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舞台「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」宮尾俊太郎インタビュー~影はいつもそばにいて、自分の声を聴いてくれる

青木かれん Karen AOKI

©Shoko Matsuhashi

舞台『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』が、2026年1月10日より東京芸術劇場プレイハウスで開幕しました。世界初演となる東京を皮切りに、宮城・愛知・兵庫・福岡の6都市で上演され、4月からは海外4ヵ国(シンガポール、中国、イギリス、フランス)でツアーが予定されています。

同作は、村上春樹氏による同名の長編小説を舞台化した作品。作中では、“世界の終り”と“ハードボイルド・ワンダーランド”という異なる二つの世界が並行して描かれています。舞台版の演出・振付を手がけるのは、振付家フィリップ・ドゥクフレ。物語の主人公、“ハードボイルド・ワンダーランド”の私役を藤原竜也が演じます。

主人公と強い結びつきのある“世界の終り”の影。この役を演じる宮尾俊太郎さんに話を聞きました。

宮尾俊太郎(みやお・しゅんたろう)
北海道生まれ。14歳よりバレエを始める。2001年フランス カンヌ・ロゼラハイタワーに留学。04年10月Kバレエ カンパニーに入団。15年12月プリンシパルに昇格。14年3月自らが座長を務めるBallet Gents(バレエジェンツ)を結成し、演出・振付を手掛ける。20年11月ゲスト・アーティストに就任。25年9月Kバレエ トウキョウの芸術監督に就任。俳優としても舞台やドラマなど活動の幅を広げている。主な出演作品に『ロミオ&ジュリエット』、『マタ・ハリ』、『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』などがある。©Shoko Matsuhashi

舞台『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』は、村上春樹の同名長編小説が原作ですね。
宮尾 僕も原作を読み、現実ではない二つの世界を行き来するという不思議な設定に引き込まれました。これは物語を通じて自己を探す旅に連れて行ってくれるような作品。豊かな想像力で自分を見つめ直すやり方があるのだと気づかされました。
舞台化のお話を聞いていかがでしたか?
宮尾 舞台化にあたって、主人公が自己の深層心理へと潜り込んでいくさまをどう視覚化するのだろうかと気になっていました。演出・振付を手がけるのがフィリップ・ドゥクフレさんだと聞いて、なるほどこれはすごいサプライズをお客さまに提供できるだろう、と。場面の転換が多く、次から次へと新しいものが現れるので、楽しみにしていてください。
2026年4月からは世界4ヵ国でワールドツアーも行われます。
宮尾 ツアー先にはフランスのシャトレ劇場のように長い歴史を持つ劇場もあり、そこに通っているお客さまの反応が楽しみです。それぞれの劇場の雰囲気も気になりますね。海外の建築は石造りのところも多く、日本とはまた違ったおもしろさがありそうです。
稽古は11月から始まったそうですが、現在のようすは? ※取材は11月下旬
宮尾 各シーンのヴィジュアルが稽古場に貼り出されていて、美術や照明のプラン、衣裳や小道具などが出来上がりつつあるところです。僕たち演者は、フィリップさんが脳内で準備してきたものをキャンバスにデッサンするような形で共有していただいています。僕はダンス畑の人間なので、振付家のやりたいことがなんとなく分かるんです。なかなか奇抜なアイディアがたくさん出ていて、どうなるのか楽しみですね。稽古を通して僕たちが持つクリエイティヴィティをフィリップさんに提供し、彼がその中から抽出して組み合わせていくことで、素晴らしい舞台ができあがるのではないかと感じています。

©Shoko Matsuhashi

フィリップ・ドゥクフレさんの演出の印象は?
宮尾 舞台の見せ方がおもしろいです。二つの世界が同時に進行していくような空間の作り方がとくに印象的です。作中で使われる音楽のチョイスも素敵で、美しいピアノの旋律が流れたかと思えば、ヘヴィ・メタルのような曲もあり、その振れ幅が新鮮ですね。
一緒に仕事をするなかで、フィリップ・ドゥクフレさんをどんな方だと感じていますか?
宮尾 おそらく彼は自由な発想を持っているのだと思います。バレエだから、演劇だからと作品の在り方を固定するのではなく、その場面にフィットした見せ方を積極的に取り入れています。おもしろい!と思ったことを実践していくところがすばらしいです。
主演の藤原竜也さんの印象は?
宮尾 藤原竜也さんは、演劇界を引っ張ってきている第一人者。唯一無二の表現と正しい技術を兼ね備えた方です。この作品は、先に描きたいヴィジュアルが示された上で稽古がスタートしました。その意味で、今回はとてもダンス的な作り方だなと僕は感じていたのですが、そこに藤原さんという演劇の方がパッと入った瞬間がとても印象的で。抽象的な世界観でありながら、彼の言葉はとても現実的でクリアに響く。その正反対の要素が不思議と融合していて、あっという間に引き込まれました。これはおもしろくなると思っています。
宮尾さんは「“世界の終り”の影」を演じます。どのように役作りを進めていますか?
宮尾 ベースにはバレエがあるので、パを使うところもあります。ただ僕は、バレエ的な身体の使い方にとらわれない自由さをダンサーも持っていたほうがいいと考えていて。これまで出演したミュージカルで培ったものを活かしながら、その場で新たな動きを作ることに時間を費やしています。それがすごく苦しいけれど楽しいです。
影という役どころをどのように表現しようと考えていますか?
宮尾 あまり先に考えすぎないようにしています。影は濃くもなれば薄くもなるし、重さのあるものではない。じゃあまずは、それを体現してみようと。ウエイトを感じさせずに消えかけてしまう儚さと、明暗のコントラストがはっきりと浮き出るような強さの両方を探っているところです。身体の使い方が決まると台詞の在り方も決まってくると思うので、これからもっと試行錯誤していきます。
「“世界の終り”の影」という存在は視覚的には影ですが、原作を読むと生きた人間ではないかと感じると思います。主人公の分身のようであり、無意識の深層心理を表していて、自分の声をそばで聴いてくれるような存在。僕の踊りや芝居を通して、お客さまにも一人ひとりに寄り添う影がいること感じ取っていただけたら。

©Shoko Matsuhashi

ところで宮尾さんは、ダンサーの時と俳優の時とで意識の持ち方は変わりますか?
宮尾 技術や求められることに違いはあれど、表現するという点において変わりはないと感じています。どちらも他の人からどう見られるかを探求し磨いていく世界。バレエダンサーであれ、俳優であれ、最終的には「その人はどんな人か?」といった人間性で判断されます。素敵な方にだらしのない人はいません。だから僕も、一人の人間として見られているという意識をつねに持っています。
舞台や映像作品への出演を通して、バレエダンサーたちに必要だと感じることは?
宮尾 とてもシンプルに言うと、「バレエダンサーはもっとインプロビゼーション(即興)の訓練をしたほうがいい」と感じています。僕自身、何かを生み出すのにとても苦戦するんですよ。バレエ的な動きじゃないものをちょうだいと言われた場合などは、とくに。日ごろからやっていれば、こういった舞台の仕事が来た時に、無限に動きとアイディアを生み出すことができて、強みになる。できれば幼い頃から習慣にしてほしいなと思います。
具体的に、現場ではどういったオーダーが出されるのでしょうか?
宮尾 たとえば、「傾斜のある円形の舞台の上で、一角獣と影の二人の踊りを即興で見せて」という風に。その前はこういうシーンなので、自然につながるように作ってくださいとサラッと言われます。
このような時、僕はまず、動きの「形」か「意味」のどちらかを決めます。意味を持たせずに見せたい形から入ってもいいし、台本から意味を読み取って動きを作ってもいい。こちらが演出家や振付家に対して、どれだけクリエイティブな発信をできるかにかかっています。だから、即興の訓練をして引き出しをたくさん用意しておくことが重要なんです。
今シーズンよりK-BALLET TOKYO芸術監督に就任した宮尾さん。日ごろ、ダンサーのどんなところを見ていますか?
宮尾 全方位から見ています。大きく分けると、ダンサーとしての技術、取り組み方、舞台の結果の3つです。個性があって当然なので、どれもが平均的である必要はまったくありません。ただ、いちばん大切なのは舞台で結果を残すこと。どんなにふだんのリハーサルで誠実に取り組んでいても、本番で力を出し切れなければ通用しない世界です。我々は、その一瞬のために毎日稽古を積み重ねているわけですから。
あとは、生まれ持った資質に対して自分がどれだけ向き合っているか。やはりバレエダンサーは舞台に立つ仕事なので、身体条件がいいほうが当然有利に働きます。僕自身、14歳でバレエをはじめた時には、骨格ができあがりつつありました。だから幼い頃から練習してきた人の完璧なターン・アウトには敵わず、脚の形と向き合って使い方を研究することで克服してきました。どうやって努力で変えられる部分で補うか、自分の課題といかに向き合うか。ダンサーにとってはとても苦しい作業なのですが、役を掴むために絶対に向き合わなければならないものです。
2026年5月には宮尾さんが演出・再振付を手がける『パリの炎』が開幕します。作品を作る時のこだわりは?
宮尾 すべてにこだわっていますが、どこに注力するかは作品によって変わります。『パリの炎』では、人間の持つエネルギーとはいったい何なのかを伝えようとしています。この作品は、1932年に初演された当初からフランス革命が題材。一人ひとりの思いが集結して群衆となったときの力の大きさや、掲げていた正義が暴力へと形を変えて制御できなくなってしまう狂気を描いています。
最後に読者に向けてメッセージを。
宮尾 これだけいろいろなものが出尽くしている世の中ですが、この舞台『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』は今までに見たことのない公演になると思います。ジャンルにとらわれない、アバンギャルドな舞台をお届けします。どんな作品になっているか、ぜひ劇場でお確かめください!

©Shoko Matsuhashi

公演情報

舞台『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』

協⼒:新潮社・村上春樹事務所
企画制作:ホリプロ

国内ツアー公演

〈東京公演〉
2026年1⽉10⽇(⼟)~2⽉1⽇(⽇)
会場:東京芸術劇場プレイハウス
主催:ホリプロ
特別協賛:Sky株式会社
共催:東京芸術劇場(公益財団法⼈東京都歴史⽂化財団)
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〈宮城公演〉
2026年2⽉6⽇(⾦)〜8⽇(⽇)
会場:仙台銀⾏ホール イズミティ21
主催:仙台放送
共催:仙台市市⺠⽂化事業団
お問い合わせ:仙台放送事業部 022-268-2174(平⽇11:00〜16:00)
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〈愛知公演〉
2026年2⽉13⽇(⾦)〜15日(⽇)
会場:名古屋⽂理⼤学⽂化フォーラム(稲沢市⺠会館)⼤ホール
主催:メ〜テレ、メ〜テレ事業
共催:⼀般財団法⼈稲沢市⽂化振興財団
お問い合わせ:メ〜テレ事業 052-331-9966(平⽇10:00〜18:00)
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〈兵庫公演〉
2026年2⽉19⽇(⽊)〜23⽇(⽉祝)
会場:兵庫県⽴芸術⽂化センター 阪急 中ホール
主催:梅⽥芸術劇場/兵庫県、兵庫県⽴芸術⽂化センター
お問い合わせ:梅⽥芸術劇場 0570-077-039(10:00〜13:00、14:00〜18:00)
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〈福岡公演〉
2026年2⽉28⽇(⼟)〜3⽉1⽇(⽇)
会場:J:COM北九州芸術劇場 ⼤ホール
主催:インプレサリオ/RKB毎⽇放送
提携:北九州芸術劇場
お問い合わせ:インプレサリオ 092-600-9238(平⽇11:00〜15:00)
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海外公演

〈シンガポール公演〉
2026年4月
会場:エスプラネード・シアターズ・オン・ザ・ベイ

〈中国公演〉
2026年7月

〈イギリス公演〉
2026年10月
会場:バービカン・センター

〈フランス公演〉
2026年10月
会場:シャトレ劇場

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