロディを踊っています。リズムの頃と、メロディの今。『ボレロ』という作品の見え方や感じ方は変わりましたか?

柄本 僕がリズムを踊っていた時は、真ん中のメロディは「別格」だと感じていました。シルヴィ・ギエムさんのようなスーパースターやバレエ団の大先輩が踊られていたからというのもありますが、同じ舞台、同じ曲で踊っていてもそこは異次元というか、語弊を恐れずに言えば”一緒に踊っている“という感覚はあまり持てていませんでした。

ところが、僕が初めてメロディを踊った日――6年前の「横浜ベイサイドバレエ」のその日はあいにくの小雨模様で、円卓の上は小さな水たまりができるくらい濡れていて。僕が足をつるつる滑らせながらも必死に踊っていたら、リズムのみんなから、目力というか気迫というか「しっかり頑張れよ!」という無言のパワーが、ものすごく伝わってきたんです。もちろん僕の踊りの出来はボロボロで、『ボレロ』デビューは苦い思い出になりました。だけどその舞台を「すごくいい舞台だった」と言ってくださる方もたくさんいて。あの日、リズムのみんながパワーをくれたから、僕は踊りきることができました。そして“真ん中”が良ければ良い舞台になるわけじゃない、同じ方向を向いて踊るダンサーが多ければ多いほど、お客様に届けられるものは何倍にも何十倍にもなるのだということを思い知りました。これは、リズムを踊っていた頃には見えていなかった、大きな気付きでした。

「横浜ベイサイドバレエ」で『ボレロ』を踊る柄本弾さん Photo:Kiyonori Hasegawa

Q4 メロディは、リズムを「踊らせている」ようにも見えるし、リズムによって「踊らされている」ようにも見え得ると思いますが、柄本さん自身はどちらのイメージで踊っていますか?

柄本 僕は、メロディがリズムを「踊らせている」というイメージです。メロディとして、リズムをどんどん鼓舞していく意識で踊っています。

Q5 『ボレロ』を踊っている時、柄本さんはどんな気持ちですか? 頭の中では何か考えていますか?

柄本 メロディを踊っている時は、とても冷静です。最後に向けてエネルギーをどう発散させていくかを考えたり、先ほどお話しした晴雄さんからのアドバイスをいただいてからは、お客様とのキャッチボールを意識したりしています。

『ボレロ』をご覧になった方はわかると思うのですが、この作品は、最初はメロディがひとりで踊っていて、周りのリズムは椅子にじっと腰掛けています。そして途中から、第1グループ、第2グループ、第3グループ……というふうにリズムが立ち上がって、踊りに加わる人数が増えていく。そしてその第3グループが入ってくる時に、音楽的にもすべての楽器の音色が出揃って大音量になるんです。だからそこまではあくまでも冷静に踊り、お客様とのやりとりを大切に。そして音楽の盛り上がりとともに、全力でアプローチしていくようにしています。そんなふうに、いかにして作品にコントラストをつけてインパクトを最大にしていくかを考えながら踊っていますね。

Q6 「ボレロ」という音楽は、最初から最後まで同じリズムの繰り返しで、メロディも(ラストを除くと)2つの旋律の繰り返しです。さらに振付も何か意味や物語があるというよりは記号的な型の連なりのように見えるのですが、「あれ? いまどこを踊っているんだっけ?」と、音楽や振りを見失うことはないのでしょうか?

柄本 ありますね(笑)。振付を間違えそうになることも、正直あります。でも「ボレロ」の曲は同じフレーズの反復のようで、じつは微妙に違うんです。だから間違って動けば瞬時に音とのズレを感じるので、すぐに軌道修正ができます。

ただ、難しいのは確かです。メロディが次のリピートに入る前に、振付的には必ず両手のひらを下に向けてリズムを刻む“リセット”の動きが入るので、その瞬間「あれ? 僕は今どのフレーズを踊っていたんだっけ?」と頭が真っ白になることもあります。そうなると当然、次に踊るべきフレーズが何かもわからなくなる。そういう難しさもあるからこそ、『ボレロ』を踊る時は余計に冷静さが必要です。

Q7 振付を覚えやすくしたり、音楽を見失いにくくするためにも、ご自身のなかで動きに意味を持たせたり、ストーリー的なものを思い描いたりすることはありますか?

柄本 そういうことは、とくにしていないかもしれません。ただ、『ボレロ』には「命を燃やしている」感もあって、その意味では自分の命が徐々に燃えていく過程をイメージしたり、その燃焼が周りのリズムとどこでどうシンクロするのかを感じ取ったりしながら踊るようにはしています。

Q8 ご自身のダンサー人生において、『ボレロ』はどんな意味をもつ作品ですか?

柄本 先ほどお話ししたことと重なりますが、『ボレロ』は僕に「舞台とは周りのダンサーと一緒に踊るもの。周りの力があってこそ踊れるもの」と教えてくれた作品です。それを発見できたことが、自分にとっては何よりも大きかったと思います。ありがたいことに、僕は若い頃からいろいろな作品に抜擢していただきました。だからこそ大変だったこともありますが、やはりどこか天狗になっていた時期もありましたし、「自分がみんなを引っ張っていかなくては」「誰もが納得する踊りを見せなくては」と、肩に力が入りすぎていたところもありました。だけど6年前に『ボレロ』でデビューした時に感じたことーーみんなのパワーが大きな力をくれたことや、自分だけが良くても良い舞台にはならないと気づけたことが、僕のダンサー人生にとっては一番といってもいいくらい重要な出来事だったと思っています。

「ボレロ」柄本 弾(2021年7月〈HOPE JAPN 2021〉)Photo:Shoko Matsuhashi

Q9 柄本さんが次に『ボレロ』を踊るのは2021年8月29日(日)の「横浜ベイサイドバレエ」ですね。横浜の海と夜景をバックに特設された野外ステージでバレエを観られるスペシャルな公演。観る側の私たちは最高に気持ちよくてハッピーなのですが、踊る側の柄本さんはどうですか?!

柄本 僕らにとっても、解放感が全然違います! 風を感じたり、後ろに海が見えたり、波の音や鳥の声や船の汽笛が聞こえたり、時には雨が降ってきたり……劇場という建造物の中で踊るのとはまったく違う体験で、野外でしか得られない感覚や魅力を感じながら踊っています。もちろん、できれば雨だけは降らないほうがありがたいのですが(笑)。

Q10 初めて『ボレロ』を踊ってから丸6年。この6年間のあいだにも刻一刻と変化・進化している柄本さんですが、バレエダンサー・柄本弾の「いま」と「これから」を聞かせてください!

柄本 ダンサー人生において、今の自分はとてもいい時期にあると思います。東京バレエ団に入り、新しい役を次々にいただき、毎公演がむしゃらに踊っていた頃を「柄本弾の第1章」とするならば、いまは「第2章」に入ってきたところ。単純に体力勝負・元気勝負だった踊りから、積み重ねてきた経験や感じてきた気持ち・感情を表現に昇華して、技術や身体に融合させることができるようになってきたと感じています。

また、最近はバレエ団の中で少しずつ指導的な仕事もさせていただくようになっていて、その経験からも得るものがたくさんあるんですよ。リハーサル中、ダンサーたちの様子を前から見ていると、何をどうすれば良くなるのかを客観的に考えられるし、自分自身が踊る時にも「ここを直さなくては」と気づかされることが多々あります。これからの僕は、これまでとは違う考え方でダンサー人生を歩んでいける気がしています。ここからまた新しい「柄本弾」をお見せしますので、ぜひ楽しみにしていてください!

Photo:Ayano Tomozawa

柄本 弾 Dan Tsukamoto
京都府京都市出身。5歳よりバレエを始める。2008年に東京バレエ団に入団し、『ドナウの娘』で初舞台を踏む。2010年1月『ラ・シルフィード』で主役デビュー、4月には『ザ・カブキ』に主演。2013年よりプリンシパル。ほぼすべてのレパートリーで主役を務めるほか、『くるみ割り人形』のドロッセルマイヤーや『ラ・シルフィード』のマッジなどで高い演技力も見せている。

イベント情報

横浜ベイサイドバレエ

【日時】2021年8月28日(土)・29日(日)18:30開演
※雨天の場合、振替(28日→30日/29日→31日)
※振替日が雨天の場合中止・チケット払戻し
※政府から神奈川県に対して発令された緊急事態宣言を受け、「横浜ベイサイドバレエ」の公演チケット販売は終了しています

【会場】象の鼻パーク 特設ステージ(神奈川県横浜市中区海岸通1丁目)

【出演】東京バレエ団

【プログラム】
『ギリシャの踊り』
『海賊』よりパ・ド・トロワ
『ボレロ』

【詳細】https://dance-yokohama.jp/ddd2021/baysideballet/

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Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021

【会期】2021年8月28日(土)~10月17日(日)

【会場】横浜市内全域〈横浜のそのものが舞台〉

【ジャンル】バレエ、コンテンポラリー 、ストリート、ソシアル、チア、日本舞踊、フラ・ポリネシアン、盆踊りなどオールジャンル

【プログラム数】約200

【ディレクター】小林十市

【主催】横浜アーツフェスティバル実行委員会

【共催】横浜市、公益財団法人横浜市芸術文化振興財団

【詳細】https://dance-yokohama.jp/

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