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【動画レポート】「キエフ・バレエ支援チャリティーBALLET GALA in TOKYO」公演&囲み取材

阿部さや子 Sayako ABE

「キエフ・バレエ支援チャリティー BALLET GALA in TOKYO」ダイジェスト映像

今なお深刻な状態が続くウクライナ危機。同国の首都キーウ(キエフ)に劇場を構えるキエフ・バレエ(タラス・シェフチェンコ記念ウクライナ国立バレエ)を支援するため、2022年7月5日(火)、国内外で活躍する日本人バレエダンサーたちが集結してガラ公演「キエフ・バレエ支援チャリティーBALLET GALA in TOKYO」を開催しました(会場:昭和女子大学人見記念講堂)。

このプロジェクトの発起人であり本公演の芸術監督を務めたのは草刈民代。草刈がSNSのメッセージ機能等を通じて直接連絡を取りオファーしたという出演ダンサーは、ヒューストン・バレエの加治屋百合子や英国ロイヤル・バレエの平野亮一、元バーミンガム・ロイヤル・バレエの佐久間奈緒と厚地康雄など、国内外で活躍するベテランから若手まで全21名。草刈がかつてプリマを務めた牧阿佐美バレヱ団からも青山季可、菊地研、水井駿介が参加し、ローラン・プティ作品を披露しました。

本公演のラストに登場したのは、キエフ・バレエのアンナ・ムロムツェワとニキータ・スハルコフ。音楽・台本・振付すべてウクライナ人による作品『森の詩』をドラマティックに踊り、観客からひときわ大きな喝采が送られました。

本公演は抽選で選ばれた約1800人の観客を無料招待し、観客はひとり5,000円以上を寄付する(学生を除く)という仕組みで開催。また当日はライブ配信も実施され、その視聴チケット料も全額キエフ・バレエに寄付されるとのこと。
※7/7現在もアーカイブ配信の視聴申し込みが可能。チケット販売期間は7月11日(月)20時まで。詳細はこちら

舞台写真すべて:©︎フォトスタジオアライ

『デューク・エリントン・バレエ』よりThe Opener 水井駿介(牧阿佐美バレヱ団) ローラン・プティが2001年に牧阿佐美バレヱ団のために振付けた作品。今回のガラは、水井の目の覚めるような演技で幕を開けた!

『薔薇の精』中野伶美(シビウ劇場バレエ)、二山治雄 今回の出演者のなかで最年少の二人。一瞬一瞬が美しく、物語性のある表現で好演

『海賊』よりグラン・パ・ド・トロワ 芝本梨花子(デンマーク王立バレエ)、猿橋賢(イングリッシュ・ナショナル・バレエ)「『海賊』全幕のストーリーを想像していただけるように」(草刈)と、今回はグラン・パ・ド・トロワの前にメドーラとコンラッド二人の踊りを加えて上演。二人の関係性が生き生きと浮かび上がる演技を見せた芝本と猿橋

『海賊』よりグラン・パ・ド・トロワ 福田昂平(元ノヴォシビルスク・バレエ) アリを演じた福田は舞台から飛び出してくるような爆発力を見せて舞台を盛り上げた!

上写真2点:『グラン・パ・クラシック』佐々晴香(スウェーデン王立バレエ)、髙橋裕哉 佐々と髙橋は、長身を生かした端正なパ・ド・ドゥを披露。くっきりと目に焼き付く美しいライン、音楽的な踊りで強い印象を与えた

『And…Carolyn.』大谷遥陽(イングリッシュ・ナショナル・バレエ)、松井学郎(ノルウェー国立バレエ)気鋭のノルウェー人振付家アラン・ルシアン・オイエン振付。二人の呼吸と熱量がビシビシと伝わってくるダンスで、ガラの第1部を締めくくった

『Deep Song』佐藤碧(マーサ・グラハム・ダンス・カンパニー) マーサ・グラハムが1937年に発表した作品。「1936年に始まったスペイン内戦で、人々が直面したような人間の苦しみを理解し、知り、反応するすべての人々に共通の経験である“拷問された心と身体の物語”」(公演プログラムより)。佐藤のソロを見つめながら、本公演の意味を噛み締めるひとときとなった

『ノートルダム・ド・パリ』よりパ・ド・ドゥ 青山季可、菊地研(牧阿佐美バレヱ団) 美しいエスメラルダと鐘つき男カジモドが心を通わせるシーン。カジモドの不器用な動きが、エスメラルダと触れ合いながら少しずつ溶けていくさまを、バレエ団を代表するダンサーふたりが豊かな演技力で見せた

『ジゼル』よりアダージョ 加治屋百合子(ヒューストン・バレエ)、平野亮一(英国ロイヤル・バレエ) ベテランふたりのパ・ド・ドゥは祈りのように静かで優しく、客席の空気が吸い込まれるようなひとときに

『小さな死』藤井彩嘉(チェコ国立バレエ)、江部直哉(カナダ国立バレエ) 近年では作品の抜粋上演を許可していないイリ・キリアンが、今回は特別にこの短いデュエットのみの上演を許可したとのこと。藤井と江部は初共演ながら、ふたりのエネルギーが溶け合って流れるようなデュエットを見せた

『二羽の鳩』佐久間奈緒、厚地康雄(元バーミンガム・ロイヤル・バレエ) このシーンにたどり着くまでの物語まで見えてくるような演技、温かみのあるデュエットを見せた佐久間と厚地。舞台には本物の“2羽の鳩”も登場。途中、鳩がのんびり舞台上をお散歩(?)し始めるというハプニングも、観客をほっこりさせてくれた

『祈り』(アメリカン・バレエ・シアター版『コッペリア』より)加治屋百合子(ヒューストン・バレエ) 今回のチャリティー公演にふさわしいからと加治屋自身が提案したというソロ。清らかな音楽の中で、一つひとつ真心をこめて腕や足を運ぶさまが心に残る

『森の詩』アンナ・ムロムツェワ、ニキータ・スハルコフ(キエフ・バレエ) 「ウクライナ人にとってとても大切な作品」(寺田宜弘キエフ・バレエ副芸術監督)を、繊細に、そして力強く踊ったふたり。客席からこの日いちばんの拍手喝采が沸き起こった

ダンサー全員が充実の表情で揃ったカーテンコール。草刈も登場し、キエフ・バレエ副芸術監督の寺田宜弘から花束を贈られて晴れやかな笑顔を見せた

終演後囲み取材レポート

終演後、草刈民代芸術監督と、出演者を代表してアンナ・ムロムツェワ、ニキータ・スハルコフ、加治屋百合子、平野亮一の計5名が、集まった報道関係者の囲み取材に応じました。

写真すべて:©︎Ballet Channel

写真左から:平野亮一、加治屋百合子、草刈民代、ニキータ・スハルコフ、アンナ・ムロムツェワ

キエフ・バレエ支援のために、今日はウクライナと日本のダンサーが共に舞台に立ちました。踊り終えた今の感想を聞かせてください。
ムロムツェワ 今回は私たちにとって3年ぶりの来日です。これは私個人にとっても、またウクライナにとっても、とても重要な意味を持っていると思います。今日は日本のみなさんと、同じバレエダンサー仲間として共演することができました。そのことをとても嬉しく思うと同時に、この公演をオーガナイズしてくださった関係者のみなさまに心からお礼を申し上げます。

スハルコフ 今回は素晴らしいオーガナイズによって、日本の優れたダンサーのみなさんと共演することができました。まずはそのことに対して「ありがとう」と申し上げたいです。今日のこの出来事は、私たちに幸せをもたらしてくれました。本当にこのひと言に尽きます。

加治屋 更衣室でアンナさんが今の状況などを話してくれたのですが、そのお話を聞くだけでも胸が張り裂けるような気持ちになりました。今はドイツにいらっしゃるそうですが、自分の身ひとつで逃げて、もうトウシューズも何もかも、これまで当たり前にあったはずのものがなくなってしまったと。それでもこうして踊る機会をいただけて、自分は本当に幸せだとおっしゃっていました。私もこうして少しでも支援につながる舞台に参加できて、民代さんに本当に感謝しています。芸術というのは、国の違いは関係なく、私たちを1つにしてくれます。このようなかたちでキエフ・バレエのダンサーと一緒に舞台を共にできたことを嬉しく思っております。

平野 こういう機会を作ってくださって、(草刈に向かって)本当にありがとうございます。ウクライナのダンサーのために、ウクライナのために、少しでも何かできたらと、ずっと思っていました。僕は、バレエは世界平和の一環だと思っています。僕の父がそう言っていて、そういう考えのもとで育てられました。少しでも多くの人に世界平和への思いを持っていただけたらと、この舞台に参加させていただきました。

草刈 私は4月半ばくらいにこの舞台をやろうと決めて、それから数ヵ月で実現にこぎつけました。その過程でいちばん強く感じたのは、芸術というのは人の心から始まるのだということ。例えば困っている人や恵まれない人に寄り添うことでテーマが見つかり、作品が生まれるということは、多々あるはず。そういうことが芸術活動の土台になるのだと今回あらためて感じ、これからの自分の表現の土台になるもの、元になるものに、さらに深く触れられたような気がします。この経験じたいが自分の表現の幅を広く深くしていく。そんな期待を素直に感じました。
参加してくださったダンサーたちとは、この2ヵ月くらいずっと電話やチャットでやりとりを続けてきました。そして自分たちは何に向かっているかということをみんなと少しずつ共有しながら進めていけたこともよかった。みんなにとって意味のある舞台になったと思っていますし、私も本当に勉強になりました。今日は本当に幸せです。私自身ただ座ってみなさんの踊りを観ることができたのも今日が初めて。楽しかったし、お客様も喜んでくださって、本当に良かったと思います。

草刈さんに質問です。このチャリティー公演に込めた思い、お客様への思いをあらためて聞かせてください。
草刈 今日の公演では、ダンサーたちみんながそれぞれの作品のエモーションをものすごく出していたと思うんですね。そしてアンナさんとニキータさんは、彼ら彼女らのエモーションをどんどん受け取って、最後にとてもエモーショナルに踊ってくださった。そしてそれを観たお客様たちの心が引っ張られた。そういう経験をみなさんがしてくださったと思うんです。私は今回の公演を、踊る人にとっても観る人にとっても心が大きく動くものにしたいと思っていました。とくに若いダンサーたちには、自分たちが何を踊ってるのか、お客様にきちんと伝わるようにしてほしいと。それを意識して稽古を重ねてきました。

お客様にも、これはやはりチャリティー公演ですから、普通の公演とは少し違います。そういう状況の中で作品を観て、ダンサーたちのエネルギーを感じて、ご自身の心が動く。それを体験していただけるのが舞台芸術の良さであり、実際、今日の舞台はあの場の空気を動かしていたと思います。

アンナさんとニキータさんは、今日の舞台をどのような気持ちで踊ったのか、あらためて聞かせてください。
ムロムツェワ 『森の詩』という演目は、純粋なウクライナのクラシック・バレエです。ウクライナの作曲家によって書かれ、ウクライナの振付家によって作られたものです。私たちはこれを踊ることによって、ウクライナ国民の心を、そして悲しみをお伝えしたいと思いました。私たちの国では、もう5か月間も戦争が行われ、人々が悲しみ続けています。そういう時期だからこそこの作品を踊ることを選択し、みなさまにご披露しました。

スハルコフ 僕の言いたいことは、今アンナがすべて言い尽くしてくれました。僕からはもう何も付け加えることはありません。

配信情報

●配信:ローチケLIVE STREAMING
●チケット購入URL:https://l-tike.com/balletgala-online/
●販売期間:2022年7月1日(金)12時~7月11日(月)20時迄
●視聴可能期間:2022年7月5日(火)18時30分~7月11日(月)23時59分
●料金・視聴チケット:2000円(税込)
※本配信チケットの売上はキエフ・バレエに寄付される

【配信上演作品】
『デューク・エリントン・バレエ』より The Opener(振付:ローラン・プティ)
『薔薇の精』
『海賊』より グラン・パ・ド・トロワ
『And… Carolyn.』(振付:アラン・ルシアン・オイエン)
『Deep Song』(振付:マーサ・グラハム)
『ノートルダム・ド・パリ』より パ・ド・ドゥ(振付:ローラン・プティ)
『ジゼル』より アダージョ
『小さな死』(振付:イリ・キリアン)
『二羽の鳩』(振付:フレデリック・アシュトン)より
『祈り』(アメリカン・バレエ・シアター版『コッペリア』より)
『森の詩』

【出演】
アンナ・ムロムツェワ(キエフ・バレエ)
佐久間奈緒(元バーミンガム・ロイヤル・バレエ)
加治屋百合子(ヒューストン・バレエ)
青山季可(牧阿佐美バレヱ団)
佐々晴香(スウェーデン王立バレエ)
藤井彩嘉(チェコ国立バレエ)
佐藤碧(マーサ・グラハム・ダンス・カンパニー)
芝本梨花子(デンマーク王立バレエ)
大谷遥陽(イングリッシュ・ナショナル・バレエ)
中野伶美(シビウ劇場バレエ)
ニキータ・スハルコフ(キエフ・バレエ)
平野亮一(ロイヤル・バレエ)
厚地康雄(元バーミンガム・ロイヤル・バレエ)
菊地研(牧阿佐美バレヱ団)
松井学郎(ノルウェー国立バレエ)
江部直哉(カナダ国立バレエ)
猿橋賢(イングリッシュ・ナショナル・バレエ)
福田昂平(元ノヴォシビルスク・バレエ)
髙橋裕哉
水井駿介(牧阿佐美バレヱ団)
二山治雄

【詳細】
公演の公式WEBサイトをご確認ください

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