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【レポート】東宝・舞台「千と千尋の神隠し」2024年国内ツアー&ロンドン公演製作発表~橋本環奈の「大丈夫だよ!」はチーム千尋のパワーワード

若松 圭子 Keiko WAKAMATSU

左は2024年全国ツアー、右はロンドン公演のポスターヴィジュアル

宮﨑駿の不朽の名作アニメ『千と千尋の神隠し』が、英国ロイヤル・シェイクスピア・シアター名誉アソシエイト・ディレクター、ジョン・ケアード翻案・演出により、舞台版として世界初演の幕を開けたのは2022年。360度回転する巨大な油屋(あぶらや)の舞台セットの上で生き生きと駆け回る個性豊かな登場人物たち、アニメから飛び出してきたような愛らしい八百万(やおよろず)の神々らが織りなす世界は評判となり、第47回菊田一夫演劇大賞を受賞しました。
その舞台『千と千尋の神隠し』20243月、帝国劇場でふたたび上演されます。今回は東京公演を皮切りに愛知、福岡、大阪、北海道の国内ツアー、さらにイギリスのロンドン・コロシアムで、約4ヵ月間にわたる初の海外公演も決定しています。

229日、東京で実施した製作発表では、開演を目前に控えた出演者やスタッフが意気込みを語りました。

スタッフ・出演者コメント

この日はヒロインの千尋役を演じる4人を始め、ハク、カオナシ、湯婆婆、釜爺など主なキャストをつとめる俳優たちが集結。笑いの絶えないアットホームな会見となりました。

前列左から:松岡宏泰、今井麻緒子、ジョン・ケアード、夏木マリ、川栄李奈、橋本環奈、上白石萌音、福地桃子、羽野晶紀、春風ひとみ、イアン・ギリー/後列左から:山野光、中川賢、小㞍健太、増子敦貴、三浦宏規、醍醐虎汰朗、妃海風、華優希、実咲凛音、田口トモロヲ、宮崎吐夢 ©Ballet Channel

まずは主催である東宝株式会社代表取締役社長、松岡宏泰が「宮﨑駿監督が手がけられたスタジオジブリの映画『千と千尋の神隠し』は、奇跡のような作品だと思っています」とコメント。その“奇跡の作品”を舞台で再現するのは最初は無謀だと思われたが、新型コロナの影響で厳しい状況をキャスト・スタッフ一丸となって乗り越えて初日を迎えた。「舞台版も、奇跡のような作品なのではないかと思う」と語りました。

ロンドン公演の共同プロデューサー、PWプロダクションズ最高経営責任者のイアン・ギリーは、2年前にロンドンでケア―ドから作品の話を聞き、札幌公演を鑑賞して、ロンドン公演を即決したと語りました。売れ行きも順調で、ロンドンっ子はもちろん、英国の劇場関係者の間でも期待が高まっているとのこと。

翻案・演出のジョン・ケアードは、今回、初めて日本で製作したオリジナル作品を世界に送り出せることが嬉しいと述べました。「宮﨑駿さんはアニメーターであり、素晴らしい物語の語り部でもある。それと同時に日本の文化を正確に伝えることをしている。この作品をロンドンで上演することで、日本の文化をイギリスの観客と分かち合えるのが楽しみ」。才能豊かな表現者のキャストたちと一緒に作品を創る機会を与えてもらえて感謝していると締めくくりました。

右から:ジョン・ケアード、今井麻緒子 ©Ballet Channel

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続いて出演者たちが1人ずつ今回の公演についての思いを述べました。

千尋役:橋本環奈/上白石萌音/川栄李奈/福地桃子

左から:橋本環奈、上白石萌音 ©Ballet Channel

初演から千尋役を演じている橋本環奈は初めての舞台出演だった当時を振り返り、「一言では語れないほどの思い出がある。私にとってかけがえのない作品」とコメント。「ジョンの演出も毎日違って、どんどん進化し続ける瞬間に立ち会えていることが幸せ。早くお客様に見ていただきたい。どれだけ期待していただいてもそれを裏切らない作品になっていると思います」(橋本)

橋本とともに千尋役を連投する上白石萌音。「千尋は今日ここにいる4人と、アンダースタディの森莉那(もり・まりな)ちゃんの5人で作っています。キャストも増えて、頼もしいスウィングキャストさんも加わって、この世界がより豊かに自由になっているのを日々肌で感じます。私も毎日新鮮な気持ちで、柔らかく、誠実に千尋として生きたいと思っています」(上白石)

左から:川栄李奈、福地桃子 ©Ballet Channel

「初演の時に萌音ちゃんの千尋を帝国劇場で観させてもらって、幕が開いた瞬間に「本物の千尋がいる」と鳥肌が立った」と語ったのは、オーディションで今回から千尋役に挑む川栄李奈。「私たち新キャストを温かく優しく迎えてくださるこのカンパニーのみなさんに感謝しながら、一生懸命千尋役を務めたい」(川栄)

川栄とともに初の千尋役となる福地桃子は「稽古場に行くと大きな生き物から小さな生き物までいて可愛くて(笑)。匂いだったり、音だったり、いろいろなところから、自分の体が感動する体験をさせていただけていてとても楽しいです」(福地)

ハク役:醍醐虎汰朗/三浦宏規/増子敦貴(GENIC)

左から:醍醐虎汰朗、三浦宏規、増子敦貴 ©Ballet Channel

「ハク役として、千尋役のみなさんの小さくて大きい背中を間近で見れることを誇りに思っています。今回も胸を張って、精一杯務めていきたいです」(醍醐)

「僕は舞台を始めた頃から日本のオリジナル作品を海外に持っていくという夢がありました。それをこの作品で実現できることに喜びを感じています」(三浦)

「僕、年男でして(ハクの真の姿である白竜と同じ)辰。宮﨑駿さんとも同じ誕生日。ハク役に選んでいただけたことにも少し運命を感じます。昇り龍のように頑張ります」(増子)

カオナシ役:森山開次(※会見欠席)/小㞍健太/山野光/中川賢

左から:小㞍健太、山野光、中川賢 ©Ballet Channel

「普段はバレエやコンテンポラリー・ダンスを踊っています。カオナシは、人の心を持ちながらも人ではない役。カオナシのチーム4人みんなで話し合い、工夫しながら作っています。怖い存在だけでなく、ちょっとチャーミングな面なども見ていただけたら嬉しいですね」(小㞍)

「初演はアンサンブルとして参加、昨年の御園座公演からカオナシを演じさせていただくことになりました。千尋にとってのカオナシの存在を考えながら、キャスト、アンサンブル全員で作る中のカオナシという1つのピースを、誠心誠意演じて行けたらと思っています」(山野)

「稽古場のみなさんの演技からは、映画のイメージとはまったく違う人間性や愛を感じることがたくさんありました。その世界を行ったり来たりしてるうちに、僕はどんどん舞台『千と千尋の神隠し』の世界に入り込んでいきました。今度は僕からお客様へ届けたいです」(中川)

リン・千尋の母役:妃海風/華優希/実咲凜音

5左から:妃海風、華優希、実咲凛音 ©Ballet Channel

「リンとしてまた油屋に再就職させていただくことになりました。お稽古を重ねていく中で、この作品とみなさんへの愛とリスペクトが日に日に増して、お家に帰っても興奮がおさまりません。この興奮を情熱に変えて、舞台で爆発させたいと思います」(妃海)

「去年の御園座公演から参加させていただいています。素晴らしいキャストのみなさんと一緒に『千と千尋の神隠し』の素晴らしい世界に生きて、心を込めて、世界のみなさまにお届けしたいと思います」(華)

「今回新しく油屋で働かせていただくことになりました。お稽古のスピードも速く、覚えることがたくさんでしたが、作品への愛が溢れているお稽古場でした。自分にしか出せない味のあるリン、千尋のお母さんを演じられるよう頑張ります」(実咲)

釜爺役:田口トモロヲ/橋本さとし(※会見欠席)/宮崎吐夢

左から:田口トモロヲ、宮崎吐夢 ©Ballet Channel

「初演の時には、こんな国際的なロングラン公演になるとは夢にも思ってなかったので光栄です。演出のジョンと演出捕の麻緒子さん、チーム釜爺をはじめ、『千と千尋』のメンバーには本当に感謝したい。本番の舞台を楽しみたいと思います」(田口)

「私は東宝さんの製作する舞台に出演させていただくのも、ダブルキャストも初めてです。帝国劇場の舞台に立つのも初めて、ロンドン公演も初めて。初めてづくしです。なので、初々しい“もぎたての釜爺”をお届けできたらと思っております」(宮崎)

湯婆婆・銭婆役:夏木マリ/朴璐美(※会見欠席)/羽野晶紀/春風ひとみ

左から:夏木マリ、羽野晶紀、春風ひとみ ©Ballet Channel

「映画の声の出演から数えると、同じ役を演じ続けて20数年になります。湯婆婆も銭婆も愛おしいので、もうちょっとだけ、やらせていただきたいなと。このあいだ小㞍さんが「お稽古は渋谷のスクランブル交差点でやっているみたいだ」とおっしゃっていましたが、今回はそれくらい従業員(キャスト数)が増えました。皆でしっかり働きます」(夏木)

「湯婆婆、銭婆の素敵なセリフの中に「魔法で作ったんじゃ何にもならないからね」というのがあります。夢のようなお話をみなさんにお届けしていますが、スタッフさんも、役者さんも手探りで作っています。魔法で作ることのできない奇跡を、ぜひ劇場でご覧ください」(羽野)

「作品を客席から観るたびに「ああ、演劇の原点がここにある」と感じていました。みんなで創る。寄ってたかって創る(笑)、これこそ演劇だと思っています。その作品で湯婆婆と銭婆役をさせていただける。感謝しかありません。従業員をこよなく愛し、時にはハチャメチャになる湯婆婆を、全力でお届けしたいと思います」(春風)

質疑応答(一部掲載)

後半には質疑応答が行われ、キャスト・スタッフが各メディアからの質問に答えました。

ジョン・ケアードさん、舞台『千と千尋の神隠し』を舞台化するにあたって原作のどの部分を大切にしましたか? ロンドンではどのように愛される作品になるとお考えでしょうか?
ケアード 宮﨑さんの作品のポイントは、「いい人と悪い人が描き分けられていない」ことだと思っています。彼の作品の登場人物は誰もが、ヒロインやヒーローでさえいい面と悪い面を持っていますが、それは現実の人間の世界も同じだからなのではないでしょうか。複雑でニュアンス的なものに満ちている世界のそうした部分を理解してもらうためにも、物語は明確に伝えたいと考えています。
夏木マリさんは、2009年に公開した映画に湯婆婆、銭婆の声で出演し、舞台『千と千尋の神隠し』でも初演から同じ役を演じ続けていますが、当時、舞台版を演じるうえでの新たな発見はありましたか?
夏木 舞台の上では声だけでなく、身体も湯婆婆、銭婆として成立していないといけません。身体も使って動いてみると映画とはまったく違うものになることもあるんです。過去の演技を一旦忘れて、同じ役を新しく作っていく作業はいつも以上に大変でしたが、初演の稽古場でジョンが「みなさん、けっしてモノマネはしないでください」と言ってくれた時、やっと何かがストンと落ちたような気がしました。

夏木マリ ©Ballet Channel

4人の千尋による囲み取材

最後は千尋役の4人による囲み取材が行われました。
初演からカンパニーを率いてきた橋本環奈と上白石萌音、今回初参加の川栄李奈と福地桃子が再登壇し、稽古場での思い出やお互いの印象を語りました。

千尋役も俳優によって四人四様。橋本は「直感的な千尋」、上白石は「周りをよく見て感じ取る千尋」、川栄は「せっかちな千尋」、福地は「のんびり千尋」と互いを分析! ©Ballet Channel

新しく加わった二人の千尋の印象を聞かれ、橋本は川栄の千尋を「素朴なんだけど周りに突き動かされて進んでいく姿を、めちゃくちゃ応援したくなる」と分析すると、上白石も「分かる!」と即答。本作は細かいきっかけが多く、出ずっぱりの千尋の段取りの数は膨大。音きっかけの確認もままならないまま立ち稽古に挑む川栄を見て、橋本は思わず「カッコいい……」と呟いてしまったそう。福地の千尋については「子どもながらにいっぱい考えてるし、何もわかってないようですごく敏感に察知してたりする。その繊細さが、めちゃくちゃダイレクトに伝わってくる。負の感情を表現する場面も素敵」と語りました。川栄が「桃ちゃん(福地)は稽古場でミスした時のあたふたしたリアクションが千尋そのもの」と言うと一同が大きく頷きました。「どんなに疲れていても、桃ちゃんが一瞬で癒してくれる」のだそう。

©Ballet Channel

先輩二人が演じる千尋について聞かれ、川栄は「環奈ちゃんは明るく無邪気に千尋を演じています。本当に華やかで見ていて心が躍る。萌音ちゃんの千尋は最初から芯の強さが見えていて、萌音ちゃんらしい真面目に一生懸命生きる10歳の女の子を表現しています。月と太陽ぐらい性格の違う二人がひとつになって同じ作品を作っていくようすを間近で見る貴重な経験。勉強させてもらっています」と語りました。舞台上だけでなく舞台裏でも「千尋はずっと走っている」そうで、運動量も相当。福地は、早着替えのコツや細かなタイミングなどの技術面を、二人から丁寧に教えてもらった時のことを振り返り、「経験している人にしか分からない極意を聞ける時間はありがたかった」と回想しました。

©Ballet Channel

稽古場では全員で顔を合わせる機会がなかったとのことですが、そうとは思えないほど仲の良い「チーム千尋」。
「萌音ちゃんはいつも自分が演じている姿を背中で見せて学ばせてくれた。環奈ちゃんは『大丈夫だよ。出来る出来る!』と明るく励ましてくれる。この二人に私と桃ちゃん、アンダースタディの莉那ちゃんは本当に助けられました」と川栄が語ると、福地もおおきく頷きました。橋本は初めて稽古場で会った時から、二人の悩みをひたすら聞いてくれたのだそう。それを聞いた橋本は「大丈夫だよ!」を連発。すかさず上白石が「私もこれで励まされて初演を乗り切りました。環奈の『大丈夫』は効きます!」と太鼓判を押し、会場は拍手と笑いに溢れました。

公演情報

舞台『千と千尋の神隠し』

日程・会場
2024年3月11日(月)~3月30日(土)【東京】帝国劇場
2024年4月30日(火)~8月24日(土)【ロンドン】ロンドン・コロシアム
2024年4月7日(日)~4月20日(土)【愛知】御園座
2024年4月27日(土)~5月19日(日)【福岡】博多座
2024年5月27日(月)~6月6日(木)【大阪】梅田芸術劇場メインホール
2024年6月15日(土)~6月20日(木)【北海道】札幌文化芸術劇場 hitaru

【スタッフ】
原作:宮﨑駿
翻案・演出:ジョン・ケアード
共同翻案・演出補佐:今井麻緒子
オリジナルスコア:久石譲
音楽スーパーヴァイザー・オーケストレーション・編曲:ブラッド・ハーク
音楽スーパーヴァイザー補・オーケストレーション・Abletonプログラミング:コナー・キーラン
美術:ジョン・ボウザー
パペットデザイン・ディレクション:トビー・オリエ
振付・ステージング:井出茂太
協力:スタジオジブリ
製作:東宝株式会社

【キャスト】
千尋:橋本環奈/上白石萌音/川栄李奈/福地桃子
ハク:醍醐虎汰朗/三浦宏規/増子敦貴(GENIC)
カオナシ:森山開次/小㞍健太/山野光/中川賢
リン・千尋の母:妃海風/華優希/実咲凛音
釜爺:田口トモロヲ/橋本さとし/宮崎吐夢
湯婆婆・銭婆:夏木マリ/朴璐美/羽野晶紀/春風ひとみ

兄役・千尋の父:大澄賢也/堀部圭亮
父役:吉村直/伊藤俊彦
青蛙:おばたのお兄さん/元木聖也
頭:五十嵐結也/奥山ばらば
坊:武者真由/坂口杏奈

公式HP
◉日本公演 
https://www.tohostage.com/spirited_away/
ロンドン公演 https://www.spiritedawayuk.com/

 

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