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【インタビュー】咲妃みゆ「クワイエットルームにようこそ The Musical」~松尾スズキさんの舞台は、心の奥を刺激する

若松 圭子 Keiko WAKAMATSU

©はぎひさこ

劇団「大人計画」の主宰であり、作家・演出家・俳優の松尾スズキが手掛ける『クワイエットルームにようこそ The Musical』が、2026年1月12日に開幕。東京公演を皮切りに、京都、岡山を回ります。
原作は2005年に松尾が執筆した同名小説。精神病院の閉鎖病棟を舞台に、精神的な問題を抱えた人々の日々をリアルに描いた物語で、2007年には内田有紀主演で映画化されました。
今回は音楽に宮川彬良、振付にCHAiroiPLINのスズキ拓朗を迎え、ミュージカル版として新制作。咲妃みゆ、松下優也、昆夏美、桜井玲香らミュージカル界で活躍するメンバーに加え、松尾スズキ作品ではおなじみの個性的な俳優たちが顔を揃えます。映画版でも強い印象を残したりょう(看護師・江口役)の出演も見どころのひとつです。

主人公のフリーライター・佐倉明日香を演じる、咲妃みゆ(さきひ・みゆ)さんにインタビュー。松尾スズキ作品の出演をかねてから望んでいたという咲妃さんに、松尾作品の魅力のほか、演技への取り組みについてなど聞きました。

咲妃みゆ Miyu Sakihi
1991年生まれ、宮崎県出身。2010年宝塚歌劇団に入団、2014年に雪組トップ娘役に就任。2017年の退団後はミュージカル、演劇、映画、ドラマなどで活躍。おもな出演作品に、舞台「ゴースト」「千と千尋の神隠し」「マチルダ」「少女都市からの呼び声」「カム フロム アウェイ」「ケイン&アベル」、ドラマ「波うららかに、めおと日和」、映画「やがて海になる」などがある。2021年第46回菊田一夫演技賞、2024年第31回読売大賞受賞。2026年5月よりミュージカル「レッドブック~私は私を語るひと~」への出演が決定している ©はぎひさこ

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今回の出演が決まった時の思いは?
咲妃 原作・脚本・演出の松尾スズキさんから、ミュージカル版は、映画とも違う構成になると伺っていたのでとても楽しみでした。今回、佐倉明日香役を演じさせていただきますが、こんなに長く舞台上にいる経験は初めてです。いち俳優として、これほどやりがいを感じる作品に出会えることを幸せに思う反面、「これは頑張らんといかんなあ」と感じています(笑)。
見どころだと思うポイントを教えてください。
咲妃 ひとつはスピーディな展開。病院から明日香の家へ、さらには妄想の世界へピュン!と飛んで……とシーンが目まぐるしく変わります。ミュージカルなので、楽曲にも注目していただきたいですね。松尾さんならではの言葉遊びがふんだんに盛り込まれていて、歌詞を読むだけでも面白いです。ダンスは、街頭や病棟など、あちこちの場面で繰り広げられます。松尾さんの舞台ですから、単なるダンスじゃ終わりません。振付を担当されるスズキ拓朗さんとは今回初めてご一緒します。物語をより一層深めてくださっているので、拓朗さんのニュアンスを体現できたら。
そして、私はこの作品を群像劇のようでもあると感じています。一人ひとりが色鮮やかに輝ける物語で、台本にたっぷり込められた松尾さんの愛情がすべての登場人物から感じられます。私も佐倉明日香としての輝きを放てるようにお稽古に励みます。
咲妃さんは佐倉明日香をどのような人物だと思いますか。
咲妃 明日香は冒頭から幕が下りるまでの間、ずっとせわしなく心が動き続けています。仕事でも私生活でも、つねに何かに追い立てられている彼女の生き方は決して他人事ではないなと思います。私は何をするにも、時間をかけてギリギリまでこだわってしまうので、追いたてられた時の彼女の気持ちにも共感できる部分があります。

©はぎひさこ

咲妃さんは、以前から松尾スズキさんの演出作品のファンだったと聞いています。松尾さんの作品のどこに魅力を感じますか。
咲妃 世界観はもちろん、客席で拝見しながらいちばん素敵だと思うのは、私たちの日常にもありそうなほんのちょっとした人間模様までも演劇として魅力的に描かれるところ。舞台を彩る俳優のみなさんのお芝居も本当に素敵で、この人たちは確かにここで生きている、と感じさせられます。松尾さんは、登場人物を誰一人として置いてけぼりにしないんですよ。現実世界でも、私たちはそれぞれの人生を懸命に生きていますよね。松尾さんは思いも寄らない着眼点で、心の奥深くの感情を刺激してくれる。そのたびにゾクゾクしてしまいます。
松尾スズキ作品を一言で表現すると?
咲妃 “ジャパニーズ・ブラック・コメディ”の頂点だと思います。観る側には、練りに練られた構成を感じさせない、だから手放しで楽しめて元気になれるんです。今度は自分がお届けする側に立つのだと思うとドキドキしてきますね。お稽古場ではうんと頭を悩ますことになると思いますが、もし壁に直面したとしても、それ自体を楽しむ覚悟で取り組みたい。「私、生きてるな」と実感できる、そんな稽古期間になりそうな予感がします。
明日香はストレスに飲み込まれてしまう役どころですが、咲妃さんはストレスやプレッシャーを感じた時どうしていますか。
咲妃 ひとりでは打ち勝てないので、周りに頼りながら乗り越えます。信頼する方々には、いまの自分がどういう状態なのかを、包み隠さずお話しするようにしています。ちゃんと言葉にすることで、心も整理されますし。
気分転換のためにすることは?
咲妃 ドライブが好きなので、思い切って車を走らせます。あと、羽田空港の展望デッキで飛行機を眺めているとスッキリします。好きなんです、空港が。目的を持つ人たちが行き来して、常に空気が循環している場所。そこに身を置くと、呼吸がしやすくなるんですよ。

©はぎひさこ

小さい頃からミュージカルの舞台に立つのが夢だったそうですね。咲妃さんにとってミュージカルの魅力とは?
咲妃 お芝居も歌もダンスも一気に楽しめるところ。そして現実とは別の世界にいざなってくれるのが、ミュージカルの素敵なところだと思います。
小学生ぐらいからクラシック・バレエを習っていたと聞きました。バレエは好きでしたか。
咲妃 私は、何においても習得に時間がかかるので、何度やっても上手くできないと自信をなくしてしまうんです。「失敗したらどうしよう」と思いながらピルエットを回って、やっぱり上手に回れなくて。そこで「悔しい!やるぞ!」と燃える人もいますけれど、私は「ああ、やっぱりできなかった……(がっくり)」って(笑)。でも発表会は好きでした。客席で家族が見守る中で、頑張ってきた成果を披露する瞬間、何かのスイッチが入るんです。「レッスンの時とは顔つきが違うね」とよく言われました。

「閉鎖病棟にいる明日香のイメージで」とお願いしたところ、即興で演じてくれました ©はぎひさこ

細やかで誠実な演技をする咲妃さんが、俳優として日ごろから意識していることや、大事にしていることは何ですか?
咲妃 反対に、私から伺ってもいいですか? たくさんの舞台を観ていらっしゃると思いますが、どういう俳優さんにいちばん惹かれますか?
例えばその役がフォーカスされていない場面で、とくに何をするでもなく、リアルに存在している方に注目してしまいます。
咲妃 私も同じです! 目が行ってしまいますよね。役として存在しつつ、いかに自由に心を動かすか。それを考えるのはとても楽しいし、演じがいがあります。
先ほどの質問へのお返事ですけれど、私が演じる時に一番大切にしているのは「呼吸し続けること」です。お芝居をしていると、どうしても観られているという意識が働いて、自然な呼吸がしづらくなる瞬間があるのですが、そこで普段と同じ呼吸を取り戻せるかが、地に足のついた演技に繋がると思っています。
先ほどのスチール撮影では、咲妃みゆとしてだけではなく、佐倉明日香としてもカメラに向かってもらいました。役作りをする時にはどこから取り組むのでしょう?
咲妃 (考え込み)すごく細かい話になるんですけれど、いいですか? 台本が手元に届いたら全体を何度も黙読します。自分のセリフ以外――会話の相手の言葉にこそ、役作りのヒントがいっぱい隠されているから。セリフを覚える時も、とにかく無感情に文字だけを頭に入れて、自分の中に余白を残した状態でお稽古に入ります。そうすると、相手のセリフをまっさらな気持ちで受け止め、その瞬間に生きた反応を投げ返すことができる。時には予想外のアプローチを受けることもあって、「おっ!そうきたか!」と嬉しくなったり。イメージを定めすぎずに、みんなで模索していく創作時間が、私は本当に大好きなんです。
その作り方はどこで身に付けたのですか。
咲妃 今までに受けさせていただいた演劇のワークショップの中で、作品に向き合う上でやるべきことを、細かく提示してくださる演出家さん(英国人演出家のジョナサン・マンビィ氏)がいらっしゃったんです。その方のメソッドに感銘を受けました。これからも演技の基盤にしていきたいと思っています。
最後に、公演を楽しみにしているファンのみなさんに一言お願いします。
咲妃 今回の公演は、ミュージカルを多く鑑賞される方だけでなく、演劇ファンやダンス好きな方にも、お楽しみいただける作品だと思います。盛りだくさんのエンターテインメントを、肩の力を抜いてご覧いただけたら嬉しいです。

©はぎひさこ

ヘアメイク:千葉万理子
スタイリスト:國本幸江

咲妃みゆオフィシャルサイト https://sakihimiyu.com/

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公演情報

COCOON PRODUCTION 2026
「クワイエットルームにようこそ The Musical」

あらすじ
バツイチで28歳のフリーライター・佐倉明日香は、パートナーでバラエティー番組の放送作家、鉄雄と同居中。売れっ子ライターの明日香は取材や原稿の締切に追われ、ストレスフルな日常に飲み込まれていく。
ある日、目覚めると見知らぬ白い部屋にいた。そこは「クワイエットルーム」と呼ばれる女子専用の精神科病院の閉鎖病棟。ストレスの捌け口として大量摂取した睡眠薬が原因で意識を失い、オーバードーズをした自殺志願者とされてしまったのだ。突如として放り込まれた異質な環境に戸惑いながらも、退院に向けて、閉鎖病棟の個性的な患者たちとの日々が始まる。日常から離れた環境に馴染んでいくにつれ、明日香は自分自身とその人生、鉄雄との関係について見つめ直し始める。

東京公演
【日程】1月12日(月・祝)~2月1日(日)
【会場】THEATER MILANO-Za(東急歌舞伎町タワー6階)

京都公演
【日程】2月7日(土)~2月11日(水・祝)
【会場】ロームシアター京都 メインホール

岡山公演
【日程】2月22日(日)・23日(月・祝)
【会場】岡山芸術創造劇場 ハレノワ 大劇場

【出演】
咲妃みゆ、松下優也、昆 夏美、皆川猿時、桜井玲香、池津祥子、宍戸美和公、近藤公園、笠松はる、りょう、秋山菜津子
ほか
<ミュージシャン>
吉田 能、熊谷太輔、中條日菜子、福岡丈明、藤野“デジ”俊雄、山下綾香

【スタッフ】
作・演出:松尾スズキ
音楽:宮川彬良
振付:スズキ拓朗

◆公式サイトはこちら

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