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ミュージカル「ブロードウェイと銃弾」愛加あゆ(元宝塚歌劇団)インタビュー~舞台には、人の心を元気にする力がある

若松 圭子 Keiko WAKAMATSU

愛加あゆ ©Shoko Matsuhashi  ※写真撮影時のみマスクを外しています

1920年代、禁酒法時代のニューヨークを舞台に、ブロードウェイに生きる人々とギャングたちを描いたミュージカル『ブロードウェイと銃弾』は、ウディ・アレンの同名映画を原作に、アメリカで2014年に幕を開けました。日本版の初演は2018年、『ペテン師と詐欺師』『プロデューサーズ』を手掛けた福田雄一の演出、城田優と浦井健治主演で上演されています。
同作品が、2021年5月に東京・日生劇場で再演されることに。兵庫、富山、群馬と全国公演も予定されています。

初演に引き続き、脚本家デビッド(髙木雄也)の恋人エレン役を演じる女優の愛加あゆ(まなか・あゆ)さんに、作品の魅力や稽古場の様子について聞きました。

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原作映画は歌や踊りのシーンも少なく、シンプルな作品です。ミュージカル版ではどのようなステージになるのでしょうか?
愛加 『ブロードウェイと銃弾』は1920年代の物語です。’20年代って、音楽がすごくお洒落なんです。ミュージカルナンバーには、その時代にヒットしていた音楽がふんだんに使われて、作品の時代背景ともうまく溶け合っています。原作の映画はシックなコメディという印象ですけれど、ミュージカルでは華やかさがプラスされます。心がウキウキ踊るようなダンスナンバーもありますし、歌詞にもウディ・アレンの独特な笑いが盛り込まれていたりして、お洒落で楽しい作品になっていると思います。
今回の稽古場の雰囲気はいかがですか?
愛加 キャストもスタッフも知っている方がたくさんいて、私もリラックスした気持ちでお稽古に入ることができました。現在(編集部注:取材は4月末)は、毎日のように通し稽古を繰り返しているところです。
コロナの状況が予断を許さない中でのお稽古ということもあり、初演時とは環境が違います。感染予防対策などの理由からお稽古時間は短くなっていますし、全員が限られた時間にギュッと集中して取り組んでいます。ダンスシーンはオリジナル版振付補のジェームス・グレイさんが来日できないため、前回のように直接指導は受けられないままお稽古が始まりました。でも私が初めてお稽古場に参加した日には、アンサンブルのみなさんはすでに完璧に振りを覚えていて。すごい! と思いました。
相手役のデビッドは、ミュージカル初挑戦となる髙木雄也さんが演じますね。
愛加 お稽古が始まったころ、髙木さんは配信ライブ(「Hey! Say! JUMP  Fab! -Live speaks.-」)を掛け持ちされていました。誰よりもお忙しいのに、デビッドは台詞量もいちばん多くて、出ずっぱりの役柄。「あー、緊張する! パニック!」と言いながらお稽古しているのを、体調を崩されないかとみんなで心配していたんです。けれどもライブを終えてお稽古のスイッチが入った瞬間、髙木さんの集中力の高さにとても驚きました。髙木さんのデビットは、初演でこの役を演じた浦井健治さんとはまた違う演技アプローチで、とても新鮮。恋人役として一緒にお芝居していると、私も新鮮な気持ちになって、楽しく演じることができるんです。その感覚を失わないように、私も自分の気持ちを奮い立たせてお稽古しています。
女優のヘレン役は、宝塚の先輩である瀬奈じゅんさんですね。
愛加 あさこさん(瀬奈)とは今回初めてご一緒させていただきます。お稽古の初日からすごく気さくに話しかけてくださいました。お稽古の取り組み方を見ていても、尊敬する部分がたくさん! なにより、あさこさんが演じるヘレンを見ていると、とても楽しい気持ちになるんです! プライドが高い大女優という役で、華やかさはもちろん、コミカルな「大」女優のキャラクターを、あさこさんにしか出せない味わいで表現されています。立っているだけで空気がガラッと変わる。お稽古場にいるとその瞬間を肌で感じます。

©Shoko Matsuhashi

愛加さんが演じるエレンという役について聞かせてください。
愛加 エレンはデビッドとの結婚を望んでいるのに、彼はプロポーズしてくれない。ずっと待ってるのに! と、イライラしながら歌い始めるナンバーがあるのですが、ここは同世代の女性のお客さまに、深くうなずいてもらえるかもしれませんね。『ブロードウェイと銃弾』は個性豊かな人物ばかりが登場しますが、エレンは女性のなかで唯一、女優ではない役どころです。出番はあまり多くありませんが、一番お客さまに近いというか、共感してもらえる人物だと思います。エレンとご自身を重ねながら、一緒にストーリーを楽しんでいただけたら嬉しいですね。
愛加さんは他の作品でも、相手役への叶わぬ思いを演じる役どころが多いですね。
愛加 多いんです!! なぜなんでしょう。そういう「なにか」が身体から出ているんでしょうか(笑)。宝塚の雪組では壮一帆(そう・かずほ 元宝塚歌劇団雪組トップ)さんの相手役だったんですけれど、結ばれない役ばかりで。やっと結ばれたとしても天国で、みたいなことが多かったんです。今回は大きな愛で、最後にデビッドを包み込む存在になれたらいいなって思っています。
今回、とくに力を入れて取り組んでいることは?
愛加 エレンは、歌の表現が役づくりともつながってくるんです。本音ではない思いを歌ったり、デビッドとエレン、お互いが別々の場所で本当の気持ちを歌う場面、歌でケンカをする場面もあります。歌い上げる大きなナンバーなので、気持ちをのせながら歌を頑張ることは今回の課題のひとつです。
いちばん好きなシーンを教えてください。
愛加 初演の時からいちばん好きな場面は、チーチ役の城田優さん率いるギャングたちが踊るタップダンスです。男性陣だけで踊るシーンで、音楽も振付もすごくカッコいいんですよ。
愛加さんがダンスを踊るシーンはありますか?
愛加 今回はフィナーレだけ。私、ダンスが大好きなんです! なかでもバレエはまた特別。3歳からクラシック・バレエを習っていました。転勤族だったので、富山県で生まれてから、石川県、福井県、東京といろいろなお教室を移動しながら続けてきました。宝塚在籍時代はショーなど踊る機会がたくさんあったけれど、今は踊る役が限られているためになかなかチャンスがないんです。今回も、舞台袖でステップを踏みながら心を躍らせています。
舞台袖で!(笑)
愛加 踊りたくなります! バレエ少女でしたから! 宝塚を知る前はバレエひと筋で、バレエのことばかり考えている少女でした。
憧れていたダンサーはいましたか?
愛加 幼いころはやっぱり熊川哲也さんや吉田都さん。コンテンポラリーを踊るシルヴィ・ギエムさんの身体の美しさにも惹きこまれました。
バレリーナになる夢はかなえられなかったけれど、いまこうしてバレエ専門メディアの取材を受けていることを子どものころの私が知ったら、びっくりすると思います(笑)。いまでもローザンヌ国際バレエコンクールの映像を繰り返し観たり、街を歩いていてバレエショップがあると入ってしまうんですよ。もう履けないかなぁ、と思いながらもトウシューズを見ちゃうんです。
緊急事態宣言を受けて初日が延期になりました(編集部注:2021年5月10~11日の3公演が中止となった)。舞台を楽しみにしている皆さんへメッセージをお願いします。
愛加 上演できない日ができてしまったのは、正直なところ残念ではあります。その日にチケットを取ってくださっていた方には悲しい思いをさせてしまいましたし。
この状況で、舞台に立つことがどれほど大変なことなのか。それを思うと、あらためて「舞台とは何か」ということを考えさせられます。でも舞台がないと私は生きていけないし、きっとお客さまの中にもそういう方がいらっしゃると思うんです。
私の亡くなった祖父が舞台を観に来てくれたとき、病気だったのが嘘のように元気になって帰っていきました。その姿をいまも覚えています。エンターテインメントは、人の心を元気にする。この作品は「ザ・コメディ」です。大変な時期ですけれども、劇場に来ているときは辛さを忘れ、楽しい時間を味わって、心も元気になっていただけたら嬉しいです。

©Shoko Matsuhashi

愛加あゆ Ayu Manaka
1987年10月18日生まれ。富山県出身。元宝塚歌劇団雪組トップ娘役。2005年宝塚歌劇団91期生として花組に入団、初舞台を踏む。その後雪組に配属、2012年トップ娘役に就任。代表作に2013年「若き日の唄は忘れじ」「ベルサイユのばら-フェルゼン編-」などがある。2014年「一夢庵風流記 前田慶次」をもって宝塚歌劇団を退団。2015年よりワタナベエンターテインメントに所属、ドラマや舞台で活躍。近年ではミュージカル「王家の紋章」「マリーゴールド」「Now.Here.This(フレキシブルバージョン)」「星の大地に降る涙 THE MUSICAL」、ドラマ「中学聖日記」「東京男子図鑑」「おじさんはカワイイものがお好き。」など。2018年ミュージカル「ブロードウェイと銃弾」初演では今回と同じエレン役を務めた。2021年8月~10月ミュージカル「エニシング・ゴーズ」に出演予定。

公演情報

ミュージカル『ブロードウェイと銃弾』
演出:福田雄一
翻訳・訳詞:土器屋利行

出演:城田優、髙木雄也(Hey! Say! JUMP)、
橋本さとし、鈴木壮麻、平野綾、愛加あゆ、保坂知寿、瀬奈じゅん 他

※上演時間:2時間50分(間に25分間の休憩を含む)

◎公演日程
 2021年5月12日(水)~30日(日) 日生劇場

◎全国公演
【兵庫公演】
2021年6月4日(金)~6日(日) 兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール
【富山公演】
2021年6月12日(土)~13日(日) オーバード・ホール
【群馬公演】
2021年6月19日(土)~20日(日) 高崎芸術劇場 大劇場

詳細 https://www.tohostage.com/bullets/

※公演については必ず主催者サイトをご確認ください。

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