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【1/23公開】パリ・オペラ座バレエ「くるみ割り人形」ドロテ・ジルベールSPインタビュー〜最高難度のグラン・パ・ド・ドゥ。その時、クララは完全な女性になる【パリ・オペラ座 IN シネマ 2026】

阿部さや子 Sayako ABE

パリ・オペラ座バレエ「くるみ割り人形」ドロテ・ジルベール(クララ)、ギヨーム・ディオップ(王子)©Agathe Poupeney

パリ・オペラ座バレエの舞台を映画館で堪能できる「パリ・オペラ座 IN シネマ 2026」。今シーズンは、ルドルフ・ヌレエフ振付『くるみ割り人形』と、アンジュラン・プレルジョカージュ振付『ル・パルク』の2作品が上映されます。

まずは2026年1月23日(金)より1週間限定で、ヌレエフ版『くるみ割り人形』が全国公開されます。クララ役は、2007年まさにこの作品でエトワールに任命されて以来、長きにわたりオペラ座の顔として同団を牽引してきた名花ドロテ・ジルベール。その相手役となる魔術師ドロッセルマイヤー/王子は、最年少エトワールのギヨーム・ディオップが演じています。

今年10月、定年によりパリ・オペラ座バレエを引退するドロテ・ジルベール。20年近いエトワール人生の始まりとなった『くるみ割り人形』とクララ役のこと、最高難度と言える振付のこと、そして「アデュー」の時を控えたいまの思いなどについて、話を聞きました。

ドロテ・ジルベール Dorothée Gilbert
1983年9月25日、フランス・トゥールーズ生まれ。トゥールーズのコンセルヴァトワールで学び、1995年パリ・オペラ座バレエ学校入学。2000年パリ・オペラ座バレエ入団、2005年プルミエール・ダンスーズに昇格。2007年11月19日、ヌレエフ版『くるみ割り人形』クララ役を初めて踊り、エトワールに任命された。2026年10月15日『マノン』がアデュー(オペラ座引退)公演となる。©James Bort/OnP

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『くるみ割り人形』といえば、ドロテさんが2007年に初めて主役のクララを踊り、エトワールに任命された作品。やはり本作には特別な思い入れがありますか?
ジルベール それが不思議なことに、特別な思い入れというのはないんですよ(笑)。ただ、初めてクララを踊ったその公演のことは、今でも強烈な思い出として私の中に残っています。なぜかというと、その日の舞台がとにかく変わった状況だったから! 裏方のスタッフさんがストライキに入ってしまって、舞台装置もなければ衣裳もない、まるで「素舞台」のような状態での公演だったんです。終演しても緞帳さえ下りなくて、本当に大変な思いをしました。

ですからおそらく、ブリジット・ルフェーブル芸術監督(当時)はそんな状況でも私たちダンサーたちが誰もストライキをせず、一生懸命踊りきったことを評価してくれたんじゃないかしら。「みんな頑張ってね」と、カンパニー全体を鼓舞する意味も込めて、私をエトワールにしてくれたのかもしれません。

ヌレエフ版『くるみ割り人形』の最大の特徴のひとつは、クララの心理を深く掘り下げて描いていることですね。ドロテさんはクララの人物像をどのように捉えていますか?
ジルベール 『くるみ割り人形』では第1幕のクララを子どもや若手のダンサーが演じ、第2幕のグラン・パ・ド・ドゥだけをプリンシパルが踊るという演出も多くありますが、オペラ座バレエが上演するヌレエフ版では、最初から最後までエトワールが演じます。第1幕の冒頭では、クララはごく普通の少女です。それが悪夢のような場面を経て、しだいに成長し、最後には成熟した女性へと変わっていく。彼女は愛を知ることで大人になるんです。無邪気な少女が、思春期を経て、大人の女性へと成長する——その一連の流れを描き出していくところが、このバージョンの最大の特徴だと思っています。

パリ・オペラ座バレエ「くるみ割り人形」ドロテ・ジルベール(クララ)©Agathe Poupeney

ドロテさんのクララは、第1幕ではいたずらっぽい瞳や大きな笑顔が愛らしい少女なのに、第2幕のグラン・パ・ド・ドゥではまさにエトワールの輝きで、成熟した女性そのものです。そこに至るまでの展開の中で、クララが「大人」になる瞬間はいつ訪れると考えていますか?
ジルベール どこか特定のタイミングで切り替わるというよりも、段階を追って徐々に成長していくのだと解釈しています。まずは第1幕の、ねずみたちとの戦いの場面。あそこは彼女にとって最初の悪夢であり、夢の世界の入り口ですが、オペラ座バレエ学校の生徒たちが出演している場面ですし、クララ自身もまだ「子ども」のままでしょう。戦いが終わった後、王子と初めて踊るパ・ド・ドゥも重要ですが、振付に小さなジャンプがたくさん含まれていることからも、彼女にはまだ子どもの部分が残っているなと感じます。続く雪の場面でも、やはり少女の面影がありますね。

第2幕の序盤に大きな顔の被り物をした家族たちが現れるシーンがありますが、あのあたりからクララは少しずつ成熟し始めるように思います。そこから先の彼女はもう、単なる少女ではありません。アラブの踊りなどのディヴェルティスマンが繰り広げられている最中は、クララは舞台上にはいなくて袖幕の中。けれどその間にも、彼女はずっと成長を続けているのだと私は解釈しています。そして最後のグラン・パ・ド・ドゥで、ついに完全な女性になるのです。

パリ・オペラ座バレエ「くるみ割り人形」ドロテ・ジルベール(クララ)、ギヨーム・ディオップ(王子)©Agathe Poupeney

おもしろい分析ですね。その最後のグラン・パ・ド・ドゥについてですが、あの場面を観て誰もが思うのは、振付がものすごく難しそうだということです!
ジルベール その通り。本当の本当に難しいです(笑)。あのグラン・パ・ド・ドゥの難度ときたら、ちょっと別格ですね。一般的な版の振付ならどこかで少し息がつけるというか、呼吸を整えられるくらいの余白があるのですが、ヌレエフ版にはそれが全くありません。

まずアダージオですが、音楽はゆったりしているのに、振付がものすごく細かい。トウシューズで立ったまま膝下を細かく動かすようなパが多くて、やることが山のようにあります。正しく立てていないとこなせない動きばかりで、ここだけでも大変な体力を消耗するんですよ。

それなのに……続く男性のヴァリエーションが、ものすごく短いんです! 本当にあっという間に終わってしまって、すぐに女性のヴァリエーションが始まります。しかもこちらは非常に長くてテンポもゆっくり(笑)。舞台の奥へ下がったり前へ出たりと移動も多くて……極め付きが最後のマネージュです。これほど難しいテクニックが組み合わされたマネージュは、他のグラン・パ・ド・ドゥには見当たりません。スートゥニュやピケ・トゥールといった回転技のみならず、そこにアラベスクが入ってくるなど、複雑なパで織り上げられています。

聞いているだけで息切れしそうです……。
ジルベール そうでしょう?(笑)あえて言うなら、最後のコーダがいちばん落ち着いて踊れるパートかもしれませんね。最初のアダージオがいきなり大変で、ヴァリエーションはさらに過酷。全体を通して、凄まじくハードなグラン・パ・ド・ドゥです。

パリ・オペラ座バレエ「くるみ割り人形」ドロテ・ジルベール(クララ)、ギヨーム・ディオップ(王子)©Agathe Poupeney

その最高難度のグラン・パ・ド・ドゥを踊りきった後に迎えるラストシーンも、ヌレエフ版はとても印象的です。パリ・オペラ座の公式WEBサイトに掲載されているあらすじには、「クララはたった一人で通りに佇み、混乱し動揺している」とありますが、ドロテさんはこのシーンを少し違う解釈で演じているように見えます。
ジルベール 正直に言うと、私にとってはあの大変なグラン・パ・ド・ドゥが終わって「ああ、やっと終わった!」ってホッとしている場面です(笑)。
物語としては、ラストシーンでクララは夢から覚め、現実に引き戻されます。夢の中では愛を知り、成熟した女性になったけれど、目が覚めるとまた少女の自分に戻っている。でも、恋をして、愛を知ったという記憶や感情は、確かなものとして彼女の中に残っています。ですから最後は単に動揺しているというよりも、夢で感じた愛をもういちど胸の中で噛みしめて、すごく幸せな気持ちに満たされているのではないかと思うんです。私はそんな解釈で、あの場面を演じています。
ということは、あのラストシーンの演技はダンサーに委ねられているのでしょうか。
ジルベール ええ。最後に家のドアから外に出てきて……というシチュエーション以外、特別な振付があるわけでもなく、自由に演じていい場面です。空から舞い落ちてくる雪を見つめたり、周りの様子を眺めたり。具体的に決められた動きもありませんから、それぞれのダンサーが自分の解釈に合わせて感情を自由に表現していると思います。
そしてクララが恋をする魔術師ドロッセルマイヤー/王子は、若きエトワールのギヨーム・ディオップが演じていますね。今回シネマ上映されるのは2023年12月の舞台を収録したもので、当時はギヨームさんがエトワールに就任して間もないタイミングでした。
ジルベール ギヨームは、舞台に出た瞬間にキラキラと光り輝く、特別な何かを持ったダンサーです。彼とはこの『くるみ割り人形』の前にも何度か組んだことがありましたが、毎回しっかり準備をしてリハーサルに臨む、とても真面目で練習熱心な人なんですよ。加えて、彼は非常に頭が良い。だからこそこれほど早く上達し、エトワールまで昇り詰めたのだと思います。

パリ・オペラ座バレエ「くるみ割り人形」ギヨーム・ディオップ(王子)©Agathe Poupeney

ドロテさんが2007年に初めてクララを踊ってから18年。その年月の間に、ご自身の芸術性やダンスに対する考え方に変化はありましたか?
ジルベール 若い頃はやはり、どうしてもテクニックのことに意識が集中しがちでした。とにかくエネルギーにあふれていましたから、パフォーマンスもアスリート的な側面が強かったように思います。まだ経験も少なくて人間的にも成熟していなかったあの頃は、芸術的な面をどう表現すればいいのかがわからなかった。そのことに苦しさを感じていた時期でもありました。

でも年齢を重ねるにつれ、体力や身体的能力は少しずつ衰えてきたけれど、そのぶん人生経験や舞台経験が蓄積され、自分自身が豊かになっていきました。おかげで、芸術的な部分を表現することへの難しさは、若い頃よりもずっと少なくなりました。

この18年での最大の変化——それは、「ありのままの自分」で舞台に立てるようになったことです。昔は「何かを表現しよう」「こう見せよう」とずっと肩に力が入った状態でしたが、今は自分をそのまま舞台でさらけ出すことができます。すると演技も自然になり、身体の動きさえも楽になるんですよ。余計なものがすべて削ぎ落とされ、ダンスが洗練されていくのを感じています。

そして信じがたいことですが……2026年10月の『マノン』がドロテさんのアデュー公演になるとのこと。今の率直な気持ちを聞かせてください。
ジルベール 最後の舞台を心から楽しみたいと思っています。オペラ座というメゾン(家)に25年以上も在籍していたわけですから、そこから離れるのは不思議な感覚ですし、もちろん寂しさもあります。長年支えてくれたパートナーや、オペラ座の仲間たちと離れるのは、本当に寂しい。でも、私は踊りをやめるわけではありません。外部の公演などでの活動は続けていきますので、アデューは次なるステージの始まりでもあると思っています。

パリ・オペラ座バレエ「くるみ割り人形」ドロテ・ジルベール(クララ)、ギヨーム・ディオップ(王子)©Agathe Poupeney

上映情報

パリ・オペラ座 IN シネマ 2026
バレエ『くるみ割り人形』

2026年1月23日(金)~1月29日(木)※1週間限定
TOHOシネマズ 日本橋 ほか全国公開

★上映館、スケジュールなど詳細は公式サイトをご確認ください

音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
振付:ルドルフ・ヌレエフ
指揮:アンドレア・クイン

【出演】
クララ:ドロテ・ジルベール
ドロッセルマイヤー/王子:ギヨーム・ディオップ
ルイーザ(クララの姉):ビアンカ・スクダモア
フリッツ(クララの弟):アントワーヌ・キルシェ―ル
母:ファニー・ゴルス
父:セバスチャン・ベルトー
雪のソリスト:エロイーズ・ブルドン、ロクサーヌ・ストヤノフ
アラビア:ジェレミー=ルー・ケール、ロクサーヌ・ストヤノフ
アクロバット:アントニオ・コンフォルティ、トマ・ドキール、レオ・ド・ビュスロル
パストラル(葦笛):マリーヌ・ガニオ、イネス・マッキントッシュ、チャン・ウェイ・チャン

映像監督:フランソワ・ルシヨン

2023年12月16日・19日 パリ・オペラ座バスティーユにて収録
© Paris Opera – François Roussillon et Associés – 2023

【上映劇場】
*札幌シネマフロンティア(北海道)
*フォーラム仙台(宮城)
*TOHOシネマズ 流山おおたかの森(千葉)
*ユナイテッド・シネマ浦和(埼玉)
*TOHOシネマズ 日本橋(東京)
*イオンシネマ シアタス調布(東京)
*TOHOシネマズ ららぽーと横浜(神奈川)
*ミッドランドスクエア シネマ(愛知)
*大阪ステーションシティシネマ(大阪)
*イオンシネマ京都桂川(京都)
*TOHOシネマズ 西宮OS(兵庫)
*キノシネマ天神(福岡)

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