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【6/25開幕!】森山開次「新版・NINJA」舞台稽古レポート〜編集部座談会の巻

阿部さや子 Sayako ABE

新国立劇場「新版・NINJA」舞台稽古より 森山開次 撮影:鹿摩隆司

2022年6月25日(土)・26日(日)、森山開次による子どもも大人も楽しめるダンス作品「新版・NINJA」が上演されます(新国立劇場・中劇場)。

2019年に新国立劇場・小劇場をはじめ全国各地で上演された人気作『NINJA』。今回は場所を同・中劇場に移し、より大きな舞台空間で、忍者たちや“忍者みたいな生き物”たちが暗躍(?)することに。
開幕前日の6月24日(金)に行われた舞台稽古を、バレエチャンネル編集部員4名で見学してきました!

【今回の取材メンバー】
阿部 バレエチャンネル編集長

若松 かつて小劇団を主宰。脚本・演出を手掛けていた経験をもつ編集部員

古川 動画撮影・編集が得意。3人のボーイズを子育て中のママ編集部員

青木 編集部に入る前は国内のバレエ団で踊っていた元バレリーナ編集部員

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忍法のごとく変化(へんげ)する第一部

阿部 「新版・NINJA」、楽しかったですね〜。まずはみなさん率直な感想を。
若松 見始めてまず思ったのは、なるほどコンテンポラリーダンスって確かに「忍者」だ!と。動いたり、かと思えばピタッと止まったり、動きのスピード感の違いだったり。そしてあの体幹の強さ、身体能力。そこがすごく印象的でした。
古川 映像、音楽、照明、ダンス。その4つの融合の巧さが驚きでした。始まる前から虫の声が聞こえてきたり、作品に引き込む演出がすみずみまでなされていて。あと、子どもたちの「ごっこ遊び」とか、小学生がやりがちなこと……例えばリコーダーを2本くわえて吹いちゃうみたいな(笑)、そういう風景も思い出されておもしろかったです。
青木 確かに! 私も「子どもの頃こういう歌をよく聞いてたな」とか「このお話、聞いたことあるな」とか、客席に座った瞬間、子どもに戻れるような作品だと思いました。あと、途中でたくさん出てくる生き物たちが意外な音楽で意外な踊りをするのが楽しかったです。衣裳もすごく可愛かった!
阿部 今の子どもたちはどうかわからないんだけど、私が子どもだったウン十年前は、忍者遊びといえばまず折り紙で手裏剣を折る(笑)。それを効果的に使った演出や美術もとても良かったです。あと、すごくざっくり言うと、第一部は子どもたちが笑って喜びそうな楽しい時間、20分休憩をはさんで第二部は忍びたちの本格的なダンスが堪能できるちょっと大人な時間、という構成。まず第一部でとくに印象に残った場面は?
古川 私は「蛇」の場面。元新体操選手のダンサー(浅沼 圭)がロープを巧みに操りながら蛇を表現していくところ。

浅沼 圭 撮影:鹿摩隆司

阿部 蛇ね! あれは観ると誰もが強烈な印象を受けると思う。元新体操選手のダンサーとしてはもう一人、弘間文佳さんも出演していて、新体操の手具を生き物の動きにしていく振付も大きな見どころのひとつ。
若松 この作品は、ダンス公演としてだけでなく、演劇として観てもすごく面白いなと思って。私が第一部でいちばん好きだったのは「カブト虫のお殿様」(宮河愛一郎)のシーン。わかりやすく金ピカの衣裳を着ているのもおもしろかったし、コミカルでインパクト大でした。忍びの者と対決するくだりも、BGMだけでなく演者の生の声を使ったり、懐かしい早口言葉とか愉快なオノマトペみたいなものが使われていたりして。そういうのを聞いているだけでも想像力が広がるなと。
阿部 本当にそうだった! ことば遊びとかわらべ歌とか、子どもの頃に口ずさんで楽しんだようなリズムのある言葉が、そのままダンスのリズムになるという。
若松 だから、もし古川さんが子どもたちを連れてこの「新版・NINJA」を観にきたとしたら、その中のいくつかの言葉がしばらく家の中で流行りそうだなって(笑)。
古川 確かに。少なくとも忍者ごっこは間違いなく始まると思います(笑)。

撮影:鹿摩隆司

青木 私は、「猫」の踊りのところが大好きでした。トウシューズを履いて踊る、とてもバレエ的なシーンなんですけど、使われている曲がすごく楽しくて。 「あれ? この曲はもしかして……」という、誰もが絶対に知っているあのメロディで、まさかバレリーナが跳んだり回ったりするなんて!と。お衣裳もすごく可愛くて、キュンキュンしながら観てました。
阿部 本当に、まさか“あの曲”でグラン・フェッテするバレリーナを観る日が来るなんて……と思いましたよね(笑)。そして、その猫の場面を踊る「姫」役のダンサーを、われわれバレエチャンネル的にはぜひフィーチャーするべきでしょう(キリッ)。 彼女は中川奈奈さん。新国立劇場バレエ研修所に在籍中の若いダンサー。
青木 踊る量もすごく多くて、とてもきれいでした!
阿部 本当に。奈奈さんはこの作品中でただ一人トウシューズを履いて、いわゆるバレエ的な部分を担当するわけですが、まず目を奪われるのが脚の美しさ。理想的なバレリーナラインを持っていて、舞台に出てくるたびにその場の空気がサッと変わるようなダンスで。
若松 まさに。

宮河愛一郎(カブト虫)、中川奈奈(姫) 撮影:鹿摩隆司

阿部 なのでバレエ研修所の中川奈奈さんの活躍は、バレエファンのみなさんには見落とさないでいただきたい……っていうか見落としようがないくらい目立つのですが(笑)。それと第一部で言うと、私は「ナメクジ」(弘間文佳)も素晴らしいなと思って。
若松 そこも良かったです!
阿部 あのダンスを観ることで、これまでの自分の“ナメクジ観”が変わったというか、ナメクジの持つ神秘性に気付かされた。ナメクジが這っていく、その通り道がしっとりテラテラ光る感じとかも、シンプルな道具使いで見事に表現されていました。

休憩時間も油断は禁物…

阿部 まさに忍者屋敷みたいに、場面が変わるたびにいろんな仕掛けが出でくるような第一部。それが終わると20分の休憩に入ります。
若松 その休憩時間にもお楽しみがありました! 新国立劇場の中劇場は客席がすり鉢状になっているのですが、言わばそのすり鉢のフチあたりまで階段を昇ってふと舞台を見たら、床一面に、まるで忍者が屋敷に忍び込むための間取り図かのごとく、中劇場の詳細な間取り図が映し出されていました(笑)
阿部 可笑しい(笑)。
若松 しかも、トイレ休憩ということで、「厠」の位置がものすごく目立つように示されていて。これなら絶対に迷わずトイレに行けるなという(笑)。
阿部 実際、劇場って本当に秘密の空間。歩き回ってると「あっ、こんなところにこんなスペースがある、こんな設備がある」みたいなところがあるから、忍者的に探検するのにふさわしいというか。ただ、探検しすぎると「お客様、そちら立ち入り禁止です」ってたぶんつまみ出されちゃうんだけど(笑)。
若松 あと、舞台上でも、お客さんに気づかれないくらいの忍者っぷりでダンサーが現れて小道具を片付けたりしていて。休憩時間ずっとホワイエにいたらもったいないかも、と思いました。

第二部……雨の日も、嵐の日も、踊り続ける忍びたち

阿部 第二部はどうでした?
青木 夜のしんとした空気のなかで不思議なことが起こっていく。その雰囲気がすごく好きでした。よく聞くとちょっと怖いわらべうたが出てきたり、お面を変化させたり衣裳を翻したりしながら、あやかしの世界をどんどん生み出していく空気感に、すごく魅力を感じました。
古川 第二部は本当に“踊りの時間”でした。ダンスのクライマックスがいくつもいくつもやってくる。その中でもあえてひとつ挙げるなら、やはり森山開次さんのソロの場面。ダンサーたちがワッ!と踊ったあとに、光の中でただ一人、肉体だけでダンスを見せる。あの場面はやはりすごく目に焼き付きましたし、ダンスファンの方にはぜひおすすめしたい見どころだと思います。
阿部 あの場面は……カッコよかった(語彙)
若松 私は、「姫」の第二部での変貌ぶりが衝撃的でした。第一部では本当に上品で可愛らしかった彼女が、第二部では豹変する。その表現力ですよね。チュチュを着て、トウシューズを履いた足で、大地を踏み締める。ガ、ガ、ガン!と力強く歩いていく。そのさまに鮮烈な印象を受けました。

撮影:鹿摩隆司

阿部 先に言われてしまいました。まさにそこですよ。中川奈奈さんは、クラシックのバレリーナとしても非常に美しいラインを持つダンサーですけど、じつはコンテンポラリーダンスのほうでも国際コンクールで入賞するなど高く評価されている人。だから第二部は彼女の本領発揮でもあり、バレエファン的には、この「新版・NINJA」は新世代の才能の登場を目の当たりにできる舞台でもあるなと。あと、もうひとつ私が好きだったのは休憩明けの、第二部の冒頭。
若松 ああ……!
阿部 あたかも手裏剣のごとく座布団が宙を飛び交うという(笑)。
青木 (笑)
阿部 本当に最高でした。ただひとつ心配なのは、やはり子どもたちがあのおもしろさを観ちゃったら、たぶんその夜はご家庭内で座布団が乱れ飛ぶことになるだろうなと(笑)
古川 間違いなくそうなります(笑)。
阿部 あと、何か言い残したことのある人はいますか?
若松 座席は、後方席や2階席もおすすめです、とお伝えしておきたいです。
古川 前方席も楽しいことがあるかもです。何かがパタパタ飛んできたり。
青木 私は、指の動きにも注目していただきたいなと思います。すぐに真似したくなる動きもあれば、難解な動きもあって、それが月に照らされて影として浮かび上がったりして、すごく素敵だったので。
阿部 ちょっとフィンガーダンスっぽい要素もあったよね。私、この作品って、ちょっとシルク・ド・ソレイユみたいだと思ったの。って、その喩えは叱られるかもしれないけど。いろんな得意技を持ったダンサーたちが、それぞれの忍術ならぬ技術を見せていく。そしてラストシーン……これはもう詳しくは言わないでおきますが、意表を突かれるけどすごく忍者らしい、そんな締めが待っているとだけお伝えしておきましょう!

森山開次 撮影:鹿摩隆司

公演情報

森山開次/新版・NINJA

日程 2022年

6月25日(土)14:00

6月26日(日)13:00

6月26日(日)17:30

※上演時間:約1時間45分(休憩含む)

会場 新国立劇場・中劇場
詳細 新国立劇場WEBサイト

 

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