©️Shoko Matsuhashi ※写真撮影時のみマスクを外しています
スタジオジブリのアニメーション『千と千尋の神隠し』(監督:宮﨑駿/2001年公開)の舞台演劇版(演出:ジョン・ケア―ド)が、2022年3月から帝国劇場を皮切りに全国で上演される。
不思議な世界に迷い込んだ少女・千尋(ちひろ/橋本環奈・上白石萌音のWキャスト)は生きるために湯婆婆(ゆばあば/夏木マリ、朴璐美のWキャスト)が営む湯屋「油屋(あぶらや)」で働くことになる。そこで千尋の世話係を引き受けるのが、アネゴ肌のリン(咲妃みゆ・妃海風のWキャスト)。登場人物の中でも人気の高いキャラクターのひとりだ。
今回の舞台でリン役を演じる妃海風(ひなみ・ふう)に、役柄のこと、作品のこと、そして「小学2年生から習った」というバレエのことなどについて話を聞いた。
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- 映画『千と千尋の神隠し』について、思い出はありますか?
- 妃海 初めて観たのは小学生の時。家族で映画館に行きました。橋本環奈さんや上白石萌音さんも製作発表会見で同じことをおっしゃってましたが、覚えているのは「なんだか怖かった」ということ! 将来その作品を舞台で演じることになるなんて、もちろん思ってもみませんでした。
- リン役はオーディションで選ばれたと聞きました。
- 妃海 映画『千と千尋の神隠し』のリンは10代の設定ですが、大人の私でも憧れる存在。演じられることがとても嬉しいです。その反面、ジブリファンの方にも人気のキャラクターなので、みなさんの期待度も高いはず。「もっと勉強しないと!」と感じているところです。
- 妃海さんがリン役と聞いた瞬間、すぐに衣裳を着て動いている姿がパッと目に浮かびました。
- 妃海 キャスト発表があってから、いろいろな人に言われるんですよ。宝塚の後輩からも「妃海さんのイメージにピッタリの役ですね!」って。自覚はないんですけれど(笑)。
左から:リン、千尋、湯婆婆 © 2001 Studio Ghibli・NDDTM
- リンは憧れの存在とのことですが、とくに好きなところは?
- 妃海 私が憧れるのは、彼女の“抜け感”です。ただ“後輩思いで熱いお姉さん”というだけではなくて、ゆとりがあるんですよね。だから千尋はリンといると心地良いのだと思います。千尋にとっては湯屋の中で唯一、自分を助けてくれるお姉さん的存在でもありますし。
- 『千と千尋の神隠し』のなかで、妃海さんがその“抜け感”を最も強く感じる場面はどこですか?
- 妃海 月明かりの下で、リンが千尋とふたりで足を放り出して、あんまんを食べているシーンがあるんですね。私はそこがすごく好きです。
雑魚部屋の縁側で饅頭を食べる千尋とリン © 2001 Studio Ghibli・NDDTM
- 妃海 この場面では、リンと千尋はお互いに同等の感覚を持っているように私には思えます。リンはただの年上のお姉さんではなく、ただのお世話係でもない。寝ころびながら、千尋と同じ空気を感じているのが伝わってくるんです。私がもしリンの立場だったら、千尋の背中を見つめながら「この子のために、私にできることは何だろう。何をしてあげたらいいんだろう」って、ものすごく考え込むと思います。横になってぼうっとする、なんてきっとできない。リンはそこを楽観的に考えながら「まあ、なんとかなるでしょ」って見守っているように感じます。それが物語の後半、千尋が初めて自分の意志で立ち上がる場面へと繋がるのではないでしょうか。
- 千尋が傷ついたハクを助けるために、銭婆(ぜにーば)のところへ魔女の契約印を返しに行くシーンですね?
- 妃海 もしも千尋がリンになにもかも面倒を見てもらっていたら、そんなふうに自分で行動を起こせなかっただろうと思うんです。だからリンの“抜け感”をどう演じるかは、私にとっていちばんやりがいのあるところだと思います。私が作り上げたいリンは“抜け感”がありつつも「指針はこっちだよ」って千尋に言えるような、芯のある女性像。あの夜の場面は、そんなリンらしさがたくさん詰まっているような気がします。
- 舞台版でもぜひ観たいシーンですね!
- 妃海 私は、アニメーションで描かれているリンの背中も好きなんです。すごく綺麗なんですよ。彼女は女性の姿かたちをしていますが、「湯屋」には千尋以外に人間はいないという設定なんです。だから人間なのかな、女性なのかな、それとも……?! って。ミステリアスで魅力的なキャラクターですよね。あの月明かりのシーンを舞台で演じられることを楽しみに、今から背中を鍛えておきたいと思っています(笑)。
©️Shoko Matsuhashi
- 今回、妃海さんはリン役と千尋の母役の二役を演じますね。
- 妃海 合格したあとで二役だと聞きました。嬉しかったです。「お母さん役もできるんだ!」って。
- 千尋への接し方が対照的な役を一人が演じ分けるというのも、面白い試みですね。
- 妃海 千尋の母も演じられることでいちばん嬉しいのは……じつは「幕開きのシーンに出られる!」っていうことなんです。私は幕が開く直前の高揚感とか、お客さんから伝わってくるドキドキ感とか、静けさのなかで待機して、スタート! っていう、あの空気感が大好きで。千尋の父役の大澄賢也さんも、橋本環奈さん、上白石萌音さん演じる千尋もきっと一緒にスタンバイして、初日はきっとドキドキドキドキしながら、みんなで幕が開くのを待つんだろうな、なんて勝手に想像しています。でもオープニングが原作と違ったら、幕開きに千尋の母は登場しない……かもしれません(笑)。
- 今回の舞台への意気込みを聞かせてください。
- 妃海 とても楽しみにしているのは、アニメーションの世界が、人の想像力によって形になることです。俳優、ダンサー、パペットを扱う方など、様々な力が集まって、現実のものとして創り上げる。その一員になれて嬉しいですし、きっと不可能なものはない! と感じます。ぜひ、夢のような現実の世界を観にいらしてください!
妃海風さんへ〈バレエにまつわる〉7つの質問!
©️Shoko Matsuhashi
Q1 バレエを始めたのは何歳ですか?
妃海 小学生2年生の時です。母が私の姿勢と内股を直すために習わせたそうです。
Q2 バレエは好きでしたか?
妃海 ちょっと……苦手でした! 身体を「え? こっちに動かすの?」みたいなのが本当に痛くて、しんどかったです。でも私は負けず嫌いだったので、やるならそのお教室で1番になりたかったんですよね。「あの子よりもいい役が欲しい!」っていう気持ちを原動力に頑張りました。でも自分の意志で始めたことではなかったのもあって、結局は途中で辞めてしまいました……。
Q3 宝塚歌劇団との出会いは?
妃海 たまたま招待券をもらって観に行ったところ、一緒に観た家族のなかで、私ひとりだけがすっかりはまってしまって。それから劇場に何度も足を運ぶようになりました。
Q4 進路を決めたのはいつですか?
妃海 宝塚音楽学校の受験を決めたのは高校2年生なので、ギリギリでした(※編集部注:宝塚音楽学校の受験資格は14歳~18歳)。学校で進路指導が始まり、就職希望の友達の話を聞きながら、じゃあ私はどうしようかな……と考えていて、突然ひらめいたんです。「そうだ、宝塚は?!」って(笑)。その瞬間、全部がひとつに繋がりました。過去のバレエ経験が活かせるし、人前で歌うことは昔から大好きでしたから。そこからバレエレッスンを再開し、声楽を習い始めて、1年間の猛レッスンの末、合格。バレエをやっていて本当によかった! もしも最初に習っていたのがバレエじゃなかったら、きっと合格できなかったと思います。
Q5 バレエ公演は観ますか?
妃海 以前はよく観に行きました。母が海外のバレエ団が好きで、関西の劇場で来日公演があると、私の分もチケットを取ってくれたんです。一緒におしゃれをして出かけて、素敵なお店でお食事をしてから劇場でバレエを鑑賞する、という流れが母のお気に入りのコース。だから私にとってのバレエ鑑賞は、お食事とおしゃれがセットになった優雅なひととき、というイメージです。
Q6 好きなバレエ作品はありますか?
妃海 『シェヘラザード』です。どなたが踊っていらしたのか思い出せないのですが、来日公演で観てゾクゾクした記憶は強く残っています。チュチュを着て踊らないのも新鮮でしたし、物語はもちろん、幻想的な舞台空間に「こういうバレエの世界もあるんだ!」って。私も踊ってみたいな、と思ったバレエ作品です。
Q7 バレエを習っている子どもたちにメッセージを!
妃海 お家の方に言われて始めた人や、レッスンが嫌でしぶしぶ通っている人がいたら、今はつらいかもしれないですけれど頑張って! って伝えたいです。バレエを習っていることは、将来、絶対に何かに繋がります!
©️Shoko Matsuhashi
- 妃海 風 Fu Hinami
- 1989年4月12日生まれ。大阪府出身。元宝塚歌劇団星組トップ娘役。2009年宝塚歌劇団95期生として入団、星組に配属。『南太平洋』、『眠らない男 -ナポレオン・愛と栄光の涯に-(新人公演)』など、数々の作品でヒロインを務め、2015年『ガイズ&ドールズ』から星組トップ娘役に就任。『こうもり / THE ENTERTAINER!』などのヒロインを経て2016年『桜華に舞え』/『ロマンス!!(Romance)』をもって宝塚歌劇団を退団。退団後も2018年『江戸は燃えているか』、2019年「恋を読むvol.2『逃げるは恥だが役に立つ』」、2020年・2021年『リトルショップ・オブ・ホラーズ』などの舞台に出演している。
オフィシャルサイト https://fu-hinami.com/
公演情報
舞台『千と千尋の神隠し』
東京公演:2022年3月2日(水)~3月29日(火)帝国劇場
※プレビュー公演:2022年2月28日(月)~3月1日(火)
大阪公演:2022年4月13日(水)~4月24日(日) 梅田芸術劇場 メインホール
福岡公演:2022年5月1日(日)~5月28日(土)博多座
札幌公演:2022年6月6日(月)~6月12日(日)札幌文化芸術劇場 hitaru
名古屋公演:2022年6月22日(水)~7月4日(月)御園座
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