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【インタビュー】松浦景子(吉本興業)バレリーナ芸人プロデュース「けっけバレエ」発進!“私はバレエの世界への案内人でいたい”

若松 圭子 Keiko WAKAMATSU

©政川慎治

吉本興業所属のバレリーナ芸人・松浦景子(まつうら・けいこ)さんが、バレエとお笑いの融合を目標に舞台公演を行うプロデュースチーム「けっけバレエ」を結成しました。バレエ公演に吉本興業が全面協力するのは初。第1回プロデュース公演『けっけバレエvol.1~ガニ股の大逆襲~』は、2024年10月6日に大阪、12月25日に東京での上演を行い、チケットはどちらも即完売となりました。
「けっけバレエ」立ち上げについて、松浦さんは以下のようにコメントしています。

〈公式サイトより抜粋〉
私の人生で最大の決断と挑戦です!(中略)お客様も、出演者もとにかく楽しい唯一無二のバレエ公演(団体)を作ります!(中略)吉本新喜劇で学んだお笑いの基礎、沢山のバレエ公演や国内外のトップダンサーから得た古典の素晴らしさ、すべてをリスペクトした上でまだ誰も見たことのない夢のコラボをぜひ劇場でご覧くださいませ!
目指せ世界! バレエ大好き!

大阪公演を終えた10月末に松浦景子さんを取材。「けっけバレエ」立ち上げの経緯や見どころのほか、バレエを習っていた子ども時代の話、吉本新喜劇で学んだことなどを聞きました。

まずは松浦さんが「けっけバレエ」を立ち上げたきっかけを聞かせてください。
松浦 バレエからお笑いに身を移し、外からバレエの世界を眺めた時、バレエの文化が一般の人に全然浸透していないという現実を知ってすごく悔しくなっちゃったんです。「みなさん、バレエの素晴らしさを知らないまま人生を終えて本当にいいんですか?!」って。バレエを愛する者として、ひとりでも多くの人にバレエの魅力を知ってもらいたい、そのために何かしたいと思っていました。その長年の夢が、バレエ好きの芸人による完全プロデュース公演というかたちで実現することになりました。
クラシック・バレエのモチーフを中心にしたプログラムだそうですね。
松浦 コンテンポラリーやジャズダンス的な振付も考えたのですが、まずはクラシック・バレエの魅力から伝えたいと思って。「コメディバレエ」として、初鑑賞の人も理屈抜きで楽しめるような内容にしました。いっぽうで、バレエをよく知っている人だけに刺さるようなバレエネタもあちこちに仕込ませていただいたので、「そうきたか!」と笑っていただけたら嬉しいです。
「けっけバレエ」結成後、初の大阪公演を終えた感想は?
松浦 バレエを知らないお客さまも多かったので、ちょっとバレエ要素を詰め込みすぎたかなと心配したんですけれど、そこはお笑い文化が根付く関西のお客さま。「バレエとお笑いの融合」という初のこころみにもかかわらず、受け入れ態勢バッチリで楽しんでくれました。
大阪公演のキャストは、以前から交流のあるダンサーを中心に選んだとか。
松浦 かつて大阪で同じコンクールに出ていたり、大学でバレエを勉強していたころに知り合ったダンサーに声を掛けました。初めての挑戦となる公演に向けて、一緒に試行錯誤してくれた心強い仲間たち。本番中もみんなで客席の反応に耳をすませ、拍手や笑いが起こるたびに舞台袖で「よっしゃ!ウケたぞ!」と盛り上がったり(笑)。チームワークも最高でした。
12月の東京公演ではキャスティングも一新。バレエシャンブルウエストのダンサーを中心に、都心で活躍するダンサーが名を連ねました。
松浦 シャンブルウエストは、私に初めて客演の声をかけてくださったバレエ団で、清里フィールドバレエには何回も出させていただいています。そのご縁から、今回は私のほうがお力を貸していただこうとお願いしたところ、みなさんノリノリで引き受けてくれました! 今回自分で振付するにあたって、ダンサー一人ひとりの個性や、他の舞台では見られない意外な一面を引き出したいと考えました。大阪も東京も演目は同じですが、ダンサーが変われば作品のイメージもまた変化するはず。東京メンバーのリハーサルはこれからですが(※編集部注:取材は2024年10月末)みんなをじっくり観察して、このメンバーならではの「コメディバレエ」を作りたいと思います。
公演の公式SNSに、「けっけバレエ」の見どころが提示されています。「わかりやすくて楽しい」「退屈な時間ゼロ!」「バレエを観るには破格設定」「約1時間半(休憩あり)なので観やすい」「豪華出演者・プロバレエダンサー多数出演」「世界初の試みにも挑戦」。プロデューサーの松浦さんが、この6つを見どころに選んだ理由を教えてもらえますか?
松浦 私は小さいころからよくバレエ公演に連れて行ってもらいました。でも当時を思い返すと、正直なところ「バレエ楽しい!」よりも「バレエ眠たい」のほうが勝っていたな、と(笑)。きれいなお姉さんが踊っているところは楽しそう。でも、しっとりした曲が続くとどうしても途中で眠くなっちゃう。小さなお子さんにはありがちなことですよね。でもそれがきっかけで脳に「バレエ=眠い」とインプットされてしまうのはすごく残念だなって。それで「けっけバレエ」では明るくてリズミカルな曲やスピード感ある場面を中心にして、バレエの名場面であっても小さな子が眠くなってしまうかも、と感じた音楽や踊りはカットすることにしました。第1回公演の上演時間は子どもが集中できる1時間半。バレエの公演としてはかなり短いですよね。気分転換できるように休憩時間も取りました。
子どもの舞台鑑賞デビューに、と考える家庭もあるのでは?
松浦 ぜひ、バレエ鑑賞前のウォーミングアップとして! 家族みんなで気軽に来てもらえるように、今回のチケット代金は6,000円前後に設定しました。YouTubeをやっているのもあって、私のファンだと言ってくれる方の中には小さなお子さんも多いんですね。そのご両親にも「けっけちゃんのバレエを観に行くなら、うちの子も楽しめそうだね」と思ってもらえたら。また、バレエを観たことがない大人のみなさんもぜひ! 観るタイミングを逃したまま人生を歩んでいる人はたくさんいるはず。「バレエについて何もわからないのに観に行ったらダメなんじゃないかな」なんて考えているとしたらもったいないですよ。
とくに注目してほしい演目はありますか?
松浦 芸人はお客さまを笑わせるのが仕事です。お笑いライブの会場では、お客さまみんなに楽しんでもらい、幸せな気持ちになっていただく。そのために大事なのは、まず演者が楽しむこと。「けっけバレエ」をプロデュースするうえでも意識していることです。私は、バレエの世界の扉の前にいる案内人みたいな存在でいたい。「けっけバレエ」を観てバレエをもっと知りたいと思ったら、ぜひ本物のバレエ公演に足を運んでみてください。私の公演をきっかけに、本格的なバレエを楽しむ人が増えたら嬉しいです。

©政川慎治

続いて、バレエ少女だった時のことも聞かせてください。松浦さんは当時から“バレエ大好き!”でしたか?
松浦 いや、嫌いでしたね(笑)。母がバレエ大好きだったので、姉も私も母の希望でバレエ教室に入れられました。先生よりも母のほうが厳しく、今だったら絶対にNGだと思うくらい過酷なダイエットをさせられたことも。今の私がいるのは、母がバレエをやめさせてくれなかったから。そう思えば感謝なのですが、当時は複雑でした。
それでもバレエを続けた理由は?
松浦 舞台で踊ることがすごく好きだと気づいたからです。練習は嫌いだったし、先生の前だとモジモジして笑顔もつくれないのに、発表会やコンクールの時は舞台に立つのが楽しくて。先生から「どうしてその踊りをお稽古ではできないの?」と言われるほどでした。そのうちに、本番に向けて挑戦していく過程そのものが面白くなってきて。大阪芸術大学に進学してバレエを学びました。当時は本気で振付家を目指そうと考えていたんですよ。
今回、その夢が叶いましたね!
松浦 面白いですよね。現実は夢と全然違う方向に進んでいたのに。バレエをやめて吉本新喜劇に入った時には、まさか女芸人がバレエの公演をプロデュースし、振付を発表する日が来るなんて考えもしなかったです。
その後松浦さんはバレエの世界から一転、吉本新喜劇に入団。劇中に突然バレエを踊りはじめたりする唯一無二のキャラクターで活躍しています。
松浦 最初はお芝居だけで頑張ろうと思いました。でも日本のお笑い界のトップたちのなかで生き残るためには、自分だけの武器がないといけない。それでバレエを武器にしようと考えました。
新喜劇に入ってから今までで記憶に残るエピソードはありますか?
松浦 吉本新喜劇は、ヒロインよりもキャラクターを押し出せる三枚目のほうが「おいしい」役。尊敬する先輩の島田珠代さんが得意なパートで、私も経験させてもらっています。ある時、珠代姉さんが「アクが強いキャラクターを演じる時は、その役がお客さまから愛されるように、どこかに可愛い部分がなくてはダメ。自分をぐいぐい出すだけだと、周りからはどんどん嫌われてしまうのよ」とおっしゃって、それがグサッと刺さりました。
意外かもしれませんが、私は吉本に入るまでは一匹狼というか、こちらから笑顔で話しかけたりしないタイプだったんですね。新喜劇は上下関係も厳しいし、先輩の着替えなど楽屋回りを手伝うのは後輩の仕事。でもバレエしかやってこなかった私は挨拶すらできなくて、最初はかなり苦労しました。家族のように毎日楽屋で過ごす新喜劇のメンバーは、コミュニケーションをとても大切にします。身近な人と関係が築けなかったら、舞台でお客さまを楽しませることはできません。私もそれまでの考え方をあらためて、自分から積極的に先輩方に話しかけるように変わっていきました。
先輩から教えられて印象的だった言葉を聞かせてください。
松浦 例えば「すべてが完璧よりも、隙があるほうがいい。みんなに自分の弱みをさらけ出して、突っ込んでもらえるようになりなさい」。もし私が一匹狼のままバレエの世界にいたらこの言葉を聞くことはなかったし、今の自分は存在していないと思います。お笑いのレジェンドである先輩方の言葉は一つひとつがとても深い。それを直接聞かせてもらえるという、素晴らしい経験をさせてもらっています。

©政川慎治

松浦 もうひとついい経験になったのは、昨年の来日の際に客演させていただいたトロカデロ・デ・モンテカルロバレエ団との出会いです。男性だけのバレエ団で、男性が女性のパートを美しく踊れるテクニックを持ちつつ、みなさんお客さまを笑わせることにも全力を注いでいるんです。本番中、客席の子どもたちのキラキラした笑顔を見て、こういう風景を、私もダンサーたちに味わってほしいと思いました。
客演のお話をいただいてから、クラスレッスンにお邪魔しました。バレエのお稽古場によくあるピリッとした空気がなくて、居心地がよく感じたからか、あまり得意ではないピルエットを5回くるくるっと回れてしまったんです。そうしたら団員のみなさんが一斉に「イエーイ!」って盛り上げてくれて! お互いを高め合う空気っていいな、と思いました。
それらの経験を経ての「けっけバレエ」旗揚げ公演だったのですね。
松浦 新喜劇で得たものと、トロカデロでいただいたエキスを手に、ダンサーと積極的にコミュニケーションを取って、みんなの面白いところをたくさん引っ張り出したつもりです。大阪公演の後でダンサーから「けっけバレエ」に出てバレエを踊る楽しさを思い出したと言われて、すごく嬉しかったです。
2都市での公演を無事に終え、早くも第2回公演を期待する声を耳にします。次回の予定はすでに決まっているのでしょうか?
松浦 会場やメンバーはこれからですが、やることは決定しています。今回のレパートリーだけでなく、新作も作りたいです。ゆくゆくは作品だけがひとり歩きして上演されるような日がきたら嬉しいですね。私も知らないどこかで「へえ、このバレエ、松浦景子って人がつくったんや」「あの「けっけバレエ」から生まれた作品なんやて」って。
最後の質問です。「けっけバレエ」を一言で表現するとしたら?
松浦 色に例えるなら絶対に濃いピンク。夢と希望を抱かせてくれる色であり、初めてバレエに触れた時の感情を思い出させる色でもあり。「けっけバレエ」で初めてバレエの世界に触れる人は、ピンクの洪水にきっとびっくりすると思います!

©政川慎治

松浦景子 Keiko MATSUURA
1994年生まれ。3歳よりクラシック・バレエを習い始める。大阪芸術大学舞踊コースに入学、堀内充に師事。バレエ学の歴史・解剖学・振付、モダンダンス、コンテンポラリーダンス、日本舞踊、ロックダンス等を学ぶ。2015年座間全国舞踊コンクールクラシック・バレエ部門第1位、審査員特別賞、チャコット賞受賞。同年に金の卵オーディションに合格し吉本新喜劇に入団。辻本茂雄の座長公演を中心に出演し、デビュー4ヵ月でヒロインに抜擢される。フジテレビ「とんねるずのみなさんのおかげでした」の“細かすぎて伝わらないモノマネ”で注目を浴びるほか、2022年吉本新喜劇で自身の座長公演、翌23年は新喜劇女性座員初のなんばグランド花月・ルミネtheよしもとで単独ライブを開催。また第34回清里フィールドバレエ『くるみ割り人形』クララ役を務めるなど、芸人としては初の国内外プロバレエ団公演にダンサーとして出演。24年トロカデロ・デ・モンテカルロバレエ団来日公演にて、バレエ団初の女性ダンサーとして出演を果たす。

けっけバレエ公式Instagram https://www.instagram.com/kekke.ballet/

松浦景子オフィシャルサイト「チームけっけ」 https://www.team-kekke.com/
YouTube【けっけちゃんねる】https://www.youtube.com/@kekke-pinkballet

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