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【クロストーク】ミュージカル「ファントム」クリスティーヌ役・愛希れいか×木下晴香「歌で表現できるもの、ダンスで表現できるもの」

阿部さや子 Sayako ABE

愛希れいかさん(左)と木下晴香さん

2019年11月に東京で、12月に大阪で上演されるミュージカル『ファントム』

“もうひとつのオペラ座の怪人”という副題の通り、私たちバレエファンにとっての“聖地”パリ・オペラ座を舞台にした作品です。

〈参考記事〉
ミュージカル『ファントム』についてはこちらの記事もご参照ください

〜Story〜

舞台は19世紀後半のパリ、オペラ座。

歌手になることを夢見ながら楽譜売りをしているクリスティーヌ・ダーエは、その歌声をオペラ座のパトロンであるフィリップ・シャンドン伯爵に見初められ、オペラ座で歌のレッスンを受けられることになります。しかし彼女の若さと美貌に嫉妬したプリマドンナのカルロッタは、クリスティーヌを自分の衣裳係にしてしまいます。

いっぽうオペラ座の地下には、“オペラ座の怪人”(ファントム)と呼ばれる男が棲んでいました。ある日、クリスティーヌの清らかな歌声を耳にしたファントムは、この世でただひとり自分を愛してくれた亡き母を思い起こし、密かに彼女に歌のレッスンを行うようになります。

ファントムが背負っている悲しい秘密、クリスティーヌへの届かぬ思い、そして運命は悲劇の結末へ――。

この『ファントム』のヒロイン・クリスティーヌ役をダブルキャストで演じるのが、愛希れいかさんと木下晴香さん。

愛希さんは元・宝塚歌劇団月組のトップ娘役。キレも情緒もあるムーヴメントは天性のダンス・センスを感じさせ、いくつもの名場面を生み出しました。

木下さんはディズニーの実写版映画「アラジン」ジャスミン役の吹き替えと劇中曲の歌唱で話題となった歌姫。惚れ惚れするような歌声のみならず、じつはダンス・スキルも高いというウワサも。

そんなおふたりに、役のこと、歌のこと、ダンスのことなどについて、お話を聞きました。

***

――おふたりとも今回初役でクリスティーヌを演じるとのことですが、この役とご自身とで「似ているな」と思う部分はありますか?

愛希 きっと晴香ちゃんもそうかなと思うのですが、やはりオペラ座に憧れる気持ち、舞台に立ちたいと夢見る少女の心というのは、すごくよくわかります。私もずっとミュージカルが大好きで、そんなふうに夢を見て舞台を目指してきたので。そして先ほどの製作発表会見で晴香ちゃんが言っていた、クリスティーヌの“無邪気さ”も。私も無邪気だったがゆえに人を傷つけてしまったこともあって、そこで学びながら、いまの人間関係が作られてきたなと思うんです。

木下 私も舞台に立つことを夢見ていたという部分は大きな共通点で、その夢を追って故郷を離れ、憧れの街に出てきた、というところも同じだなと思います。私自身、佐賀県から東京に出てきて、最初は右も左もわからない状態だったけど、キラキラした夢だけは持って手探りを続けてきました。だから、とくに物語の最初の部分がすごく自分とリンクしているように感じます。

――クリスティーヌはそうやって夢に向かって懸命に手を伸ばすなかで、“ファントム”に出会いますね。彼女にとって、ファントムとはどういう存在だと思いますか?

愛希 その関係性をどう捉えるかが、じつはすごく難しいところだなと感じています。クリスティーヌは彼のことが好きだったのか。そこに愛があったのか。それともただ先生としての尊敬だったのか。あるいは、彼女自身にも理解できていなくて、ファントムがこの世からいなくなってしまった時に初めて何かを感じたのか……。もしかすると、それはこれから実際にクリスティーヌを演じるなかで見つけられることなのかもしれません。
木下 最初に出会った瞬間から何かを感じていたのかどうか……私も最近そのことをすごく考え込んでしまって。でも愛希さんのおっしゃる通り、これからお稽古が始まって、自分がクリスティーヌとして生きられるようになってきた時に、自然に芽生えてくる感情が答えなのかな、と思っています。

――おもしろいお話ですね。ひとつだけ言えるとしたら、ファントムはクリスティーヌの才能を見つけ、開花させてくれた人という面はあるのかなと思うのですが、その意味で言うと、おふたりにとっての“ファントム”はどなたでしょう?

木下 いま所属している事務所の社長と、小池修一郎先生かなって思います。おふたりとも、私が挑戦したテレビの歌番組を見て声をかけてくださったんですね。そのおかげで、いま私はここにいる。私を見つけてくれた人、というと、このおふたりが真っ先に浮かびます。とても感謝しています。

愛希 私は、自分の母親ですね。母がもともとミュージカルや宝塚が大好きだったから、私を劇場に連れていってくれたし、バレエも習わせてくれた。あらゆるきっかけを与えてくれたのが母であり、すべてはそこから始まったんだな……と、いまあらためて感じています。

――先ほどの歌唱を聴いて、おふたりのまさにクリスティーヌ役にふさわしい美声に驚きました。声のために普段から心がけていることなどはありますか?

愛希 私はまずボイストレーニングをしないと絶対にダメで、あとは風邪をひかないこと。これがもう、私にとってはいちばん大切です。風邪ひいたらもう終わりじゃない?
木下 終わりです! マスク、必須です。
愛希 あと、お肉を食べること。
木下 そう、お肉は声のためにいいって言いますよね。先輩方と食事をご一緒する時も、みなさんよく「明日歌わなきゃいけないから」とおっしゃって、焼肉を選ばれることが多いです。

――それは、体力をつけるためということですか?

愛希 そうですね、スタミナをつけることと、あとはお肉の脂が喉にいいみたいです。晴香ちゃんは、他にも何か気をつけていることはある?
木下 私は、鼻うがいが欠かせないんです。
愛希 わかる。私も鼻うがいする。
木下 朝晩、欠かさずにしています。もともとちょっと鼻が弱いというのもあって。でも鼻うがいを始めてから、本当に風邪をひかなくなりましたし、鼻と喉ってつながっているので、そこのケアはすごく大切。それから、時間があれば“声の出し方”を探っています。探るのが楽しいんです。もちろん、パフォーマンスを向上させるためにという思いもあるんですけど、とにかく「出せない声を出せるようになりたい」って思っちゃう。「この方はすごい!」と思う歌い手さんの動画を見ては真似しています。全然できていないんですけど(笑)。
愛希 声が出せるようになるために、真似から入るっていうのはひとつの方法ですよね。

――ミュージカルでは歌のみならずダンスの技術も必要だと思いますが、おふたりはダンスのために日常的に行っていることや、心がけていることはありますか?

木下 ジャズダンスのレッスンには時どき行ったりしています。あと体幹を鍛えたいので、そのための運動はしていますが、がっつり踊るとなると、ジャズのレッスンに行くくらいかな……。もともと踊るのは大好きなのですが、ここまでのところ、“踊る役”というのはほぼ機会がなくて。
愛希 えー、踊ってほしい! そういう作品に出会えたらいいですね。
木下 出会いたいです!
愛希 私も、最近は宝塚の頃のようには踊る機会がないので……。でも小さい頃からバレエを続けてきたので、踊れる状態を保つためにバー・レッスンはよくしています。バーはどこでもできるので、お稽古や本番前のウォーミングアップとしても効果的ですし。晴香ちゃんは、子どもの頃からジャズダンスを習っていたの?
木下 はい、ジャズダンス歴がいちばん長くて、あとは踊りの基礎として必要ということで、バレエも少し。でも、それは本当に齧る程度で、大きな声で言えるほどではありません(笑)。それからヒップホップ。私、意外とヒップホップも好きなんです。

愛希 確かに一瞬意外な感じがするけど、晴香ちゃんヒップホップも似合いそう。

――おふたりは、「歌」と「ダンス」それぞれでどんなことが表現できるな、と感じますか?

愛希 私は、もともと声を発することが苦手だったんです。人前で話すのも苦手でしたし、ましてや歌を歌うなんて……。そんな風でしたから、自分の感情を表現できる方法が「ダンス」だったんですね。声では無理でも、身体でなら、伝えたいことを伝えられた。そういうところからのスタートだったので、歌を歌うということは、いまだにとても緊張するものでもあります。すごく正直に言えば、私はまだ自分の思う通りには歌えていない、心のままには伝えられていない、という思いもあります。でも、だからこそもっと学び続けたい。もちろんダンスだって、もっともっと学ばなくてはいけないことばかりなのですが。

木下 私にとっての「歌」は、小さい頃ただ好きで歌っていたというところからスタートしたものです。ですからいざお客様にお見せするものとして考え始めた時に、あらためてその難しさにぶち当たりました。いまでも悩むことばかりなのですが、歌は自分の思いを込めるもの、というふうに感じています。自分の中にあるものをそこに注ぎ込むことが、歌における私の表現の仕方なのかな、と。いっぽう「ダンス」は、自分を解放してくれるもの。私は子どもの頃から、みんなに「真面目だ、真面目だ」って言われてきたんですね。そうしていつの間にか“真面目キャラ”みたいな型にはまってしまった。でも例えばヒップホップを踊る私は、きっと周りの人のイメージとはまったく違うと思うんです。「踊ることが楽しい!」、ただそれだけの感情に身を任せて、“真面目キャラ”の自分にはできないことができる自由さがある。だから、歌は自分の思いを込めるもの、ダンスは自分を解放してくれるもの、という気がします。

ヘアメイク/栗原里美(愛希)、石川奈緒記(木下)
スタイリスト/Die-co★
衣裳協力/Temperley for Novarese(ドレス)、シューズ、アクセサリー 全て ノバレーゼ 銀座(03-5524-1177)

Photos:松橋晶子

公演の詳細

ミュージカル「ファントム」

●東京公演
日程: 2019年11月9日(土)〜12月1日(日)
会場: TBS赤坂ACTシアター

●大阪公演
日程: 2019年12月7日(土)〜12月16日(月)
会場: 梅田芸術劇場メインホール

★詳細はこちら: http://www.umegei.com/phantom2019/

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