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【特集・ドラマ「カンパニー」①】宮尾俊太郎（高野悠役）インタビュー〜この役との出会いは運命。高野ほど僕自身と重なる役はない

2021.01.02 阿部さや子　Sayako ABE

プレミアムドラマ「カンパニー〜逆転のスワン〜」より　孤高のバレエダンサー・高野悠役を演じる宮尾俊太郎

2021年、新しい年の始まりと共に、バレエファンにとってとても嬉しくて楽しみなテレビドラマがスタートする。

2021年1月10日（日）から、NHK BSプレミアム・BS4Kにて毎週日曜よる10時〜10時49分（全8回）放送となるプレミアムドラマ「カンパニー〜逆転のスワン〜」。
総務一筋で生きてきた中年サラリーマン、しかも“離婚の危機”と“左遷”という二重苦を背負ったひとりの男が、ある日突然それまでまったく無縁だったクラシック・バレエの世界に身を置くことを余儀なくされる。
そして「企業の論理」や「芸術」といった価値観の対立に直面しながらも、｢カンパニー｣=｢仲間｣の力で、存亡の危機に瀕した老舗バレエ団の再生を目指していくーーそんな涙と笑いの奮闘物語だという。

「これは“縁の下の力持ち”に光を当てるドラマです。世の中の99％の人は、表に立つ1%の人を輝かせるために汗を流している。そういった人々にエールを届けられるような作品にしたい」〈制作統括・樋口俊一氏（NHK）〉

「特別な力は何も持っていない男が奇跡を起こしていく、いままでになかったヒーロー像。そしてKバレエカンパニーの全面協力により、本格的なバレエを取り込んだドラマになっているところも大きな見どころ」〈プロデューサー・宮武由衣氏（TBSスパークル）〉

〈バレエチャンネル〉では全6回にわたり、このドラマの主要キャストや原作者へのインタビュー等を特別連載！
まずはドラマの中心人物のひとり、世界で活躍するスターダンサー・高野悠（はるか）役を演じる宮尾俊太郎さんのインタビューをお届けします。

宮尾俊太郎　©︎Shinji Masakawa

◆

宮尾俊太郎さんは海外のバレエ団のプリンシパルとして活躍するスターダンサー「高野悠（はるか）」を演じますね。この役を演じるなかで、新たに発見したことや感じていることはありますか？: 宮尾　その答えは、これから撮影がもう少し先まで進んだ時に見つかるのではないでしょうか（編集部注：取材は2020年12月6日に行われた）。ただ、台本の中に、「レッスン、パッション、カンパニー」という言葉があるんです。訳すと「努力、情熱、仲間」。この3つのうち2つの言葉が、僕のなかではピンときていませんでした。ひとつは「努力」。僕は、バレエとは持って生まれた才能が問われる世界であって、努力でどうにかなるものではないと思ってきました。もうひとつは「仲間」。バレエダンサーとは言うなれば個人プレイヤーであって、みんなで仲良く踊ったり練習したりするものではありませんから、この言葉も腑に落ちなかった。ところが、昨日（12月5日）Kバレエカンパニー『くるみ割り人形』の舞台を踊り終えた時に、やはりスタッフさんや後輩ダンサーたちの力があるからこそ僕は踊ることができるし、前に進むことができるのだと強く感じたのです。また僕は不器用なダンサーで、振り返ればずっと「お前はダメだ、ダメだ」と言われ続けてきました。しかし、不器用なりに努力し続けたことで、ここまで来ることができた。そう思い至った時、この「レッスン、パッション、カンパニー」という3つの言葉が、自分のなかでとてもしっくりきました。バレエとは孤独でシビアな世界だと思ってきたけれど、じつはすごくあたたかいし、情熱と努力と仲間がいれば、こんなところまでたどり着くことができるのだと。

©︎Shinji Masakawa

バレエダンサーが“バレエダンサー役”を演じることの難しさはありますか？: 宮尾　いえ、非常に演じやすいですよ。セリフにおいても動きにおいても、監督の「こう演出したい」という意思に対して、こちらからは「リアルだとこうですよ」というところを提供できますし。これまで、例えば医師役を演じた時には医師のことをかなり研究しなくてはいけませんでしたが、今回はそういった作業がまったく必要ない。役にスッと入っていくことができます。

本当に、まさに宮尾さんにぴったりの役なのですね。: 宮尾　ここまで自分自身とシチュエーションが重なる役というのは他にないと思います。何も考えなくても、いままで自分が感じてきたこと、そしてこれから感じるであろうことを悠と共有し、共に悩むことができる。本当に僕にとってリアルな役です。

役との、運命の出会いですね。: 宮尾　このタイミングでこの役に出会うなんて、まさに運命です。高野悠が最後に「これからの自分」を見つけるように、僕自身もクランクアップを迎えた時に、何かを見つけることができるのではないかと思っています。

プレミアムドラマ「カンパニー〜逆転のスワン〜」より

主人公・青柳誠一役の井ノ原快彦さんと共演してみての感想は？: 宮尾　「僕がこの人を嫌いになることは絶対にないだろうな」と思うくらい素敵で、良い方です。でも、それだけではありません。あるシーンで高野が青柳にポジティブな言葉をかけるところがあったのですが、その瞬間の演技に、井ノ原さんの人間的奥行きが見えたんです。きっと井ノ原さんには、まだ見せていない顔がたくさんある。何となく仕事をこなしてきただけの人には絶対に出せない深さというものが垣間見えた気がして、畏怖の念すら抱いています。

宮尾さんご自身も、舞台のみならずこうしたドラマや映画など映像での演技も素晴らしいと思うのですが、何か演技のためのトレーニングや研究はしているのでしょうか？: 宮尾　もちろん研究も練習も頑張っていますが、俳優という仕事は正解が見つけにくいのです。自分の表現したいものが、映像となりモニターで見た時に、はたしてベストなのかどうか。また、監督の意向をすぐに汲み取って芝居に落とし込むことも必要で、そういったところも非常に難しい。しかし今回、この高野悠という役だからこそ、深いところまで気持ちが入る感覚というものに気づき始めています。その役としての真の感情が自分の中に生まれると、呼吸も変わるし、鼓動も変わる。すると声も変わるし、行動も変わります。今後どのような人物を演じる場合にも、そこまでの状態に掘り下げていくことができるのかどうか。バレエ以上に、映像での演技は「自分の内面の世界」という感じがします。

プレミアムドラマ「カンパニー〜逆転のスワン〜」より

このドラマが描いているテーマのひとつに、〈芸術〉を〈ビジネス〉としていかに成立させるか、ということがあると思います。原作を読むと、高野悠もその両者のはざまで葛藤する場面が描かれていますが、宮尾さん自身は、芸術がビジネスとして成立するための肝は何だと思いますか？: 宮尾　それは深い質問ですね。日本においては、やはり「教育」というところから考える必要があるのではないでしょうか。子どもたちに、幼い頃から上質な舞台や美しい劇場空間を体験させていくこと。本質的には、その延長上にしか答えはないように思います。そのいっぽうで僕自身もバレエを盛り上げていくために、自分なりにできることは何かを常に模索しながら、ドラマ、映画、ミュージカルなど多方面で挑戦してきました。いま、僕をきっかけにKバレエの公演を観るようになったと言ってくださるファンの方や、「子どもの頃にテレビで宮尾さんを見て憧れていました」と言ってくれる後輩たちに出会うたび、この素晴らしい芸術のために多少なりとも貢献できたことを嬉しく思います。

熊川哲也さんはバレエを志す子どもたちにとって大きな大きな夢であり続けた人ですが、宮尾さんもまた違うかたちで、バレエから広がる可能性を示していますね。: 宮尾　バレエダンサーが現役でいられる寿命はどうしても短い。そうした現実があるなかで、バレエをやってきたからこそいろいろな世界で表現できるのだということを身をもって提示していきたいですし、僕がそんな道標（みちしるべ）のような存在になれたらという思いはあります。

©︎Shinji Masakawa

冒頭で昨日（12月5日）踊った『くるみ割り人形』のお話がありました。宮尾さんにとっては、Kバレエカンパニーで踊り続けたキャリアにおいてひとつの区切りとなった公演でしたが、あの舞台に立っていた時、そしてカーテンコールで喝采を浴びていた時、どのようなお気持ちでしたか。: 宮尾　僕が感慨のようなものを味わったのは、カーテンコールの最後に跪（ひざまず）き、客席に向かってお辞儀をした、あの一瞬だけですね。目を閉じて、真っ暗な中で拍手の音だけを感じた瞬間に、時が止まったかのような感覚を覚えました。でも、本当にその一瞬だけです。その後は不思議と、何かが終わったのではなく、これからも続いていくのだというふうに感じました。

そうした感覚も、どこか高野悠という役と重なりそうですね……？！最後にあらためて、今回のドラマにかける意気込みを聞かせてください。: 宮尾　これはKバレエカンパニーが舞台セット、衣裳、そして新演出版『白鳥の湖』に至るまで全面協力しているという、いまだかつてないドラマです。そして悠はもちろん、井ノ原さん演じる青柳誠一、黒木瞳さん演じる敷島瑞穂、倉科カナさん演じる瀬川由衣、小林美奈演じる有明紗良……等々、様々な人物のそれぞれのドラマが、どんどん動いていく。それらが最後にどのような結末を迎えるのか？僕もこの高野悠という役に、「燃え尽きてもいい！」というくらいの覚悟で臨みます。ぜひご覧ください。

©︎Shinji Masakawa

宮尾俊太郎　Shuntaro Miyao: 北海道生まれ。14歳よりバレエを始める。2001年フランスカンヌ･ロゼラハイタワーに留学。在学中にカンヌ･ジュ･ヌ･バレエのツアーに参加。2004年Kバレエカンパニーに入団。2015年12月プリンシパルに昇格。2020年9月より同カンパニーのゲストアーティストに就任。