2024年8月3日、音楽劇『ライムライト』が開幕。東京のシアタークリエを皮切りに、大阪の梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ、大分の別府国際コンベンションセンターと、約1ヵ月間のツアー公演が行われます。
原作はチャールズ・チャップリン監督の同名映画。チャップリン研究家としても知られる大野裕之が上演台本を、荻田浩一が演出を手掛け、2015年に初演されました。
5年ぶり3度目の公演となる今回は、主人公の老芸人・カルヴェロ役に初演から同役をつとめている石丸幹二、ヒロインのバレリーナ・テリー役に元宝塚歌劇団トップ娘役の朝月希和(あさづき・きわ)が出演します。音楽劇『ライムライト』初参加の朝月さんに、作品の魅力やテリー役に賭ける意気込み、そして幼少期から習い始めたバレエの思い出について聞きました。
朝月希和さん。バレエレッスンで使用している私物のトウシューズを手に ©蓮見徹
- 音楽劇『ライムライト』で朝月さんが演じるテリーはバレリーナという設定。トウシューズで踊るシーンもあるそうですね。
- 朝月 オファーをいただいた時はとても嬉しかったです。映画『ライムライト』はもちろん知っていたので、あの有名な「テリーのテーマ(エターナリー)」でバレエを踊れるなんて!とワクワクしました。その反面、バレリーナ役として舞台で踊ることに特別な緊張を覚えています。公演のお稽古はこれからですが(編集部注※取材は5月末)すでにバレエのレッスンは始めていて、時間がある限り行くようにしています。クラシック・バレエは普通のダンスとは違う筋肉を使いますし、トウシューズって繊細なお靴ですから。バレリーナ役として、しっかり身体作りをしてから臨みたいと思います。
- 過去の公演はご覧になりましたか?
- 朝月 当時は劇場で観ることができなくて、今回出演が決まってから映像で拝見しました。素敵な台詞がたくさんあるんですよ。中でもカルヴェロの「我々はみんなアマチュアですよ。“アマチュア以外“になる前に人生は終わってしまうんです」という台詞が印象に残っています。『ライムライト』の原作者であるチャップリンさん自身が、自分に厳しく、芸を極め続けたからこそ生まれた言葉のように感じます。
- 朝月さんが思う『ライムライト』の魅力を教えてください。
- 朝月 映画『ライムライト』は喜劇王のチャールズ・チャップリンさんが原作・監督・主演をつとめた作品で、舞台人を主人公に描かれています。チャップリンさんが演じたカルヴェロは、かつては一世を風靡したけれど今は年老いて仕事もない喜劇俳優。クレア・ブルームさんが演じたテリーは心の傷が原因で踊れなくなってしまったバレリーナ。人生のどん底にいる二人が出会い、消すことのできない「舞台への思い」「生きること」を取り戻していく物語です。その映画を舞台化したのが音楽劇『ライムライト』。私が女優として舞台をやらせていただいているからかもしれませんが、この作品には舞台人の心に響くメッセージがたくさん詰まっていると感じます。踊れなくなったことで人生を諦めガス自殺を図ったテリーは、カルヴェロに助けられ、たくさんの愛や勇気や生きる希望をもらって、もう一度バレリーナとして舞台に立つ決意をします。いっぽうで、スターだった過去の面影もなく、すっかり落ちぶれてしまっていたカルヴェロも、テリーを励ましていくうちに、もう一度舞台に立ちたいという強い思いが芽生え始めます。
舞台が好きで舞台に生きる二人が、舞台人としての人生を全うするために、もう一度お客様の前に立つ決意をする。初めて観た時は、プロの舞台人の心意気を教えられたような気持ちになりました。今回のお稽古場では、私にとっての「舞台に生きる思い」を探し、お客様に届けたいです。
©蓮見徹
- テリーと自分が似ていると思うところはありますか?
- 朝月 テリーはしっかりしていて素敵な人すぎて、正反対のところしか思い浮かびません(笑)。私は優柔不断でいろいろ考えてしまう性格なので、テリーの「こうと決めたらこう」という意志の強さは尊敬してしまいます。カルヴェロのために何かしてあげたいと思う気持ちも、自分の愛を伝える姿勢も真っ直ぐで、純粋さに魅力を感じます。
- テリーの前には二人の男性が現れます。ひとりはカルヴェロ、もうひとりは若きピアニストのネヴィル。テリーにとって彼らはどういう存在なのでしょうか?
- 朝月 ネヴィルは、テリーが踊れない時期に働いていた文具店で出会う男性。テリーは彼にほのかな恋心を抱きます。でもカルヴェロを愛したことで、ネヴィルへの思いは淡い憧れにすぎず、彼の作る音楽に惹かれていただけだと気が付くんです。
- 劇中、テリーは親子ほど年の差があるカルヴェロに自分からプロポーズします。朝月さんはその時のテリーの真意をどう解釈していますか?
- 朝月 私は、本物の愛だと思っています。最初は、見ず知らずの女性の命を救って献身的に支えてくれたことへの感謝の思いもあったかもしれません。でもテリーはカルヴェロと一緒にいながら彼の優しさを肌で感じて、彼そのものを深く愛するようになっていったのではないでしょうか。
でも、もしかしたらお稽古を重ねていくにつれて、今のこの解釈も少しずつ変化していくかもしれません。テリーのいろいろな感情が私の中に生まれて、深みを増していくのはとても楽しみなこと。そして新しい感情が生まれるたびに、きっと踊りのほうも変化していくはずです。どこまで変化するかはまだ全然分からないけれど、バレリーナのテリーとしてトウシューズを履き、舞台上で踊れるように役を作り上げていきたいと思っています。
©蓮見徹
- 朝月さんがバレエに夢中だった頃のお話も聞かせてください。
- 朝月 私、小さい時に家の中でずっと踊っていたらしいんです。なんだかよくわからない踊りを(笑)。それを見ていた祖母がバレエ教室を探してきてくれました。見学に行き、その素敵な世界に目を奪われて、その場で「私、ここでバレエを習う!」って宣言しました。小学1年生の秋のことです。
- バレエは楽しかったですか?
- 朝月 牧阿佐美バレヱ団の系列のお教室で、基礎からしっかり教えていただきました。夏期講習で牧先生のレッスンを受けさせていただいたことも。今となってはとても貴重な経験です。
- 小・中学生のころの発表会やお稽古で印象に残っている踊りはありますか?
- 朝月 小学校の頃は、学校の作文や卒業文集にもバレエのことばかり書いていましたね。「いつかパ・ド・ドゥが踊ってみたい」とか、「トウシューズを履いたら絶対にこのヴァリエーションが踊りたい」とか。中学生になってその夢が叶った時は、すごく嬉しかったです! でも実際に踊ってみると、見ていたようにはいかないというか、本当に難しいんですよね。初めて男性にサポートをしてもらったのは『白鳥の湖』第1幕のパ・ド・トロワで、ひとりできちんと踊れていなければ人とは踊れない、と痛感しました。「フロリナ王女と青い鳥のパ・ド・ドゥ」を踊った時のこともよく覚えています。小さい頃からの夢だったので一生懸命お稽古しました。初めて高いリフトを経験したのもこのパ・ド・ドゥ。肩に乗るリフトが上手にできなくて、男性の先生にお願いして、何度も何度も練習に付き合っていただきました。もうひとつ、長いこと憧れ続けていたのに実現しなかったのは『ラ・バヤデール』のガムザッティのヴァリエーションです。じつは高校に入って踊れることが決まったのですが、私が急に宝塚音楽学校の受験を決めてしまったため、2回だけのお稽古で終わってしまったんです。
- 憧れのヴァリエーションを踊るチャンスを諦めて、宝塚音楽学校の受験を決めたのはなぜですか?
- 朝月 当時、私は中高一貫校に通っていたのですが、中3の終わり頃、クラスメイトの中には別の高校へ進学する子や海外留学する子が多いことに初めて気づきました。私はそれまで、みんな一緒に6年間過ごすんだろうなとのんびり思っていたけれど、同級生たちはきちんと自分の将来について考え出しているんだ、と焦りを覚えました。そのまま付属高校に進学し、自分の将来を考えてはみたものの、何も思いつきませんでした。バレエは大好きだったけれど、だからこそ私はプロのバレリーナになれないと、自分でもよく分かっていましたから。バレエ以外で私がしたいことは何だろう、と悩んでいた時に、母がたまたま宝塚の舞台に連れて行ってくれて、観劇をしたんです。
- それまでに宝塚歌劇団の舞台を観たことは?
- 朝月 祖母と母が好きだったので、何度かは足を運んでいました。でもクラシック・バレエに夢中だったので、そこまでの興味はなかったんです。ところが……その日の演目は雪組の『ベルサイユのばら(オスカル編)』。コムさん(朝海ひかる)が乗ったペガサスが登場した瞬間に「宝塚ってこんな素晴らしい舞台だったんだ!」って。劇場を出る時には「私、ここで踊る!」と、すっかり気持ちが固まっていました(笑)。バレエを始めた時と同じで、迷いはありませんでしたね。そこから本格的に受験の準備を始め、高校1年の冬に受験、翌年から音楽学校に入学しました。
- プロのバレリーナを目指してバレエを頑張っている子どもたちや、宝塚歌劇団に入りたい、ミュージカルの世界を目指したいと夢見ている子どもたちに、メッセージをお願いできますか?
- 朝月 みなさんが大好きな舞台に出会えることって、本当に奇跡だと思います。だから好きな気持ちっていうのをずっと忘れないでいて欲しいです。その気持ちが、この先どんなことがあっても頑張る原動力になると思うから。毎日のバレエレッスンは大変かもしれないけれど、コツコツ頑張っていけば、きっと花開く時が来るはずです。私ももっともっと頑張るので、一緒に頑張っていきましょう!
©蓮見徹
- 朝月希和 Kiwa ASAZUKI
- 東京都出身。2008年宝塚音楽学校入学。10年に96期生として宝塚歌劇団に入団、花組に所属。17年『MY HERO』でWヒロイン後、雪組へ組替え。19年にふたたび花組へ組替えし、翌年『マスカレード・ホテル』で初ヒロインを務める。同年雪組へ戻り、21年4月に雪組トップ娘役に就任する。彩風咲奈の相手役として『CITY HUNTER/Fire Fever!』でトップコンビ大劇場お披露目。22年12月「蒼穹の昴」東京公演千秋楽をもって、宝塚歌劇団を退団。退団後は舞台女優として活躍。23年ミュージカル『シェルブールの雨傘』ジュヌヴィエーヴ役、24年ミュージカル『王様と私』でタプティム役を演じる。
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公演情報
音楽劇『ライムライト』
東京公演
【日程】2024年8月3日(土)~8月18日(日)
【会場】日比谷 シアタークリエ
大阪公演
【日程】2024年8月23日(金)~8月25日(日)
【会場】梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
大分公演
【日程】2024年8月31日(土)~9月1日(日)
【会場】別府国際コンベンションセンター(B-Con Plaza)
【スタッフ】
原作・音楽:チャールズ・チャップリン
上演台本:大野裕之
音楽・編曲:荻野清子
演出:荻田浩一
【出演】
石丸幹二
朝月希和、太田基裕
植本純米、吉野圭吾、保坂知寿
中川賢、舞城のどか
ヴァイオリン:岸 倫仔
リード:坂川 諄
アコーディオン:佐藤史朗
ピアノ:荻野清子
【公演に関するお問合せ】
〈東京公演〉東宝テレザーブ 03(3201)7777
〈大阪公演〉梅田芸術劇場 06(6377)3888
〈大分公演〉B-Con Plaza 0977(26)7111
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