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ダンスパフォーマンス「BOLERO-最終章-」東山義久インタビュー~舞台に合わせて形を変える。僕の肩書は”東山義久”

若松 圭子 Keiko WAKAMATSU

ダンス公演『BOLERO -最終章-』が2024年7月18日~25日に東京、30~31日に大阪で上演されます。
これは、肉体表現の可能性を追求を求め、ダンサーであり俳優の東山義久(ひがしやま・よしひさ)さんが立ち上げたプロジェクトENTERTAINMENT DANCE PERFORMANCE「BOLERO」による3回目のパフォーマンスステージ。主演ダンサーとしてメンバーを率いる東山さんに、作品の見どころのほか、自身のダンスへの思いについて聞きました。

東山義久 ©蓮見徹

2013年に東山さんが立ち上げたプロジェクトも3回目を迎えます。タイトルを見ると「BOLERO」シリーズの集大成のようですが、『BOLERO -最終章-』はどういう舞台になりそうでしょうか。
東山 前回から8年ぶりの公演です。僕はミュージカルを中心に舞台俳優としてのキャリアを積んでいる最中ですが「BOLERO」に関しては、よりエンターテインメントの要素を多く取り入れたいと思っていて、今回もバレエ、コンテンポラリー、アクロバットなど様々なジャンルで活躍するスペシャリストを集めました。このステージは歌も台詞も一切ありません。全編ダンスだけのエンターテインメントはあるようで意外にない。贅沢なステージをお届けしますよ。
公演ごとに違う演出家・振付家が手掛けているのも面白いですね。
東山 出演者も固定していなくて、全部出ているのは数人じゃないかな。今回は総合演出を植木豪くんに、総合振付はDIAMOND☆DOGSで一緒だった大村俊介(SHUN)くんにお願いしました。二人とも僕と同い年なんですよ。じつは最近、年齢のことを考えると、ダンスだけの公演に立てる時間はもうあまり残されていないんじゃないかなって思うようになりました。だから僕と同世代で、第一線で活躍していて尊敬できる人に、ダンサーとしての僕を料理してほしいなと思ったんです。SHUNくんは、最初に出会った頃から一流のダンサーだと思っていたけれど、振付の素晴らしさにも注目していました。だから彼が振付の分野で活動しているのがすごく嬉しいし、こうして一緒にできるのも楽しみです。
豪華な振付チームも発表になりました。
東山 SHUNくんをはじめ、演出の(植木)豪、ダンサーとして出演している(長澤)風海、そして森優貴さんや原田薫さんなど、本当に盛りだくさんです。人と人との出会いと別れ、愛と憎しみなどで生まれる喜怒哀楽を四季の移り変わりにたとえて踊り継いでいく構成を考えています。場面ごとにジャンルの違うダンスでシーンを展開させていくので、お客様にもどれかひとつは絶対に刺さるものがあると思いますよ。
音楽はオリジナルだと聞いています。ラヴェルの有名な「ボレロ」の曲は流れますか?
東山 原曲も使用しますが、幕開きは「ボレロ」のリズムの部分をアレンジしたオリジナル曲で始まります。踊りのジャンルと同じく音楽も種類もさまざま。ラテンもあるしタンゴもあるし、それこそクラシカルな音楽も使われます。
「ボレロ」をテーマにダンス公演をやろうと思ったきっかけは何だったのですか?
東山 僕がダンスを始めた時に憧れたダンサーのひとりが『ボレロ』を踊るジョルジュ・ドンでした。彼の踊りと作品の生命力に圧倒されて「僕はこれがやりたい」と思った。でも僕はベジャール振付の『ボレロ』を踊りたかったのではなく、ドンの舞台を観て沸き立った感情を、僕のやり方でお客さんに伝えたかったんです。出演者と客席が一体となり、最後の盛り上がりに向けて熱量が高まっていく、そんな舞台があったら観てみたいと思い続けて、遂にみずから立ち上げたのが、プロジェクトチームENTERTAINMENT DANCE PERFORMANCE「BOLERO」の始まりです。当たり前のことを言いますが、ベジャールの『ボレロ』は、バレエ以外のジャンルのダンサーたちが安易に真似してはいけない世界です。僕らはメンバー同士で紡ぎ合った、僕らなりの「BOLERO」をお客さんに提供していこうと考えてきました。
今回相手役を踊るのは三浦宏規さん。東山さんのダンス公演でも共演していますね。
東山 はい。ダンス公演『サロメ』や『ダンスシンフォニー』で共演したことがあります。昨年のミュージカル『赤と黒』での共演以外で10年ぶりぐらいですね。『サロメ』の時の宏規は15歳くらいだったのに、今では僕よりでっかくなって(笑)。すっかり頼もしくなりました。

©蓮見徹

東山さんがダンスを始めた時のことを聞かせてください。
東山 本格的に始めたのは22歳、大学4年です。僕は卒業を控えた経済学部の学生で一般企業の就職に興味が持てず、舞台に立つ仕事に就こうとダンスを始めました。最初は逃げ道にすぎなかったダンスでしたが、続けていくと舞台の魅力が分かってきて、ダンスを通して表現したいという意欲が湧いてきた。その過程で盟友、森新吾と出会ってダンス&パフォーマンスチームDIAMOND☆DOGSを結成しました。自分たちでダンスを作って、音楽を作って……弱小だったけれど、そこにはいろんなダンサー仲間、後輩たちが集まりました。
その頃からリーダーである僕がまず勉強しないと、仲間たちにいろんな景色を見せてあげられないと思っていました。僕のダンスが下手くそだったら、誰もついてきてくれないじゃないですか。だからダンスは絶対的に上手くならなければと思ったし、さまざまなジャンルのダンスにも挑戦しなくてはと。エンターテインメントを目指していたので、もちろん歌も演技にも挑戦しました。特に歌の世界は厳して、必死で喰らいついて頑張っているところにサッと現れてすごい歌唱力を見せる人に何度も出会いました。こっちはこんなに練習したのに一瞬で持っていかれるのか、と本当に悔しかったです。その甲斐あってか、ミュージカルでは歌唱中心の役ももらえるようになって、今ではお客さんに「東山さんって踊れたんですね」と言われることもあります(笑)。
今回の出演者のひとりであるダンサーの長澤風海さんは、振付チームにも参加し、バレエを振付けるそうですね。長澤さんが以前のインタビューで、お世話になった先輩に東山さんの名前を挙げていました。東山さんの「自分の力がどれだけあるのか試したいからずっと挑戦し続ける。だからお前も、もっと挑戦し続けたほうがいい」という言葉に影響を受けたと言っていました。
東山 (笑)普段そこまで構えているわけでもないんですけれど、舞台に立つたびに、次はどんな自分を見せられるかっていう期待と、それに期待している自分への興味はあります。

©蓮見徹

東山さんがダンスを続けてきた中で印象に残っている出来事や、エンターテインメント性のある舞台づくりに興味を持ち始めたきっかけを教えてください。
東山 この前、20年ぶりぐらいに森山開次さんとお会いして、懐かしい話をしました。今では日本を代表する舞踊家であり振付家の開次さんは、僕が初めて一緒に踊ったダンサーです。彼が24歳で僕が22歳の頃。僕はまだまだ下手くそで、開次さんも下手くそで(笑)。でもニジンスキーが踊った『牧神の午後』を一緒に振付けてみないか?って、夜な夜な二人で踊っていました。1年半か2年くらい一緒にいて、開次さんの独自の感覚と踊りのセンスに気づきました。技術どうこうじゃなく、思考とビジョンが抜きん出ていた。開次さんは天才だ、この人と同じ世界にいたら決して彼より上に行くことはできない、と思ったんです。
ある日の稽古帰り、一緒に夜空を眺めていると開次さんは月を指さし、「ヨシくん、見て。あれは夜空に穴が開いてるんだと僕は思う」と言うんです。「そうだ、あれをラマズエラと名付けよう」と。「ラマズエラ。それは造語だね」と普通に返事しかけた瞬間に、ああ俺はダメだ、と感じました。舞踊家としての身体表現は、月を見て夜空の穴だと感じられる開次さんのような人がやるべきだと。しかも数年後、彼は『Lamazuella(ラマズエラ)』というソロ作品を生み出したんです。あの月の夜のことは衝撃で、今でも忘れられません。
僕がミュージカルとか演劇とか歌といったダンス以外のアートから、自分の表現の可能性を探ろうとし出したのはそれが大きかったかもしれません。後輩の風海たちから見たら、僕が前を見て挑戦し続けているように見えるかもしれない、でも僕は開次さんたちのような優れたダンサーを前に、自分の才能を信じ、意識を総動員させ、なんとかして勝負していくしかない。そういう心境で頑張り続けているんです。

©蓮見徹

ダンサーの中には、大きく分けて2つのタイプ、つまり最後まで舞台に立ち続けたい、プレイヤーでいたいという人と、演出家や振付家として作品を作っていきたいという人がいるかと思います。東山さん自身はどちらだと思っていますか?
東山 僕はダンスに限らず、ずっとパフォーマーでいたいですね。ダンスができるうちは舞台に立って、僕の表現をとおして何かを伝えたいし、同時に僕の仲間たち、優れたダンサーたちを広く紹介したいと思います。
東山さんの「肩書」とは何でしょうか? 例えば 森山開次さんでしたら振付家とか舞踊家だと思うのですが。
東山 僕は何もつかないんじゃないかな。だって、どれもその道のプロフェッショナルではないから。敢えて言えば「職業・東山義久」ですね。それをどう表現するかが今回のようなダンス公演だったり、ミュージカルだったりと形を変えるのが僕の魅力でもあり、不安定なところでもあると思います。今年、芸能25周年記念公演をやったのですが、それもダンスではなく歌の公演でしたしね。
でも、僕のこの世界への入口はダンスだったし、なにより僕はダンスが好きです。だから恩返しじゃないけれど、僕のそばで踊っている後輩たちもさまざまな舞台に立たせてやりたいし、ひとりでも多くの観客に彼らの存在を知ってもらいたい。今回もたくさんの僕の弟たちが出演します。それぞれがダンスを武器にしてステージに立ち、より自分の可能性を体現するような舞台と出会うチャンスを得られるよう挑戦してくれること。『BOLERO -最終章-』がその起爆剤となってくれたらと願っています。

©蓮見徹

東山義久  Yoshihisa HIGASHIYAMA
1976年生まれ、大阪府出身。大学卒業と同時に初舞台を踏み、後にミュージカル『エリザベート』のトートダンサーで注目を集める。2003年ヴォーカル&パフォーマンスグループDIAMOND☆DOGSを始動、リーダーとして舞台構成・総合演出も手掛ける。2013年新プロジェクトENTERTAINMENT DANCE PERFORMANCE「BOLERO」立ち上げ、ミュージカル俳優として活躍する傍ら、ダンスを中心としたドラマ性のあるエンターテインメントステージを追及している。
おもな出演作に『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』Rule the Stage -track3-、『CLUB SEVEN』シリーズ、『レ・ミゼラブル』、『ALTAR BOYZ』、『ニジンスキー〜神に愛された孤高の天才バレエダンサー』、『サロメ』、『イヴ・サンローラン』、『ミス・サイゴン』、『アルジャーノンに花束を』、フレンチロックミュージカル『赤と黒』、『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』などがある。

公演情報

ENTERTAINMENT DANCE PERFORMANCE『BOLERO-最終章-』

東京公演
【日程】2024年7月18日(木)~7月25日(木)
【会場】有楽町よみうりホール

大阪公演
【日程】2024 年7月30日(火)~31日(水)
【会場】 SkyシアターMBS

【スタッフ】
総合演出:植木豪
共同演出:中塚皓平
企画・構成:栫 ヒロ
音楽:la malinconica
総合振付:大村俊介〔SHUN〕
振付:原田 薫/森 優貴/長澤風海/木野村温子/中塚皓平/植木 豪

【出演】
東山義久、三浦宏規、蘭乃はな
穴沢裕介、木村咲哉、鈴木凌平、髙橋慈生、田村允宏、長澤風海、中塚皓平、早川一矢、MAOTO、望月凛、山崎感音、山野光

【公演に関するお問合せ】
サンライズインフォメーション 0570-00-3337 (平日12:00~15:00)

◆公式サイトはこちら

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