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【レポート】草刈民代、寺田宜弘、厚地康雄が登壇「キエフ・バレエ支援チャリティーBALLET GALA in TOKYO」公演記者会見

阿部さや子 Sayako ABE

写真左から:寺田宜弘、草刈民代、厚地康雄 ©︎Ballet Channel

今なお深刻な状態が続くウクライナ危機。同国の首都キーウ(キエフ)に劇場を構えるキエフ・バレエ(タラス・シェフチェンコ記念ウクライナ国立バレエ)を支援するため、国内外で活躍する日本人バレエダンサーたちが集結し、チャリティー・ガラ公演を開催する。
公演名は「キエフ・バレエ支援チャリティーBALLET GALA in TOKYO」
開催は2022年7月5日(火)、会場は昭和女子大学人見記念講堂(東京・三軒茶屋)。

このプロジェクトの発起人でもある草刈民代が芸術監督を務め、事前申込・抽選で選ばれた約1800人を無料招待する。そして来場者には5,000円以上の寄付を募り、そのチャリティー基金の全額がキエフ・バレエに寄付される。

開催に先駆けて、本公演の趣旨・概要を説明する記者会見が行われた(2022年6月17日、日本記者クラブ)。登壇したのは、草刈民代芸術監督、キエフ・バレエ副芸術監督の寺田宜弘、出演者代表として元バーミンガム・ロイヤル・バレエ プリンシパルの厚地康雄、公演プロデューサーでRENAISSANCE CLASSICS代表の恩田健志の計4名。会場は日本記者クラブ。

会見ではまず、恩田氏が同公演の概要を説明した。要点は次の通り。

  • 約1800人の観客を無料で招待し、学生以外の来場者には5,000円以上の寄付を募る
  • 会場は同公演の趣旨に賛同した昭和女子大学が特別提供
  • 公演はオーケストラの生演奏で行われる
  • 公演の制作費は企業17社と個人による協賛金で賄われる。余剰金が出た場合も、すべてキエフ・バレエに寄付する

恩田健志氏(RENAISSANCE CLASSICS代表) ©︎Ballet Channel

以降、会見は司会者が質問し、登壇者がそれに答えるかたちで進行した。

***

本公演の芸術監督であり、発案者である草刈民代さんにお話を伺います。草刈さんがこの公演を発案した経緯を教えてください。
草刈 2月後半にロシアの侵攻が始まり、毎日のようにニュースを見ていました。私はロシアのミハイロフスキー・バレエにも客演したことがあり、ロシア人の先生方にもたくさん教わってきた。いっぽうでウクライナ人のダンサーと一緒に踊ったこともあります。ですから最初に感じたのは、ロシアとウクライナが分断してしまうということ。そしてその数週間後に、キエフ・バレエのダンサーだったアルテム・ダッツィシンがロシア軍の砲撃で亡くなったという投稿をFacebookで見つけたんです。私は彼がまだ20歳くらいだった時に一度だけ一緒に踊ったことがあり、そこからこの侵攻を自分の近くに感じるようになりました。

もうひとつの大きなきっかけは、(振付家の)アレクセイ・ラトマンスキーが積極的にFacebookに投稿しているのを見たことです。彼はロシア人ですが、キエフ・バレエでも長く活動し、デンマークや(ロシアの)ボリショイ劇場、アメリカなど世界中で振付を作っています。ロシアにおける芸術家と政府との関係などについても率直に意見を投稿しているなかで、私が一番心を動かされたのは、「ダンサーには綺麗な脚だけではなく、心も頭もあるはずだ」という言葉でした。このような状況下で、ただ踊ることだけに甘んじているべきではない。バレエを通じてワールドワイドな活動をできる人は、もっと自分で考え、選択していくべきではないかという発信を見た時に、ものすごく響きました。

日本ではアーティストが政治的な発言をする習慣もなく、今回の侵攻も遠いヨーロッパの話だと感じているところがあるかもしれません。でも、日本のバレエの歴史を考えても、私たちはロシアやウクライナとは切っても切れない関係性を築いてきました。ならば自分たち日本人のダンサーには何ができるか、きちんと模索すべきではないか。そのひとつとして、まずはキエフ・バレエをサポートするような活動をと考えました。

草刈民代 ©︎Ballet Channel

出演ダンサーも、草刈さん自身が直接声をかけて集めたそうですね。
草刈 初めは日本で活動している人を集めようと考えたのですが、ああでもないこうでもないとやっているうちに、海外で踊っている日本人ダンサーたちを探すことになりました。私はダンサーを引退して12〜13年ほども経つので、いま踊っているダンサーのことは全然知らない。そのためSNSやWEBサイト等で徹底的にリサーチして、各人にインスタグラムからメッセージを送り、この公演に賛同してもらえるか、7月5日に日本で踊れるかを聞いていきました。そうして集まったのが今回のメンバーです。
集まったメンバーを見て、芸術監督してどう感じますか?
草刈 まず思ったのは、こんなにもたくさんの日本人のダンサーが世界各国で踊っていて、しかもプリンシパルを務めている人も多いのだということ。私が踊っていた頃は、ようやく日本でもローラン・プティ作品を上演できるようになったか……というくらいの時代でしたが、今は違う。イリ・キリアン作品にしても、キリアン自身のもとで踊り信頼を得た中村恩恵さんのような人が日本にいることで、そうした世界的なマスターピースの上演も可能になっています。この十数年の間に、日本のバレエはものすごくレベルが上がっている。それをみなさんにも感じてもらえるのではと思います。
「チャリティー・ガラ」というものじたいも、海外と比べて日本ではいま一歩なじみがないと、普段から感じていたそうですね。
草刈 私自身、チャリティー公演の企画は今まで考えたことがありませんでした。ただ、侵攻という特殊な状況を前にして、例えば“Ballet for Peace”というような、つまり「平和のためにみなさん寄付してください」と言っても、協賛金や寄付金は集めづらいと思ったんです。そのお金が具体的にどこへ行き、どう使われるかがわからないので。ですから今回は「キエフ・バレエを支援する」という明確な目的を持ってチャリティー公演を行うことにしました。そのおかげでこれだけ短期間で協賛金を集められたのではと思っています。
今回の公演については、「踊りを辞めた自分だからこそ、後輩たちのためにできることがある」というのも、草刈さんにとって大きなモチベーションになったと聞いています。
草刈 自分とほぼ同世代のラトマンスキーさんの投稿がこれだけ心に響いたのは、私の心がまだ踊りの延長にあるからかもしれません。そして世界中で踊っている日本人ダンサーたちは、大きく言ってしまえば、私にとって後輩のような存在。みんな今は海外にいるけれども、そのほとんどの人は、現役を終えたら日本に帰ってくるはずです。でも今の日本の環境では、彼ら・彼女らがせっかく海外で積んできた豊かな経験を活かしきれないのではないかと。つまり、ダンサーはもっと社会的な活動をしなくてはいけないし、ダンスのもつ社会性を人々に理解してもらわなくてはいけない。そうして日本社会におけるバレエの認識を変えていくことが大事なのではないかと、今回の侵攻のニュースやラトマンスキーさんの一連の投稿を見るなかで強く感じました。この公演が、私も含め関係者のみんなにとって、実感しながら学んでいく機会にもなればと思っています。

©︎Ballet Channel

続いて、今回のチャリティー基金の寄付先となるタラス・シェフチェンコ記念ウクライナ国立バレエの副芸術監督、寺田宜弘さんに伺います。寺田さんは11歳からウクライナで踊ってきたそうですね。
寺田 11歳の時に(旧ソ連の)国費留学生としてウクライナに渡り、今年で35年になります。
今も住まいはウクライナにあるそうですが、侵攻が始まってからどのように避難を?
寺田 私は2月23日にウクライナを出ました。なぜかというと、日本大使館から「非常に危険な状態、レベル4 だからウクライナから出てほしい」と通達があったから。それで私はウクライナを出てヨーロッパに向かったのですが、心の中では「戦争は始まらないだろう。2週間もすれば落ち着くだろう」と思っていました。その後こんなに恐ろしいことになるとは思っていなかったし、ウクライナの人たちも誰も思っていなかったと思います。
大使館から言われ、最後の飛行機で移動して、その翌朝には侵攻が始まったと。
寺田 そうなんです。23日の22時にポルトガルに着いて、24日の朝6時に戦争が始まりました。

寺田宜弘(キエフ・バレエ副芸術監督) ©︎Ballet Channel

その後の状況をメディアなどで見ながら、心情的にかなりつらい時期を過ごしたそうですね。
寺田 2月24日の朝6時に戦争が始まったと言われた時、私は信じていませんでした。 でもニュースを見てみると本当に始まっていて、25日には私が10年間芸術監督をやっていたバレエ学校の近くの橋が破壊されてしまった。それで精神的に少し弱ってしまい、今後自分はどういう道を進んでいけばいいのかわからなくなって、いちど日本に戻ろうかなと思ったんです。けれどもヨーロッパに住んでいる友人から連絡があり、「日本に帰ってはダメだ」と。「今はヨーロッパに残って、ウクライナの人たちをサポートしていこうじゃないか」と。そこから、「まずはウクライナの人たちをサポートしよう。自分の今後のことはそれから考えよう」と思うようになりました。

その後、最初に私のところに連絡してきたのは、バレエ学校の生徒たちでした。10歳から18歳の子どもたちが、「先生、助けてください」と。最初の衝撃は、16歳の女子生徒からの連絡でした。ドネツク出身の彼女はこう言いました。「私はいま、母親と妹の3人で、ヨーロッパに難民として入国しました。だけど(ウクライナを出る時)最後に父親とさよならをしました。もう二度と父親に会うことはできないと思う。私は今後どうすればいいのかわからない」と。

そういう電話が、3月4月と、毎日朝8時から夜中の2時までずっとかかってきました。その時に思ったんです。いま、この10代の子どもたちをサポートしないと、ウクライナの芸術、世界の芸術がなくなってしまうと。それでヨーロッパで働いている友人たち、バレエ学校やバレエ団のディレクターたちに連絡して、助け合いながら、125人のウクライナの生徒たちをヨーロッパのバレエ学校に無料で留学させることができました。

その後私のところに連絡がきたのは、バレエ団の仲間たちからでした。ダンサーというのは18歳でバレエ学校を卒業してバレエ団に入り、38歳で舞台を去って年金生活になる。その非常に短いバレエ人生においては、25歳までに国際的なダンサーにならないと、先が見えなくなってくるんです。ですから私がすべきことは、まずダンサーたちがトレーニングできる場所を作ること。そして各地のカンパニーに連絡して、仕事が見つかるようにサポートすること。ハンブルクやミュンヘンでチャリティー公演を行なって、自分の力、芸術の力でウクライナをサポートできるように活動をしてきたのが、この100日間でした。

そのいっぽうで、心の中では、日本でもチャリティー公演をやるべきだという思いも持っていました。そうしたら、草刈民代さんのほうから10年ぶりに連絡があって、「チャリティ公演をやりたい」と。日本からそういう連絡をくれた人は草刈さんただ一人。ウクライナの友人にそのことを伝えると、みんな本当に感動していました。遠い日本のバレリーナが、ウクライナのためにチャリティー公演をしてくれる。そのことが夢と希望を与えてくださったと思います。

このプロジェクトには、キエフ・バレエからも2人のダンサーが出演します。アンナ・ムロムツェワニキータ・スハルコフ。2人はウクライナを代表する『森の歌』という素晴らしい作品を踊ります。日本のバレエダンサーのみなさん、関係者のみなさん、草刈民代さん。ウクライナを代表してお礼を言います。ありがとうございます。

この夏、キエフ・バレエも日本に来ます。でも、当初私はダンサーたちに連絡しなかった。なぜかというと、誰がウクライナに残っているのか、誰がどこに避難しているのかもわからないし、この苦しい時に「日本公演に参加したいですか?」なんて聞けなかったから。ところが4月に(ダンサーのほうから)電話がかかってきました。「夏の日本公演はあるんですか?」「あるよ。みんな行きたい?」「行きたい。日本で踊りたい」と。私は、これは絶対、100%成功させたいと思いました。なぜなら2月に戦争が始まって以来、一度もバレエ団がひとつになって舞台に立つことがなかったから。いまは(キエフ・バレエには)30人しかいませんが、30人でもバレエ団がひとつになって日本で公演をするその公演をSNSで世界中に発信する。そうすることで、世界中に住んでいるウクライナの人たちに、ウクライナの芸術は生きているということを証明できるんです。

©︎Ballet Channel

いま「30人」とおっしゃいましたが、本来の団員数は?
寺田 カンパニーには、120人のバレエダンサーがいます。
現在、本国でのキエフ・バレエの状況は? 稽古や本番は再開していますか?
寺田 2週間前から劇場が再開して、現在は週に1回バレエ、週に1回オペラというかたちで公演をしています。でも、120人いた団員が、いまは30人しかキエフに残っていないんですね。他の団員はヨーロッパのほうに避難していて、今年の9月から正式にまた活動したいと考えていますが、これからどういうかたちで活動をしていけばいいのかは今後の課題。それも7月中に決めなくてはいけないので、早く戦争が終わるのを待っています。
まだ先行きもわからず不安な状況かと思いますが、それでも30人で公演をすると、客席は満員になるのですか?
寺田 満員ですね。それはなぜかというと、ウクライナの国民というのは、みんな芸術の中で生きて育ってきたから。ウクライナ人にとっては、まず芸術があって、政治がある。劇場でオペラやバレエを観られること、芸術が生きているということが、国民にとって「ウクライナはひとつだ。また必ず平和な時代が戻ってくる」というメッセージになる。そのために芸術家たちは活動していると私は思います。
今回の公演の寄付金をどう活用していくかについても、すでに構想があるそうですね。
寺田 先ほど草刈民代さんとも相談したのですが、ロシアの作曲家は使うことができず、本当は120人いる団員も今は30人で、 何人戻ってくるかもわからない。そうした状態の中でやるべきことは、新しいレパートリーを作り、新しいキエフ・バレエの時代を作っていくことです。今までにない国際的な振付家をキエフに招き、振付してもらう。日本人ダンサーたちの踊りのおかげで集まったお金で、キエフ・バレエの新しい作品を作っていく。そうすればより一層ウクライナと日本が近くなると思います。いまは世界中のカンパニーで日本人がプリンシパルとして活躍していますし、日本人のいないカンパニーはありません。今後はキエフにも日本人ダンサーに来ていただいて、一緒にチャリティー公演を行うなど、芸術・文化の国際交流をしていく。この寄付金で、そういう新しい世界を作っていきたいと思っています。
続いて、出演ダンサーのひとりである厚地康雄さんにもお話を伺います。 まずは今回の出演を引き受けた経緯を聞かせてください。
厚地 今回は本当に突然、民代さんから直接お電話をいただきました。民代さんとは直接お会いしたことがなく、雑誌やテレビで活躍する姿を見ているだけだったのでとても光栄だったのですが、今回のガラの趣旨を熱意をもって伝えてくださり、僕はもちろん即座に賛同しました。僕はバレエダンサーなので、踊ることしかできません。いまはニュースを見るたびに胸を締め付けられるのですが、僕の踊りで本当にひとりでも救われることになればと思い、お受けしました。

厚地康雄(元バーミンガム・ロイヤル・バレエ プリンシパル)©︎Ballet Channel

レパートリーの中から何を踊るかについても、ずいぶん考えたそうですね。
厚地 先ほどお話があったように、今回はウクライナのダンサーたちも出演するので、その方たちに配慮するためロシアの作曲家の音楽は使わない、という趣旨があります。ですから民代さんにも何度も相談して、二転、三転、四転した末、やっと(フレデリック・)アシュトン振付の『二羽の鳩』という作品を踊ることに決まりました。
平和の鳩で、ぴったりの作品ですね。
厚地 このバレエの大きな特徴のひとつとして、本物の白い鳩が二羽出てくるんですね。いまおっしゃったように、 平和の象徴である鳩と一緒に舞台をお見せできるというのは、ぴったりではないかと。最終的にこの作品にしてよかったなと思っています。
厚地さんは長く活動したイギリスから日本に戻って数ヵ月でこのような世界情勢になりました。
厚地 そうですね。僕は今年の2月いっぱいで長年所属していたバーミンガム・ロイヤル・バレエを退団し、3月に日本へ戻ってきました。本当は2月の末に戻る予定でしたが、戦争が始まったためにフライトがかなり遅れてしまい、ウクライナの南のほうを迂回して帰ってきました。
イギリスで長く暮らしてきた立場から、いまのこの状況について感じていることは?
厚地 バーミンガム・ロイヤル・バレエにもロシア人はたくさんいましたし、もちろんウクライナ人でバレエを踊っている友達もたくさんいます。僕たちがコントロールできないところで、こうしてパワーバランスが崩れていくのは本当に残念ですが、それによってバレエ界が壊れてはいけないと思っています。もちろんロシア国内にもいろいろな派閥があると思いますけれども、僕はやっぱり仲間を信じたいですし、ダンサーはダンサーで、平和に、いままで通り、芸術を磨いていけたらと思っています。

©︎Ballet Channel

最後にいまいちど草刈さんに伺います。世の中にはいろいろな芸術、いろいろなダンスがあるなかで、バレエだからこそできること、バレエの力とは何でしょうか?
草刈 バレエの基礎・土台を習得するということは、すなわち世界共通の言語を習得するということです。例えば演劇もボーダレスな芸術ではありますけれども、バレエはさらにボーダーがありません。例えばラトマンスキーさんと私は一度しか舞台でご一緒していませんが、Facebookで繋がり始めたら、こんなにもきちっと意思疎通ができる。そしてダンサーたちについても、その人がどういう踊り手で何を踊れる人なのか、SNSで踊りを見ただけでも理解できるんです。こういう芸術はなかなかありません。つまり今回私があらためて思ったのは、バレエのつながりによって、ここまでいろいろなことができるのだということ。そして今回は踊りを見せるだけではなく、その人たちがいまどうやって生きているか。踊るために海外まで行って、踊る人生の真っ只中にいるダンサーたちが、この侵攻によって何を感じているのか。みなさんにはそういうものも読み取りながら踊りを観ていただきたいですし、私も踊り終わって次の段階にいる者として、そういうことを世の中にもっと打ち出していくという貢献もできるのだと実感しているところです。
チャリティー・ガラですから、観る側にも楽しく観て寄付をするだけでなく、それ以上の体験をしてほしいし、それができる場であると。
草刈 そうですね。今回はアンナさんとニキータさんという、キエフ・バレエから2人のプリンシパル・ダンサーがご出演してくださいます。当日はまず日本人のダンサーたちが踊り、最後にキエフの2人、つまりこの侵攻の渦中にいる人たちが踊るんですね。つまりそれは、私たち日本人やお客様にとって、いま起こっているロシアの侵攻を、舞台というかたちで体験することでもあると思うんです。それは舞台芸術でなければできないこと。舞台というのはその1回、その劇場の中に入れる人数しか観ることのできないものですが、舞台に立つ人と客席で観る人がそれぞれ何を感じるか。それぞれの思いで劇場の空気が埋まっていくことが、このチャリティー公演の意味なのかなとも思っています。

©︎Ballet Channel

(記者1)草刈さんは海外で踊っているダンサーに直接インスタグラムでメッセージを送り出演者を募ったとのことですが、海外ということで苦労したことは?
草刈 特にありません。海外在住とはいえ、みんな日本人で、日本語ですから。ただ、声をかけた中にはまだ劇場が休みになっていない等の理由で7月5日には踊れない、という人もいました。
少し話は逸れますが、私はラトマンスキーさんのFacebook投稿を見て、本当に心を動かされたんですね。踊り手が、あるいは踊ってきたということが、社会に対して何を訴えられるのか。そういう考え方もすごく大事なのだと。ですから日本人も、この侵攻がどういうことなのかをきちんと理解して、同じことが起こらないようにするにはどうしたらいいか、あるいは起こった時にどうサポートしていくべきか、そういうことに対して意識を高くしていかなくてはいけないと思っています。コロナ禍もあって、ウクライナ侵攻もあって、いま世界のいろいろなところで生態系が崩れていっている。それを傍観しているだけでは、大変なことになってしまいます。だけど日本から見ていてわかることには限度がありますから、ヨーロッパ各国など世界で踊っているダンサーたちがいま体験していることを聞いてみようと。その思いから、今回はダンサーのみなさんにメッセージを書いてもらったりもしています。
(記者2)草刈さんは、元ダンサーとして、ウクライナのダンサーたちにいま何が必要だと思っていますか? そして寺田さんは彼らの姿を現場で見てきた立場として、いま日本人としてどんな支援をすることが大事だと思っていますか?
草刈 日本人として何が大事かというのは、私がすごく考えてきたことです。今回の侵攻が起こって以来、もちろん日本でもいくつかバレエのチャリティー活動がありましたが、それらはどちらかというとアマチュアや学生の方々のイベントが多かったと思うんです。プロの人たちや、日本のバレエの中心にいる人たちからも何か動きがあるのかなと思って見ていたのですが、どうやらなさそうだなと。世界各国ではさっそくチャリティー公演が行われたり、振付家や各団体の芸術監督たちが次々とメッセージを出したりしているのに、日本では大きな動きがない。日本にバレエが入ってきてから110年も経つのに、こうした時に動きがないのは、私としては違和感がありました。ならば私がやろうと乗り出したのが、今回の大きな動機でもあります。
先ほど寺田さんがおっしゃったように、今回みんなで踊って集まった寄付金と、協賛金として集まったお金で、キエフ・バレエの新しいレパートリー作りに役立てていただく。こうして人の気持ちがいろいろなかたちで、具体的に動いていくことの素晴らしさを感じています。(このプロジェクトを始動するにあたり)私もはじめのうちは少し勇気が要りましたけれど、「これはやるべきだ」と思うことは、やはりやってみるべきだなと思います。「日本人として何をするべきか」は、とくに海外で踊っている人なら誰もが抱える大きなテーマ。これは1回限りの公演ですが、ここから高まっていく意識を大切に、みんなで育てあげていきたいなと思っています。

寺田 私たちの世代にとって草刈民代さんはバレエのビックスターであり、今回コンサートで踊ってくれるのは、日本を代表する若きダンサーたちです。その寄付金でウクライナに新しい作品を作っていく。実際にどういう振付家をウクライナに招くのか? そういう話も近いうちに出てくると思うんですね。新しい作品が出来上がったら、また10年、20年と、世界中の人たちが楽しむことができると思う。こうしてアジアから応援されているという気持ちを大事にして、ダンサーたちも早くウクライナに戻ってきて、新しいウクライナ、キエフ・バレエの時代を作っていく。今回のチャリティー公演を、日本人として誇りに思っています。

©︎Ballet Channel

公演情報

 「キエフ・バレエ支援チャリティーBALLET GALA in TOKYO」

◆開催日時:2022年7月5日(火)18時30分開演(20時30分終演予定)

◆開催会場:昭和女子大学人見記念講堂(東京・三軒茶屋)

◆上演作品:
『デューク・エリントン・バレエ』The Opener(ローラン・プティ)
『海賊』より
『バラの精』
『And… Carolyn.』(アラン・ルシアン・オイエン)
『Deep Song』(マーサ・グラハム)
『ノートルダム・ド・パリ』(ローラン・プティ)
『ジゼル』アダージョ
『小さな死』(イリ・キリアン)
『二羽の鳩』より
『コッペリア』より 祈り
『森の詩』より

◆出演:
青山季可(牧阿佐美バレヱ団)
厚地康雄(元バーミンガム・ロイヤル・バレエ)
江部直哉(カナダ国立バレエ)
大谷遥陽(イングリッシュ・ナショナル・バレエ)
加治屋百合子(ヒューストン・バレエ)
菊地研(牧阿佐美バレヱ団)
佐久間奈緒(元バーミンガム・ロイヤル・バレエ)
佐藤碧(マーサ・グラハム・ダンス・カンパニー)
猿橋賢(イングリッシュ・ナショナル・バレエ)
芝本梨花子(デンマーク王立バレエ)
中野伶美(シビウ劇場バレエ)
二山治雄
平野亮一(英国ロイヤル・バレエ)
福田昂平(元ノヴォシビルスク・バレエ)
藤井彩嘉(チェコ国立バレエ)
松井学郎(ノルウェー国立バレエ)
水井駿介(牧阿佐美バレヱ団)
アンナ・ムロムツェワ(キエフ・バレエ)
ニキータ・スハルコフ(キエフ・バレエ)

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©︎Ballet Channel

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