バレエを楽しむ バレエとつながる

  • 観る
  • 知る

【6/26・27ライブ配信!】ミュージカル「マタ・ハリ」〜編集部は観た!柚希礼音・愛希れいか・宮尾俊太郎のダンスシーンetc.&見どころ案内

バレエチャンネル


『マタ・ハリ』は、第一次世界大戦の時代に人気を集めた実在のダンサー〈マタ・ハリ〉の愛と悲劇を描いたミュージカル。舞台は1917年のヨーロッパ。人気スターとして各国を自由に行き来できたがゆえに「スパイ」に任じられ、運命を狂わされていくーー謎の多いマタ・ハリの生涯を軸に新たなエピソードを加え、ミュージカル作品として韓国で幕を開けたのが2016年。日本では2018年に石丸さち子の訳詞・翻訳・演出で初演され、この6月から7月にかけて3年ぶりに再演中。作曲は『スカーレット・ピンパーネル』『ジキル&ハイド』のフランク・ワイルドホーン。

ドラマティックなストーリー、力強くて美しい楽曲の数々など見どころ・聴きどころだらけの作品ですが、バレエ&ダンスファン的に見逃せないのは〈ヒロインがダンサーである〉というところ。
初演に続いてマタ・ハリ役を演じるのは柚希礼音、今回新たにヒロインを任されたのは愛希れいかと、いずれも宝塚歌劇団在団中にダンスの名手として名を馳せた2人がダブルキャストで主演しています。
また、Kバレエカンパニーのプリンシパルを務めた宮尾俊太郎が主要な役で出演しているのも注目ポイント。

『マタ・ハリ』東京公演は6月27日(日)で千秋楽を迎えますが、7月10・11日には愛知県・刈谷市総合文化センターで、7月16〜20日には大阪・梅田芸術劇場で上演されます。
また、6月26日夜・27日昼公演はライブ配信が決定! この2回の配信で、すべてのキャストの演技を見ることができます。

【あらすじ】
第一次世界大戦下のヨーロッパ。マタ・ハリ(柚希礼音/愛希れいか)は、その東洋的な魅力ある踊りと美しさで、パリの人々に絶大な人気を誇るダンサー。彼女の人気はヨーロッパ全土に広がり、国境を越えてその踊りを披露してまわっていた。ある日、マタの楽屋にフランス諜報局のラドゥー大佐(加藤和樹/田代万里生)が現れる。ラドゥーはマタに、隠された過去の秘密をばらされたくなければ、フランスのスパイとして協力するように告げる。そのころ、彼女の前にパイロットのアルマン(三浦涼介/東啓介)が現れる。華やかな踊り子の顔の裏にある、孤独な彼女の心に触れ、ふたりはたちまち惹かれ合う。いっぽうで、ラドゥーからの要求は途切れることがなく、ついに公務としてドイツへ渡り、将校ヴォン・ビッシング(宮尾俊太郎)の前で任務を遂行することになるのだが……。

……というわけで、バレエチャンネル編集部の編集長・阿部と、かつて劇団を主宰し演出・脚本家として活動していた異色の編集部員・若松が、さっそく劇場へ赴き『マタ・ハリ』を鑑賞。バレエ&ダンス的な見どころを中心にチェックしてきました!

まずは作品全体の感想から!

阿部 このミュージカル『マタ・ハリ』、宝塚時代からスーパーダンサーだった柚希礼音さんと愛希れいかさんがヒロインを演じる上に、バレエダンサーの宮尾俊太郎さんが出演する……となればこれは当然観に行かなくては!と、さっそく柚希回と愛希回の両方を観てきました。その注目のダンスシーンについては後ほど語り倒すとして、作品全体の感想をひと言で言うと、とにかくストーリーが悲しかった……。もしも私がマタ・ハリだったら、そしてアルマンと出会ってやっと見つけた、たったひとつの愛をあんな形で失ってしまったら、もう絶対に生きていけない(涙)。絶望で髪も真っ白になると思う。
若松 私は、マタがマルガレータという本名と母国オランダを捨てて、ジャワの踊り子マタ・ハリとなったきっかけを語る独白が印象的でした。前夫がメイドに手を出していた、その復讐としてメイドの夫に我が子を殺されてしまった、というところ。この部分は史実とは異なるみたいですけど、死んでしまった子どもを抱きかかえ、あてもなく夜の森をさまようマルガレータの姿が見えるようで苦しかったです。
あとは、いきなりラストの話になりますが、マタが裁判にかけられる場面。マタと衣裳係アンナが楽屋で交わすいつもの会話から、裁判のシーンに転換するタイミングが絶妙。すっかりやられてしまいました!

左から:柚希礼音(マタ・ハリ)、加藤和樹(ラドゥー) 撮影:岡千里

裁判のシーンは、ハッとさせられるポイントが多かった。演者の声と身体と簡単な小道具だけで状況も感情も丸ごと表現してみせるダンス的な演出。幕切れもよかったよね。公演プログラムに載っているマタ・ハリの実話を読むと、彼女は処刑される日、身体を縛られることも目隠しも拒み、毅然とした態度で12丁のライフル銃に打たれたと。その衝撃の最期のニュアンスを残しながらも、ミュージカルらしくて美しいシーンになっていました。
あともうひとつ、いちバレエファンの率直な感想として、ダンスシーンがもっと見たかった。とくに群舞が少なくてちょっと寂しかったのだけど、だからこそマタのソロダンスシーンが際立ったとも言えます。
最近のミュージカルは、歌中心のものが増えていますね。『マタ・ハリ』でも、ラドゥー大佐のソロなど、心情を強く訴えるナンバーが多い。
ラドゥー大佐はずっと叫んでいた印象! その叫びには国や仲間への思い、マタへの屈折した愛、苛立ちなど、いろいろな感情があった。私が観た回ではどちらも加藤和樹さんが演じていたけれど、狂気を含んだ威圧感やセクシーさも備えていて、魅惑的なラドゥーでした。追い詰められるような迫力があって、怖かったです……。

加藤和樹(ラドゥー) 撮影:岡千里

私が観た回は田代万里生さんが演じていたのですが、持ち前の歌唱力を活かして、ラドゥーの壮大なナンバーを朗々と歌い上げていました。とくに「一万の命」という曲は圧巻で、大佐として仲間たちを思う説得力が伝わってきました。

田代万里生(ラドゥー) 撮影:岡千里

マタと恋に落ちる軍人でラドゥーの部下、アルマン役を演じた東啓介さんも素敵だった!
東さんのアルマン、素敵だった! 朴訥な雰囲気もあって、真実味のある演技で。
高音部が綺麗で伸び伸びとした歌声でした。

東啓介(アルマン) 撮影:岡千里

アルマンについてはダブルキャストの三浦涼介さんも観たのだけど、彼は登場した瞬間から悲しい結末を予感させるような佇まいがとても良かった。ささやくような声が儚げで、いつもどこか寂しげで。

三浦涼介(アルマン) 撮影:岡千里

柚希と愛希、それぞれのマタ・ハリ像

柚希さんはマタ・ハリとして踊るゴージャスで妖艶な姿と、楽屋の場面での目をくるくるさせた表情と屈託のなさ。そのオンオフが良かったです。
柚希さんは存在感が大きくてまさに「スター」の称号がふさわしい人だけど、いっぽうで、おそらくは子どもの頃から変わらないのであろう純粋さとか素直さ、あどけなさみたいなものも滲み出ているところが、重要な個性だと思う。だから楽屋で衣裳係のアンナ(春風ひとみ)に抱きしめられるところなどは、すごく可愛らしく見えた。
いっぽうの愛希さんは、黒目がちな瞳、小さな顔、華奢な体型の持ち主で、雰囲気的には可憐なのだけど、演技はすごく大人っぽくて粋。「今日の観客は? 批評家は?」というアンナとのお決まりのやりとりなんて、台詞回しもスマートだしいかにも「いい女!」という感じで。ところが後半でアンナが「あなたを通して」というナンバーを歌うシーンではポロポロと涙をこぼし始めて……。つまり何が言いたいかというと、どちらのマタもいじらしくて愛おしかったし、アンナ役の春風ひとみさんの包容力ある芝居が素晴らしかったということです(笑)。
春風さんの歌は、まるでセリフのように伝わってきました。

左から:春風ひとみ(アンナ)、愛希れいか(マタ・ハリ) 撮影:岡千里

若松さんは、まだ柚希さん回しか観てないじゃない? だからぜひこの週末のライブ配信で、幕切れのマタの演技が柚希さんと愛希さんでいかに違っていたかを観てみてほしい!
どういうことですか?!
できるだけ先入観を与えたくないからヒントを言うだけにしておきますが、柚希さんと愛希さん、どちらかの方は非常に人間味のある演技を見せて、もういっぽうの方は非人間的=すでに肉体が消えてしまった存在であることを見事に表現していました。
おもしろい! 正反対ですね。幕切れをどう解釈して演じるかによって、作品じたいが違うものに見えてきそうです。

大注目のダンスシーン!

阿部さんの視点から、ふたりのマタのダンスはどうでしたか?
ふたりともダンスが素晴らしいのは自明の共通点なんだけど、ダンサーとしてのタイプが違う。身体的な特徴からしてまったく違うから、生み出される動きの質感も完全に違っていて非常におもしろいんです。
なるほど。

柚希礼音(マタ・ハリ) 撮影:岡千里

柚希さんは堂々かつスター然とした体躯から繰り出されるダイナミックなムーヴメントが何といっても大きな魅力。マタのダンスの見せ場である「寺院の踊り」は、東洋的な“手振り”が中心の比較的デリケートな振付なのだけど、それを柚希さんが踊るとブワッ!と風が巻き起こるようなスケール感が出る。そして手のひらを口元に添えてフッと息を吐く仕草や、床を踏みしめ両手を大きく広げたポーズなどは、宝塚トップ時代の姿をも彷彿とさせて胸熱でした。
いっぽう愛希さんは全体的にほっそりしていて腕や脚も長いのだけど、その身体をとても丁寧にコントロールしていて、振付がクリアに見えるんです。細い筆でスッ、スッと文字を書くように、ダンスの軌跡が空間に繊細に描かれていく。とくに脚を高々と上げた瞬間の、ハッとするような美しさ。あの踊りに込められた「祈り」がしんしんと伝わってくるダンスでした。
どちらのマタもあらためて観たくなりますね!

愛希れいか(マタ・ハリ) 撮影:岡千里

身体ってそれじたいが個性であって、それぞれの身体で踊るダンスの良さがある。その意味でも、この好対照のダブルキャストはすごく見ごたえがあると思う。
そして本作における「ダンス」といえば、当然、宮尾俊太郎さんについても語らなくてはいけません
ドイツの軍人ヴォン・ビッシング役を演じていました! 立ち姿がとにかく美しかったです
バレエって指先まで神経を使って踊ることをトレーニングしていくダンスだから、宮尾さんは、例えば苛立ちを拳に込めるというような動きでも手元が決まる。さすがバレエダンサーだなと!
衣裳もお似合いでした。
声も低音で迫力もあって、すごくカッコよかった。これまで取材してきた印象からすると、宮尾さんはふだんあまり大声を出さないイメージ。だからあんなに豊かな声量で歌っているのも新鮮でした。
一筋縄ではいかない人物を、抑えた表現で演じているのが良かったです。佇まいだけで「この男は危険」と思わせる。
まさに。存在が怖かった……。

宮尾俊太郎(ヴォン・ビッシング) 撮影:岡千里

その怖さは、あとのシーンまでちゃんと追いかけてくる。たとえばマタがアルマンに会うために、こっそり国境を越える場面。マタが捕まるんじゃないかとドキドキハラハラするのは、ビッシングの姿が脳裏に焼きついていて、バレたときの恐怖を感じずにはいられないからなんですよね。宮尾さんが繰り返し歌う「捕らえろ スパイを」のナンバーがまた、冷たくて怖い
わかる。マタは自分が想像したよりもずっと恐ろしい渦に、じつはすでに巻き込まれてしまっている……という恐ろしさを、宮尾さんが象徴していました。
俳優・宮尾俊太郎を感じた瞬間でした。そしてもちろん、第2幕冒頭のダンスシーンは素晴らしかったです。
あのシーンは、いうなれば〈トップスターとプリンシパルダンサーのパ・ド・ドゥ〉ですよ! もっとずっと観ていたかった……。宮尾さんがアラベスク・タン・ルヴェでシャッ!と跳んだ時の後ろ脚の綺麗な上がり具合とか、ア・ラ・スゴンド・トゥールの時のターンアウトとか、「ああ、やっぱりバレエダンサーだ」と嬉しかったです。
あと、ダンスで心に残った人というと、ピエール役の工藤広夢さんでしょう。
ピエールはいい役だと思います!
そこのところ、詳しく聞きたいのだけど。私は、ピエールはこの作品の時代を生きた若者たちの象徴なのかなと思いました。これからの人生、あんなこともやりたい、こんなこともやりたいって思っていたのに、戦争にとられて散っていく。そういう青年が、数えきれないほどいたのだと。だから彼のソロダンスは、目の前にあるいくつもの夢に向かって腕を伸ばすけれど、つかもうとするたびに手から逃げていく……そんな暗示的な振付で。工藤さんが全身を惜しみなく使いきって踊るさまも感動的でした。
※2021年6月26日追記:
この「ソロダンス」はピエール役の工藤広夢さんではなく、中川賢さんが演じる青年の踊る場面である旨、工藤さんご本人からご指摘をいただきました。お詫びして訂正いたしますとともに、その他の場面での工藤さんのダンスも、この場面の中川さんのダンスも、本当に素晴らしい演技であることを重ねてお伝えいたします。
工藤さんは、第2幕の中盤でマタがアルマンを追って病院へ訪ねてくるシーンでも、セットの高いところにずっといて。そこで一人でパンをかじったりしている演技も印象に残っています。
下ではドラマティックなシーンが繰り広げられているんだけど……
……ついオペラグラスを掲げて工藤さん演じる兵士のほうを見守ってしまいました。彼にはスポットライトが当たらないのもいいですね。最後、彼は撃たれてしまうけれど、そこまで彼の存在に気づかない観客もいると思うんですよ。でもきっと現実においても、“あるひとりの兵士の死”なんて、きっとそんなものなんですよね。
長くなったから、この『マタ・ハリ』トークもそろそろ〆ることにしましょう。最後の質問です! 若松さん、もしも『マタ・ハリ』に出演できるとしたら、どの役をやってみたい?
私は、やっぱりピエールですね! 見せ場がたくさんあって、演じ甲斐がありそう。
私はマタ。あのダンスを踊りたい。そして宮尾さんとのパ・ド・ドゥも踊りたいです(。-_-。)ポッ

公演情報

ミュージカル『マタ・ハリ』

【東京公演】
2021年6月15日(火)〜27日(日)
東京建物 Brillia HALL

【愛知公演】
2021年7月10日(土)〜11日(日)
刈谷市総合文化センター アイリス 大ホール

【大阪公演】
2021年7月16日(金)〜20日(火)
梅田芸術劇場メインホール

【詳細・問合せ】
梅田芸術劇場

ライブ配信情報

【配信日程】※アーカイブ配信なし
①6/26(土)17:00公演
マタ・ハリ:柚希礼音/ラドゥー:加藤和樹/アルマン:三浦涼介
②6/27(日)12:00公演
マタ・ハリ:愛希れいか/ラドゥー:田代万里生/アルマン:東啓介

【詳細・配信チケット購入】
https://www.umegei.com/matahari2021/special.html

この記事を書いた人 このライターの記事一覧

NEWS

NEWS

最新記事一覧へ